2019/06/27 のログ
■ルビィ・ガレット > 枯れた噴水に木の部分が腐った猫車。
薔薇の蔦を絡ませるためのアーチには、過剰なほどに薔薇が咲き乱れていた。
それは剪定されていないため、要らない雑味が生じ、景観が著しく損なわれている。
噴水を中心に、円形や放射状にレンガで舗装されている地面も、欠けていたり。ひび割れていたり。
地面の土部分がむき出しになって、何か動物に掘り起こされたような跡さえある。
――そんな場所に、半吸血鬼はいた。
やせ細った頼りない月の光源だけで十分。彼女の目にはむしろ、夜中のほうが世界が鮮明に見えていて。
■ルビィ・ガレット > 散策に人の気配が溢れる場所を好まなかった。
だから、自ずと足の向く場所は、このような人気のない寂しい場所が多くなる。
荒れた庭園の半ばほどに進めば、遠目に館の廃墟を捉えて。
物思いに耽る。……庭に木製のベンチが、まるで気が利くように配置されているけれども。
それは腐蝕が酷く。とても腰掛ける気にはなれなかった。
別段、全体の景観を損ねているわけではないが。そのへんは気に入っていた。
「……お前は、何だったんだろうね」
もはや、整然とした形状を留めていないトピアリーを複数見つけての独り言。
原型が本当にわからない。元は、ただの円形に刈り込まれていたかも知れないし。
兎や鳥の形を模していたかも知れない。――だから、壊れているものが好きだった。
"完璧だった"時代に思いを馳せて、あれこれと空想できるから。
それも、身勝手に、無責任に……だ。自分の性格に合っていた。
■ルビィ・ガレット > 復元魔法を研究している知人がいる。彼曰く、「時間を逆巻きにするのとは、違う理屈の魔法だ」とのこと。
古びて、痛み。原型をほとんど留めていないものに出会うたび、その知人のことを思い出す。
頭の中で「研究の成果を見せてくれ」「試しにこれを"直して"くれ」と、彼に言っている自分がいる。
その思考やイメージに、きっと意味はない。意味がないからこそ、実際には彼に頼まないし。自力で直そうとすら、しない。
たまに思う――「壊れているものが好き」と言うのは、自愛の精神を示しているのでは、と。
「――誰」
枯れた噴水のそばまで戻って、物思いに耽っていたら、鋭い聴力が何者かの足音を捉えた。
振り返りもせず、感情の薄い声で誰何。
■ルビィ・ガレット > 気まずさと緊張が入り混じった、固い息遣いを感じる。
……痺れを切らして振り返れば、14、5に見える男の子どもが。
女が、先客がいたことが、余程意外だったらしい。こちらの出方を警戒心強く窺っている。
その中に、苛立ちみたいなものも感じ取られ。
そんな感情を向けられる覚えはないのだが。……しかし。
「――あぁ。ここはお前の秘密基地みたいなものなのか。
現実逃避の場。安心して自分を出せる場所。……要するに、だ。
――お前、居場所がないんだろう。家にも、学校にも。仕事場にも」
合点が行くと、思いつきをさも真実のように言って。片頬を持ち上げながら。
すれば、少年。……目を見開いて絶句していたかと思えば、目じりに涙の粒が。
どこまで言い当てたかはわからないが、彼にこんな顔をさせるくらいまでは。
あながち的外れでも無かったらしく。……半吸血鬼は今、人間の少年に睨まれている。
女は子どもを襲いはしない。ただ、精神的になぶるくらいはする。
■ルビィ・ガレット > 彼のランタンを持つ手付きが怪しい。目を細めながら、
「――一時の感情に任せて、私にそれをぶつけようとするなよ?
火事になったらどうするつもりだ。近くに水場はないぞ。
館"だった"建物のそばに井戸があるけれど。――あれはとうの昔に枯れている」
少年は身動ぎして、黙りこくる。
女の正論を打破する言葉は思いつかなかったらしい。
しかし、その疎ましそうな視線は相変わらずで。
「……わかったよ。ここを見つけたのは、たぶん。お前のほうが先だものな」
ため息混じりに言ってから、肩を竦めると。
自らの影に半身を沈み込ませ、やがて全身が影の中に潜る。
女は影の中で、少年の声にならない悲鳴を聞いた気がした。
――そんなことは気に留めず、今日の散策を中断させた。
ご案内:「街外れの荒れた庭園」からルビィ・ガレットさんが去りました。