2017/08/07 のログ
■ルーク > 「そうだったのですか。ティルヒア戦役は、犠牲者も多く、激しい戦闘も繰り広げられたと聞き及んでいます。大変な思いをなさったのですね。」
ティルヒア戦役のことは、情報としてしかしらない。
どのように主である彼女の義兄と、彼女が出会い引き取られる経緯になったのかは分からないが戦争に巻き込まれたのであれば、想像できないほどの苦労をしていることだろう。
「魂を焼く炎…。封印処理というものをしても、漏れるほど強い力なのですね。」
生まれたばかりの無垢に近いルークの心に触れた、炎の冷たい痛み。
その痛みは、彼女が強くその心に感じた痛みだったのだろうか。
素直に答えた事に、微笑みながら彼女の口からは先ほどの天真爛漫な笑顔を浮かべていたとは思えないほどに冷たい殺意が溢れる。
「………。」
大切に想う者以外を厭い、殺意を剥く言葉に返す言葉をルークは持たずに彼女をただ見つめる。
「…それは、否定できません…。」
愛らしく着飾るのは、愛する人に魅せるため。
決して不特定多数に体を明け渡すためのサインではない。
しかし、服装ひとつ変わるだけで男から向けられる視線が変わる事は、女であることを晒すだけで向けられる欲望があることを痛いほどにルークも感じていた。
彼女の言葉から感じられる強い殺意は、それを抱くほどに踏みにじられてきたということだ。
見ず知らずの男に組み敷かれる屈辱を、恐怖を思い出すとぎゅっと無意識に手を握り締めていた。
微笑みを浮かべながら、殺意を溢れさせ、歩み寄る彼女をかける言葉も持たず見つめて。
■リーゼロッテ > 「……私以外にも居たのかな、戦争に引っ張り出すために、邪魔になるからって、大切な人を殺されちゃった人」
大変な思いと言われて、脳裏に走馬灯のように記憶がよぎる。
初めて人を殺した嫌な感触、強引に技術を転用しようとして使い切る前に戦死する仲間を見る絶望。
何より、父が死んで教会を維持するために仕方なく鮮烈に加わった事自体、国の仕組んだ出来事と知った瞬間の激昂。
今はもう、感情を浮かべることもない過去に変わったが、無意識のうちにボソリとそんなことを呟いていた。
炎については肯定するように頷き、そして心に巣食う闇を語る。
否定できないと語る彼女に、嗚呼と納得した様子で苦笑いを浮かべた。
綺麗事を並べるわけでもない、そうだと安易に同意するわけでもない。
理解は出来ども、頷けない。
素直な答えに苦笑いなのに、何処か嬉しそうにも見えるかも知れない。
そして、ぎゅっと握り込まれていた掌に、小さな手のひらを重ねていく。
すると、周囲のカラスたちの鳴き声が声に変わるのが聞こえるだろう。
魔族を殺せ、咎人を殺せ、闇を焼き尽くせ、黒い存在全てを殺せと喚き散らすカラス達の輪唱は、封印された理由でもある。
過激なほどに闇を屠る事を望む声を聞かせると、すっと掌を離す。
「……もしルークさんが、私と同じ気持ちになっちゃったら、この子達の声が聞こえて、いろんなものを恨むようになっちゃう。人がリトルストームの子達と契約するって事は、それだけ真っ白で……簡単に真っ黒にもなれちゃうって、お姉ちゃんが教えてくれたの」
翼を得ると同時に、闇からの囁きに招かれてしまう危険性を語る。
忽然と消息を絶った理由、それはこの暗闇を外に出さないため。
自分の身に起きた闇を知っているからこそ、同じ道を辿ってほしくなかった。
うるさく鳴き声を上げる鴉達に静かにしてと小さく呟くと、鳴き声はピタリと止んでいく。
俯いたまま、少しだけ肩が震える。
目元に滲む雫で視野がぼやければ、グシグシと片手で目元を拭った。
■ルーク > 「………。」
戦争とは、非情なものだ。
恐らく、彼女と同じように戦争のために大切な者を奪われた人は数多く存在するのだろう。
ぽつりと零された呟きを、肯定することも否定することもルークにはできなかった。
彼女へ返すための言葉を持たず、肯定することも否定することもできないルークの答えに、彼女の微笑みがどこか嬉しそうなものに変わった気がした。
ぎゅっと強く握り締めていた手に、彼女の小さな手が重ねられる。
その手はとても暖かいのに、彼女の抱く殺意はとても冷たい。
手が重ねられると、カァカァと鴉の鳴き声に混ざって人の声が聞こえ始め、やがて全てが人の言葉へと変わっていく。
闇を全て焼き尽くせ、全て殺せと喚く鴉たち。
果たして、闇を全く抱かない人間など存在するのだろうか。
過激なほどの鴉たちの声は、ほんのわずか人が抱く闇さえも許さないように聞こえる。
その過激さが故に封印されたのだと、本能が感じ取る。
「…貴方には、ずっとこの声が聞こえ続けているのですか…。」
