2018/03/13 のログ
ご案内:「地下クラブ」にノアさんが現れました。
■ノア > 王都の地下に、ひっそりと存在するクラブ。当然窓もなく、薄暗い空間は社交場のような造りになっている。黒と深紅を基調とした内装、悪趣味な調度品の数々、そして、円形のステージが幾つか。其の内の一つに、女は飾られていた。
「 ............... 」
ステージの中心に立つポールと首輪とを鎖で繋がれ、目元を黒布に覆われた状態で。視覚を奪われていても感じる視線に、ぎ.. と下唇を噛む。
あの夜もいつものように、上手くいく筈だった。
とある豪商の屋敷に忍び込み、目当てのモノを手に入れて。細い路地を縫うように進み、追手を振り切ろうとしていた最中.. 女は、想定外の出来事に出くわした。逃走不可能となった盗賊は追手に易々と捕らえられ ───
「 .....っ、 」
思い出すと、悔しげに歯軋りを。
捕らえられた後、直ぐに身柄を突き出される事なく。こうして鎖に繋がれ晒し者となっているのは "使いモノにならなくなるまで稼がせてから身柄を突き出せばよい" という、豪商の魂胆。
故に "盗賊白蛇" として晒されている訳ではなく、一人の女として.. 欲望渦巻く王都の地下に、女は囚われていた。
ご案内:「地下クラブ」にフラニエータさんが現れました。
■フラニエータ > スパンコールを散りばめた黒のパンツドレスで着飾った。
長い髪を時間をかけて波打たせ、染めた。
バタフライマスクで顔を隠す。
よし、これで変装は完璧だ。
後は客のフリをして、他の客の財布を狙う。可能なら装飾物も。
――女の目的は、ステージを見つめ、いやらしくも舐める様に飾られた女達を見ている客々。
気に入った子が居れば一晩買えばいい。なんて楽で愉しいお仕事。
さあ、誰を狙いましょう…と室内を見渡す…。
女の瞳に映った一人の商品。女はそれを凝視する。
決してお気に入りの子が居た訳ではない。
「はァ?」
どう考えても知り合いだ、それも裏の顔の。
頭を抱える女は彼女の存在を再確認すると、その横に立っている係の男に近づき、
「この子…気に入ったわ…ちょっと近くで見ていいかしら?」
と少し大きめの声で確認を取る。繋がれている彼女に聞こえる様に。
■ノア > 目隠しに視覚を奪われているからこそ、他の感覚が研ぎ澄まされ。話し声、グラスの音、近付き目の前で止まる足音.. 360度から、様々な音が聞こえる。沢山の音や気配に囲まれ女は身動きも取れずに、ステージ上でへたり込んでいて。少しでも、其の身を晒さぬよう.. 薄紫色の長い髪で肌を隠すのが、女に出来る精一杯の抵抗だった。
── そんな女の元に、近付く女性物の靴音。続いて聞こえた声には、ほんの一瞬.. ぴく、 と肩が揺れる。其の声は間違いなく、女のよく知る声だったから
( ...............なん で、 )
『 あぁ 勿論、ごゆっくり... 』
ステージの脇に立つ所有者の男は、茶髪の彼女へ じっとりと視線を向けつつ答え
『 おい、 お客様に見えねぇだろうが。』
と 言って、ぐい と鎖を引き寄せる。女の身体をステージの端、茶髪の女の目の前まで引き摺った。
■フラニエータ > 女は確認を取りステージに近づくと、彼女の横に立ち見上げる。
品定めをしているような視線を送りながら、
「ふぅん…可愛らしいこと…でも気が強そうねぇ…私と反りが合うかしら…喧嘩しちゃいそうだわ…」
彼女に向かって女はそんな事を吐く。反抗できない彼女に対しての、ちょっとした意地悪。
そしてそっと彼女の尻へ手を回し、添える。
「…感度も大事よね…フフ…」
なんて声を彼女にかけながら、尻に添えた手を動かしいやらしく撫で回す。
女は撫で回しつつ、そっと人差し指でその尻をとんとん、と何度か叩いた。
女は盗賊の間でのみ使われている信号を、それとなく送る。
「(タスケ イルナラ クサリ ニカイ ユスレ)」
■ノア > 「 ......... 」
同業のライバルだと思っていた相手に、こんなにも無様で情けない姿を見られてしまった。悔しさと恥ずかしさとで頬を僅かに染めながら、意地の悪い言葉に心の中で舌打ちを返す ── けれど、
「 .....っ、 ン.. 」
指先で、女の肌へ直接送られるサイン。其の言葉に、泣き出してしまいそうになる。女は漏れる吐息を堪えるような素振りで、さりげなく口元へ手を近付けて..
