2020/01/13 のログ
ご案内:「巨大風洞」にエルディアさんが現れました。
エルディア >   
九頭竜山脈は九の龍が在るというその名が示す様に広大だ。
うっそうと生い茂る木々と複雑に入り組んだ山肌はその場所に足を踏み入れる者達を
人か魔かにも関わらずその内へと取り込み、悪戯に迷わせる。
高い尾根の連なるその山は一度道を外れれば帰ってこれぬとうたう旅人もいる。
故に、多くの人が、時には魔に属する者ですら、
この山では他者が辿った道標を頼りに歩く。
それがその場所を住処とし、悪意を持つ者達に晒される道であるとしても。

曰く、かの山には神域に至る道があるという。
曰く、かの山には人を喰らう邪が潜むという。

その真偽はともかく、その広大さゆえにこの山の多くの場所は
未だ人の地図には記されることもない。
故にヒトとも魔とも共に在れない者達をその袂に覆い隠し、
彼らの静寂を守る隠れ家を与えている。

この巨大風穴の一画もまた、その内の一つだった。
山間深くの湖底洞窟を抜けた先にあるその場所は
未だヒト族がその場へと至る導を記す事を許さず……
けれど今、その中央付近には枯れ木や柔らかい繊維の植物が
宛ら巨大な鳥の巣のように集められており、
その真ん中にそれを成した主の姿があった。
一年に数度だけ、月と太陽がある角度の時だけ僅かに差し込む光が
地上に色を置き忘れたかのような真白く細い体を照らしている。

人の胎児のように丸くなり膝を抱え、吹き抜ける風の音の中横たわったそれは
穏やかな昼時の微睡みから目を覚ましたようにゆっくりと瞳を開けると
衣擦れのような音を僅かに立てながら銀糸の髪を揺らし、上半身を起こした。
身の丈を超えるほどに伸びた髪をしばらくぼぅっと眺めるとそれは空を仰ぐ。
見上げた先から降り注ぐ一条の光。

「……?」

ソレはぼうっとした表情で暫くそれを見上げた。
どうしてここにいるんだっけ。
ああ頭がぼうっとする。考えが纏まらない。
場所は判るけれど、自分が何者であるかの考えが纏まらない。
頭に中を駆け巡るのはただ『乾イタ』という感覚と
「コワセ」という誰ともわからない無数の呪いの声。

ご案内:「巨大風洞」にヴェンディさんが現れました。
ヴェンディ > 男が、その気配を感じたのは気まぐれに空中散歩をしていたところだった。
自分より下等なヒトや魔族は愛いが、ひたすらに観察するというのも、それらの注目を集めすぎることがある。
だからこそ一定期間に数度、それらの国を離れ、こういった場所を気が済むまで散歩する。

ヒトや魔族とは違う下等生物が、それぞれの生を謳歌する様は、見ていて飽きない。
そんな時ふと、この辺りのヒトの伝承に伝わる、道を外れれば帰ってこれぬ、という文言を思い出し。
更に…九頭竜山脈の一角であるこの山には神域への道があり、更に人を喰らう邪が居る、という言葉も聞いたことがある。

神、あるいは伝承に伝わるほどの邪、と呼ばれるモノには少し興味がある。
果たして自分より強いモノなのか。己以外を下等だと断じてきた自分が下等扱いされるかもしれない。
そうであれば、どれほど喜悦に満ちたことか。
そんなモノがいるのなら、自身の…魔王としての力を存分に振るえるだろう。
期待をしながら、空中を歩くように山を進んでいたところに、件の気配だ。

ヒトではない。
ミレーでもない。
魔族と判断するが…妙な、胸騒ぎのする気配だ。
こんな気配は、感じたこともない。
直ぐに探査魔法を放ち、その気配の大元を辿るが。
何故か、大元に近づいたところで探査が弾かれ、魔法が霧散する。

(…白瞳を通していない、手癖で使った魔法だったが…俺の魔力量で抵抗された?)