闇を殺せ、と耳に聞こえる声に羽から感じた胸の痛みを思い出す。
この少女は、こんなにも冷たい声をずっと聴き続けているのだろうか。
小さな華奢な肩が震えている。
この闇の痛みと冷たさに――震えているように見えて。
震えるその肩にそっと触れて。
「心配してくださり、ありがとうございます。……私には、今まで自我というものが殆どありませんでした。暗闇も光もない私に、感情を与えて下さり光を指し示してくださった方がいます。その方がいれば、私は…きっと闇に惑うことはないと、そう思います。」
白いから容易に黒に染まってしまう。
同じ道を辿らないようにと、気遣ってくれる少女にルークはそう告げた。
光を教えてくれたその人が、闇の方へと進まない限りはその人の方を見続けていれば闇に引きずり込まれることはないと、確信があったから。
■リーゼロッテ > 義兄と同じ答えを告げた彼女に、安堵していく。
否定し、綺麗事を並べたなら、自分と同じように一つのキッカケで暗い場所へ転げ落ちていく。
しかし、理解を示した彼女には、確りと自分自身の心が掴めているように思えた。
今は自覚はなくても、心の言葉に耳を傾けられるように。
「契約を繋げちゃうとね? 元々はザム君っていうリトルストームの子だけと契約したんだけど、皆死んじゃえーって思ったら…それでこの子達の封印とけちゃって…繋がっちゃった。今は素直になろうって思ったから、切り替えられるの」
右手の甲を見せれば、そこには鴉の羽を象った紋が浮かんでいる。
力を切り離すと、それは輪郭だけを残して消えてしまう。
こうなればけたたましく鳴いていても、その声は鴉の鳴き声にしかならない。
こうなるまでに一悶着あったのもあり、ちょっと大変だけどねなんて苦笑いを浮かべてごまかしていた。
「……だからだよ? 私は…リーゼは、怖いの。お兄ちゃんみたいに真っ直ぐだから、お兄ちゃんに何かあったら…ルークさんがリーゼの時みたいにならないかって、不安になる。そうやって、素直だから…」
義兄の傍で、義兄がそこにいれば、そう語るからこそ怖い。
肩に触れられると、ぽたりと頬から涙が伝い落ち、頭を振り、そんな心中を吐露する。
そうそう死なないと聞いているが、何かあったら?
彼女が自分と同じように何かを恨んで暗い場所に落ちてしまったら?
不安が渦巻いていく中、すんと鼻を鳴らすと少し赤くなった瞳で彼女を見つめる。
「何かのはずみで…心の支えから無理矢理突き放されちゃったときに、この子達を呼び寄せかねないから…絶対、気をつけてね? ――…あとお兄ちゃんには死んだら、追っかけて平手打ちするって、言っとく」
その心配の種は、義兄が死ななければ起きることはないはず。
冗談っぽい言葉をつなげて、苦笑いを浮かべて気持ちを切り替えると、はふっと深く深呼吸を一つ。
「……リトルストームの子達がいる谷があるから、契約を結びたいなら、お兄ちゃんとそこに行ってくるといいよ。私は…この子達がいるから、入れなくなっちゃったから」
そういって指差すのは鴉たち。
隼とは仲が悪いのか、困ったように笑いながら呟いた。
■ルーク > 「そうですか…。人の言葉で聞こえる声は、とても冷たく胸が締め付けられる心地がしました。切り替える事で、その声を聞かなくて済むのであれば少し安心しました。」
闇を滅ぼすための言葉は、闇と同じくらいに負の感情が強く感じられる。
少しの間聞いていただけで、胸が苦しくなるようで聴き続けていれば彼女の心が壊れてしまいそうだ。
否――恐らく、彼女は一度心を壊したのだろう。鴉たちの声は、壊れた心に更に鞭打つかのように聞こえて。
切り替えられるようになったのだと、誤魔化すように苦笑いを浮かべる彼女にそれ以上問いかけることはできない。
「……そう、かもしれません。虚ろな私を満たしてくださっているあの方に何かあれば、私は正常ではいられなくなるかもしれません。」
虚ろなルークという器を、暖かなもので満たしてくれた彼がもし消えてしまえばきっと彼女の危惧する通りになってしまうだろう。
だから――
「だから、全身全霊をかけてあの方をお守りいたします。」
光を見失わないように、翼を手に入れて風のように飛び去るあの人を追いかけ続ける。
冗談めかした彼女の言葉に、主にしか分からぬ程度微笑を浮かべてひとつ頷いてみせた。
「分かりました。…その、ザムくんという隼とあの鴉たちは平気なのですか?」
リトルストームと鴉たちは、相容れないものがあるらしい言葉に彼女との契約が続いているらしい隼は平気なのかと浮かんだ疑問を問いかけ。
■リーゼロッテ > 「あはは…確かにちょっとね、口開くと、あれを殺せだのあれを始末しろだの、物騒だから困っちゃう。いざとなったら、いい加減にしなさいって怒っちゃうから大丈夫だよ?」
