2021/08/20 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート『市街』」にシシィさんが現れました。
■シシィ > 石畳の街路を行き交う人の顔は、その土地土地の特色が出るものだ。
この街を行き交うのは、少し重たげな布の衣をまとった神官や、修道女たちが多い。
街に住む人々は彼らに敬意を払っているし、歩哨の数は、王都よりは少なくも感じる。
巡礼の旅人も多いせいか、人種は偏っているようには感じないが、信仰の街、という面が強く出ているようにも感じる。半面、戦場が近いせいもあって、街の薬屋を覗くと、傷薬などはやや品薄の傾向。
直近、訪れる際に薬草があれば多めに、という注文はそういった事情も踏まえてのことだったか、と己にしてみれば腑に落ちた。
なんとなく覗いた街の薬屋だったが、店の主人が愛想よく声をかけてくれたのに、異邦の女は柔らかい笑みでそれに応じることとなる。
『巡礼かい?』とかけられた声音には、そのほうが通りがいいので頷いてそういうことにした。そこまではっきりした目的もなく、街の様子を見ておくだけだからそれで問題ないだろう。
「ええ、神の御威光に縋る、というわけではないですが……それでもこんな折ですから、来られなくなってしまう前に」
はっきりと表ざたになっているわけでもないし、街道が封鎖されているわけではないが、争いの声は、市井にも届いている。
少しだけ眉尻を下げた人のよさそうな主に合わせるようにこちらも緩く肩をすくめて、並べられた薬類に目をむける。
旅歩きに必要なものもあるが、香料の類も多く並べられているのは土地柄、というか──礼拝に必要なのだろう。
独特の香りがするそれらに視線を向けて、調合は店主様がされるので?と水を向けると、調合に自信があるらしい店主がうれしそうに応じてくれる。
もちろん配合は秘密なんだけれど、と満面の笑みで、それぞれの持つ効能や、相性の良い取り合わせなどを教えてくれるものだから、こちらもつい、素直に聞き入れて。
■シシィ > 疲労回復に効果のあるもの、瞑想によいもの、安眠に誘ってくれるもの──等々。
薬草の用法にある程度通じていれば納得できるものもあるし、その効果をより強めたものや、あえて弱めのままとどめ、代わりに心地よさを重視したもの。
調合は店の主独自であるらしく。香料を使うのは、この都市ならではと言えるのかもしれない。
香りは、礼拝に際しても重要なものだし、儀礼にも使用する。注文するのはやはり神殿関係のところが大口らしいところまでを会話の中で耳にして、納得の意を紡ぐ。
香り、というのは意識化、無意識化でもその人に影響を及ぼすものであるし店の主の言葉は誇張ではないだろう。
色々か経ってくれる店主に対して、己が習い覚えている薬草についてもいくばくかの見識を紡ぎ。その正誤や、この辺りでよく生育するものについて逆に教えて貰ったりもする。
基本おしゃべりが好きなのだろうなと、言葉を交わしながら、その知識はありがたく受け止めることにした。
いいんですか?と問いかけても店主はやはりにこにこしたままなのだから、人がいいとしかいうほかない。
■シシィ > ───たくさん話しを窺って、これでさようなら、というのも少し申し訳が立たないし、気が引ける。
説明を受けた香料のうち、疲労回復にいいとされるものと、それから、旅歩きで少し在庫の減っていた己用の薬剤を買い足すことにする。
軟膏に混ぜると香りをまとって歩くことができるから、より効果的だよ、なんて商売上手な言葉に思わず小さく声を立てて笑う。
「───商売上手ですね? なら、それと一緒に。おまけしていただけると嬉しいのですけど──……」
主の勧めに折れるように、それでも強かについでのような交渉を織り交ぜる。
言葉遊びの様なそれに主も気を悪くした様子もない。さらに二言、三言言葉を交わして店を後にすることにした。
荷物を片手に。それから、少し商店を巡って、供物になるようなものをひとかご手に入れたら、またどこかの神殿に礼拝するのも悪くない、か。
そんな思案を巡らせながら、ひとまずは、行き交う人の波に女の姿も紛れていった──。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート『市街』」からシシィさんが去りました。