カチャ、 カ チ..
首から垂れる鎖に触れ、 二度 小さな音を鳴らした。
『 手に入れてすぐココに出しちまったもんだから、正直 "躾" がなっていなくてね。全く... テメェの置かれている状況を理解しようともしねぇ、 馬鹿な女だ。』
■フラニエータ > 女は伝わった事を確認すると、「きゃッ」なんて可愛い声をあげながら揺れた鎖に驚いたフリ。
係員の言葉には「全くね…」と返して。
「感度の方もまだまだね…それとも、感じちゃってるのかしら、フフフ…
でも、気の強さが気に入ったわ…しっかり教育してあげる。…お部屋、お借りしても良いかしら?」
と言いながら係員と値段交渉を始めた。
…高い、高すぎる…いや、確かに商品とすれば上玉だろう。
彼女に向けられているじっとりとした視線の数は相当数だ。だからってこの値は…
心で涙しながら笑顔で係員へ代金を渡す女。私だったら幾らかしら、なんて考えながら。
――係員の許可が出れば、案内を受け、彼女を連れて個室へと足を運ぶ。
後を付いてくる人数はどの位か、個室の見張りは何人で、扉に対してどちらの位置に立っているか。
…確認は怠らない。ひとつ間違えば己も今の彼女の状態になるからだ。
長い廊下を進み目的の個室へ着くと、扉のノブ側に立っている見張りの男へウインクを一つ。
彼女を先に部屋へ入れ、己も扉に入り手早く扉を閉め、鍵をかける。
「――…何やってるんだか…」
目隠しを外す女。彼女の視界が戻れば、への字口で腕を組んでいる、明らかに機嫌が悪い女が見えるだろう。
■ノア > "女の身体を触る女" 、其の光景は徐々に注目を集め始める。まして一人は裸、もう一人は色気漂う美人。ステージ上の裸体に見飽きた客の中には、パンツドレスに隠されたカラダを想像し 舌舐めずりをする者の姿も。
『 .....ほう、 アンタもなかなか気の強い女だね。』
"教育" と聞いて、男が笑う。確りと受け取る物を受け取ったなら、最後に注意事項を述べつつ ポールから外した鎖を貴女の手へ。
『 多少手荒でも構わねぇが... これでも大事な商品なんでね、最近にはキッチリ返却してもらう。万が一、 "紛失" なんて時は.. 責任、取って下さいよ。』
男は いやらしい目付きで貴女の身体を見詰めた後、 奥の部屋まで案内役を一人 付けさせた。体格のいい案内役の男が部屋まで誘導し( 不意打ちのウインクに頬を赤らめながらも )施錠されるまでを抜かりなく確認する。其の後は見張りとして、並ぶ個室のドアが見渡せる通路の端へ。其の気配や距離は、足音で測れるか。
かくして.. 二人きりとなり、目隠しを解かれた女は
「 .....っ、 危険過ぎる..