白瞳の能力を使っておらず、防御無効化は効いていない探査魔法だったが。
それでも、彼の魔力で弾かれるというのは、異常事態だ。
だが…更に興味をそそられ。魔法が届いていなくとも、魔法が霧散した位置から大元の大体の位置は予測できる。

どうやら、険しい山の一角…巨大な風穴内部にその気配はあり。
何度放っても似たような地点で霧散することから、対象はあまり動いてはいないようだ。
…対象のナニかにとっては、鬱陶しい魔法がたくさん飛んできたかもしれないが。

「―――ふ。…どうせ暇なのだ、向かってみても損はあるまい」

大体の位置を掴めば、独り言を発してから空中を歩き、その気配の付近へと移動しよう。
そうして白瞳を通し、創造する魔法は…透過魔法。
彼自身の身体をあらゆるものを透過し、触れも触れられもできなくして。
そこで飛行魔法を解けば…ふわりと彼の身体が山肌に溶けていく。
抵抗も無く、地面を、岩をすり抜け、直接『何か』が居る場所へと直行して。
何も動きが無ければ…ぼう、と呆けているその存在の近くへと降りたてば、透過魔法を解き。

「…そこのモノ、名を名乗れ」

風洞をしばらく歩き、見つけたモノに声をかけよう。
外見はみすぼらしい…風穴から落ちてきた孤児だと言われても信じそうな外見だが…

…彼の、本能が告げる。
これは、魔族ではあるが…異様なモノだと。
内在する力が、上級魔族と呼ばれるモノより遥かに大きい。
仕立ての良い貴族服を整え…溢れ出る魔力を使用して白瞳を通し…衝撃、斬撃、打撃、熱、冷気、電撃、毒、霊、魔…
それら種々の攻撃属性に対する防御魔法を構築していく。
完全に戦闘態勢を整え、相手の反応…初手にどう動くかを、観察する。

エルディア >   
ゆっくりと視線を巡らせたのは此方を探る気配を感じたから。
普段であれば横を何が通ろうと等しく興味を持たない。
同様に野生の勘と呼ばれる感覚を持つ獣は此処に今近寄りもしないだろう。
地下の根の様な洞窟内の風が集い、天井の風穴から外へと抜けていくこの場所は
見た目こそ静謐に見えるが今、色濃い瘴気が満ちている。
自ら生命を脅かす危険に飛び込むのは自殺行為だ。
其れすら気が付かない、生きる為の勘すら鈍ったマガイモノなど、
仮に近づいて来たところで起きるまでもなく
影になった部分に滞留した淀み……瘴気に当てられて死んでいく。
耐えられるものも態々危険を冒してその場所へと足を進める事はないだろう。

だというのに……
膨大な数の探知型魔術がそれに触れて掻き消えていく。
瞬時に展開される防御術式はその殆どが独自式のようだ。
撹乱インスタンス生成型術式とも違う”ルール(編成)”の違う術式。
それは明確に此方の位置を探っていた。
魔術深度からして並の使い手(雑魚)ではない。
それがこれだけ多数ばら撒けばこちらの位置は判っているはずだ。

「……コッち」

それは此方をとらえ、真っすぐに此方へと向かってくる。
その間も探る手に好奇心と愉悦を感じ取る。
無防備に光に照らされたまま、彼の存在が在る方向を
ぼんやりと夢現に眺める瞳からまるで涙がこぼれる様に赤い粒子が零れ始めた。
それは滴る様に頬を伝い、地面へと落ちると……
触れた物を枯らし瞬時に灰に戻す。

「……」

彼女は灰になる木々を一瞥する事もなく待ち受ける様にじっと一方向を眺め続けた。
やがて姿を現したヒトの姿をした其れを無感情に眺める。
たとえ哀れな感覚しか持たなヒトでも判るだろう。
人の形を成す目の前のそれは形の在り方を既に超越している。
これは形を模しているだけで全く別の存在。
そしてその衣装の裏に潜ませる感触は良く知っている。
ああ、これは……

「……ぅ」

眠りを邪魔され、その口元から不機嫌そうな声が零れるが
そこには僅かに喜色に似た感情が混ざっていた。
コレは簡単には壊レなさそうなモノ。
往々に此方の存在を知ってなお、絶対の自信を崩そうとしない魔なるもの。
人よりもずっとずっと近しい、コワレモノ。

「問ウ」

質問に問いかけることなくたどたどしい口調でふらふらとゆっくりと立ち上がる。
態々こちらに来たのだ。ケガをすることなど覚悟の上だろう。
ほら、だって防御してる。
俯いたまま立ち上がると無造作に片手をあげる。
その掌に湧き出すように現れたのは漆黒の槍。

