2019/05/05 のログ
クレマンス > 「明日も明後日も御予定があるのですね。ゆっくり出来るのはいつになるのでしょう」

黒板のスケジュールを見て、肩を落とした。
カフェにも公園にも行ってみたかったのは事実だが、本当に一人で行くしかなさそうだ。
仮に休日があったとしても、連れ歩くのは可哀想にも思えた。
人間の年齢と外見の関係は未だよく分かっていないところがあるものの、15という年齢は聞いている。
それにしては老成しているのは、こういった生活からもあるのだろう。
労わらなくてはますます実年齢と精神年齢が離れてしまうかも知れない。という余計な心配。

仕事に関しては大の男よりもずっと軽やかに処理する少年も、己が問う言葉には歯切れが悪い。
もちろんそれについては出会った日に分かっており、一緒に勉強するという気持ちは変わっていない。

「今度眠る前に物語を読んで差し上げます。とても美しい恋のお話を見つけましたから」

振り返って合わさった視線の先で、聖女は笑顔を見せた。
だが少年の歩調が速まり、距離が縮められるときょとんとする。
窓が背中に押し当たり、何をされるのか察して目を細めた。
ふんわりと自然な程度の緩みがあった唇が重なり合おうとした――時。
聖女の手の平が彼の唇を受け止める。

「お待ちください」

穏やかに神の加護を語るかのような声音。
細められたはずの瞳は至近距離に迫った少年の双眸を、じぃっと見つめている。

「それでは行為に意味を見出しているとはいえ、今からなさる口付けは、
 私以外とする口付けと変わらないと仰るのですね?それは……興味深いお言葉です。
 お手付きのメイドの方にキスする時も同じように、同じお気持ちでされるという意味ですから……」

責めているのとも違う。むしろ己の中で恋人の恋愛観を考えている真っ最中。
大前提としてメイドに手を出した経験くらいあるのだろうというのは、彼の性豪ぶりを考えた結果。
キスを止めたのも、恋人とするキスについて考えたのも大真面目であったが、こうして考えていると悶々としてくることに気付く。
結果、相談するように声をひそめて眉間に皺を寄せ。

「――――ギュンター様。そう考えますと胸に靄が掛かります。特別なキスをして頂きませんと」

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「…帝国からの賓客と、神聖都市からの公布で王都は大賑わいだからな。それが落ち着けば、私も多少は時間が取れるだろう」

逆を言えば、こうして王都に腰を据えていられるのはそういった催し物が続いているからこそ。
平時であれば、王都、神聖都市、港湾都市、ホーレルヴァッハの本家が構えられた公爵領等各地を行き来する日々。
大貴族の嫡男として生を受けた己にとってはそれが当然であり、何の疑問も抱いてはいなかった。尤も、彼女との過ごす日々を増やす為に多少やりくりをしなければとは思っているのだが。

「…ほう。それは楽しみだ。しかし、寝所で語り部を伴うというのは些か子供じみているやも知れんな」

と言いながらも、彼女が褥で紡ぐ物語を楽しみにしながら小さく笑みを浮かべる。
己が未だ子供で通じる年齢である事には、残念ながら思い至らないのだが。

「……どうした。お前が望んだ事ではないのか?」

柔らかな彼女の掌で己の動きが封じられ、不思議そうに此方を見つめる彼女の瞳を見返す。
しかし、彼女から語られる言葉に耳を傾ければ、納得と気まずさ、そして新たな疑問符が入り混じった様な表情で彼女を見返すだろう。

「……成程。言わんとする事は分かる。だが、他の者と同じ様な気持ちでお前と口付けする訳では……」

決して進んで使用人に手を出す事は無いが、ゼロとは言い切れない。戯れに様々な女性を抱いた事もある。だからこそ、彼女に返す言葉は歯切れが悪い。
しかし、その口調が責め立てる様なものではない事に気が付くと、言葉を止めて不思議そうに彼女を見つめる。彼女は己に何を伝えたいのかと、耳を傾けて――

「…特別なキス、か。しかし、それはその……どうすれば、良いのだ。お前だけを想って口付けを交わす事に偽心は無いのだが…」

恋愛経験の無さが、己の行動に歯止めをかける。
先程まで捌いていた書類の山が可愛く見える程。困った様な表情を浮かべつつ、情けない話だと自嘲しながら素直に彼女に尋ねてみる事にした。
他者の感情の機微に疎い己が判断するのではなく、素直に彼女が求める事をきちんと聞く。それは、彼女を恋人として迎え入れる際に己に定めた事の一つでもあった。

