2019/05/07 のログ
クレマンス > 恋人同士のキスの範疇ではあるが、執務室で行うには少々刺激的なものだったかも知れない。
途切れたれた糸が、つ、と下唇を濡らすも、聖女は大きく息を吸って吐いた。
同じキスをしていたはずなのに息の乱れが違うのは、経験の違いだろう。
手慣れていたと言った己の言葉が思い返される。

「私から口付けしましたのに、主導権を握ってしまうのはずるいと思います」

機嫌を損ねたふりをしても、表情は穏やかなので本当に拗ねているわけではない。
二人に注がれる日差しは未だ高く、窓の外から見える向こうの建物で誰かが慌ただしく移動しているのが見えた。
ここも、己のような者が長居出来る場所と時間ではないのだろう。

「……今日は何時頃お仕事が終わるのですか?
 私が起きて待っていられる時間に終わるのは…いつになります?明日ですか?明後日ですか?」

少し顔を出して話せば良いと思っての訪問だったが、我慢するにはむしろ完全に餌は貰わないほうが良いのかも知れない。
もう少し長く、出来ればさらに恋人らしいことをする時間が欲しくなり、子どものように訊ね。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 吐息を乱す彼女を満足そうに見つめながら、そっとその頬を撫でる。
彼女も慣れてくればキス一つで此処迄吐息を乱す事も無いのかも知れないが――初心な様で己の前に立つ彼女を可愛らしいとも思ってしまうあたり、我ながら欲深い事だと内心苦笑する。

「寧ろ、俺が何時までも主導権を渡していると思って貰っては困るな。好いた女を求めようとするのは、当然の事だろう?」

拗ねた様なふりを見せる彼女に、小さく笑みを零しながら言葉を返す。
しかし、彼女の視線が窓の外へ向けられた事に気が付けば、此方も僅かに思案する様な表情を見せるだろう。
その表情は、彼女からの問い掛けによって幾分考え込む様なものへと変わり――

「…火急の案件は既に終わっている。部下達にも午後は休みを与えた。若干書類は残っているが…それもさして時間がかかる訳でもない。面会の予定も無いし、今日は夕食を共にする事は出来るだろう」

己の予定と机の上に積まれた書類を一瞥した後、子供の様に此方に尋ねてくる彼女の頭をそっと撫でながら答える。
そのまま、少し足を踏み出して彼女の耳元に顔を近付ければ――

「…明日も、早朝からの予定は無い。今夜は、夕食が終われば寝所を共にしよう。お前の腕の中で眠るというのは、抗いがたい誘惑故な」

クスリ、と小さく微笑んで、今日は同じ寝室で共に過ごさないかと誘いの言葉を囁くだろう。

クレマンス > 「主導権を握らせてくださっているギュンター様は、とてもいじらしくいらっしゃるのですよ。私は癖になってしまいそうです」

実際癖になっているのだが、長く主導権を握らせてくれないのが彼。
それに己だけが知る顔という特別性も重要で、きっとこの関係がベストなのだろう。
だが軽く口付けるのにはあんなに照れたのに、さらりと好いた女と口に出来るところは相変わらず基準が分からない。
初めて想いを口にし合った時もそうだったが、故に調子を狂わせようとするとこちらが狂ってしまう時もあり、そこがまた魅力なのだろう。

「まぁ。本当ですか?そんなに長く御一緒出来るのは初めてですね」

もう少し一緒にいたい。そんな思いを伝えはしたが、今日いますぐというのは難しいだろうと思っていた。
そのため返ってきた返事には目を輝かせ、頭を撫でられる仕草が子ども扱いじみていることも気にならない。
ここ二日を思えば夕食を一緒にとれるだけでも喜ばしい。
それを素直に表情へと表す聖女の耳元に、さらに長くいられるという言葉が囁かれるのだから―――

「それでは今夜恋物語を読んで差し上げますわ。ですが……おやすみのキスは難しいと思います。
 ……朝早くないのでしたら……触れて頂きたいので……おやすみはもう少し後が良いです」

優しく眠りにつかせてあげたいのは山々だが、神だけに仕えていた頃と違って今の己は欲望三昧である。
同じように声を抑えてねだり、彼のジレの裾を軽く引っ張った。

楽しみがあれば夕食までの時間も苦ではないというもの。
執務室から出て来た聖女は、この二日間で最も機嫌良く見えたことだろう。
それは夕食でも、もちろん寝所でも続くはず――――。

ご案内:「王都マグメール ホーレルヴァッハ邸」からクレマンスさんが去りました。
ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「…余り癖になって欲しくは無いものだが…。まあ、お前が楽しいならそれで良いのだが」

男としては幾分複雑な思いを抱かなくも無いのだが、嬉しそうな彼女を見ていると何だかんだ許してしまう。
とはいえ、余り情けない様を見せない様にせねばと内心気を引き締めていたり。

「…仕事ばかりで余り時間を取ってやれなかったからな。王都の夜は長く深い。夕食も早めに済ませて、二人で過ごす時間を長く作るのも良いだろう」

目を輝かせる彼女に笑みを零しつつ、手触りの良い髪を撫で続ける。
そのまま、囁き返す様に紡がれた彼女の言葉を聞けば、クツリと緩く唇を歪めて――

「……ほう?ならば、朝方にも湯浴み出来る準備をしておく事だ。褥の上では、副うそう主導権を渡してやらぬ故な」

ジレの裾を引っ張る彼女に低く囁き、緩く嗤った。

彼女が執務室から退出した後、少しでも長く時間を取る為にせっせと仕事に励む。
主の為に焼き菓子と紅茶を運び入れた執事は、其処まで急ぐような仕事が主にあったのだろうかと首を傾げ、理由を察している他の使用人達に呆れられる事になる。
そんな珍しく穏やかな時間が、ホーレルヴァッハ邸に流れていたとか。

ご案内:「王都マグメール ホーレルヴァッハ邸」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。