2019/05/23 のログ
ご案内:「夜の庭園」にルドミラさんが現れました。
■ルドミラ > 王都の郊外、自然の景観を活かした庭自慢で知られる某貴族の別邸。歴代当主は季節ごとに旬の花々を愛でる宴を催している。
色とりどりの花たち、水草を浮かべた池、噴水、蔦の絡むあずまや──広大な庭園にはさまざまな設備や植栽がバランスよく配置されていた。何代か前の王もたびたび訪れたというだけあって、花の宴は今夜も盛況のようだ。
客の立場としては、貴族、商人、軍人、著名人とその連れ。給仕役や警護役、楽士などは役目に応じた制服を着せられており、それぞれ持ち場で立ち働いている。
暑くも寒くもない、快適な気温。木々に、茂みに、花に、芝生に夜露が降り始めた夜更け。人々のさざめきを包むのは、あまい土の湿り気を帯びたかぐわしい夜のにおい──背徳の都の腐臭まじりの。
■ルドミラ > 「……気のせいかしら?」
王都に娼館を構える女は、ひとり首を傾げた。賓客としてこの手の宴に招かれた時の常で、護衛は連れていない。そのせいもあってか、何か、先程から視線を感じるのだ。
「自然の景観を活かした庭づくり」とはつまり、身を隠すのにうってつけな茂みや物陰に事欠かないということなので、見える範囲での人影の有無にさして意味はないのだが──人の背丈を超える花木が花の壁といった風情で立ち並ぶその一角は、ちょうど池のほとり。
ところどころに配置された松明やランタンのあかりが、ゆらゆらと黒い水面に照り映えている。美しい夜だ。
花底蛇。
美しいものの下には恐ろしい何かが潜んでいると、どこかで聞いた。
その何かは、引き摺り出すことができるものだろうか?
音のしない足取りで、女はゆっくりと歩き出した。花の壁の曲がり角がある方へ。
■ルドミラ > 角を曲がると、その先に広がっているのは花の迷路。
外部からの視線を遮断する、背の高い花木を生垣状に配置した人口の迷路だった。
まっすぐに伸ばした首は一度も後ろを振り返ることなく。
ほとんど上下動のない、泳ぐような足取りでドレスの裾を揺らし、一定のペースで歩き続ける。
どちらへ行こうか迷う風もなく、奥へ、また奥へ。
明らかに、尾行者を誘い出さんとする歩き方であった。
■ルドミラ > そうして何度目かの角を曲がった後には──女の後ろ姿はもう、どこかへ消えている。
一部始終を見ていたのはただ、もの言わぬ花々ばかり。
ご案内:「夜の庭園」からルドミラさんが去りました。