2022/12/21 のログ
■アッシュ > 「また随分と可愛いのを持ってきたな……?」
何故おじさんにハートマシュマロを、と笑いながら。置かれたマグを手に持って、ホットチョコの中で溶け始めているそれを指先でちょいちょいとつついてみる。
似合わないと思っているだけで、こういうもの自体は割と好きではあるのだ。
「そうさなぁ、片付けはまだどれが必要なものか解らんだろうから追々でいいとして。掃除は正直なところやってくれる人が居るとだいぶ助かるな……」
掃除の仕方、なんてのは教わった試しがないし独学で。
そもそもが泥や砂にまみれようともそのまま何日もじっとしている、なんてのが平気な性分なものだからついつい掃除は二の次になってしまう。
無理やり頼む気はないが、進んでそれも楽しんでくれるようなら任せるのはむしろその方が良いのだろう。
掃除道具はどこだったかな、と思っていると、またたびの魅力に抗えず袋から転がり落ちて、うにうにとしている仔猫。
そう言えばその袋の中身はどうしたものか、と暫し考え込んで。ホットチョコを一口すすり、ああ、美味いなこれは、と味わいながら。
「ああ……それかぁ。良いものが思いつかなくて手当り次第、と言った所でなぁ……
大小の箱と、薄い包が入ってるだろう。大きい方の箱と、包み紙の方は開けて見てもいいぞ、何なら持って帰ってもいい」
大きな紙箱は、サイズは小さめだが男物の黒い山高帽が入っているし、包み紙は茶色の革張りの小さな手帳が入っているし。掌サイズの小さな木箱に関しては、特に言及はせずに。
■リア > 「アッシュさんと可愛いものの組み合わせが好きみたいです、私」
味も香りもふつうのマシュマロだけれど、色と形が可愛い食べ物は、日常の小さな、かつ大切な癒しである。
つついている様子をしゃがんだまま肩越しに見やって、目を細くして微笑む。
「お任せくださいな。プロにやり方を聞いてくるので!」
実家の使用人のことである。探偵事務所で手伝いをすることになった、というのはひた隠すとして、寮の部屋は自分で掃除せねばならないから、と言って掃除について教えてもらう、と心に留める。
床に寝そべり酔っ払いのごとくまたたびに絡んでいる仔猫の腹をくすぐりながら、開けていいと言われた包みに手を伸ばす。
「? 帽子……と手帳……? ……これは私の推理力を試しています?……
探偵の必須装備品では?……へ、変装用……? ……じゃあ木箱は、ううん……虫眼鏡? パイプ?」
探偵が探偵に変装するというミステリーが生まれようとする。
■アッシュ > 「おじさんを可愛くしてどうするんだ……もっと若い頃なら兎も角もなぁ」
それこそ二十数年前なら美女に変装して潜入、なんて時代もあったような気はするが。
今では傷だらけの顔を隠すのも一苦労だし、何より体格がもう男以外の何者でもない。
おじさんだからこそあえて可愛い小物とセット、と言うのは……それは良いものなのだろうか?
