2017/02/01 のログ
ご案内:「草荘庵 王都本店」にホウセンさんが現れました。
■ホウセン > 巷では、冬の最中でも春の兆しがちらほらと見え隠れ等というけれど、寒いものは寒い。主観的には冬の盛りなのだから、屋内で丸まっているのが一番であると嘯く妖仙は、他に暖を取る手法として最有力候補である人肌で温まるという選択肢を能動的に選び取ろうとしない限りは、己の牙城である執務室か、取引先か、定宿を主要な駐留場所と決め込み、それ以外は稀に飯屋等に出かける程度である。ご多聞に漏れず、今宵は執務室にお篭り。奉公人達の定時就業を見届けてから筆を走らせ、随分と久しい。
「ぬぅ。流石に仕入れが滞ってしまっては、計画の遅延も止む無しじゃな。」
小筆を脇に置き、大仰な執務机と対になる肘掛け椅子に座しつつ、小さく唸りながら腕組み。代替の効くものならば、或いは妖仙が直接出張って埒の明く事柄ならば、こうも難しい顔はしないだろう。専門の知識を有している者に、開発から依頼したような代物とあっては、手の出しようがない。
「目玉商品抜きでは、ちと苦しいかのぅ。」
口八丁手八丁で如何にかならぬものかと考えてみるけれど、聊か以上に分が悪いだろうと算盤を弾く。なればこそ、ゆるりと構えるしかない。黒い髪を揺らしながらグルリと首を回して、凝った気がする肩の周囲を解す。甘味…と、食指を動かした先、甘納豆を一つ摘んで口の中に放り込んだ。
■ホウセン > 小さい身体に見合わずというべきか、それとも見た目どおりの育ち盛りの食べ盛りというべきか、この妖仙は健啖家である。飲食も悦楽の一つと位置付けて、それに耽溺するのだから、十分以上に楽しもうというのなら、自然、胃袋の容積は大きくならざるを得ない。それでも、夜間の食事を控える程度には分別が付いておるようで、酒のつまみを欲している訳でもなければ、こうしてポツリポツリと小さな甘味を口に含むだけで満足してしまう。口の中に甘さがへばり付くのを嫌い、冷えて湯気さえも立たなくなった緑茶を口に含む。
「ま、それは追々状況が見えてこよう。取り急ぎの用件は、今の所見当たらぬか。」
引き篭もっていたせいで日々の裁量事は恙無く進んでおり、ある意味順風満帆。だが、妖仙の愛好する遊興事とは縁遠い生活を余儀なくされているという状況を、別の言葉で表現しただけのこと。机に向って前傾していた身体を引き戻し、背凭れに身体を預ける。フレームは軋みも上げぬどっしりとした設えらしく、精々が衣擦れの音と、皮鳴りの音がする程度。吐き出した息が白く濁らぬのは、己一人の空間であるからと、能力の隠蔽を企図せずに、仙術で空気を温めているからに他ならない。
■ホウセン > 尤も、状況が見えなければ見えないで、他の手法を捻り出す必要性が生まれるだけ。だが、丁度歯車の噛み合うこのタイミングに乗じる以上の効果を齎せるかは、甚だ怪しいところではある。進むか戻るかの判断は、もう少し先の事として、当座の所では何処の金満貴族に食い込んでおくかという、甚だ散文的な思考に身を委ねる。つまらぬ。碌に策謀を練らずとも、目に見える利をぶら下げてやれば、大体は転ぶものだから。
「とはいえ、この国の現状では、知己を得ているか否かで、行動の幅が随分と異なるからのぅ。…見てくれは平凡、動機も凡俗、思考も嗜好も平々凡々では、何を愛でれば良いのやら。」
善悪にはさして拘らず、己を驚かせるか愉しませる要素の一欠片もない相手との商談ほど、この妖仙の眠気を誘うのに強力な事柄は少ない。不平を零してはいるけれど、商売は商売と、厳重に猫を被って、発言はダース単位のオブラートで包んで、そつなくこなすのだろうけれども。己の道を行く者が多い仙人の類の中、こうして商い事の為に気の進まぬことに向き合う姿が、北方帝国では奇異に映っているらしい。故に、変わり者として、幸か不幸か多少の知名度があったらしいけれど。
――閑話休題。
つまり、椅子の上で踏ん反り返っている妖仙は、暇を持て余しているのである。