「一度、シか問わなイ。
 貴方ハ……」

顔をあげる。零れ落ちる魔力を湛えた瞳がギラリと彼の者をねめつける。
壊れた笑みを口元に湛えた彼女は侵入者に明確な殺意をもって問うた。

「壊してモ良い、モノ?」

これを聞くのが、アノヒトとの約束だから。

ヴェンディ > 永い時の中で生み出し、手癖で使う魔法を元に位置を割り出せば。
そこに到達した時既に、相手はこちらを向いていた。
この洞窟に漂う瘴気は、どちらかといえば魔族の国の深部に近い。
マトモな生物であれば…即座に不調をきたした後即死するだろう。

だが、そんなことなど、今は問題ではない。
瘴気程度なら、常時展開している通常の防壁だけで事足りる。
けれど…目の前に居るモノは…既視感のある、ナニカだ。

見た目は、一見だけするならば、みすぼらしい恰好をした美麗な童女だ。
琥珀と翡翠のオッドアイが美しく、銀糸のような髪は日光であっても月光であっても、その美しさを存分に発揮するだろう。
白いフードローブから覗く肌も…こんなところで寝ていたとは思えないほど綺麗だ。

…だが、その童女は…魔族と近しい気配を発しながら、ヒトと魔族、両方の血の匂いがする。
恐らく性質的であろう、右手と右足からの微かな軋み以外に傷らしい傷もない事から、傷つけられずに双方を圧殺し、暴れまわっていることは間違いない

そんな相手に対して思うのは、いつも彼が感じている…下等なモノに対する愛い、という感情ではない。
己を興奮させ得るモノを見つけた、少年のような高揚感だ。

ゆらりと、ノイズ交じりの声でこちらに問いかけてくる相手に、彼は笑う。
その口元は…いつもの余裕ある笑みではなく。
三日月のような弧を描き。

「壊しても良いか、だと?よく言ったな」

以前に参加していた、あらゆる戦場に置いて、彼に傷をつけたモノはいなかった。
戦士であろうと魔導士であろうと、条件さえつければ自動展開され、あらゆる攻撃を防ぐ防御魔法を破る者などいなかった。
だが、この童女は…彼を壊せるという前提で話をしている。

言葉と同時に放たれる…常人であればそのまま意思の刃に貫かれ、睨まれただけで死ぬであろう殺意を受けて、また可笑しそうに笑い。

「く、く。ハハハハハハハハ!!いいぞ、存外に良い暇潰しになりそうだ。俺の散歩コースも捨てたものではないな」

質問をはぐらかし、洞窟に響く声をあげ、大笑してから。
その白瞳を大きく開き、存分に魔力を解放し、通し始める。
瘴気が震え、直上の木々達が揺れ動き、地鳴りが響き始める。
まだ交わっていないにも関わらず、相手の実力は、彼にもひしひしと感じられており。

「俺に問われて名も名乗らぬとは。キツい躾が必要だな、お前には。ああ、すまんすまん、…まだ問いに対する返答をしていなかったな――」

だが、漆黒の槍がいつ投擲されるかもわからないまま、彼は自分のペースで話す。
相手を白瞳で見据えながら…右手を前に。
掌を上に向け、人差し指以外を折り曲げ。

「『壊せるものなら、壊してみろ』」

軽く人差し指の関節を曲げ、安っぽい挑発の動きを見せつける。
同時、更に…対概念、対世界、…通常あり得ない属性まで網羅した防御を敷き。
暴虐の具現たる相手の攻撃を、真っ向から受け止める構えを見せる。

エルディア >   
見た目は恐らく美しいとされるモノなのだろう。
事実、力ある者は美しい姿をしている事が多い。
特に目を引くのはその瞳。
真白い瞳は此方から見ると無数の色を内包して虹色に輝いているようにすら見える。
まるで魔族の国ですら珍しい魔晶石のよう。
渦巻く魔力は人どころかそこら魔族も一蹴するだろう。
ああ、随分綺麗に見える。まるでアノヒトのよう。

「そ。」

素っ気なく返事と同時に無造作に軽く腕を振った。
掌の上に浮かび、影のように揺らめいていたそれは
漆黒の残像を残しながら串刺しにせんと胸元へと飛び込むと
障壁にぶつかり激しく火花と閃光を散らし洞窟内を明るく照らした。
展開された防御式は色取り取り。概念術式と思しき術式まで見える。
一撃でそれらを”抜く”のは流石に容易ではない。

「くふ」

だが、容易ではない。それだけだ。
その槍がまき散らす閃光が収まった時、
彼女の周りに先程よりも鋭い漆黒の槍が空間を埋め尽くす様に
無数に浮かんでいるのをみとめるだろう。