「おお、それなら時々掃除してもらうのは優秀な助手に任せることにしよう」
掃除、だけだとやはり探偵助手とは言えない気もするから、やはりいずれは何かそれらしいものを用意してやらねばな、と今は思うだけしかできないが。
床でごろごろと夢心地の仔猫をあやしつつも、包の中身にやたら真面目に考え込み始める少女の姿を見て、つい声を漏らして笑ってしまう。
「そんなに考え込むようなものじゃぁないんだよ。何か探偵助手っぽいものは無いかなと探して回ってただけなのさ。
ただ、帽子はいかにも助手っぽいが男物だしかさばるし、手帳もそれっぽいが無骨な感じだし自分のがあるだろうし、でなぁ。木箱は――まぁ、そうだな、気になるままなのも落ち着かないか。
最初の二つがあまりに女の子に贈るにゃ似合わないから、何かかわいいものでも、とつい目について買ったんだが……ちょいと、気楽に贈るには物がいくらなんでもなぁ、と思ったから教えなかったんだ」
元々、渡すつもりで選んでいたものではあったそうなのだが。目について買ったはいいものの、と言った経緯であったらしいのを説明してやって。
小さな木箱の方は特に買ってから困ったらしく。中には鈍い銀色で、猫が歩いているシルエットが飾られた指輪が一つあるだけだ。
■リア > 見ていて心が温まると言ったところで伝わることはない気がして、微笑むに留めた。
「……」
袋にコートとベレー帽を置いて、代わりに自分の頭にのせた山高帽。ちょっと深めなのでつばの前の方を持ち上げ気味にかぶり直す。
手帳と木箱も持って、またたびに夢中の仔猫から離れ、アッシュのもとに。
机に浅く腰掛けて、じいっと見つめる。手帳と木箱を膝の上に乗せて。
「ん――アッシュさん、あのね、私、探偵助手という言葉の響きに心惹かれたのは本当だけど、そういうことではないんですよ?」
説明がうまくできるか分からない……ことになのか、別のことになのか、小さな不安に駆られてマグを持つのとは反対の方のアッシュの手を取る。
「家を出て一人で暮らすことになっても、分からないことだらけだから……
どうやって生活していくか、ということもそうだし、私は……掃除やお料理も、やってもらう生活しか知らないし……
自分が何を知らなければいけないのか、何ができるのか、知るために、働く、をしてみたかったんです」
伝わっているか確かめるように瞳を覗き込む。
つんと木箱をつつく。開けていいと言われていないからまだ中身はわからないけれど、何か可愛いものらしい、と首を傾げ。
「……それで、こちらは?」
■アッシュ > 「そりゃぁ……ずっとここに居るわけではない、のは解っているつもりではいるのだが」
やはり少し大きいか、と、被っていると言うよりかぶさっている、と言う様な感じの帽子を見ながら。
何か真剣な様子で見つめてくるのを、自分も真面目な顔をして受け止めていて。
不安にさせているような感じもしたから、どこか心が痛む気もする。
片方の手を取られれば、そこへ少し視線を落としてから、もう片方で持っていたカップは机の上へ置いて。
「やってみる、と言う話で……それを本気で仕事にするつもりじゃない、ってのはそうだと思ってるんだが……
それ以外でも何かあったら遠慮なく言ってくれ。俺は……どうも誰かに対する距離感みたいなものはわからない部分が多いんだ」
ふう、と一つ息を吐く。やはり、どうしたものか解らないままあれこれするものじゃあない、と心の中で自分の至らなさを責めてもいるのか。
そうしていたら、箱をつついているのが目に入るものだから、箱の事も覚えてたか、と半ば観念して。
「……ん?ああ……いや、ちょっとした指輪だ、猫のデザインの。……見てもいいぞ」
■リア > ずっと、というのに瞬いた。アッシュの手を自分の頬にくっつけて、首を傾げる。
「……アッシュさんが必要だと思う時に必要だと思うことを私にやらせれば良いのであって、私が探偵助手らしくなるためにアッシュさんがお膳立てしていたら、生活全部お膳立てされていたこれまでと変わらない、と言いますか。
考えてくださるのはとっても嬉しいんですよ?」
時々迷いながら言葉を選ぶ。
「本気で仕事にするつもりがない、というか、まさかできるだなんて私おこがましすぎでは……!?
