2020/06/20 のログ
ご案内:「タナール丘陵地帯」にナランさんが現れました。
ご案内:「タナール丘陵地帯」にヒューさんが現れました。
■ナラン > 真っ黒の空に月の光はなく、只星が散らばった夜。
魔族とヒトとの争いが繰り返される丘は、今宵は煌々と赤く照らされて―――燃えている。
先までヒト側が基地としていた砦も、その周辺も。
砦はいまやどちらが放ったかは解らない焔で覆われて、それでも燃え落ちない黒々とした姿を赤い光の中に浮かび上がらせている。
熱風が、丘を渡っていく。
ざあ、と夏草が揺れて―――――赤く染まって見える夜空に飛ぶ黒い影目掛け、ひゅん、と矢が一矢。
悲鳴のようなものもあったかもしれない。
兎に角それは真っ直ぐに大地に打ち付けられて、炎に巻かれる。
「――――はぁっ、 ――――」
矢を放ったターバンを巻いた黒髪の女は、それを見届けると鳶色の瞳を細め踵を返して駆け出す
その先に、仲間の姿は見えない。
それはいい。
きっと、逃げ切れるだろうから。
――――――あとは、自分。
「!! っ!」
唐突に躓いて、女は地面に倒れ伏す。
どさり、と地面に身体が打ち付けられると同時に気付く。
躓いたのではなくて―――足首を、文字通り取られたのだと。
「――――この、っ!」
足元を振り返ると同時に抜き放った短剣で『それ』に切りつける。
力が弱まったそれから足を引き抜いて、這いずるようにして逃れ身を起こしたところで、気づく。
(―――…囲まれ、た)
止まってはいけない。
駆けなくては―――そう思っても。
視線だけで見回すと、―――禿頭に長い牙を生やした者や巨体に豚のような頭が乗ったもの
――――ほかにも、その後ろにも、影が。
短剣を握る手に、力がこもる。
熱風に巻かれている筈なのに、ひやりと手の中のそれは冷たい。
頑なだったその女の口元に、ふと笑みが浮かぶ。
ここで、終わるとしても。
――――ヒト側で、終われるなら
(あとは… 少しでも多く、敵を倒すだけ……)
■ヒュー > 戦の匂いで飛び起きた男。
人間の軍が逃げやすい様に数人の傭兵に混じり殿となり砦に残っていたが、それも限界。
傭兵たちは勤めは果たしたとばかりに目晦ましの閃光と煙、夜の闇に紛れ引いていく。
その道すがら、空を舞う陰が大地に向かって落ちていくのを見やれば、逃げる途中に捕捉された見方がいるのかと、そちらへと向かっていく。
星明りでも人の眼とは異なる竜の眼を持つ男。
その囲まれた陰の中に立つ女は男が数日前に夜を共にした女。
見捨てるには勿体なくも思うし、竜の本能でもある執着心も強く働く。
割って入るタイミングを待ちながら男は風下から静かにその囲みへと近づいていく。
今はまだ女と囲みの距離があり、数をひらすにも効率が悪い…。
■ナラン > 囲みの距離はまだ広い。仕掛けるのはこちらからの方がいい。
一端を切り崩して逃げようとする振りをすれば、追いすがってくるだろう―――真っ直ぐに。
思うのと身体が動くのは一緒だ。
同時に横殴りの熱風が吹き付けてきたのも幸運だった
「―――せァ、っ!」
相手が熱に目を細めるのと、駆けた女がその喉笛を描き切って傍らを過ぎるのはほぼ同時。
ちりちりと頬を焦がす熱い光が迫っているのを感じつつ、その光が照らす次の獲物目掛けて刃を翳す。
巨体の豚頭―――――その喉へと手が届かぬのなら
心臓と思しき突き立て、抜きはらって、次へ。
生暖かいものが手元に身体に散るが構ってはいられない―――女の鳶色の奥にほの紅く光が灯る。
「!!ッ ぁ、っ」
更に次の影へと―――囲みは果たして幾重なのか―――再び向かっていく女のその足首を、ふたたび掴むもの。
何とか転倒を堪えるが膝をついて―――手を付いた拍子に短剣が地面を滑る。
(しまった…!)