「ソレ、何処まで、耐えれる、かナ?」

防がれるのは承知の上。
それを知って尚、その守りの上に過大な物量を、
しかも全てを正確無比な狙いで叩きつける。
黒い濁流のようにそれは眼前の標的へと殺到する。
ぶつかり、砕け散る度に鋭さを、速度を、重さと数を増しながら。
当たるコースだけ防げば良いと以前戦った誰かが言っていた。
なら簡単だ。全てを当たるように撃てばいい。
無数の点を、面になる様に放てばいい。
防がれたなら?簡単だ。

「体力、にハ自信、あるヨね?
 知ってル、よ?」

川の流れのように途絶える事無く削り取ればいい。
防ぐ魔力が無くなるまで。
漆黒の槍が湧きだす度に辺りの瘴気が色を濃くしていく。
それは加速度的に濃度を増し、周囲の命を刈り取り瘴気へと変えていく。

「オシエテ、よ。ねぇ?」

吹きすさぶ暴威の只中に浮かび、童子は軽やかに問う。
その瞳の中には喜悦と僅かな理解。

「アナタは何処までヒトリで居れたのか」

放たれた言葉は嵐の中を飛ぶ可愛らしい鳥を見まもるよう。

ヴェンディ > 例えるなら、万を超える兵士同士が同時に鉄の剣で必死に切り合いを始めた…
今、風洞に響くのはそんな音だ。
金属と金属が激しくぶつかり合うような閃光と衝撃が辺りに発散し、地鳴りが更に酷くなっていく。

「試してみるがいい、玩具」

異様な速度で槍を投擲したきたその無造作な動きに。
どこか機械的な印象を受けたのか、相手をガングと呼びながら。
防御魔法に伝わってきた衝撃に、眼を細める。
並みの攻撃であれば霧散させ、余力があれば自動反撃するように組んだ防壁。
概念防御も施し、徹底して防御力に寄せたその魔法は…彼の知る限り、あらゆる攻撃を受け止めてきた。

だが、漆黒の槍はいかなるモノなのか。防壁にぶつかっても霧散するどころか、火花を散らしただけ。
更に、自動反撃の余力が防壁に全く残っておらず、槍が消えた直後に防壁は砕ける。

その一撃、受け止めれば。
次の狙いを察した男は、全球状に魔力を展開。
薄い生地の層を重ねた甘い菓子のように、防壁を十重二十重、更に重ね…
数舜後、飛んできた無数の漆黒の槍を受け止めていく。
だが、一瞬でも防壁の生成速度を落とせば、あの槍は容赦なく急所を突いてくることは間違いなく。
刃の欠けた鋸で鉄を切断しようとする音を、何十倍にも増幅したような音が響き渡る。


「ハ。そんなことが聞きたいのか。
俺は戦争を辞めてから、ヒトリ、というのは一日も保たなかったぞ。失望したか?」

そんな中でも、世間話をするように軽い調子で言葉を返す男。
彼は、戦いの中で下等な生物たちを愛し、観察しながら時折愛でることに目覚めてしまった。
だからこそ、一人で居た期間、というのは非常に短い。

あらゆる急所を狙い、全方位から殺到する黒い濁流。
それはまるで夜空だ。洞窟を埋め尽くす、暴虐の夜空。

その暴虐を、防壁によって防ぐたび、障壁が砕け散る様は、星と例えられるか。
防壁と空間を制圧する夜空が光る輝きは、その瞬きを激しくしていく。

「だが、この程度で勝ち誇るなよ、玩具。白瞳の魔王の真髄、見せてやろう」

彼の…人間と魔族の戦争に参加していた際の特徴と言えば。
圧倒的な防御力と、どこから攻撃しても致死ダメージで反撃される反抗能力だったが。
星の瞬きに煌めく白瞳の真価は、状況に合わせた魔法の構築だ。
彼自身がこうしたい、と望み、魔力を通せば。この白瞳はそれを実現する。