逆に、ですよ、何年かかるかは別として、わ、私にも探偵が務まるとお思いで……!? だとしたら大変嬉しいですけど……!!」
そして、片手で木箱を開けると、指輪を目にして顔を隠す……
「アッシュさん、指輪は女性に気軽に贈るものでは――いえ、お分かりなんですよね、そこは。
ああもう――我ながら自分の見る目が恐ろしい……」
ぶつぶつ言いながら、言いたいことを整えるのにこめかみを揉んでいる。
■アッシュ > 「ああ、うん。だからやっぱり駄目だと思ってるわけで……それの事は忘れてくれ。
昔から……余計なことばかりしているんだ、俺はな……」
空いている手を伸ばして、指先で木箱の蓋をそっと閉じる。
もう片方は触れている頬の感触が伝わってきて、いたたまれない感じがして落ち着かない。掌に変に汗をかいたりしていなければよいが。
こういう所は教えるどころか自分の方で解らない。
「探偵の仕事が出来るか出来ないか、って事そのものは……それ自体は誰にでも、無理ってことはないはずだ、と思いたい所ではあるが。
リアは、俺よりは……そうだな、人脈を得たりするのは向いてるだろうしな、人柄の話でな」
実際やる、と言う事ではないにせよ、何か可能性の話をするならば、最初から無理とは決して考えない。それは素直にそう思うべきだと考えているから、そう話すだけ。
「お膳立て――に、そうか、そのつもりが無くともそうなってしまうこともある、よなぁ。
それは、すまん。あんまりにも長いこと、誰かと何かするなんてのが無かったものだからな……過保護になりすぎるのかもしれん」
そっと頭を下げる。元が善意か悪意かは関係なく、不安にさせたり――かえって余計なお世話だったりするのは、本当に申し訳ないのだ、と。
■リア > 「……もう、勝手に落ち込まないでください」
落ち着かない様子に微笑んで、体温の移った手を解放する。
「ふふ。普通は押しかけられて迷惑がってもいいところだと思うのに、贈り物を山積みにするような人を引っ掛けてしまうとは、アッシュさんは人が好すぎるし、私は人を見る目がありすぎるなあって。
……私は、「言われたことに従う」のと引き換えにしか何かを与えてもらったことがないので、こういうの、慣れなくて少し不安になっただけです。ありがとう、アッシュさん」
今度はアッシュの頬を両手で包んで顔を上げさせて、
「誰かに自分のことを考えてもらうのも、慣れないけど、……何でしょう、くすぐったいけど……
……いただいても良いですか?
それから、アッシュさんの言葉を真に受けて探偵助手を頑張りますので、びしばしよろしくお願いします」
■アッシュ > 落ち込むな、とは言われるものの。
心の問題でどうこうしなければならないのは、いい歳になっても難しいもので。
物理的な命のやり取りの方がまだ気が楽だ、とどこかで考えてしまうのは、それはそれで人間的な考え方ではないのだが、そっちの方が慣れているぶんまだ平気で居られる気がするのは仕方がない。
「いや、別に迷惑には思っちゃいないんだがな……そうか、ただの無償の何か、なんてのはむしろ普通の事じゃぁないんだよなぁ。
こういうのは、おじさんの俺よりもリアの方が先生のように思えてくるねぇ――」
たいしたものだ、と思う。自分が人の心の機微には疎すぎる、のを差し引いて見るにしても、そういう所ではよほど少女の方が大人のように感じるのだ。
自分の手に伝わっている感触でも少し落ち着かないものを、両の頬を抑えられればもっと所在なさげな感じがするのを、うぬ、と変な顔を作って誤魔化そうとして。
「言われた通りやる、のはそれはそれで必要ではあるが……
自己主張して何かやってみる、結果何かよこせ、と言ってみる、のにも――少しは慣れて行かないとな。ああ、むしろそっちができるようになりたい、のは多少あるのか?
