2016/06/09 のログ
イニフィ > 狂った欲望すら消してしまうほどの惨劇―――。
印まであり、今まで自分も心を砕いてきたけど、彼女が思う壮絶な狂わせ方をさせたことはなかった。
心だけは、大事に大事に虜にして、そして―――快楽と欲望の海に沈めたことは何度もあった。
それは、リゼも知っていることだろう。彼女が望むままに、壊そうとしたこともあったのだから。

だけど、そんなイニフィでもひとつだけ心に決めていたことがある。
たとえ快楽の海に沈めても、心だけは絶対に。
自我だけは壊すことはなかったのだ。

「…リーゼちゃん、私よ。イニフィ。…ね、解るわよね?」

首をかしげて、微笑を浮かべているリーゼ―――いや、少女に向かって尋ねる。
完全に心を砕かれて、本当に人形のようになっているようだった。
そればかりか、彼女が持っていたはずのものすら見つからない―――。
あの、隼と契約していた際の魔力が、一切合財なくなっているのだ。

「………リーゼちゃん、私。ね、わかる?」

その手をそっと取り、軽く手の甲を撫で回す。
自分が誰かも分かっていない、そればかりか声すらも紡げないほどとは―――。
もしかして―――彼女のことも忘れてしまっているのか。

「…ね、帰ろ?…リーユエちゃんも、きっと待ってるわよ?」

リーゼロッテ > どれだけ汚しても心を砕かれることがなかったのに、強引にヒビを入れた瞬間、壊れるまでを楽しむ声が最後に耳に残った。
心の中の映像は赤一色だった、耐えても耐えても潰される。
すべてが消える前に、その名残を抱きかかえて引っ込んだリゼがいた事で、辛うじての今がある。

「……ぃ……ぅ…?」

呼びかける声、名前を復唱しようとしても上手く唇が動かず、きょとんとしたまま不思議そうに首を傾ける。
帰ろうと言われても、何処に帰るのか、何処にいたのかも思い出せない。
手を握られ、暖かさに少し表情が嬉しそうに緩むものの呼びかける声は理解できておらず、返事がない。
しかし恋人の名前を聞いた瞬間、ぴくんと体が跳ねてから硬直し、ゆっくりと表情が歪んでいく。

「……ぁ、ぁぁ…っ、ぁぁっ!! う…ぁぁっ!!」

壊れる一瞬まで恋人のことが浮かんでいた事もあり、封じ込めた記憶を喚起させるには十分過ぎる一言だった。
しかし、封じ込めたのは嘲笑う魔物に身も心も潰される記憶も。
それが一緒に引きずり出されると、涙を零しながら怯え、恐怖の悲鳴を響かせながら、逃げようと立ち上がろうとして、縺れて倒れる。
這いずってでも離れようとする程傷は深く、彼女に意識を裂ける余裕すらなかった。

イニフィ > 「………っ!」

リーユエ―――この名前を出したのは失敗だった。
リーゼが恋人と呼び、そしてとても嬉しそうにしていたからこそ、彼女の心の支えだったと思う。
だけど、逆に彼女にとって、それが一番の弱点だったのだろう。
這いずって、その場から、恐怖から逃げようとするくらい、彼女の心は壊れていた。

ここまでする魔物がいる―――それは、魔族である自分ですら恐ろしくもあった。
魔族には、人間を殺すものもいるが―――それ以上に必要以上に殺すことはない。
利用価値がある、いろいろと見ていて楽しい。
そんないろいろな感情を込めて、人間を根絶やしにしようとするものは少ない。
だけど―――魔物は違った。

「――――リゼ!」

知らぬ間に、名前を叫んでいた。
リーゼではない、彼女の奥底で、彼女のカケラを守って隠れたもう一人の少女の名前を。
人間ならば、見ていられないというのだろう。
リーユエも―――もしかしたらそのうちの一人なのかもしれない。
ダメだ、今はリーゼに何の声をかけても無駄だろう。しかも―――。

(…ここまで壊されたら、もうどうしようもないかもしれないわよ……。)

最悪の場合、このままリゼとして生きていたほうがいい。
そんなことすら、思い浮かんでいた。

リーゼロッテ > 嘲笑う声が脳裏でずっと響く、嫌がっても強引に快楽を植え込み、魔力を啜られ、子孫を増やすための道具にされる。
蹂躙と快楽だけで支配された記憶が蘇ると、薄暗い森が青白い地下のように感じてしまう。
逃げないと弄ばれる、もっと酷いことをされる。
気持ちいいことが怖くなるほどにグチャグチャにされた記憶が蘇り、土の上でのたうち回るようにもがく。

「……ぁ、ぁぁ…」

もう一人の名前が呼ばれると、頭のなかでウィスパーボイスの静かな響きで壊れた自身に囁く。
暗示の力がある声は、ゆっくりと荒ぶった感情を抑え込みながら眠らせる。
ぱたりと地面に沈むと、黒い霧を纏いながら起き上がり、先程までのリゼの姿と表情に戻っていた。

「……思い出せるほど、傷が癒えてないから。今は寝かせてたの」

苦しむことなく眠っているが一番心が休まるだろうと、再び表の性格を眠らせる。
目を閉ざし、胸元に手を当てて…寝息を確かめるように意識が沈んだのを確認すれば瞳を開き、手を下ろす。

「もう大丈夫…」

起き上がってくることはないと安全を伝えて、手についた葉を払い落とす。
光とも闇と取れない奇妙な魔力をまといつつ、右手の甲には黒い紋様が浮かんでいた。

イニフィ > 「……魔族の私がこんなことを言うのかって突っ込みたくなるかもしれないけど、一応いっとくわ。
…ご免、さすがにここまで壊れちゃってるとは、正直思わなかったわよ…。」