「なるほど。お前がこの瘴気を生み出していたのか。…せっかくだ。利用させてもらうぞ」

ぼう、と彼の足元に黄色の魔法陣が描かれ、その意味が発露する。
それは、周りに満ちる瘴気を取り込み、変換し、彼の魔力とする新たな魔法。

彼の足元…洞窟の岩に刻まれた、術式自体を破壊されない限り…
童女の周囲に槍が現れる度にまき散らされる瘴気が、そのまま彼の体力となる。

その彼が張る防壁は、一枚一枚が硬いが、童女の持つ破壊力で槍を重くぶつければ砕けていく。
ただ、槍と同じく次々に生成されていくそれは…こう、童女に返答していく。

「ソレは、どこまで出せるんだ?、体力に自信はあるんだろうな。
…どうした。その程度か。お前の体から漂ってくる血の匂いは…この程度で染みつくほど薄くは無いぞ」

片手で防壁を張り直しながらの、再びの挑発。
余裕綽々で責め立ててきている相手に、彼もまた余裕だと告げる。

エルディア >  
「うんー、ソうする、ね?」

だからまだ壊れちゃわないでねと無邪気に笑う。
物理的な現象に留めているがこの反応は実に興味深い。
剥離し砕けていく防壁を眺めその様子を記憶にとどめる。
漆黒の空間に鉄を断つときのような火花が散る様はさながら花火のようだ。
薄い防御膜が自身を砕きながら槍を相殺している。
加速し続けているそれを過不足なく受け止める様は破裂式装甲といったところか。

「……ホントに?それはそう思っているだけかもしれなイよ?」

自信をもって返された言葉に口の端を歪める。
そこに在るのは僅かな憐憫と嘲笑。
まるでその答えを嘲笑うような言葉は小さな声にも関わらず
鳴り響く轟音を裂き確かに相手へと投げられる。

「エぅ、……生み出して、ナイんだけどなぁ……」

しかし続く言葉にはまるで見当違いの言葉が返された。
首を傾げて続く言葉と共に展開された式をじっと見つめる。
ああ、また一つ、知らないものを視れた。
白瞳の真髄だったか。途中式を書かずに解答だけが現れる様を見ているようなそれは
底が見えない分面白い。まるで手品を見ているようだ。
それに夢中になっているようで、会話が成り立っていない事にも全く気を払っていない。

「ソの式、貰うネ?
 こウ、かな?あれ、違う?」

元々精霊と相対する時相手は常に瘴気を吸収する状態にある。
はからずも精霊殺しの役に立ちそうな術式が出てきたと
僅かに楽しそうな表情を浮かべ嬉々としてそれを視始めて。
事象が発生している原理はいくつか案が在れどどれも案の域を出ない。
なら、現実に作用しているものだけをトレース、介入するだけのこと。
吹きすさぶ暴風の中、空中の足元にいくつかの陣が出来ては直後に砕け散る。

「こっちはフェイク。
 こっちハ反応式。
 こっちは……なんだロこれ……」

空中に魔法陣を具現化させ、それを無邪気に書き換えながら首を傾げ、
何度も作っては精度を上げていく。
まるで相対している敵など誰もいないが如く。
全ての仕組みは後で理解すればいい。動けばいいという点で目の前のソレは
その機構とは別に実に合理的で理解しやすい。
壊すなんて勿体ない。折角の玩具なのに。

「うーん、出来なイ。」

サンプルどころか現物が目の前にあるんだけどなぁと
何度か砕けた後、徐に足元の人の頭ほどの小石を拾う。
その重さを確かめて

「もっとよく見セて?」

降り注ぐ黒い雨が一瞬で停止し、その瞬間に軽くぽいっと放り投げる。
殺意どころか害意もないそれは緩く放物線を描き飛んでいくと障壁にぶつかる。

ヴェンディ > ノイズ交じりの声が、戦いの場においては心地よい。
ここまで防御しかできなかったことが今まであっただろうか。
反撃に転じようとすれば即刻撃ち抜かれるであろう暴虐を、今は受け止めるしかなく。

白瞳の力で展開された式は。
童女が自発的に生み出しているか、そうでないかに関わらず。
産み出されている瘴気を吸収し…濾過するように魔力に変えていく。
確かにそれは、結果のみを生み出す神秘であることは間違いないが…

「…とぼけたまま器用な事をする。俺の頭が落差で風邪を引きそうだ」

童女から…嵐の中にも関わらずはっきりと聞こえる声は…
まるで男を見ていないかのような言葉。
男が展開した式がそれほど興味深いのか、次々に似たような魔法陣を作り上げていく姿にため息をつき。
どうやらこの童女、発展性もあるらしい。