背中の矢筒から矢を引き抜き、足首の戒めを解いて身体を起こす頃には
炎の紅い光を遮るように、女は無数の影に取り囲まれている。
―――当然、風下から近づく気配など気付く筈もなく。
「――――…そんな数で取り囲んでもらえるほど、私は重要人物ではありませんよ…」
静かな口調で減らず口を叩く。
片手には拾い上げた短剣。
背中の長弓は今や空しく。
…飛び出してきた相手から、屠ってやるしかないだろう…
■ヒュー > もう少し引き付けるまで大人しくしていてほしかったが、
女が先に足を踏み出す。
目標の豚頭やその仲間たちは口々に何かを叫びながら反応するも、
豚頭は心臓を突き立てられ大地へと伏す。
囲みは女を捕らえ、引き倒そうとするが耐えた女は膝をついて、軽口を叩きながら短剣を拾い上げる。
そろそろタイミングかと、男は背の大剣の柄に手を掛け、音もなく抜き放ち。
囲んだ魔物達は勝利を確信して女の肢体を見つめ、声慣ららぬ鳴き声を上げ興奮を強める。
そこに血に伏した仲間への感情が無いのは位の低い魔物だからであろう。
屈んだまま男は足に力を籠めながらそろり、そろりと草をかき分け足を踏み出す。
女の正面に立つ豚頭が手を伸場そうとしたところで一陣の風と共に躍り出て大剣を一閃させ、首の付け根から腹まで骨を砕き肉を絶ち体を二つに切り分ける。
「だが、俺の女だ返してもらうぞ!
ナラン伏せろ!」
返す刀で乱入者によって生まれた混乱する囲みの一角を崩し、チッ─という一声と共に口から黒い炎を吐き囲みに火を放つように薙いでいく。
男の口から生まれた黒い炎は燃え盛りながらも液体の様に魔物達に絡みつき、消える事無く肉を焼く匂いが立ち込めていく。
炎に巻かれた魔物達は悲鳴を上げながら混乱し味方にぶつかる者や、逃げまどいいくつもの悲鳴が上がっていくのは一瞬の事であった。
■ナラン > 正面に立った巨体の豚頭が手を伸ばす。
その表情に浮かぶのは、敵に対する怒りでも仲間に対する悲しもでもなく、喜悦。
砦がが上げる炎の音をかき消すほどに己の周りに溢れるのは、ヒトならぬ者たちの興奮の叫び。
その時初めて女の背筋に戦慄が走る。
…もしかして
(―――殺されるよりひどいことが、起こるかもしれない?)
鳶色の瞳の奥に宿ったのは―――怒りと侮蔑。
伸ばされた手が目前に迫る。
握った短剣に力が籠って――――
「!!! ッ」
顔に、身体に生暖かいものが降りかかる。
とても――――とても、醜悪、な かおり。
真っ二つになった相手を見止めるのはその後。
鳶色の目を見開き、一瞬の放心に捕らわれた女に
聞き覚えのある、忘れようのない、声が。
「――――― っ」
声を上げる間も無く、理解できた言葉通りに地面へ伏せる。
身を丸くして、先からの熱以上の熱さが迫るのに、更に身体を固くして…
囲っていた者たちの者であろう、先は喜悦に震えていた叫びが今は恐怖と苦痛の色に染まっている。
ぱちぱちと爆ぜる音と、先に浴びたかおりを凌ぐほどの濃い肉を焼くにおい。
何が起こったのかは解らない…それを確かめようと
そろり、と伏せた頭を上げた女が目に捕らえるのは
果たして
■ヒュー > 豚頭の手は大きく太く短いが、その分力が強そうで、
柔らかい肉の雌を捕まえられると思えばその顔は醜く歪み涎を零しながら喜悦の笑みを浮かべる。
このような存在で汚されるのを見たり想像するのもまた男に取っては許しがたく。
躍り出た男は大地を踏みしめ大剣を振り体を二つに切り分け、声をかけながらもう一帯を空を切る音と共に刀を振り体を二つに。
女が言葉の通り地面に伏せれば、口元から産む黒い炎の噴射によって囲みの一団を薙ぐ。
その小さな顔の動きによって日炎に巻かれた囲みは悲鳴を上げ散り散りに散っていくが、逃げた先で転がろうと炎は草や土に燃え移る事も無く肉だけを焼いていくため、次第に声も小さくなっていく。
周囲には肉を焼く匂いに男が切り伏せた魔物達から立ち上る魔物の血の匂い、それを流す様に二人を撫でる夜の風。
「やれやれ、こんなところでのんびりしていると喰われるぞ。」
魔物の返り血を浴びた女が伏せた頭を上げれば大剣を服の袖で拭いながら背中の鞘に戻す大男。
月のようにも見える一つだけの金色の瞳を女に向け、口元には愉し気な笑みを浮かべながら女に向け早く手を取って立ち上がれとばかりに手を伸ばす。
■ナラン > 顔を上げた女の、その頬を
夜空を染める炎の赤が嘘のような少し冷たい、夜風が撫でる。
「…どうして、 此処に……」
魔物の血に染まったままの貌で、半ば呆然と黒々とした影のように聳える男を見上げて
それでも、ふたつ瞬くと 月と見紛う金色と矢傷で塞がれたほうをしっかと見返す。
…次には、気まずげに逸らしてしまうのだけれども。
「―――ヒューさんこそ…
またお酒を過ごして、砦でのんびりしすぎていたんじゃないですか?」
盗み見た愉し気な男の口元に気付くと不貞腐れたような言葉を返して、今度はしっかりと睨み返す。
それから伸ばされた手にまた瞬いてから…短剣を帯の鞘に戻すと、その大きく武骨な手を取って立ち上がって
「…ありがとう、ございます」
吐息ともつかない言葉を吐いて
彼へとすこし、頭を下げて見せる。
「そうですね…早く、皆さんに追いつかなくては」
そのまま彼の顔は見ない様に己の顔を袖で拭って、味方が撤退中である筈の方向へと視線をやって
取っていた彼の手を放して、其方の方へと歩みだす。
ほんのすこし、焦る足取りで。
■ヒュー > 「ん?
