2019/08/21 のログ
■アグネーゼ > 生憎と、此処にはノートもペンもありはしない。
言ってくれれば取りに行けたのだが、彼から言ってこない限り、
少女が自分で気付くことは流石にないだろう。
「魔力……」
ぽつりと呟く。海では耳慣れなかった言葉だが、地上では逆によく聞くようになった。
己にも魔力がある。声に乗せた魔力、歌に乗る魔力。
人のように見えて人じゃない、今は明らかな人外の特徴を隠して、
自分は今こうして自分の足で地に降り立ち、服を着て、人間の生活の真似事をしている。
「……はい、大丈夫です。ちゃんと理解出来ています、シュバルト様」
ちょっとだけ不安そうな相手の笑みを見て、思わずくすりと笑ってしまった。
お陰で多少は緊張が和らいだ気がする。
なる程調律とはそういう事かと、一晩経って漸く理解が追いついた少女だ。
「では―――昨晩は私に、シュバルト様の魔力を流し込まれた、
という解釈で合っていますか…?あの………それはどうして?」
淡く微笑んだ儘、緩く小首を傾げる。純粋な疑問を口に出して。
■シュバルト > 教師であった事もなく、弟子であった事はあっても師であった事はない。
なのでどう説明したら通じるか、記憶に残りやすいか、等は知らず彼女の言葉のみでしか理解してもらえたかわからない。
そうなると如何しても筆記具が必要となる蛾、其処まで理解したいのか、それとも自分も調律出来るか気になっているか、
はわからないので、一先ず説明することに集中することとしよう。
その際に此方に小さく声を洩らして笑う彼女に照れくさそうに頬を指先で掻きながら、
一つ深呼吸をして、次の説明に……の前に今だけの生徒の質問に答えよう。
「えーっと、それはだな。礼拝堂の近くに立ち寄った際に聞こえてきたアグネーゼの歌声と、その礼拝堂の中で見たアグネーゼの姿に惹かれて、アグネーゼがどんなヒトなのか知りたくなって……。他者の魔力の流れに自分の魔力の流れを重ねて魔力を流すことで相手の事を軽くだけど知ることが出来るから、そのつい……ごめん。」
流れを見ればある程度の種族、反応を見れば相手の感情、そういったものを見ること感じることが出来るのだが、此処では軽く表面上の説明をして見る。
で、次はもう一つ深く「あっちの効果」の意味を説明する為に、また緊張した際の癖で眼鏡のフレームを中指で押し上げて、頭の中で言葉をロジカルに組み立てようと。
しかし両手は手持ち無沙汰である。
どさくさ紛れに彼女の手を握っていたいが、理由もなく握るのもおかしいと、自分の腹部辺りで腕を組むようにした。
■アグネーゼ > 「私の事を、知る…?……ぁ、の―――では……
もしかして、シュバルト様は…私が人間ではないと、お気づきに…?」
もしや、己が人魚だとバレてしまったのか、と少女は困惑と疑惑の眼差しを向けた。
なるべく秘密にするように母から言われていた。こんな形で勝手に他人に知られるとは思わなかった。
けれど昨晩と今の彼の態度を見て察するに、仮に己が人魚であると知っていても、
相手の自分に対する接し方は変わらないように見える。
それとももしや、気付いていないのか―――であれば、ちょっと墓穴を掘ったことになるが。
「――――。…興味を持つ事は……誰にも、止められませんもの。
私も、そうですから。ですから…シュバルト様が謝ることではございません」
話の続きも気になるが、ごめんと謝る相手に対し、責めているわけではないのだと、
せめても彼に伝えたい。
それと、先ほどから如何にも落ち着きがないように見える。
眼鏡のフレームを指で押し上げる仕草を何度も見てしまえば、さもありなん。
逆に少女の方が冷静になってきて、苦笑に近い微笑みを零すと、
腹部辺りで腕を組む相手の右手をとって、包むように両手で柔く握り締めようとし。
「シュバルト様…?もし、話し難い事のようでしたら、
私も無理にとは申しませんので―――」
気遣わしげに、相手の顔を覗きこむ。
昨晩の彼は意地悪だったが、もしかしたら根は良い人なのかもしれない。
■シュバルト > 「――うん、ごめん。純粋なヒトではない事は判ったんだけど、それ以上は流石に踏み入るのは申し訳なくて、どんな種族かは……判りません。」
言い切ろう、彼女の種族までは調べるに至らなかったと。
もし彼女がサキュバスでもあれば心でガッツポーズしたかもしれないが、
表面上ではサキュバスや夢魔のような精霊に近しい存在ではない事くらいしか判別なかったし、
実際確実に調べたわけではないのでそれ以上は言葉にしない。