過剰なほどに闇を憎み、閉じ込められた先が闇と光の境目のような薄暗い森というのも、なんとも皮肉なことだろう。
的中の通り、陵辱された先に心が砕け散ったこともある。
今こうして微笑んでいられるのは、砕けた場所に深く触れてくれた存在のおかげ。
そして、同じく大切なものを失った瞬間に壊れかねないと紡ぐ言葉に、だからと言いかけた声が飲み込まれる。
「……強いなぁ、リーゼはそこまで言い切れなかったから。ん? え~っと……すっごく仲悪いよ? こっちの子はザム君達のこと、伝書鳩の腰抜けって言うし、ザムくんはイカレ野郎って罵るし、もう最悪。だから谷に行くときは羽、持ってちゃ駄目だからね?」
守りきると言わんばかりの力強い言葉に、しみじみと彼女の意志の強さを感じて、感嘆の言葉が溢れる。
そして続く問いには苦笑いで困ったように答えた。
森の中には、リトルストームの気配は全くない。
■ルーク > 「強いですね。そして、とても優しい。」
いい加減にしなさいと、鴉たちに怒るのだと笑う事だけではない。
月明かりと静寂が包む薄暗い森の中で、一度は壊れた心を取り戻して微笑んでいられるのは誰かの手を借りたのだとしても、彼女自身の心の強さがあってこそだろうと思う。
そんな心の強さや、他人を気遣う優しさは彼女の義兄によく似ているように感じて。
「私の世界は、あの方を中心にありますから。…間に挟まれるのは些か骨が折れそうですね。分かりました。」
それは比喩ではなく事実。ルークの中の世界は、彼を中心にしたとても狭いもので彼に関連付ける事でのみ少しだけ広がる。
それは、彼の運営する集落であったり、その集落でであったミレー族の少女たちであったり、彼の秘書であったり義妹であったり。
お互いに険悪な様子なのを聞くと、間に立つ彼女の気苦労も知れる。
谷には羽をもっていかないと、しっかりと頷いて。
「また、会いにきてもよろしいでしょうか。」
彼女の義兄は、付けられることを懸念して彼女に会いに来ていないと秘書の少女から聞いている。
彼女の安全を考えれば、森に出入りする人間を増やすのはよくないことだろうと思いながらも、また会いたいと思った。
■リーゼロッテ > 「ぇ、ぁ、そ、そんなこと無いよっ、直ぐ泣いちゃうし、結局、他の人がやだってなって引きこもっちゃってるし」
不意に褒められると言葉がどもり、薄っすらと頬を赤く染めながら、とっちらかった言葉で謙遜してしまう。
真顔で唐突に褒めてくることがあった義兄と、同じような不意打ちに、やっぱ似た者同士だと思いながら、頬の熱を冷ます。
「ふふっ、これでもっと長い時間近くに居られるね? もう慣れちゃった、だけどルークさんがリーゼみたいに折れちゃうと同じ苦労味わうんだから、気をつけてね?」
甘ったるい会話が念話から聞こえた時のように、真っ直ぐな想いに、クスクスと微笑む。
ひっそりとその中心の中に自分が含まれているなんて、思うこともなく…ただ、あの突っ走りすぎる兄についてきてくれる、いい人だと思いながら笑みを深めた。
だからこそ、念押しのようになる言葉は、心の底からそう思うがゆえ。
びしっと指差し告げるものの、笑みは変わらず。
「勿論! だってリーゼのお姉ちゃんになるかもしれないんだもん」
兄と結ばれることを想定した答えをしつつ、コレ以上の立ち話も何だからと小屋に招き、お茶を楽しみながら今度は雑談に花を咲かすのだろう。
観葉植物に満たされた小屋の中は、外とは違い緑が多く、心地よい香りの中、楽しいひと時が過ぎ去っていった。
■ルーク > 「………。」
褒める言葉に頬を染めながら、慌てたように必死に謙遜する彼女の様子に言葉を重ねるでもなく見つめる。
微笑ましいと思って、頬の熱をさまそうとするのを見つめているがやはり表情の変化としては殆どない。
「――…そう、ですね。風のようなあの方を追いかける事ができるのは、とても嬉しく思います。重々気をつけるようにします。」
クスクスと微笑みながらの言葉に、むず痒い恥ずかしさが胸の内に溢れて微かに頬を染めながら嬉しさをにじませる。
びしっと指差すようにして、念を押す言葉はその裏に自分と同じようになってしまうかもという不安も感じられて、しっかりと頷いて応え。
「お姉ちゃん、ですか…。……どう、でしょうか…。」
彼と結ばれることを想定した答えに、きょとんとした表情を一瞬浮かべたあとその意味を察して頬を微かに赤らめた。
彼女の住まう小屋に招かれ、観葉植物の緑に囲まれながら彼女と団欒のときをともに過ごして。
ご案内:「森の中」からリーゼロッテさんが去りました。
ご案内:「森の中」からルークさんが去りました。