少し経ったら、アンタだけで帰って。」
思わず助けを求めてしまったものの、客として出れば何事もなく帰れるだろう と.. 普段より、随分と弱々しい声色で返す。目立った傷は無いけれど、やつれているのは明らかだった。
■フラニエータ > 女は彼女の言葉を聞くと、唐突に彼女の胸倉を掴んだ。微笑みながら一言。
「まずはありがとう、ごめんなさい、位言いなさい…それと」
そして一転、今まで彼女に向けた事の無い怒りの形相で、
「…小娘…自惚れるんじゃないわよ…そんな状態で何が出来るって言うの?」
と付け加え、女は彼女を突き飛ばした。
女は部屋の中を物色し始める。
趣味の悪い調度品に飾られたその部屋は、石床の上に枕元に花が飾られている大きめのベッドが一つ、ソファのセットが一組。
奥は浴室だろうか…こっちはクローゼット…その中にはロープ、蝋燭、口枷…、
窓は在るが細めの鉄格子に鍵。
「よし…ダメ…」等とぶつぶつ言いながら逃げる算段をつけていく。
■ノア > 其れにしても.. "あのフラニエータ" が自分の為に、あんな大金を払うなんて。そんな日が訪れるなんて夢にも思わなかったと、女は喉を鳴らす。其の音も、随分乾いていた。首輪掴まれ ふっ飛ばされても、女は表情一つ変える事なく
「 "借り" 作るなんて嫌だし、出来れば全部返したいところなんだけど..... ごめ ん、 」
この時初めて、貴女へ謝罪の言葉を口にする。会えば決まって減らず口ばかりだった女はもう、見る影もなく... 心身共に、すっかり疲弊していた。
其れでも、此処へ囚われてから懸命に意地を突き通してきた筈 ─── だった のに、
「 .....っ、 も... いい か、ら.. 」
関係はともかく.. 貴女という "よく知る存在" を目の前に、大粒の涙を溢し。精神だけでなく、身体的にもかなり弱ってしまった、其の自覚があるからこそ。そんな自分を連れて此処を抜け出すなど、困難極まりない事だと よくわかっていたから
「 お願い だか、ら.. 一人で 帰って..... 」
俯いたまま、震える声で。
■フラニエータ > 女は震える彼女の正面へと足を運び、もう一度胸倉を掴み、――その頬を思い切り叩く。
「…目は覚めた?」
その言葉を吐き捨てて、足早にベッドへ向かいシーツを引っぺがす。そしてそれを部屋の扉、そのノブへと引っ掛けた。
「覗いちゃダメ、よ?…後で可愛く素直になった彼女、見せてあげるから…ウフフ」
扉に向かって艶っぽくそう告げる。恐らく立っているであろう見張りに対して。
そして慌てるように女は己の髪へと手を突っ込んだ。少し痛みを堪える形相。
手が髪から抜けると、其処には己の髪の毛が絡まった、しなやかな鉄製の、糸鋸の刃の様なものを数本取り出した。
それから女の髪を止めている飾り気の無いヘアピン。
それらを1本づつ床に投げ捨てると、
「鉄格子、切るわ。少し時間は掛かるけど確実…窓の鍵はピッキング…ロープはある。
ほら、ぼさっとしてないの。ここ、切って。」
鉄格子に刃を立てる鋸の刃。それはギリギリと小さな音を立て、黒い粉を吐き出し始めた。
■ノア > 女はきっと、貴女を利用出来ない位に 貴女の事が好きだったのだと気付く。皮肉の言い合いだって、ターゲットの取り合いだって、今思えばどれも楽しかったのだと... けれど、もう
「 .....もう、 戻れ な… ─── っ、 ?! 」
もう戻れない。そう、諦めかけた其の時.. 強烈な一撃が頬を打つ。其の衝撃で睫毛に溜まっていた涙が飛び散り、同時に.. 女を蝕んでいた絶望も、 ぱん と弾け飛んだ。
「 ...............っ、 」
女が、ゆっくりと立ち上がる。平手打ちの音に引き寄せられ近付く、見張りの男。どんな躾が繰り広げられているのだろうと鍵穴を覗くも.. 見透かされたように視界はシーツで塞がれ、室内からの甘い忠告に再び顔を赤らめる。貴女は其の間も一切無駄な動きを見せず、早くも鉄格子を切断する作業に取り掛かる。
女はヘアピンを拾い上げ、首輪を外そうと試みる。己の首元に付いている為 多少時間は掛かるものの、やがて 外す事に成功。部屋の外には妄想を膨らませる見張りの男、あまり時間は掛けられない。ドアノブに掛かったシーツとタオルを手早く交換しては、ローブのように素肌の上からシーツを纏い
「 .........ありがと。 あと、 ごめん.. なさい。
ちゃんと言ったから ね... 」
貴女の隣で作業を始める。目も合わせずに、礼と謝罪を口にした其の口調は.. 棒読みで、可愛いげのない、 貴女のよく知る生意気な口調だった。
■フラニエータ > 「…もう少し早めに言っていれば、可愛げがあったのにね…」
小生意気な言葉を漏らし始めた彼女。女は微かに微笑みながら、それでも一心不乱に鋸を動かす。
しかし…慌てれば大きくなる鋸の音、それは少々大きい。しかし悠長に構える暇なんてない。
扉の向こうの見張りに気づかれたら全てが終わりだ。
女は鋸が吐き出す黒い粉を吹き払いながら、唐突に、彼女に対して言い放った。
「…喘ぎなさい。」
「――激しく拒まないで…押し入られたらマズいわ…入りたくても邪魔できない、そんな声で啼きなさい。」
刹那女も声を出す。
「…素直にしていれば痛い目を見る事も無いわ…
…大丈夫…直ぐに貴女も私に懐くの…皆媚びた瞳で私を見ながら甘えてくる様に、ね…フフ…」
飛び切り扇情的な声を。しかし表情は必死。その手は黒い粉で汚れ、その額には汗が薄く浮かんでいた。
■ノア > 二人が鉄格子を切断しようというところで、部屋の外、 個室の並ぶ通路から話し声が聞こえる。話の内容までは聞こえないものの、 室内が静か過ぎては不審に思われてしまう.. そう考えては、女の手付きにも焦りが見え始め
「 ──── 」
貴女からの的確な指示に、小さく頷く。扇情的な台詞を読み上げる貴女の横で、堪えるように.. 其れでいて、堪えきれないというような、籠った吐息を漏らし始めて。
「 .....っ、 んっ.. ン、 んっ... 」
其の吐息は、徐々に漏らす頻度を増し。少しずつ、少しずつ貴女に躾られてゆくかのように..