何れどんな種族立場の人間であっても変わらない、彼女が美人さんだったらスケベ心とか下心とか悪戯が湧いたくらいで態度を返る心算は全くなし。
「知っていいなら、アグネーゼの種族も何もかも知りたい、けどそれはアグネーゼとベッドの中でお話できるレベルになってからかなー。」
さて余計な蛇足は此処までに。
彼女に右手を誘われ、彼女に右手を委ねながら、そのしっとりとした両手に包まれると思わず悪戯心がむくりと鎌首を擡げる。
「……いや話しづらいというか、その話を擦る前にキスしてもいい?」
覗き込んでくる彼女の露草色の眸にゆるい笑みを浮べる薄暗い灰色の瞳を返すと、
昨晩と違い許可を求めてみようか、それはそれで凄く意地悪なことかもしれないが……。
とそんな意地悪いお尋ねと共に柔く握り締めてくれる彼女の手にもう片方の手をふわりと重ねて、捕らえられて捕まえられてと、その苦笑混じりの微笑はとても唇を重ねたくなる表情だったから。
■アグネーゼ > 「………そ……うですか」
あからさまに、ほっと少女は胸を撫で下ろす。
サキュバスではないが、近いと言えば近いかもしれない。
己の歌は、声は、他者を惑わし惹き付ける。
それがどのような効果を齎すのか、まだ少女自身は分かっていないが。
「…?ベッド……の中…?」
どういう意味だろう、と分からなさそうにまた頸を傾げた。
秘密にしている種族を相手に教えるのに、何故ベッドが必要となるのか、己には本気で分からない。
両手で包み込んだ掌は、己の手より余程大きくて。
骨ばっていて、ごつごつしていて、自分のものとは全く違うくて。
寧ろそっちに興味をそそられていた少女であったが、唐突な相手のお誘いに、
えっと思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「………きす……とは、あの―――昨日の…口と口をくっつける、アレ…ですか?」
今更ながら、そんな当たり前な質問をしてしまう辺り、
初心どころか幼子の様に何の知識も無い少女であると、相手に伝わってしまうだろうか。
というか、口と口をくっつけるどころか、舌と舌を絡ませるところまで発展していたわけなのだが。
「ええと………どうして?」
そしてまた、疑問。
■シュバルト > ちょっとでも性的な方向に流れると彼女の頭上に疑問符が見えそうになる事が少しおかしくて、
でも真面目な言葉を繋げていく心算で少しだけ唇と唇の距離を詰めながら、
ゆっくりとした言葉選びで、為るべく気持ちと意味が伝わりやすい言葉を選んで近づけた唇で答える。
「……歌声に誘われたこと、一目見て惹かれたこと、だから歌声に逸話のある種族だとは思うんだけども……ね?」
言葉を交わすたびに吐息が触れ合う距離での少しだけ推測を自慢げに話しながら、彼女の身体の熟し具合とは逆に性行為への知識的な事への無知さが、好奇心と庇護欲をそそる。
「そうそう、唇を寄せて、舌を絡ませるあれがキスなんだけど、気持ち悪くなくて、少しでもあの時気持ちよかったならもう一度したいなと。お返しにオレの好きなところを触ってもいいし?」
あの夜、彼女の様子を思い出せば性的な事を知らずとも、異性に対しての好奇心や興味がある事を思い出す。
だから交換条件ではないけど、恥かしがるだろうけど、何処なりとも触れて良いと言葉を返しながら。
最後の理由に関しては一呼吸を置いてから普段なら奪ってやっておわってだけども、
理由を言ってかわすのは照れくさいものがあって、はにかみ笑いを浮べてから。
「アグネーゼの表情を見ていたらしたくなった。キスをして舌を絡ませて、アグネーゼの唇の感触も舌の感触をもう一度知りたい、って気持ちが溢れて止まらない。」
ああ、何てことを口走ってるんだ……?と思いつつも、
理由を尋ねられたら答えてしまい、答えたら今度は…・・・
やんわりと、でもギュとその女性の手とは違う逞しいには少し遠いけど、
しかりと力強く仕事で行使している所為かガサガサで骨ばった手で彼女に包まれ、包み返す掌で握り締める。
薄灰色の瞳は今宵何度目か、いい?と尋ねるような眼差しであった。
■アグネーゼ > 「っ……さ、あ―――存外、歌は関係ないかもしれません…よ?」
一瞬ぎくりとなったものの、そんな風にすっとぼけてみる。
顔が近い。ともすれば唇も近い。また、直ぐにでも触れ合えそうなくらい、近くに。
「――――。気持ち…悪くは、なかったです。とても不思議な、感覚でした。
……あれ、は―――そういえば、如何して…?
