2023/01/14 のログ
ご案内:「富裕地区/貴族の夜会」にアッシュさんが現れました。
アッシュ > 富裕地区の一画、とある貴族が邸宅で催した夜会の会場に紛れ、着慣れない服をやや窮屈そうに時折肩を動かしながら。
給仕が皿の上に華麗に載せて来たワイングラスを、ひとつ受け取り隅の方で飲んでいる。

この男、貴族ではないし、この夜会に招かれてもいない。
それをあたかも招かれている客の一人であるように仕込み、装うのはお手の物。
目立たないよう、しかしどこかの貴族には見えるよう、それなりに上等な深い青色のテールコートに身を包み、髪も丁寧に撫で付けて、いつもよりキリッとした表情で……ただ静かにワインを飲む。

視線の先には会場中央で踊っている者達、正確には、見ているのはその視界のずっと端の方。
一人の貴族の男が、何やら複数の淑女達に色目を使っている所を、監視しているようなのだ。

「……ふむ、あれはやはり黒、と言った所かねぇ」

こんな場所に紛れ込んで何をしているかと言えば、仕事である。
もうすぐ結婚が迫ったとある貴族の令嬢から、どうもお相手が浮気がちな様子……と、その調査の依頼が密かに回ってきたのであった。

アッシュ > ふと、暇を持て余しているのか、二人連れの淑女達が男に声を掛けてくる。
この男には少々サイズの小さい夜会服が、意外と鍛えられた体格であるのを思わせるからなのか、傷のある顔に危ない香りでも見たのか。
二人ともほんのり酔っている様子で、どちらからいらした方なのかしら、などと聞いてくるのだ。

「これはこれは、麗しいお嬢様方。私は地方の少領を預かるしがない男爵でございます。名を、ケダマ……と申します」

仰々しくお辞儀をしてみせる、まるで普段からそうしているように自然な動作で傅いて見せるのも、会場の他の貴族の所作を見たまま再現して動いただけ。
自分の癖を消してそっくり別人のようにしてみせるのも、潜入には欠かせない技のひとつなのだ。

「いえいえ、お心はとても嬉しく思いますが。実は私めは、とある密命を受けておりまして。あまり目立つわけにもいかぬのです」

踊りでも、と誘ってくるのを……口の前に指を一本立てながら、片目をつぶってそんな風に答えて。
言っていることはまさに概ね真実、しかしこの二人にはそういう物語が受けがいい、と見抜いているように、それがかえって冗談として面白がられるだけで済むのだ。

「それと……実はこれでも恐妻家でありまして。お二人のように美しい方々とあまり親しげにしていては、後で大目玉をくらってしまいますよ」

若くはない歳だからこそ、恐妻家、と言う言葉にも真実味はありそうで。
それとなく相手を持ち上げつつも、お誘いにはやんわりとしたお断り。

ご案内:「富裕地区/貴族の夜会」にリアさんが現れました。
リア > 夜会の始まりに大分遅れて、使用人に案内されるまま会場に入った娘は誰も伴わず一人だった。
参加している面々を軽く確認した後、主催を見つけて足を向ける。
女性にしては背は高いけれど、身体に沿ったベアトップのシンプルなドレスは人の間をすり抜けるのに大変便利だし、黒髪も濃紺のドレスの色も総じて目立たない。

人目を引かない程度に急いでまっすぐ、会釈を返すとき以外は努めて何の表情も浮かべないように。
招かれた義務を果たす以外に余計な気を引かないように、まずは主催にお礼と挨拶をしに。

「今夜はお招きくださり光栄です。母は生憎遠出をしておりまして、私一人ですが――」

あらかじめ用意しておいた挨拶をすらすら述べた後、夜会を仕切るのに忙しそうなのを理由に主催の前を辞して、参加の面々にも挨拶をして回ろうかなと思い始めたところで。

「?……(け、毛玉……?)」

聞き覚えのある声が、おかしな名前を名乗るのが聞こえたものだから、思わず足を止める。

アッシュ > さて、もう少し件の貴族男の情報を集めてもおきたい所だが。
視界の端に見ているだけでも、あれは黒だなぁ、と分かりやすい行動ばかり見せてくれるものだから。あとはこの二人からそれとなく離れて撤収、でも良かろうなどと思っていた所で。

淑女二人のその向こう、一人の少女――いや、女性、と呼ぶべき美しい姿を見つけて。
おやおや、この場に居合わせるとはまた、何たる偶然だろうか、などと目を留めて。
それもまた一瞬、すぐに目の前の二人の方へ目配せをしながら、その間から二人の後ろへを大仰に手を伸ばし。

「いやはや、言ったそばから妻に見つかってしまいましたよ。それでは私めは、これにて失礼」

振り返る二人にそう言うと。あら可愛らしいとか、お若くて羨ましい、などと口々に漏らす間をするりとすり抜けて。
やや小走りに、もう見間違えようはずもない女性の元へ歩み寄り。
今夜はケダマ男爵だ、いい名前だろう?などと耳元へそっと囁いてから、綺麗な黒髪をそっと慈しむように撫でる。

「……いやぁ、丁度あの二人に捕まってしまってどう逃れようかと思っていたところでね。いい所に現れてくれたよ」

他の誰かには聞かれない程度に小さめに。
表情はその場に合わせた作り笑いのようにも見えるけれど、なんだか本当に状況を楽しみ始めたようにも見えて。

リア > 突然足を止めたせいで、グラスをいくつも載せた銀盆を持って客の間を回る給仕にぶつかられそうになったが、大事に至らなかった。
ケダマ男爵を声も無く見つめるその様子は、夫が女性にちょっかいを出している現場を目撃して不機嫌になる妻、に見えなくもなかったかもしれないが。
胸のうちは嵐のような混沌である。

