2022/12/19 のログ
ご案内:「王都平民地区/裏通り」にアッシュさんが現れました。
■アッシュ > 夕刻過ぎ、そろそろ晩飯の事を考えないといけないな、と言う具合の頃合い。
何やら買い物でもしていたのか、少し大きめの紙箱やら、掌サイズの木箱……油紙に包まれた板状の何か、そんな物達をいっしょくたに手提げの大袋に詰め込んで、裏通りの隅をだらだらと歩く男。
ふと、眉を顰めながら歩くその先で、近隣住民の物なのか、廃品らしきものが山積みになっている場所を見つけ、足を止めた。
「ああ、いっそここに押し込んで帰るか……いや、流石にそれは作った奴らに失礼だな」
買ってきたばかりの筈のものを、いっそそこに打ち捨てて行こうか、などと考えるも。それらも店々に並ぶまでには誰かの苦労があるのだ。
はぁ、とため息ひとつ、既に打ち捨てられた何かの品々の墓場を見ていると。
楽器のような姿がそこに混ざっているのが何となく目に留まり。あまりこんな場所を漁るのも、と思いはするがそれを山の中から引っ張り出してみると、どうやら弦が数本切れてしまったリュートのようだった。
「……まだ、張り替えれば使えそうだろうに――いや、わざと切って捨てた、と言う可能性もあるか」
■アッシュ > 「もう二十年程は触ってないかなぁ、楽器なんてものは」
かつて、任務の為に覚えさせられた記憶が蘇る。
塀に寄りかかり、こうだったかな……と、ひょいとそのリュートを抱えてみる。小さく弾いてみると、数本切れた弦のせいでまともな音にはならない、と言うより流石に弾き方があやふやだ。
使い方自体はなんとなく覚えていても、長い間触っていなかったものだから、それは下手と言うもの。
「――そのヴィヤード族の男は、静かに語った。過ぎ去った日々は単なる夢に過ぎぬと……」
独特の、符牒のようなものでもあるのか。まるで廃品置き場に打ち捨てられた物達へ、詩人が語りかけるような口調で。
ろくにきちんと鳴らないリュートを……時折音を間違えたり、鳴らしたつもりが鳴っていなかったりしながら、そっと弾いている。
「ある青年は、退屈な日々を鬱々と過ごしていた。
森のように密集し窮屈な家々の、一つ高い階の窓際で。月明かりをただぼんやりと眺めなら変わらぬ日々を過ごしていた。
ある日、淡い月の光に照らされながら、窓の外からその部屋へ舞い降りる者が居た。それは白いドレスを黒い織り布で覆い隠した――」
いや、柄じゃぁないな、とそこで楽器を下ろし。
それを廃品の山の中へ戻そうとするが、何だか楽器が寂しそうにしているようにも見えて、自分ではもうまともに弾けやしないが、仕方ない……直してやるぐらいはするか、と思い直す。
■アッシュ > 「弦だけ張り替えて少し拭いてでもやれば……ま、飯代ぐらいには売れるだろうかなぁ」
よし、誰か必要な奴の手に渡るようにしてやろう、と。そのリュートも小脇に抱えて持ち帰ることにして。
元々持っていた袋の方は、まぁ、事務所の棚にでも押し込んでおいて、後でどうしたものかゆっくり考え直すことにしよう、と考える。
「衝動買いは良くないねぇ……選んでいる間は面白いが、わりと後になって後悔したりするもんだよ」
どうも、少々考えなしの散財でもしてきた様子で。
あれもいいな、これもいいかもしれん、とついつい買ってはみたものの。いざどうするんだこれ、と後で困るなんてのはよくある話だ。
拾い物の楽器は直して売りでもするとして、買ってきた散財品達の行き場はどうしたものか。
今は……ひとまずそれより、腹が減ってきたな、と。
ああ、人を招くなら最低限掃除もしなきゃならん。けれどまず夕食に何を食べようかと考えを移して、家路を急ぐことに――
ご案内:「王都平民地区/裏通り」からアッシュさんが去りました。