「 んぁ、 んっ.. ! ん、 んっ... ん、 ── 」
甘ったるい吐息を、金属を削る音に被せて漏らす。其の間も、手は休める事なく作業を続け.....
やがて、女二人で鉄格子の切断に成功する。外れた格子を落とさぬようキャッチする位の反射神経は、まだ残っていた。其れをシーツの中で 手に握り締めたまま、先に登るよう促す。貴女が格子の隙間から向こう側へと抜けたなら、続いて女も窓に手を掛け隙間を抜ける。此処まで絶えず喘ぎ続けて、酷く喉が渇いていた。
壁の向こう側へ抜けたとしても、此処は地下 ── 地上への出口を探さなくてはならない。誰も居ない室内からはもう、声が聞こえなくなる。時間はない。
( どっち..... )
闇雲に逃げ回り、万が一にも鉢合わせては大きな騒ぎになる。貴女はともかく、女は体力もあまり残ってはいない。武器も切断した格子だけ。戦闘となってしまえば、 足手まといになってしまうだろう。
■フラニエータ > 窓を抜けた先は細い廊下。女は己の指を舐め、濡らし、空気が流れてくる方向を探す。
――恐らくこっち。女の指を擽る風は、微かに斜め上から吹いている。
頭の中で先程歩いて来た廊下を重ねると、どうやら彼女が捕まっていた場所と間逆の方向だ。
しかし、もし出口に近づくのであらば、見張りが居るのも必然で。
「何かあったら…走って逃げなさい。もし捕まったら…ソレで股間を殴ってやるの。」
彼女が手にした格子、それを指差しながら、女はちらりと彼女を見る。
刹那――心臓が跳ねた。先程の普段と違う気弱な彼女を、涙する彼女を思い浮かべたから。可愛らしい演技を思い出したから。
女は目線が合わない様に、紅が差してしまった顔を誤魔化すように、
「…あっちね…さ、行くわよ?」
と先に足を進める。
■ノア > この状況で、少しでも生存確率を上げる為には.. 今の自分の非力さを認め、貴女の判断に従う事。無駄な意地やプライドは捨てて、これ以上貴女が危険な目に遭わぬよう最後の最後まで残った体力を振り絞る事。今の女に出来る事は、ただ其れだけ。
「 ..............逃げる、 二人で。」
貴女の言葉に軽く頷くも、一人で逃げるつもりはない。最悪 貴女を逃がす為なら何でもする覚悟で、切断面の尖る格子を ぎゅっ と握り締め
残る体力は僅か。心身共に随分衰弱しきっていた女は、今この時に集中していた.. そのせいで、いつもと違う貴女の一瞬を見逃して。しっかりと、貴女に従い着いてゆく。一歩ずつ、物音を立てぬように。一瞬でも、集中が途切れぬように。 そうして、慎重に 慎重に進んで行くと ───
「 ......... ! 」
女の琥珀色の瞳が、月明かりに照らされた階段を視界に捉えた。階段には見張りの影が伸びている。聞こえてくるのは だらしない話し声。耳を澄ませば何やら娼婦らしき女に絡んでいるようで、 今は此方に背を向けている。
一気に駆け抜けるべきか、其れとも後方から忍び寄り不意打ちを見舞うべきか..... 地上を目の前にして、緊張が高まる。判断を煽るように、女は貴女へ視線を送った。
■フラニエータ > 女はいつもと変わらず、いや、初めてみるプロらしい彼女を見ると安堵にも似た深呼吸をひとつ。
己の心を悟られなかった事と、逃げ出せる可能性が格段にあがった事。
娼婦と絡む男共の声を聞くと、女は彼女を残し、そっと影の方向を覗き込む。一人は背を向け、一人はこちらを向いている。
丁度娼婦を壁に囲むような形。
女は鉄格子を振り、投げる様な動作を彼女に見せ。
「ハシレ」
コン、コン、と壁を極々軽く叩く。
彼女が理解したのなら、女の手から鉄格子が離れ三人の頭の上を通り越し…その奥へと落ちるだろう。
■ノア > サインを受け取り、其の動作から貴女の判断を理解する。小さく頷いてから、 すぅ.. と静かに呼吸を整え
「 .........っ、 !! 」
放り投げられた格子が カランッ ! と派手な音を鳴らし、見張りの注意が反れた瞬間、 女は素足で地を蹴り 走り出す。もう、気力体力共 とっくに底をついている。其れでも、 必死に、 持てる力の全てを振り絞り 一気に駆け抜けて..