クレマンス > つまり、次に時間が取れる時期は分からないということ。
それを聞くと、好きに地図に付けたいくつもの印も考え直さなければならなさそうだ。

「行きたい場所の候補はもう少し絞ることにいたします。
 ギュンター様がベッドで一日お休みになる日を作らなくては……人間はただでさえ寿命が短いと聞きますのに、体を酷使してはますます…」

一緒に行きたい願望はあるが、それ以上に無理するより二人でいられればどこでも良い。
健康を害されるのが一番困る。純血の人間というのは最も儚い。

「そうですね。きっと子どもをあやしている気分にさせてくれますでしょうね。
 せっかくですから、ギュンター様が眠りに堕ちる時には髪を撫でて……額にキスして差し上げます」

そんな寝入りも素敵なのではないか、と。
生まれてからの年月はともかく、はたから見れば己は彼よりお姉さんである。
散々甘えておきながら、姉弟愛のような願望も少なからずあるのかも知れない。
もちろん一番求めるのは男女としての愛情であり、二人で勉強中なのだが。
戸惑い、悩む少年に対して、聖女は当然とばかりに。

「特別なのですから……ギュンター様が今までしたことのないキスが欲しいです。
 だって、ずるいです。初めて抱いて頂いた時、随分口付けに手慣れていらっしゃいましたでしょう?
 女性を抱く術だって同様でした。私はあれ程までに長く何度も抱かれたことはありませんのに」

己も恋人の初めてが欲しいのだと、ワガママ言う。
肉体の快楽を貪ることではなく、精神的な充足を求めようとすると年相応どころか
幼ささえ見え隠れする少年の反応を見ると、一緒に恋をしているのだというときめきがあるのもいけない。癖になる。
窓辺から差し込む暖かな光の下、外を見ればホーレルヴァッハ家の日常が送られている。
爛れた夜ではない、というのも聖女の気持ちを“その”気にさせるようで。

「――――ん。私のことが好きだと思いながら、ドキドキしながら、キスしてください」

とっくに肌を重ね合わせ舌を絡ませたどころか、日が経てば聖女の胎に子が宿ったか否か判明する関係。
例え今現在宿っていなかったとしても屋敷の中で寝所をともにすれば、いずれ自然の成り行きとなる。
それが分かっていながら、聖女が求めるのは清らかな関係の男女が求めるような口吻だった。
目を閉じ、笑んだような唇を尖らせて、待つ。

ドキドキしながらというのは技術次第でどうにかなるものではなく、無茶振りでもあるが。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 後日継続にて
ご案内:「王都マグメール ホーレルヴァッハ邸」からクレマンスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール ホーレルヴァッハ邸」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。
ご案内:「路地」にタン・フィールさんが現れました。
タン・フィール > 貧民街と平民地区のちょうど中間地点あたり。

人通りの少ない路地をスキップする少年の籠の中からは、異様なピンクのどろどろが詰まったビンだの、妙に肉肉しい生き物の尻尾だの、怪しげな素材が詰まっていて、
申し訳程度に布巾でそれを隠しながら闊歩する。

「ふふーっ、今日のコレは、いい買い物だったかな…
ちょっと近道して、はやくかえろっと」

薬の品質向上のため…何より自身の好奇心や研究心を押さえきれない薬師の少年は、
違法スレスレの劇薬や素材なども、王都の裏で生きる商人から仕入れたりもしている。

まるでお気に入りのお菓子でも買った帰りかのような軽い足取りで、買い物かごをぶら下げて家路へと歩んでいく。
…徐々に、慣れない近道などしたせいで迷子になっていることに、
まだ少年は気づいていない。

タン・フィール > 富裕層ほど開けた平坦な、道の作りも複雑でない区画に住み、
貧しいものほど、高低差が激しいアンバランスな土地に密集する傾向がある。

少年が道を見失ったのも、空を覆うように密集する屋根や、方向感覚を狂わせる勾配…
異様に多い一方通行など、無計画に増築した名残で

「……まいったな、ええと、こっち…?」

十字路に差し掛かり、密集する屋根からちらっとだけ見える富裕層の高い建物や、王城の一部を目指して歩いていく。

夜ならば、この通りにもいかがわしい商人や娼婦、ごろつきや王都の兵もちらほら歩くのだが、
今は人の気配がしない。

タン・フィール > 「…よし、こうなったら…!」

意を決したように、高く、高く、
少しでも勾配の上の方へと登って、全体像を見渡しやすいポジションへ移動を開始する。