帰り道に腕のいい弓手が残っているのに気づいてな。
戦になれば酒なんぞ直に覚める。
ギリギリまで戦っていただけだ。」
くつりと笑いながら気まずげに顔を逸らす相手を見詰め。
「なに。気にするな─。 俺も自分と寝た女を助けられてほっとした。」
と、小さく言葉を返しながら、離れた手、焦る足取りの相手ではあるが…
先に逃げた集団とは完全に離れており、女の歩く速度では追いつくまでにかなりの時間がかかるだろう。
ふむと、小さくつぶやくと男は後ろから相手を抱き上げ走り始める。
大きなストライドで踏み出す足。
力を籠め大地を蹴る度に進む男は風に乗りかなりの速さで進んでいく。
所謂お姫様抱っこで抱える相手に男は視線を向け、楽し気に笑いかける。
「俺の方が早いからな─。」
■ナラン > 「流石に、戦の最中まではお酒に構ったりしないんですね?」
腕のいい弓手、と呼ばれたことにすこし嬉し気にくすりと笑って漸く視線を向けるが
寝た女、とはっきり言われれば困ったように眉を寄せてまた視線を逸らす。
「…余りはっきり言わないでくれませんか…」
女の本来白いその頬が染まっているのは、果たして敵の返り血が残っているせいか、砦を燃やす炎の所為か。
兎も角もその足を仲間を追うために踏み出す。
追いつくには随分掛かるだろうけれども、またあんな目に遭いたくなければ其方へと向かうしか術はない。
女は自分の脚で数歩進めたかどうか。
気付けば後ろから追いついた男が軽々と自分を抱き上げて、風を切って駆けている。
「――!! …それは、そう、みたいですけど…!」
楽し気に笑う男を鳶色を見開いて見上げて、そうしてまた気まずそうに逸らす。
怪我をしているわけでもないのにそうやって運ばれることに
…彼との距離がまた、近くなってしまったことに
「…せっかく弓手として拾って頂いたのに、これじゃ役にたてません…!」
そういったって、降ろしてもらって全力で走っても
男の速さには追いつけそうにないのだけれど
女はひたすらに困惑したように眉を寄せて瞳を揺らして
所在なさげな両手は…最後には
せめて走る邪魔をしないように身体を添わせるために、彼の首にそっと、回すのだろう
■ヒュー > 「そういう時も無いとは言わないがな…。
相手も分からなければただの油断だ。」
と、言葉を返しながらはっきり言うなと言われれれば愉し気に笑いながら女の小さな体を軽々と抱き上げる男。
自然と距離は無くなるが鎧越しであれば互いのぬくもりを感じる事は出来ないが、城に残っていた時の戦いで負った塞がりかけの切り傷からは血が滲んではいる。
「うん? そうだな、弓手として必要な時は肩車でもするか?」
等と楽し気に笑いながら小山を駆けのぼり、小さな川を飛び越え周囲の光景はぐんぐんと後ろに流れていく。
「まぁ、それまでは何も言わずに俺のベッドから逃げたナランへのお仕置きだな…。」
等と、悪戯な笑みを浮かべ、腕の中、体を添わせ、首に腕を絡める女を見下ろした。