其の後 ── どの道を通って、どれだけの距離を走ったのかは、 よく覚えていない。とにかく、少しでも遠くへ と..
石畳を走り続けた女の脚は、もう ぼろぼろで。長い間気を張っていた身体は限界を越えていたか、極度の緊張から解放された事で 一気に力が抜けてしまった。
■フラニエータ > 彼女が走り出せば女も走り出す。まだ体力のある己を殿にし、彼女の後を追う様に。
ちらちらと後ろを見ながら追っ手を確認するのも忘れない。
無我夢中で走る彼女の足が止まった場所は、平民地区に近い貧民地区のとある細い路地裏。
ここならば…多分目立たないだろう。
「…もう…これっきりに…して…欲しいわね…」
路地の入り口を見据え、追っ手の確認をしながら、息荒くも彼女にそう告げる。
「…塒は近いの?…近いのならさっさと帰って、その薄汚れた格好をなんとかなさい…」
ふらついていた足取りは如実に彼女の体力を伝えていた。枯れた声は喉の渇きを訴えていた。
彼女は裸足、恐らく怪我だらけだろう。
…だけど、そこまでする義理は無い。女は目線は合わさず、冷たく言い放った。
■ノア > 細い路地の片隅で、力の抜けた身体が ガクン と膝から崩れ落ちる。虚ろな目で辺りを見渡せば、見覚えのある風景が滲み
「 あり が、 と..... 借り は、 必ず.. かえ、 す... 」
そう途切れ途切れ口にして、貴女を見上げる。冷たく聞こえる口調に対しても、微かな笑みを返した。其の顔は安堵からきた高熱に赤く染まっていて、目もかろうじて開いている状態で
建物の外壁に手を付いて、ふらつく脚で立ち上がる。これ以上は甘えられない と。脚を踏み出した 其の直後、 ぐらりと視界が揺れ て
「 .........っ、 」
いよいよ身体は言う事をきいてくれなくなり、その場に倒れ込んだ。朦朧とした意識の中、何度も起き上がり、少し進んでは、 また しゃがみ込んだり..
細い路地をふらふらと、頼りない脚取りで進んでゆく。すっかり汚れた白いシーツの中、震える身体に鞭を打って。一歩ずつ、一歩ずつ、女の 帰るべき場所へ ──
■フラニエータ > 「…高いわよ…」
痛々しい彼女の姿、懸命に搾り出された笑顔。しかし女は表情を緩ませる事なく、そう言い放った。
「…ッ…!」
ふらつく彼女の足取り、それを見て慌てる女。今にも倒れそうなそれは女の足を、一歩彼女へと歩ませる。
しかし女は足を止め、歯を食いしばり…手を差し伸べない。
女に出来る事は、彼女がその視界から消えるまで見守ることだ。それ以上してはいけない。
情というものは最善を曇らせるもの。今日痛いほどそれが解った女だった。
彼女の姿が消えればぽつりと一言。
「…本当に生意気な小娘だこと…」
乱れた己の髪を手櫛で整えながら、頭を掻きながら、女も己の塒へと帰っていく。
ご案内:「地下クラブ」からフラニエータさんが去りました。
ご案内:「地下クラブ」からノアさんが去りました。