……ま、おじさんに嫌気がささない間は宜しく頼みたいところだ。そのぶんと言うわけではないが、まぁ、それは欲しいものがあったら持ってって構わん」
そろそろ戻らないといけない頃合いだろう、とも思う。本当はもっと早く帰らないといけない筈でもあるだろうに、と気にもしながら。
いただいても、と言うのであれば、あるものは気に入った物を持っていくといい、と伝えつつ。
■リア > 「アッシュさんたら変な人ですねえ。悪い女性に付け込まれないように私がしっかりしなくては。
舌先と笑顔で乗り切ってきた社交界セクハラの数々により、どうやら私は大人になっていたようです」
頬を撫でて、額にちゅ、と口づける。
「何変な顔してるんですか、もう。
交渉事は――逃げの手を打つ以外は苦手かもしれません。相手が交渉できるタイプだったことがそもそも無かったような……」
いずれできるようになるのかしら、と今は見えない先行きを思う。
机から降りて、木箱の指輪を順番にどの指に合うかはめて確かめながら、仔猫の方へ。
「ふふー。明日授業は午後からなので、泊めてください。毛玉ー、お前もおいで」
■アッシュ > 「社交界――おお、そっちはおじさんはまさに苦手な方面だからなぁ。
ああ、そうだ。そういう場に行かなければならない依頼なら任せても……いや、セクハラを受けそうなら駄目だな――いや、それが過保護なのか?」
誰にも気づかれず実は見張っている、のは得意だから、こっそり見守る事は出来るが。
セクハラなど目撃しようものなら後で人知れず始末してしまいそうで、無闇に大事になりかねないな、などと胸の内で思う。
そんな事を考えていたからか、不意に額に柔らかい感じがあるのを少し気づくのが遅れて、おいおい、ともっと変な顔を作りながら。
「ふむ、交渉事は苦手、と……やはりまだ一人で口八丁必要な所へ送るのは難しそう、か。
――っておい、それを持ってくのか!?……しかも泊まるのか――この部屋よりもっと片付いてないぞ、あっちは……」
手帳ぐらいは持っていくのかと思いきや、指輪を確かめ始めるのを、多少慌てながら見ていて。
どれかの指には合うだろうが、よく観察した後ならサイズも分かろうものの、そうではない内に入手したものだから、どうなるのかは分かろう筈もなく。
泊まる、とも言い出すものだから……せめてベッドのシーツぐらいは替えてから寝ろ、と替えがある筈の廊下の先、倉庫の場所を教え。さらに隣の、一つしかない自室のベッドの場所を教え。
自分は事務所のソファーの方に寝場所を確保しながら、毛玉は……まぁどこでも寝れるだろう、と呼ばれて一生懸命駆けて行くのを見送りながら。
■リア > 「セクハラはもう大体対策できていますよ。
高めのヒールを履き、可愛い系でもセクシー系でもない前衛的なドレスにして、あらかじめ紳士的な男性を調べておいて、ダンスのお相手をお願いすれば乗り切れます。
任務だ、って思えば楽しめそうですね、そういうパーティーも」
ハニートラップ的なものだと自ら飛び込んでいかねばならないのかもしれないが、任務だと思えば割り切れるような気もする。
「え? 全部いただきますよ? なぜなら私は形から入るタイプだからです。
いずれ学院に私ありと言われる探偵になったりしたらどうしましょう……」
にこにこと右の小指にはめた指輪を眺めながら、毛玉を抱き上げ、ぬるくなったホットチョコレートを飲み終わったら、
「あれ、一緒に寝ないんですか?」
家主を寝室から追い出すつもりはなかったので、寒いですよ、一緒に寝ましょ、とアッシュをつつくのだった。
ご案内:「王都平民地区」からリアさんが去りました。
■アッシュ > 危ない乗り切り方のような気がするな、とは思うものの。
実際乗り切ってきたのだろうから、案外そういうものなのかもしれない、と聞きながら。
「お、おお……まぁ、持っていくのは構わん……が。
いっそ、真面目に探偵になってみるのも選択肢の一つ程度にはいいのかもしれん」
手伝う内に、本気でやりたくなったらそれはそれで自由だ、とは思う。
そうならないのも、また自由だ。
「……わりと平然と無茶を言うねぇ――」
どう一緒に寝ろと言うのだ、と頭を掻くが、言い出したら聞かないタイプのような気もしなくもない。
ある意味信用されているのだろうから、寝たのを確認してからそっと場所を空けてやるのでも良いかもしれん、とひとまずつきあう事にして。この男の場合、本気で気配を消して動こうとすれば、例え隣で寝ていても気づかれる事などないのだから。
ご案内:「王都平民地区」からアッシュさんが去りました。