2020/09/28 のログ
エミネ > 「う~ん…………」

エミネは唸る。彼女は今王国との境界線、つまり最前線にいた。
目の前には数人の兵士達。鎧を着こんだ帝国の重装歩兵と、王国の騎士。
そして、シェンヤン商人らしき男が一人。不安そうにおどおどした顔で双方を見ている。

この男の話では、自分は許可を受け王国で商売していたある大手商会に所属する商人であり、商売敵にハメられ王国軍に追われる羽目になったのだという。ゆえにこうして帝国軍に保護を求めている、と。

一方、白旗を上げ軍使としてこちらに来た王国騎士の話によれば、
この男は魔族であり、王国に潜伏しているスパイの大物だと。その正体をようやく暴き追い詰めたところ、魔族の国に逃げきれぬと悟ったこの男は変装しあろうことか帝国に逃げようとしているという。

「どうしようかしら…」

商人の話が本当であれば、王国に引き渡してしまえば帝国軍が帝国臣民を見捨てたとして問題になるだろう。実際、この男の持つ身分証は本物に見える。

一方騎士の話が本当であれば、帝国が魔族を匿うことになってしまう。帝国には神の加護があるが、国境線となればそれも弱まる。魔族が潜伏するにはうってつけだろう。

「……とりあえず、そっちのもっと偉い人呼んできてくれないかしら?アナタ達下っ端でしょ?」

王国の騎士に伝える。一番懸念しているのは王国側が強硬手段に出ないかどうかだ。勿論帝国と王国は敵対しているが、何もこんなところでいきなり戦いの火ぶたを切りたくはないのだ。
とりあえず相手の指揮官と話し合おうと、エミネは考えていた。

セリア > 定期的に戦場へ駆り出されはするが、そもそも自軍の存在意義は魔族討伐である。
今日もまた、王都に潜伏していた魔族を暴き出し討伐しようとした所、一人の部下の不手際で逃げ出してしまった。
別にその部下を責めるつもりは無かったのだが…

「はぁぁ……」

その魔族がよりにもよって、境界線に逃げ込んでしまったわけで。
思いもよらぬ面倒ごとの勃発に、大仰な溜息をつく。
一先ず向こうの守備隊に使いを出し、その返答を待っていた。
やがて帰ってきた部下の言うことには、どうやら自分が呼ばれているという。
まぁ仕方ないか、と装備を整えてから足を運ぶと…

「……幸か不幸か、というべきかしら」

ね?と苦笑いを向けた先は、かつて一対一で争った因縁の相手。
そしておどおどと状況を見つめる商人の男…に変装している魔族を一瞥し、睨みつける。

「とにかく……話は聞いたでしょ? そいつ、こっちに引き渡してくれないかしら。
無用なことで貴女達と争いたくもないし…」

ピッ、と男を指差し、エミネに要請する。
言葉遣いに遠慮がないのは、以前色々あったからでもある。

エミネ > 「げぇ!?アンタは!?」

ようやくやってきて向こうの指揮官の女を見て、思わず嫌な顔をしてしまう。
色々、そう色々あった因縁の相手なのだ。

「アンタこういう仕事だったの…?まぁそれはいいとして…」

エミネは商人の男に近寄り、彼に一言何かを話すと、男は懐からいくつかの書類を取り出しエミネに手渡す。
エミネはそれをセリアに見せた。

「身分証明書、貿易許可証、商会の会員証…。生憎だけど全部本物にしか見えないわね」

勿論それが本当に本物なのか精査するには担当の役人を呼ばねばならないが…。
少なくともエミネには不審な点は見つけられない。魔族であればよっぽど上手く偽造したのか、あるいは誰かのを奪ったのか…。

「確かに状況は怪しいけど、そっちを信じるような証拠も無いわ。
そもそもそっちに引き渡す義理も無いじゃない?」

このことを知った官僚に自国民より敵軍を信じるのかとか責められても困る。軍の面子の問題でもあるのだ。

セリア > 「むしろこっちが本職なんだけど…ま、それはともかく」

エミネから諸々書類を示され、ざっと目を通した。
帝国についてあまり詳しくはないが、ぱっと見は確かに本物に見える。
そう、ぱっと見は。ちら、とセリアはエミネに視線を移した。

「……でも、間違いなく本物だっていう確証もないわけよね?」

相手が、そういった書類の真偽を調査する役人であれば引き下がったかもしれない。
だが少なくとも自分の目にはそうは見えない。エミネは単なる軍人であり、エミネ自身の基準で判断しているように見える。