ただ、魔法の構築をしながらも相変わらず黒い槍の暴虐は男目掛けて降り注ぎ続ける。
如何なる頭の構造をしていればそんな行動が可能になるのか。男にも見当がつかない。

「っ、全く…」

童女の動きを見ていれば、まるで遊びのようにも感じられる魔法陣の構築と、黒い雨が唐突に止み。
彼が展開していた防壁も、いくらか無駄になった。
最後の仕事とばかりに、がつん、という音が鳴って防壁にただの小石がぶつかり、小石は塵となって霧散する。

一応はそのまま防壁を展開しながらも、新たな魔法を白瞳を通して発動させ。
それは、既に場にある魔法をコピーする魔法だ。
その魔法により瘴気を吸収変換していた黄色の魔法陣と黒い槍を防いでいた防壁の魔法式をコピーし。

「これか?それともこれか。見てもわからんと思うがな。特別に見せてやろう」

童女の目前に、張り付け直し、よく見えるようにと。
あくまでコピーである故、当然オリジナルの魔法も残っているが…狙いはそこではない。
初めて童女が見せた隙…少なくとも彼はそう判断したそれを、突くために。
わざわざ至近距離でそれらを見せつけた。魔法の構築式…白瞳で瞬時に生み出したそれを、理解させる時間を作るために。

「だが――――――――…」

童女がその魔法たちを見た瞬間。
白瞳が魔力を受け取り。
一瞬で童女の背後に、白銀の剣が生成される。
カルマがマイナスに傾いた相手に特攻となるように創造されたそれが、一直線に童女の胴を貫こうと飛翔し。

「俺の言葉も聞け。それと戦いの途中に気が抜けるようなことをするな。やりづらいだろう」

その剣が童女を貫こうと貫かまいと。
呆れ交じりに声を出し。
貫いたとしても、この程度で死ぬはずが無いとわかっているのか、どちらにしても声はかけ続ける。
せっかく戦っている実感を得ているのに、お前も俺を認識しろ、と。

エルディア >  
その眼は相手を視ているようで視ていない。
此処に打ち込めばいい。此処を削ればいい。
それは彼女の中で廃棄をするのと同じくらい自然な事。
だからこそそれが当たり前に吹き荒れていても彼女にとっては風でしかない。
その風の中で面白い反応をする者を見つけたと彼女は無邪気に笑っていた。
例えるなら実験動物を見るような、例えるなら草木を邪気なく手折る様に。
そんな様子で見ていたそれが二つ並ぶ。

「ぉー、おもしろーぃ」

と同時に視界の端に白刃を認める。
音を置き去りにする彼女にとって飛来した剣はあまりにも遅すぎた。
が、それを避けるそぶりも見せず、切っ先が胸元から飛び出すに任せた。
人であれば明らかに致命傷であるはずの突き出した切っ先を掴む。
そのまま柄ごと貫通するようにゆっくりと引き抜く。
まるで木の棘でも刺さったかのように。
避ける必要もないというように。
とそれに一瞬遅れて口元から鮮血が零れた。

「けほっ……ふぅん……?」

属性が付与されている事を確認するとぽいと投げ捨てる。
どうやら一種の概念兵装を射出したようだ。ダメージが残るとは思ってもいなかった。

「あーぁ、服、破ケちゃった」

本人にその気がなくともまるで彼自身と人との戦いがそうであった事をなぞる様に
童子は眼前の相手を敵ですらなく、只の娯楽として認識していた。
そして刺さった剣自体もああ何か刺さったな程度にしか認識していない。

しかし、これが牙だというなら話は少し変わってくる。
これだけ投げつけてやっと、彼女は眼前の相手を
自分に害を与える事が出来る存在として視た。

「聖性?……ツマラナイ」

そして投げかけられた声には落胆が混ざっていた。
それと同時に背中から二対の黒き腕が湧きだした。

「飽きちゃわないようもっと面白い事、シテミセテ?
 今までは、貴方”で”ダッタけど」

そしてその小さな手の平を上に向け、指を二、三度曲げる。
拙いながらも、数秒前の誰かをなぞるように。

「気に入ったラ、貴方”ト”遊んであげル」

きついお仕置きだっけ?と嘯くように首を傾げて。

ヴェンディ > その攻撃は、本気と言うわけではもちろん無く。
童女にこちらを向かせるための挑発ではあったが。
下級悪魔程度なら塵も残らない概念を込めたというのに、あっさりと引き抜く様は正に、自分と同じかそれ以上の埒外の存在だと感じる。
明らかに相手のカルマ値はマイナスに傾いており、その剣は最大限効果を発揮した。
しかし、投げ捨てられた剣は悲し気に地面に横たわるのみ。

