2020/09/24 のログ
ご案内:「妖精の森」にミミックさんが現れました。
ミミック > 木漏れ日を作る太陽が沈み、木々の葉から射しこむ輝きは夜空に浮かぶ月となる。
森の木々の木陰にいても汗ばむ陽気は何処へやら、今は肌寒く感じるほどの夜気が森を包み込んでいる。

この時間こそ森に住まうモンスター達が活動をし始める時間。
一見サソリに似たシルエットであるが、ハサミが有るべき場所には甲殻が筒状となった前足、尻尾にはサソリであればある筈の毒針は無く、つるんと丸くなっている、そんなモンスターも夜の空気を感じ取り巣穴より這い出て、獲物を探している。

名前はミミック。
自然物や構造物に張り付き、甲殻から肉の色までもを張り付いたモノとそっくりの質感と見た目に変化させることが出来る、名前の通りミミックに属する雑魚モンスターである。

冒険者どころか一度森にフィールドワークした事がある者であれば8割がたは遭遇した事があるだろう。

硬い甲殻といっても鋼に勝てるわけではない。
毒針が無くとも毒は有るといっても相手に組み付かなければ針はとどく事は無い。

サソリであればある筈のはさみも無い、のナイナイ尽くしのモンスター…倒しても上手に解体しないと金にもならナイ、ヘタをすると口から吐き出す溶解液で金属や布は溶けて、修繕費や新しく武具を購入するハメになりもうからナイ、ナイナイナイ――…稀に背中に妖精を捕獲して生かしている事が有るので、一攫千金はなくもナイ。

それにである。
一定の戦闘力を有した相手であればミミックは逃げる。
逃げ足が遅いが擬態能力があるために捕まえにくい。
厄介この上ないモンスターなのである。

けれどもだ。
発情期にはいったミミックは悠然と敵に立ち向かう。
相手はヒト族に属する種族の雌にのみであるが、苗床にしようと襲い掛かる、どれだけ相手が強くてもだ。
そうして不幸にもミミックには幸運にも獲物を捕らえることが出来ると、その場で一度は交尾を行い気に入ると巣穴に持ち帰ろうとする。

だからギルドではミミックが発情期にはいる兆候があると冒険者には討伐依頼や注意喚起が行われるのである。

しかし、繁殖期は一定の周期ではいるわけではなく、遭遇したミミックの様子で判断するしかないので、冒険者ギルドでも頭を抱える問題にもなっている。

今宵、一本の大樹の幹に多脚で鋭い足先で挟み込むようにしがみ付いているミミックが1匹。
その眼は通常の赤ではなく、少し桃色掛かった甘い薄紅をしている――…つまり、この個体は発情期であり、周辺に住むほかのミミックもまた発情期にはいってる証拠であった。

ミミック > 甲殻からその隙間に見える肉の表皮までを完全に木の幹と同色に変化させ、それに加え極力気配を抑え、薄紅色の少し桃色にも似た色の瞳も瞼を閉じていることから、夜の闇の中ではミミックの存在は気がつきにくい、筈である。

あくまでも『筈』である。
嗅覚が鋭ければ周囲の草木よりも更に煮詰めたような青臭く樹木の臭いの濃い香りが木の幹から不自然に香るのを感じれる。
視覚が鋭ければ擬態した部分と木の幹とで多少模様などにズレがあるのを感じれよう。
聴覚が鋭いのなら木の幹にしがみつく為に突きたてた脚にミミックが力を入れる度にギシとミシと木があげる悲鳴の音が聞える。

――これ等は全て感じ、警戒しようとする者がその感覚が鋭いことが前提である、が。

己が何処まで擬態できているか、ミミックにそれを知る術はなし。
だがじっとしている事で擬態をよりそれそのモノに近づける事だけは本能が知っている。
だからじっと息を潜める。
瞳の代わりに甲殻や肉に感じる空気の振動、匂いなどに意識を集中させ、獲物が通りかかるのを罠も張らず、木の幹にしがみ付いたまま不意打ちのチャンスを狙い待っている。

だが結局獲物は今宵は森に踏み込んでこなかったようだ。
ミミックは静かに眠りに落ちるのであった。