「あら、そもそもそいつは王都に潜伏してたのよ?
なら、真偽はどうあれ私達に引き渡すべきじゃないかしら」

義理もない、と言われて少しイラついたのか、言葉に少々トゲが混じる。
その後ろで、部下が心配そうにセリアを見つめている様がエミネには見えるかもしれない。

エミネ > 「まぁ確証は無いわね~。そこは後で専門家に見てもらうわ」

少々イラついている様子のセリアを見て、エミネは逆に少し楽しそうに言う。
前回はしてやられたのだから、これぐらい煽ってもバチは当たるまい。

「この男は帝国臣民を名乗って帝国に保護を求めた。真偽を決めるべきは帝国よ?」

そもそも、帝国としては渡す理由は全く無いのだ。
こちらで調査して魔族と判明すればその時処刑すればよい。

「まぁそうね、本当に魔族だったら首だけ返してあげるわ?それで満足でしょ?」

こいつに繋がってる他の魔族とかの情報が欲しいのかもしれないけど、まぁそこはまた最初から調査頑張ってねと、そこまで言ってしまうとぶん殴られるかもしれないのでエミネは言わなかったが。

セリア > 少々楽しそうな様子のエミネを見て、セリアの苛立ちもまた沸々と高まっていく。
前回、自分が相手に対してやっていたことをやり返されているわけだが、そこまで考えは及ばずだ。

「ふぅん……でも、魔族を帝国に呼び込んだって知れたらそっちもお叱りを受けるんじゃない?
…あ、それとも。そのくらいの罰も無いような甘っちょろい組織なのかしら?帝国軍ってのは」

売り言葉に買い言葉、のような形で徐々にヒートアップしていく両者。
やがて埒が明かないと感じたのか、セリアはまた溜息をつく。

「…とにかく。私はここで引き下がるわけにいかないのよ。折角追い詰めたのに、逃がしたなんて知れたら赤っ恥。
そっちがどうしても渡してくれないっていうなら……そうね。この前みたいに勝負する? 今度は、真剣勝負で」

言ってセリアは、腰の剣に手をかけた。
どうする?と挑発するような表情でエミネを見やり…

エミネ > 「流石に取り調べの間は関所とかで待ってもらうわよ。
そっちに手は出させないけどね…って」

セリアが腰の剣に手をかけたのを見て、帝国の兵士達が一斉に武器を向ける。エミネは慌てて手を上げた。

「ちょっと待った!待った!ストップ!!」

ゆっくりと、武器をおろす帝国兵。エミネは頭を抱え、ため息をつく。
ここで断ったらこの女、コチラにカチコミでもかけてきかねない。
しかし勝負って…と、ここでエミネはふと思う。

これは、前の雪辱を晴らす機会なのでは?

「…はん、わかったわ。その代わり一対一よ一対一!」

間違っても大規模な戦闘にならないように、そこをエミネは強調する。

「相手を降参させたほうが勝ち!こっちが勝ったらすっぱり諦めなさい、そっちが勝ったら引き渡すから、いいわね!」

それから、自分の兵達に離れるよう命じる。
別に剣で戦うならここでいいだろう。
兵達は商人の男を連れて少し遠くに行き、そこから二人を見守った。

セリア > 腰に手をかけただけで、素早く反応し武器を突き付けてくる帝国兵。
きちんと訓練されてるのね、と変なところで感心してしまう。エミネの慌てた姿も見られたし、
妙なところで満足感を覚えたセリアはゆっくりと剣から手を離した。

「……まぁ、最初からそのつもりだったんだけど。変に刺激しちゃったかしらね」

一対一、に頷く。後ろの部下に目で合図を送ると、王国兵はゆっくりと後方に下がった。
商人──に化けた魔族も、帝国兵と共に少し離れる様を確認する。
下手に注意が離れて、また逃げ出されると面倒だからだ。

「はいはい。その条件、しっかり守りなさいよ。……安心して?殺しまではしないから」

改めて剣に手をかける。細身の長剣をゆっくりと引き抜き、構えた。
魔法は…使わなくていいか、と。
真剣勝負ゆえ、剣だけで戦うつもりのようだ。

エミネ > 「当たり前よ…そっちこそ、うっかり死んだりしないでよね」

双方の兵士達が離れたのを確認すると、エミネは距離を取ってセリアの前に立つ。
まずは両手を上げて、シェンヤンの武術家らしく抱拳礼で一礼した。
あくまで戦闘ではなく勝負、試合のようなものであると強調するように。

