2023/01/15 のログ
アッシュ > 「逃げるのだけは上手いから、心配することはないさ。テールコート仮面になるのも悪くない」

胸元のポケットから少し摘んで見せるのは、目元だけ覆う形の舞踏会用の仮面のようで。一応用意してあったようだが、仮面舞踏会ではなかったから、そこに仕舞ったままである。
そんなものを着けて高笑いしながら攫っていったら、見ている者は余興かなにかと思うだろう……などと本気で考えているのかどうかはいざ知らず。

「おじさんも、いつものままの方が気楽だよ……正直、リアのおかげでずいぶん落ち着いたがね。少々目に毒ではあるが……
 ――ああ、他人の動きを真似る、のは得意でね。 ま、踊ると言うのはそこまで単純なものではないのは解っているが……なあに、リアの呼吸に合わせるのなら、ある意味誰よりも自信があるよ。夜通し耳にしていたリズムだからね」

踊り場で流れる人々の間に混ざれば、最初は少しだけ固い、と言うよりいかにも教科書通りの動き方をするものの。
すぐに、息をする間隔までぴったり同じに寄り添ったようになり。そこから少しずつ、自分からリードしていくように導きはじめて。
時折、件の男の近くを通ったり、あからさまにならない内に少し離れて、流れに戻ったりしながら。

「……好きだから依頼してきた、と、そう思いたいね。そう思いたいからこそ、彼には反省して欲しい所だがなぁ」

リア > 「仮面舞踏会だったら良かったですね。
 人目を気にしないでくっつけるから……」

そんなものまで、と目を丸くする。どうやら招待状無しで忍び込んだらしい、と今更気づく。
言ってくれたら一緒に来たのに――という言葉が口から出そうになるが、両親の耳に入るのが恐ろしくてそんなことできるわけなかった、とすぐに気づいて口を噤む。

「そんな特技あったんですね、……ねえ、本当に初めてですか?
 ……ここのパーティーって遊び相手を見つけたい人が来るそうだから、残念な結果かもしれませんね。
 ビジネスの話をするような催しなら父か母も来ていただろうし、私にとっては良かったですけど……」

すぐにこなれた動きになってくるのに、怪訝な顔をする。
夜通し云々言うのには、握る指に力を込めて軽くにらんで。
誰かに聞こえたら、と思うのに、体が近くなるたびに頬を寄せて必要以上に触れようとしてしまうのは自分の方なのだけれど。

「……あの……ね、あとで少しだけバルコニーに出てもいいですか?」

距離が近づくたび自然と微笑みがこぼれてしまう。
嫌悪感を隠すのは得意だけれど、好意を隠すのは得意じゃない。
最初の驚きと、この人との関係が誰かにばれたら、という恐怖が薄れると、珍しい格好のこの人に触れてくっついて覚えておきたいような、単純にもどかしいだけのような気持ちになってきて。

アッシュ > 仮面着用、のドレスコードであればもっと楽に入れただろうし、堅苦しく偽装している必要もなかったかもしれない。
言われた言葉に、確かに少し惜しい気もする、と思いつつ。
実は勝手に忍び込んでいる、と言うことにおそらく相手も気づいただろうと、片目をぱちんと瞑ってみせて。

「本気でやれば、雰囲気まで別人に見せられるし……何なら、こうして手を繋いでいても、目の前に誰も居ないように錯覚させることもできるぞ?――もちろん、今はやらないが、ね。
 ……何にせよ、こういう踊りは本当に初めて、だぞ。俺がこんな所に仕事以外で来るようには見えないだろう?」

言っていることは、たぶん本当にできるから言っている、のだろうけれど。
今それをしたら無意味に不安にさせてしまうだろうから、そのつもりでやるのなら、とあくまで仮定の話。
握る指が少し力強くなったり、無意識なのか時折寄り添ってくるのを感じながら、つい、目の前の相手との話に集中してしまいそうになるけれど。そうそう仕事もあるのだった、とまた件の男の方を伺って。
やはり、一旦はありのままを報告してやるしかないかなぁ、と少し残念そうに見ている。

「……ん、仕事の方はもう必要十分満たしたからな。もう、この後はリアの方に付き合おう」

本日のお仕事はじゅうぶん、と見切りをつければ。
あとは折角のこの偶然に感謝して、少しでも近くに居られる時間を大切にしたい、と思う。
まだ人目もあったから、踊りの中で自然に回した腰への腕に、ほんの少し抱き寄せるように力を込めて、気持ちを言葉の代わりにして。

リア > 片目を瞑る仕草に、笑ってつい目元に手を伸ばしてしまいそうになるのを抑えて。
この人を間違えることなんてあるかしら、と首を傾げる。

「私がア……ケダマ男爵だって気づかないくらい?
 ……来週は変身術の魔法の授業があるから、私も別人のふりをして男爵を誘ってみようかしら。

 私も踊りを覚えるのは早い方だったと思うけど、ダンスの授業が形無しですねえ」

結局足を踏まれることもなく、ほとんど身を委ねるだけだった。
残念な浮気男の方はそんなものだろうな、と冷めた目で見るけれど、依頼主の方に同情したくなってしまう。

一曲の終わりに、心持ちせかせかとお辞儀をしてダンスの輪から抜けて。
指先だけ離さないままカーテンの向こうで口付けをねだる。
窓の外の寒さに耐えられなくなるまで。

ご案内:「富裕地区/貴族の夜会」からリアさんが去りました。
ご案内:「富裕地区/貴族の夜会」からアッシュさんが去りました。