2016/06/07 のログ
ご案内:「忘れ去られた深林」にリーゼロッテさんが現れました。
リーゼロッテ > 地底湖を抜けて、壊れたミレーの少女達を引き摺るようにして逃げ出して数日。
ふらふらと歩き続けてたどり着いたのは不気味な森だった。
どうやってここに来たのか、何処にあるのかすらわからない。
ただ、ここが安全なことだけは間違いなかった。
森の入口には骨だけにされた魔族の亡骸が転がっており、少女達に釣られて追いかけてきた山賊は、森に入った瞬間黒くなった。
無数のカラスが一斉に彼らへ襲いかかり、遠慮無く嘴を突き立てて食らいつき、鮮血と悲鳴が響き渡る。
生きたまま鳥葬される彼らを尻目に、奥へ奥へと歩く。
魔族だろうが、なんだろうが…ここには悪意を持って入れない。
だからここに導かれたのだろうか、それすらも分からないまま進むだけ。

「……」

たどり着いたのは、十字の墓標が無数に立つ開けた場所。
墓標や木々の枝には無数のカラスが止まり、不気味な様相を見せていた。
力尽きた少女達が崩れるように座り込むと、自分の前へ少しだけ大きなカラスが空から降り立ち、近くの墓標へと止まる。
じっと深い青色に染まった瞳がカラスを見つめ、無言の時間が過ぎていく。

「そう……貴方がこれを」

掌に青白い炎を宿す。
地底湖から逃げようとした時に出せるようになったこれは、そこのカラスが与えたものらしい。
旧神に寵愛を受けた使い達とは異なり、忌むべきものとここへ封じられてしまった歪んだ光。
狂ったものは全て壊れてしまえばいい、安らかな終わりを望むならくれてやればいい。
その意志に呼応して、ここで相見えた。
ゆっくりと掌の炎を握りつぶすと、ふらりと少女達へと振り返る。

「……そうね、あの子達はもう壊れたわ」

もう生きるだけ無駄であり、苦しいだけだ。
快楽だけしか生き甲斐が無くなった少女達一人ひとりへ近づくと、掌に宿した炎を胸へと押し込んでいく。
壊れてしまったものを解き放つ青い炎は、飢えを満たして少女達を安堵させ、穏やかに瞳を閉ざしていった。

リーゼロッテ > 表の性格は、頑張ればこの世界は綺麗になると本当に思っていたらしい。
最後まで抗って、そして快楽と絶望で理性と心を潰され、意志を失ってしまった。
そこまでしてこの世界に何を求めるというのだろうか、腐った人間と欲望の権化が闊歩する世界が綺麗になるはずがない。
狂った全てを焼き払えば、全て無くなって元に戻るかもしれない。
また誰かが世界を再構築する時に、愚者が現れないようにしてくれればいい。
一つの体に二つの性格という、曖昧な世界にいる自分が消えてしまう前に、狂ったものを壊して、蹂躙され、終わりを望むものに安らかな死を与える。
偶然にもカラスたちが望むものと、ピタリと一致したそうだ。
全てのミレー族の少女へ青白い炎を与えると、カラスが止まる十字架に背を預けるようにして座り込む。

「……」

頭に流れ込む歌をそのまま奏でていく、変わらぬ高い音ではあるも、甘ったるく弾んだ音ではなく、静かにゆったりと響く。
彼らの中に伝わる鎮魂歌は、哀れな死者に来世を与えるのだとか。
それならせめてもの手向けと、瞳を閉じながら歌い続ける。
この歌声も外の世界には届かない、彼女達のためだけに響き渡る。
そして……。

「……おやすみなさい」

瞳を開く頃には、壊れた少女達は皆死んでいた。
苦しんで絶望して死んだ顔ではなく、穏やかな表情のまま眠るように。
遺品となってしまったライフルを杖代わりにして立ち上がると、枯れ葉に沈んでいたシャベルを拾い上げる。
開けた場所に黙々と穴を並べるように拵え、傍らでカラス達は墓標の十字架を枯れ枝と蔦で器用に組み立てていく。

リーゼロッテ > 穴を作り終えると、息絶えた体を肩に担いで穴へと運んでいく。
優しく横たえれば、胸の上で両手を重ねる。
それを遺体の数だけ繰り返し、幾つもの穴に死骸が収められると、穴を埋めようとシャベルへと手を伸ばすが、その柄に花を加えたカラスが留まる。

「ありがとう…」

それを受け取ると、一本ずつしか添えられなかったが、白い花を手の上へと重ねた。
もっとここに埋める存在が増えるかもしれない、送る時ぐらいもっと華やかにしてあげたいと思えば、この殺風景な世界にも花園を作りたくなる。
今は一つずつで我慢してもらおう、次に誰かを送る時はいっぱいの花と共に送ろう。
胸の中でそんな決意をしつつ、穴を埋めていく。
全て平にすれば、組み立てられた墓標をつきたて、少女達の埋葬は終わった。

「……これを九頭竜山脈の麓へ、そう、貴方達が嫌いな隼がいるところよ」

組合員である証明証の束をカラスへと差し出す。
それは施設に入る時に見せる顔写真入りのもの、裏面には地底湖で壊され、死んだと末路を書き記し、これ以上の被害が出ないようにとカラスの一羽に報告させに飛ばした。
組合長の部屋の窓にでも置いておいて欲しいと告げたので、気付くのは早いだろう。
埋葬が終わると、先程の十字架のところへと戻り、大きなカラスを見上げるようにしながら座り込んだ。

リーゼロッテ > カラスがこちらに何と呼べばいいかと脳内に語りかける、自分がここまで形になった最初のキッカケ。
その時の名前を使うことにする。

「リゼと呼んで、リーゼと呼んじゃダメよ? あの娘が起きるわ」

自分の奥底で白痴な子どもとなって眠りこける、本当の自分。
自分は彼女の影でしかない。
この娘が白痴ですらいられないほど、心を閉ざして行けば日差しに掛かって生まれた影は闇に消える。
だから、時間を置いてリーゼが元に戻るのを待つしかない。
それまでは自分が動くことで守るのだと、心の中で決める。

「……貴方達の紋ね」

ふと、手の甲に真っ黒な黒い翼を象った紋様が浮かぶ。
自分達との繋がりであり、唯一無二の眷属となった印。
掌に宿せる炎は一層強くなり、人を壊す力を強める。
手始めに何をしようかと問われれば、薄っすらと苦笑いを浮かべて立ち上がった。

「死人達のために、花園を作りましょうか。手向けの花束を、花の棺桶を、そして生まれ変わるまでの間、偽物でも綺麗な世界を見ていたいでしょう?」

冷ややかな笑みを浮かべると、立ち上がり来た道を戻るように歩き出す。
ここには花が自生していないらしいので、種なり苗なり手に入れてくる必要がある。
自分の蝋燭が何時消えるかは分からないが、日が灯り続けるなら、数多くの出来る事をしようと森から姿が消えていった。

ご案内:「忘れ去られた深林」からリーゼロッテさんが去りました。