「騎士の挨拶も教えてくれないかしら?リジゴール卿?」

わざとらしく丁寧に相手の名前を言いながら腰の鞘から刀を抜く。
一振りすれば、刀は二つに分かれ、それぞれを両手に握る。
挨拶が終われば、姿勢を低く、双刀を構えるだろう。

セリア > 「一応、治癒の魔法も覚えているし…大丈夫よ」

抱拳礼を見てから、セリアもまた抜いた剣を顔の前で垂直に立て、静かに一礼する。
最も、騎士といっても色々いる。流派も一つ二つではない。

「あくまで、私が学んだ流派のやり方だけどね」

そう前置きして、お互いに挨拶を交わす。いわばこれは決闘の類か。
双方、剣を構える。空気が張り詰めた。

「行くわよ」

声を紡ぐと同時、一歩大きく踏み出した。
背が高い剣の為、リーチが長い。それを駆使するように一瞬身を屈め、勢いに乗せて突き出す。
繰り出した後、後方に大きくステップして距離を取る。ヒットアンドアウェイではないが、それに近い戦法。

エミネ > 勝負が始まる。先に仕掛けてきたのはセリアだった。
リーチを活かした、鋭い突き。だがまだ読める。
エミネは左手の刀を相手の剣に沿わせ、狙いを外させる。打ち合った瞬間びりりと左腕に衝撃がくるが、それで取り落とすようなことはない。

「バスタードソードって言うのかしら?それともツヴァイヘンダー?マグメールの剣はイマイチわからないのよ、ね!」

右手の刀で攻撃に転じようとするも、相手は予想より速く距離を取る。
鎧の様式は違えども、動きやすくしてあるのは同じらしい。

「足に自信があるようね!面白いじゃない!」

距離を取るのに合わせ、今度はこちらが大きく踏み込む。
追いすがれば、両手の刀で舞うように、次々と斬りつけてくるだろう。
手数を重視した剣技。長さと重さの欠点を突くように、変則的に刀を振るう。

セリア > 刀身が打ち合い、狙いが僅かにズレる。
しかしそれに動揺せず、セリアは持ち前の腕力を活かして崩れかけた体勢を持ち直し、素早く剣を引いた。

「へぇ、よく知ってるわね。ま、ツヴァイにオリジナリティを加えた、特製よ!」

距離を取ると、今度は相手から踏み込んでくる。
舞うような双剣の攻めに、最初は長剣で対処する。次々と飛んでくる、規則性の無い剣技を受け、流し、時に身体を捻って躱した。
しかし長剣が間に合わない一撃が来たならば、腰に差した短刀を引き抜き受け止めた。

「やるわね」

鍔迫り合いとなった一瞬、小さく零した言葉。
グッと火花が散る程に勢いよく刀身を押し返し、改めて距離を取る。

一呼吸置く間もなく、姿勢を低くしながら再び仕掛けた。
腰だめに、下から上へ切り上げるかのような動作。
しかし、距離を詰めたところでセリアは跳躍する。重力に逆らわず、長剣を振りかぶって頭上から、叩きつけにいった。

エミネ > 「それは興味深いわ…いつかゆっくり話を聞きたいわね!」

隙を狙った刀を、腰のダガーで素早く防がれ、エミネはにっ、と笑う。
そうこなくちゃ。強い相手との勝負は心が躍る。

そうして打ち合っているうちに、鍔迫り合いとなった一瞬を狙われ押し返される。
やっぱり片手刀では両手剣には力では敵わないか。

体勢を整えているうちに、セリアが仕掛けてくるのが見える。
下からくる斬撃を、上体を逸らしてかわす。
すると、彼女はそのまま跳び上がり、長剣を思い切り振りかぶってくるではないか。
太陽光を背に、黒い影となってセリアが迫ってくる。

「へぇ…」

エミネはにやりと笑うと、上体をさらに逸らし、地面に手をつく。
そのままの勢いで、身体全体をバネに、脚を跳ね上げる。
サマーソルトキックでのカウンター。硬い鎧の足先が、セリアの胴を蹴りつける。

エミネ > 【継続】
ご案内:「帝国との暫定境界線」からセリアさんが去りました。
ご案内:「帝国との暫定境界線」からエミネさんが去りました。