シュバルト様の言う、調律をされたと言えど……私の魔力とあの感覚は、関係性がない筈。
……それに、確か、“あっちの効果”って、シュバルト様は先ほど、仰っていましたけど…」
嗚呼、彼は丁寧に説明してくれているのに、疑問ばかりが次々に浮かぶ。
彼とキスでもした方がよっぽど、手っ取り早く答えを知る事が出来るのではないか。
そんな風に思えてならない。
「っ……す、好きなところ、を…?……ほ、本当ですか」
呈される交換条件に、思わず少女の好奇心が疼く。
己の手を包み返すその大きな掌も。喉仏も、腕も、胸も腹も下半身も全て――触って良い、のだろうか。
世話になっている神父には到底お願い出来ない。
男のからだを、その作りを、もっとまじまじと触れて、見て、確かめたいこの欲望を。
「?…??男の人は、他人の表情を見ていると、キス…を、したくなるのですか?
キスをすれば、私にもその理由が知れますか?」
分からない事だらけの中で、矢張り言葉よりも余程雄弁に、
昨日味わった感覚をもう一度繰り返せば、よっぽど得られるものがあるかもしれない。
そう考えた少女は、目をきらきらと輝かせながら、教えて欲しいとその眸を見つめ。
■シュバルト > 笑ってはいけない、笑ってはいけないのに彼女の唇から正体に自らヒントを与える様な言葉が紡ぎだされると、
ンフッ
と思わず変な声をだして、是でも懸命に堪えたのにそんな声が出て、慌てて口を一度噤んで笑い声を飲み込むんで、
表情はそのまま笑顔のままに彼女との問いにどう答えようか少し楽しくなってきた。
少しでも難しく言えば彼女は質問を返してくる。
簡単に言えば曖昧な知識でも飲み込んでくれる。
でもどうせなら彼女とは言葉を重ね続けて、距離を縮めて行きたい、
それに質問をされて答えるのも悪くない、寧ろ楽しかったりもして。
「……いいよ?アグネーゼにキスさせてもらう代わりに触れるなり見るなり……舐めるなりってね。」
まずは約束を唇と唇は間近であっても触れ合わせることはない、
瞳と瞳の距離が縮まっても、互いの瞳に互いの相貌が映ってもそれ以上は進めない。
「あとキスしたくなるのに性別も種族も関係ないかな。それに他者の表情っていうのかな、こう、ふと、キスしたいって気持ちが溢れてくる。アグネーゼは特に可愛いから、もう我慢できなくなるくらい……だからしてみよう?唇を重ねて、舌を絡めて、そうしたらアグネーゼにもきっとわかるよ。」
欲望が芽生えれば異性のちょっとした表情に仕草にキスをしたくなるはきっと言葉にした通り種族も性別も関係なく、だと思う。
でも言葉はそれで終りじゃない。
彼女の手から自分の無骨な手をするりと逃して、彼女が自分に触れやすいように、
きっと手足とかだろう、と油断をしながら離して、
その手に自由と肌に触れる権利を与えようとする。
もし想定外だとしても決して拒むことはないだろう。
それを終えて最後に言葉にするのだ。
「うん、あっちの効果の意味は一度目のキスを終えた後に実際に調律を施してから、改めてキスをして体験してから説明してあげるね?」
……と。
■アグネーゼ > ―――何故か、笑われてしまった。
即座に抑え込んだようだが、相手の楽しさが伝わってくるのは分かるので、
ちょっとだけむぅ、と渋い顔をしてしまいつつに。
―――それでも。知りたい、と言う欲求に囚われてしまえば。
愉しそうな相手の様子もまた、男を知る大事な要素として。
「舐め…?な……舐める…までは、ないと思いますけど…。
――――性別も、種族も、関係ないのなら……私でも、
キスをしたいと言う気持ちが、溢れるようになる…のですか?」
海で過ごした今まで、そんな事思った事も無い。
改めて地上とは不思議なところだと感じずにはいられない少女だが、
今は、そう、この男の人とキスをする、と言うこの瞬間が己の全て。
包んでいた手が離れ、自由になった両手は、先ずは何処を触ろう、と