リゼには、自分が何者なのかも全て知られている。
だからこそ、全てをさらけ出せるというのだが―――今までは、そんなことも憚られただろう。
黒い霧を纏い、そして喪服のような姿をしたリゼが姿を現せば、ほっと息をついた。

「……何をされたのかは聴かないわよ。其れでまたおきちゃったらたまらないものね。
今まで散々私もいろんな人間の心を弄んできたけど…ここまで壊れちゃったらもうどうしようもないかもよ?」

率直に、そして困り顔のまま、そう正直な意見を述べた。
心の扱いを熟知している淫魔だからこそわかる、この心はもう手遅れかもしれないと。
まさか、喋ることも記憶すらも無くし、そして恋人の名前がトリガーとなってしまったら、もはや救いはない。
壊れたガラスは、もう二度と元に戻らないように―――。

「リゼ、正直…貴方を作り出して正解だったって、今つくづく思ったわ。
…ありがとね、私の愛人を護ってくれて。」

いっておいて、思った。
魔族がありがとうとか、何を言ってるんだと。
自分は淫魔、人間を玩具にしてきたというのに、その自分がありがとうとか虫唾が走る。
けど―――仕方ないじゃない、気に入っちゃったんだから。

リーゼロッテ > 「想定外…ね」

思っていた以上に深刻だったと答えが返れば、あれだけ見たがった理由にも納得がいく。
大丈夫というように緩く頭を振ると、何時もと変わらない甘い香りだけは残っていた。

「……確かに。でも、再起不能なら…私もここにはいないわ。あの娘の影みたいなものだから…だからゆっくりと思い出させる。ティルヒアのことも、ここでの事も…最後の出来事も」

ズタズタの心が少しでも落ち着けば、最古の記憶からゆっくりと思いださせるつもりでいた。
時間も根気も必要な修復作業だけれど、幸い時間は沢山作れそう。
うっすらと苦笑いを浮かべていると、御礼の言葉に不意打ちを受けた心地になりながら目を瞬かせるも、クスッと穏やかな笑みを零した。

「…私も、お礼を言わせて。 ありがとう、狂っていた私を見つけてくれたから…私は自分を認識できたわ」

彼女が狂っていた自分に触れてくれたから、手を差し伸べることが出来た。
お礼に笑みのままお礼を返すと、そのまま彼女へと近づいていくと、ゆっくりと両手を伸ばして方に添えようとする。

「…あの娘じゃないけど」

前置きと共に唇を重ねようとするだろう。
重ねるだけの淡いキスも、熱も鼓動も昔と変わらない。
けれど服装と表情、音の響きがまるで違い、少しはにかんだ笑みも慎ましい。
ふと鴉達がバラバラに鳴き始めると、困ったように眉をひそめた。

「…皆帰りたいみたい、だから…また今度会いましょう」

ゆっくりと離れると、鴉達が一斉にリゼへと群がっていく。
真っ黒な姿に包まれた体は、鴉達が散り散りに消える頃には居なくなっている。
そこにいたという確かな証拠のように、花畑には掘り返した跡が点々と残っていた。

イニフィ > もう少し穏やかならば、少し肌を重ねて思い出させ――あわよくば、という思いもあった。
だけど、ここまで崩壊してしまっている心を見させられると、そんな思いすら打ち消されてしまう。
確かに、彼女を無理矢理にでも奪うことは出来よう、だけどそれをして帰って崩壊が進めば、残ったカケラでは確実に耐え切れない。
よくて廃人だろう。そうなったら―――きっと後悔する。

「……リゼ、人には知らないほうが幸せ、っていう事もあるわ。
最後のこと……思い出させないほうがいいんじゃないかしら?」

なにがあったのかは知らない、だけど彼女の怯えようにリゼの言葉。
おそらく、望まない強烈な快楽を随時叩き込まれ続けて―――そして、心が壊れた。
それでも開放されず、肉人形として侵され続けた。
だからこそ、リーゼは心を怖し、言葉も記憶も、何もかも失ってしまったのだろう。

「私は、私がしたかったからしただけよ。…私は、甘いのよりも激しいのが好きだからね?
…そのこに伝えて、今度また一緒に、温泉に行きましょう、ってね?」

後、そのこの一番には私がが話を付けてあげると告げた。
今会わせるのは拙いだろう、その記憶で、彼女がどうなってしまうか検討はつく。
だからこそ、彼女には自分から話す、と告げた。
勿論、会えれば――のはなしだけど。

唐突に振るお礼の言葉、そして彼女のキス。
以前と、狂っていたときと同じくその気素は淡いものだけど、鼓動も何もかもが同じだった。
受け止めるでもなく、ただ触れ合うだけのそれだけど―――。

「リゼ、勘違いしないで。私はそのこの2番目だけど―――」

あなたは自分に全てをくれた。だから、貴方の一番は自分だと言ってのけた。

「…ええ、また今度ゆっくり会いましょうね。今度は、その消えちゃった炎をもう一回、燃え上がらせてあげるわ」

なんてことを言いながら、消えていく少女にウィンクする。
目的の花畑は見れなかったけど―――それ以上のものをみれたから、まあよしとしよう。
風を纏い、イニフィもまた飛び上がって―――空へと消えていった。

ご案内:「森の中にある花園」からリーゼロッテさんが去りました。
ご案内:「森の中にある花園」からイニフィさんが去りました。