2022/01/12 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > 冷える。
冷える、冷える、冷える。
何の恨みがあって、斯様に容赦なく冷えるのか――という、自身でも論理的ではないという自覚を伴う恨み言を幾度か。
ならば温泉で身体を温めようという発想に至るまで、あと半歩しかなかった。
そうして今宵、小さな妖仙はここに居る。

「く…ぅ…ふ…はぁ……
 嗚呼、こう手足の先々に沁みて堪らんのぅ…」

脱衣所で帝国由来の装束を脱ぎ捨ててから数秒で洗い場に、更なる数秒で掛け湯を済ませ、反射に似た速度で岩作りの湯船に。
台詞だけを引っ張ると、老境に差し掛かった人物の物であるが、声の主は誰がどう見ても子供である。
湯と外気の温度差で濛々と湯気が立ち昇り、見通しはさして良くない。
記憶を辿ると、随分広い湯だったように覚えがあり、誰彼かがそこにいたとしても、視覚情報だけでは気付けないこともあるだろう。
この温泉宿は混浴の方が多いぐらいだったから、そういった楽しみもあるのだろうが、体に熱が浸透するまでは湯に執心。
手拭いを折り畳んで黒髪の上に載せ、ほぅ…と、吐き出した息もまた白く濁って。

ホウセン > 夜半という事もあって、耳に届く音はそう多くない。
源泉を汲み上げている湯口から、川や池の水に比して心持ちとろみがあるように思える温泉水が湯の表面に滴り落ちる音。
未だに吹きすさんでいる寒風と、それに煽られて方々に揺れる草木の音。
如何に開放的なこの宿であっても、植栽を用いて目隠しという心得ぐらいはあるようで。
自然、それ以外の音が紛れれば、気付き易い環境は整っていよう。

「アレじゃな。
 人肌で温まるのも悪ぅないが、これはこれで別物よな。
 加えて酒精で腹の内から温めれば尚善しというた具合じゃが…」

湯に浸かって数分が経過し、ようやく人心地が付いたのだろう。
感嘆詞多めの発言だったところから、平素の厚かましく、老成した物言いが転がり出すようになったのだから。
湯の中で両手足を伸ばす。
精一杯四肢を投げ出したとしても、幸いなことに大して湯船を占領する無作法とはならず。
短躯である数少ない利点に浴しながら、マナー違反をもう一つ。
枕にするには高い岩風呂の縁に頭を乗せ、只でさえ軽いのに浮力でもっと軽くなった身体をプカリと浮かせ。
元より裸体を見られて羞恥を覚える輩ではないし、細い体つきも、股間さえも一切合切隠そうとしていない。