狙いを定めずに暫しそのままでいたが。
キスをすることと、相手に触ること。同時に致す事は、今の少女には無理だった。
どちらかを知ろうとする間、どちらかに意識を傾けている余裕はないからだ。
―――だから。少女の諸手は無難に相手の二の腕辺りにそぅと触れ。
つい、と更に貌を寄せて、唇同士が掠める程距離を縮めて。
「……はい、では―――キス、を…」
しましょう、と囁くように告げてから、少女の方から唇同士を重ねていく。
柔らかな感触だ。己の唇より薄いけれど、同じ唇の感触は
男だろうと女だろうと関係ないようだ。
■シュバルト > 「――きっとアグネーゼもキスしたくなる気持ちわかるよ。」
もちろん気持ちが溢れ出るようになる感覚も感触も、きっと。
遠慮しているのかそれでも二の腕が目的だったのか、
触れてくる彼女の手を拒みなどしない、ちゃんと細く見えてもシャツ越しにでもわかる程に引き締まった腕、
それにマッサージの施術と薬の調合で鍛えた腕の筋肉の弾力を教えながら、自分の両手は掌は手持ち無沙汰になるよりはと、
彼女のアグネーゼの頬を包むようにそっと掌を彼女の頬に添える、その方が二の腕も触りやすかろうと。
――でも、その二の腕の接触よりも彼女からの唇の重ねあわせに少しだけ驚いた。
柔らかくてふわっとして少し冷たく感じる彼女の唇を受け止めながら、
舌を絡め合わせよう?と舌先を重ねあう唇の隙間に伸ばして、
ちろちろと彼女の唇を舌先で舐めて、一歩先を柔らかな上唇と下唇を開いてもっと求め合おう、知り合おう?と誘う。
ぞくり
と昨夜の少し気分が高揚していた時と違う、互いに気分が鎮まった状態でのキスは接触の気持ちよさよりも、
何となく心が温かくなる感じがして、悪戯心がぞわりと疼く。
でも重ねるだけ、触れるだけ、彼女が唇を開かぬ限りそれだを十分に味わい熱を伝えあい、
その間近な距離で唇が触れ合う距離で眼鏡は少し邪魔だけど、レンズ越しの薄暗い灰色の瞳には彼女の瞳をハッキリと映して見せる。
(――…ああ、何て可愛いんだろう。)
声に出来ずとも、心の中で恍惚の色合いを交えた言葉が浮かび上がるのだった。
■アグネーゼ > シャツ越しでも分かる、二の腕のかたい感触を、
確かめたがって少女の指先が僅か、擦り立てるような仕草を見せる。
けれどもこれ以上は矢張り、意識を向けていられない。
眸は開いた儘だが、これだけ近すぎると相手の顔に焦点を合わせられず、
目を閉じせば感覚がもっと研ぎ澄まされるかもしれない、と
誰に言われるまでもなくゆっくりと目蓋を閉ざして、唇同士が触れ合う感触に意識を注ぐ。
伸ばされた舌が少女の唇を舐め、合わせて此方も舌先を覗かせて。
もっと、求め合う、為に――唇をもっと開いて、ぴったりと隙間無く重ねて、
舌を、伸ばさなければ。
―――くちり
その小さな粘着音は、互いの舌が触れ合った音だ。
舌同士が触れることが叶っても、それ以上どうするのか分からなくて、
惑うように少女の舌は、退いたり伸ばしたりと中途半端な仕草となっている。
或いは、男の口の中と言うものは己と同じなのだろうかと、
確かめたがって咥内を弄り始めるかもしれない。
「……っは―――」
息継ぎに、相手の口中で吐息をまろばせる。
今まで色んな女を抱いてきたのだろう彼からしたら、
少女との口吻けなんて子供のまま事のようなものだろう。
これが『キス』で合っているのか、気持ちの良いものなのか。
―――生憎と、調律されていない今の少女には分からなくて。
「(嗚呼、けれど…やっぱり、何となく落ち着かない。耳の辺りが、何だかぞわぞわする)」
■シュバルト > 二人の一日はまだ始まったばかりである。
続く
ご案内:「王都マグメール 平民地区 礼拝堂」からアグネーゼさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 礼拝堂」からシュバルトさんが去りました。