同時、その童女の背中から二対の腕が出てくれば。
まだ強くなるか、と…呆れの視線と共にそれを見つめ。

「腹よりも服が気になるのか。く、く。
……ならば共にもっと踊るか。舞踏は相手が居なければ始まらないからな」

防壁の魔法は、一撃入れるための餌としたため、そのままでは使えない。
自分の周りにある防壁の魔法式のみを不規則に改変し、読み取られないように。
吸収転換の魔法陣も、効果は同じだが、途中式が違うものに差し替える。

続いて白瞳が煌めけば。
周囲に様々な動物、魔獣を模した黒い魔力の塊を精製する。
当然、それらにも…普段は込められていない、ある概念が込められている。

その概念は消滅。
獣たちが敵意を持って触れたモノを、生きていようといまいと、この世界に存在しているのなら、理から消滅させる概念を込め。
一斉に放つ。犬型や鳥型、蟲に竜、魚…多様な動きかつ膨大なそれらが童女に殺到するが、彼はそれが効くとは思っていない。

なぜなら、先ほど剣を放った時、この童女は見ていながらも避けなかった。
速度は十全に乗せたはずだが、見切られた上で、敢えて受けられたのだ。
だからこの程度の物量は、眼を閉じながらでも童女は躱せるだろうと思っている。

先刻の焼き直しのように、今度はこちらから黒い濁流を産み出し、叩きつけながら。
続いての魔法を当然詠唱もなしに発動。
普段、下等なモノを壊しすぎないように抑えている部分も開放し。

「今度は避けないと、ダンスが止まるぞ、玩具」

産み出すのは、剣をわざと受けられたからこそ、速度増強の重ね掛けによって…空気を切り裂き、音速を超えた衝撃波を生みながら、刹那の間に対象に絡みつく鎖。
その鎖に更に込められたのは、捕縛の概念。
鎖に触れたモノを全て捕らえ、逃げようとする意志を奪う概念を込めたそれ。
金属音を響かせながら、見なくともわかる素早い動きを封じようと鎖が迫り、黒い濁流に童女を飲み込ませようと。

だが、これでもまだ彼は油断していない。
彼にも闘争心という燃料が入り、より複雑、かつ人間や魔族などでは再現が不可能な魔法を操っていく。

エルディア >   
恐らく聖性武器なので陰の気を多く持つ者に対して
明確な破壊を行うよう属性を付与されていたのだろう。
確かに効果があった。だが同時にそこに概念兵装の弱点がある。

「コーゲツ、のふくぅ……」

哀しげにつぶやく。
その時ばかりは本当に悲しそうに見える。
折角もらった大事な服なのに。
……貰ったのこれしか着てないけれど。

「概念兵装、好きだネ……」

それから顔を上げ、現れる獣を一瞥する。
皆、どうしてあんな欠陥だらけの術式を好んで使うのだろう。
そう少しへにゃりとしたところに鎖の音と空気を裂く馴染み深い音を聞く。
飛来する鎖はその速度故に獣たちが足を踏み出すより早く…
それに反応した背後の腕がそれが絡みつく前にそれをつかみ取る。
同時に再び無数の黒い槍が眼前の相手へと空を駆ける。
本人もそれと追走するようにそのまま拳ごと一歩目を踏み出す前の獣の群れに突っ込んだ。
巨大な拳が鎖ごと獣の群れに触れ、霧散するが意に介さず一瞬で駆け抜ける。
この程度の距離など無に等しい。

「踊れる、の?
 私はエスコート、シてあげない、よ?」」

防壁の防御範囲と条件は先ほどの撃ちこみで大方把握した。
何のことはない。仕組みが分からなくても術者本人の防御領域さえ読めれば
むしろこの手の手合いは扱いやすい。
忠実に自身の意識に従うがゆえに、意識していない所で条件が決まる。
故に悲しいかな。読み合いに滅法弱い。
速度特化型が相手ともなれば尚更だ。

「……同じ手品ハねたが割れるよ?
 さぁ、頑張っテ逃げて?」

すれ違いざまに耳元で囁く。
同時に背中から結晶質の大剣を持ったもう一本の腕が現れ、
大きく振りかぶるとそれを地面へ叩きつける。
やる事は簡単。踏み出した獣たちが反転。
目の前にいる童子に向かって一斉に