いつもはごく普通の――平民として普通の恰好をしているところしか見たことのない男が盛装をしており、貴族然とした振舞いをしている。
よく似た別人かと一瞬思ったけれど、顔の傷まで同じなのだからそんな考えは現実逃避が過ぎるというもの。

「……………………あの……」

唇がぱくぱく不自然に長い沈黙を生む間、そばに来た男の胸に掌をあてる。
制止しているのか甘えているのか自分でも分からない。

囁き声に体をびくつかせなかった自分を褒めてやりたい。
撫でられると髪にまで神経が通っているみたいに感じてしまって、息ができなくなりそうで俯きがちにテールコートの襟もとをぽんぽんとして。
目を瞑って数度の深呼吸。顔を上げて。

「――ご冗談が過ぎますよ、私が奥様に叱られるではないですか」

とは周囲に聞こえるように言ったもの。
それから目の前の相手にしか聞こえないくらいの声で。

「……何してるんですかもう……っ。
 私の知人もいるかもしれないのに……っ」

アッシュ > おやおや、冗談にされてしまったよ、などと面白がって笑っている。
逃げてくる口実ではあったものの、どういう反応をするのか見てみたかった、と言う悪戯心もあったのかもしれず。

「もし知人に見咎められていたら、からかわれただけ、とでも誤魔化しておくか?
 知人であればむしろまだ未婚の筈……と思ってくれるだろうさ。まあ、誤解されてもおじさんは構わんが」

ありもしない口ひげを、ついっ、と横に引っ張るような仕草をする。
それもどこかの貴族がそういう仕草をしていたのであろう、そっくりそのままの動作で、色んな貴族達の振る舞いを真似して遊び始めたようでもある。

「真面目な話しの方をすると、探偵のお仕事だよ。
 どれ、とはまぁ依頼者の為にも本人の為にも秘密にしておくが、浮気調査と言うやつだ」

そんな説明をしてやりながら。
胸元までのドレス姿を気に入ったのか、ふむふむ、と頷きながら、開いた肩をぽんぽんとし返して。

リア > 「私は困ります……母がいたら質問攻めどころか……」

胃の痛くなる思いで言うけれど、社交界に出たばかりで友人と呼べる人間も少ないのは幸いだった。
いつもはせめて顔見知りがいれば退屈しないのに、と思うところだけれど。

「……調査でしたか、はあ……びっくりした、実は貴族だったのかって一瞬思っちゃいました。
 ア……ケダマ男爵はダンスはお上手ですか?」

聞こえないように話しているとは言え、別の名前を――しかも呼び捨てで呼んでいるのを聞かれたら要らぬ疑いを招くから、おかしな名前をそのまま呼んで。

「……調査、付き合いますよ? 私も一人でいて絡まれたくないですし。
 ……どこ見てるんですか……」

落ち着かなく胸元を飾るネックレスを弄る。
肩に触れられて赤くなったりしないようにと自分を宥めるけれど、この人に触れられると体が言うことを聞かなくなってしまう。

アッシュ > 「おっと、確かにそれは負担をかけてしまいそうだなぁ。
 こう、記憶に残らないように眠って頂くしか……」

もしそんな場合には、夢でも見ていたのかもと思って頂こう、などと何となく物騒な様相の事を呟いて。
実際出くわしたら、高笑いとともに堂々と小脇に抱えて連れ去りそうな気もしそうだが。

「ちと服が想定より小さくてなぁ、慣れていないのもあって着心地が悪い。……が、それなりに見えるだろう?
 ――リアお嬢様のお相手であれば、喜んでダンスなどお受けいたしますぞ? ……こういう場で踊ったことはないが……先刻から踊っている面々の動きはずっと見ていたからね。人並みには踊れるはずだ」

馬子にも衣装と言うやつだ、などと笑って見せながら。
わざとらしく大仰な口調で言う後半は、雰囲気そのものはいつもの男の調子になって。
見知った同士で連れ立っているぶんには、踊ったりしても丁度よく周囲に混じって目立つまい、と手を差し出す。

「ふむ、助手になら調査対象を教えても確かに問題ではない、か。実は――あそこの男を調べていてねぇ。
 人柄をずっと見ているんだが……もちろんこっちの、ドレスに映える綺麗な肌の方も、ね」

どこを見ている、と言われれば、調査対象はあれ、と先刻から色んな女性に声をかけまくっている男を視線で教えるも。
そっちの意味ではないどこを見ている、にもしれっと答えを付け加えて。

リア > 「お尋ね者になっちゃいますよ。私が家を出るまでは大人しくしててくださいな」

物騒な台詞は冗談として受け取っておいて、手を預ける。
ドレスを摘んで――今夜は体に沿ったラインのドレスなので摘むふりだけして――膝を軽く曲げてお辞儀。

「ふふ、変なの……違う人みたい。いつもの方がいいなあ。
 じゃあ、ダンスついでにあの人のところまで。
 ……見ただけで踊れるんですか……? 足を踏まれたらどうしましょう」

壁際から離れ、ダンスの輪に加わる。
調査に必要な以上に仲良く見えてはいけないと思うものの、半分はくっつきたかっただけなので、気持ちが逸ってしまう。

「……浮気調査の依頼をするくらいだから依頼人はちゃんとあの人のことが好きなのかしら」