「オイデ?」

呼び出した術者をも巻き込む形で殺到した。 

ヴェンディ > コーゲツ、とやらとこのよくわからないモノは繋がっているらしい。
まさかこの玩具を壊せばそのコーゲツとやらが面倒で愛しい勘違いで襲ってこないかと思考したのも一瞬

「便利なモノでね。魔力や物体への付与も容易い。はは、見飽きた手品だったか」

なるほど、己程度の手合いなら、潰してきたと言わんばかりの突破方法だ。
速度を込めた鎖は見切られ、童女の背後の腕に捕まれ。
獣の群れは、腕を消滅させるが童女自身には届かない。
己が創造できる速度は、相手に及ばない。
それでも、彼は笑う。これこそが、楽しいのだと。
獣共に食らわれ、世から消え去る程度の相手は、悦楽には必要ない。

「それは問題ないさ。エスコートは昔から、男がするものだと決まっている。」

少し早口に、手短に。
速度という重要な部分で上回れているとわかった以上、離れるのは悪手だ。
距離調整の主導権を握られれば、最悪、不可視のヒットアンドアウェイを仕掛けられかねない。
そうなれば、防壁を新たに組む前に己は穿たれるだろう。

ならば、すれ違い、一瞬とはいえ先ほどよりも距離が近い今が機と言える。
背後に、自身が呼び出した怒涛を感じながら。
それよりも尚、酷く彼を警戒させるのは。
新たに童女が取り出した、結晶質の大剣だ。
あれを攻撃のために振るわせてはいけないと、本能が訴える。

「そして逃げた男に、エスコートされる女はいないだろう?、そら、新しい手品だ」

自身の多量の魔力を注ぎ込み、魔法を発現させる。
一切の他干渉を許さない白瞳の機能を十全に使い。

発動するのは、世界への干渉術式。
自分と自分以外の、時間の流れを千分の一まで相違させる。
その術式は襲い来る、自身が呼び出した黒い波濤も、当然童女までも巻き込み。

相手から見れば、唐突に、すれ違った彼が千倍の速度で動くように感じられるだろう。
速度差を更に埋めるため、自身に加速魔法をかけ童女に肉薄し。
次いで、世界に対する干渉によって指数関数的に失われる魔力を白瞳に込め、童女の身体に直接術式を刻もう。

刻むのは、感覚喪失の術式。
刻めばその術式は童女の五感全てを唐突に喪失させ。
不干渉の魔力で編まれたその術式の効果は…彼が解除するまで何も見えず、何も聞こえず、あらゆる感覚も働かない。
そんな暗黒の世界に、童女を堕とす術式。

エルディア >   
一瞬で相手の速度が変わる。
それはまるで瞬間移動のように一瞬で真横を駆け抜け、同時に視界がブラックアウトする。
それを一瞬だけ視界にとらえると小さな笑い声をあげた。
ああ、本当に魔族というのは

「同じ手が好きダネ」

その小さな呟きが聞こえたか否か。
感覚を一瞬で失った以上自分の速度を殺しきれず轟音と共に壁に叩き付けられた。
そのままゆっくりと地面へと落ちる。
自分の体の感触はなく、何も見えない。
恐らく五感を封じられたのだろう。
人であれば、いや、魔族であっても明らかに戦闘能力を失っているといえる。
もしこの場に観客が居れば誰の目から見ても勝負は決したように見えただろう。

「アハ」

その状況でソレ、は嗤っていた。
目が見えない、耳が聞こえない。
確かに五感に関する制限は大きい。
けれど……所詮その程度、だ。

「私が止められルと思った?」

容赦なく大剣を振り切る。
手の感触はない。だから握りつぶせるほど握りしめられる。
勢いよく叩き付けられた大剣は自身の威力により砕け散り
爆発的な勢いで破片を散らす。
それは自身をも傷つけながらまるで炸裂弾のように風洞内を駆け巡る。
其れさえ”判れ”ば問題ない。

「……ああ、よく視えルね」

何故ならば穢れの破片が無い場所を感知すればいいのだから。
それは見るでも聞くでもない、彼女自身を識る感覚。
全身に黒い破片を突き立てたまま凄惨にそれは笑った。

ご案内:「巨大風洞」からヴェンディさんが去りました。
ご案内:「巨大風洞」からエルディアさんが去りました。