2023/05/05 のログ
■影時 > 「……そーだなァ。俺を骨抜きに出来る位になってみるか? というのはいつか、近くの先の未知に望むか。
俺だって正直想像はつかねェが、だが、まだ知らぬ何かを見に行くという欲はな、病みつきになっていると言えるかね。
特定の学級を持っていない、掌握してない、非常勤だから些少は余裕があるってだけだ。
貴族の子女を集めたやら、混ぜこぜの学級を預かっている常勤の連中は大変そうだというのは、嫌でも耳に入る」
教育機関の面倒事は、預かる生徒が増えれば増えるほど、何かと大変になる。
しかも貴族や王族の子女など、背後となる身分が厄介になる分だけ、面倒を増すのは嫌でも目に見えている。
そういった諸々を和らげるため、さらには専門性のある科目を分担できるよう、特別講師や非常勤の講師を集めているのだろう。
元々は属する冒険者ギルドからの依頼だったが、受け持つからこそ手を抜かない。手を抜けない。
根っからの仕事のスタンスかもしれないが、手を抜いたらどうなるか、というのが想像が容易に出来てしまう。
教える武力、武技は己を生かしもするし、他者を殺しうる。
教えることのストレスに耐えかねる以前の、役得狙いも居るのは良く知っているが、教えなかったことで死なれるのは――目覚めが悪い。
「並行進化、または、ぁー……収斂進化、などとも言ったか?確か。
醸すための種がどこも同じ、とも限らン。
例えば、酒の類が良い例か。酒の神様とやらに感謝する位に何処にでも在ってくれるが、風土が違うと矢張り微妙に違う。
あー、そうそう。ボーズ、パオ……何だったか?何かそんな発音の奴だ。
挽肉を餡にして包んで、蒸したモンだったが、あれは程よく腹が膨れたなぁ……」
例えば麦酒の類は行く先々で見かけた、味わったけれども、土地と気候が違えば、その味の楽しみ方も違う。
温くても構わずに呑むことに慣れていたが、凍える位に冷やして呑むやり方はこの国で知った。
同じものがあり、同じ作り方に開眼し、気づけても、美味しく呑む方法はどこも同じではない。
その差異、ずれを楽しむものが居れば、学究的に吟味するものも居る。これもまた、同じではない。それでいい。
諸々に思いを馳せる余地を愉しめることに、旅の醍醐味だ。触り程度でも、実際に経験することがどれほど大きいことか。
その意味でも、今回の茶席で思うものは己でも多い。
「全員を知っているというか、把握できているワケじゃないが……そうだな。
フィリ、お前さんも含め――良きにしても悪きにしても、ひっくるめて色々と体験は多いコトだろうよ。
ああ、そうとも。
仮にやるとして、作り方を教えるコトになンだろうが、どれだけナニができるかどうかを試さなきゃ話になるまい」
長時間の煮炊きができるから、という点もそうだが、何よりもこの屋敷には道具が揃っている筈。
そう踏んだからこそ、朝早くから厨房の一角を借りて、茶菓子の仕込みに掛かれたのである。
許可状含め、使用許可を得たうえで学院の教室で同じことができるか否か?
材料の確保もそうだが、これもまたネックになる。使うとなるのは、食堂ではなく実習室の類であろう。
簡単な煮炊きだけではなく、欲を言えば、炭火で炙り焼けるような器具類があるかどうかも、気にかかるところ。
「……――だろう、なァ。いやまぁ、その分の責任も果たさなきゃならンか俺も。
篭りっぱなしなら遅かれ早かれの感もあるが、
巣も住処もいずれは自分でどうにかしなきゃならん、と放り出される恐れもある。
であれば、あぁ、勿論だ。その前準備の意味でも――経験を積む機会はぬかりなく用立てる」
旅先でどうこうは抜きとして、身に着けた諸々を確かめる、実践する、そしてその重みを知るのは、必要なことだ。
そう考える。ご褒美はその重み次第によるにしても、からかいは抜きにして真面目に顎を引いて応える。
ここの女主人のことだ。篭りっぱなしでも居られる位の庇護は、己が頼むまでもなく為されるだろう。
だが、それが何年、何十年も続くのか――というのは、世間体というものも出てくる。
同じ今が永遠と続くわけがない。女主人と、もう一人の親も。いずれはその点の考慮をせざるをえない恐れがある。
それらに備える、危惧させない意味でも、自身で立つ、自立、自活するきっかけはあればあるだけ、きっといい。
「砂糖も海塩も、煮詰める過程は同じの筈だからな。“びぃと”とやらもやはり同じか……。
上白糖の類は知ってはいるが、正直贅沢品でな。ふんだんに使う機会なんぞ、この国に来てくらいしかなかったぞ。
高くても十数ゴルト程度で納められる、いや、其れでも高ぇか? その辺りも歩き回らなきゃならねぇか。
――次は、そういう食べ歩きもイイかもな。
お粗末様でした、と。たまにはこういうのも愉しいもんだ。まだ残ってるし、片づけたら皆で、というのもどうだ?」
代用品もそうでないものも、何にしても工夫は欠かせない。
穀物だけではなく、芋の類を使うかなども考えるにしても、やはりキモとなる米を抹茶と同じくらいに外し難い。
敵情視察というには言い過ぎではあるが、喫茶店巡りというのも、遣ってみるのも良いだろうか。
そう思いつつ、頭を下げる姿に目尻を下げ、声をかけながら微かに口笛を鳴らす。
そうすると、先ほどまで少女とじゃれていた二匹の毛玉が親分がお呼び、とばかりに、つてて、と男の肩に上る。
頭にチョコンと乗せた帽子めいた布飾りを落とさないようにしつつ、頭を下げる姿を確かめ、空を仰ぐ。
茶菓子も残っていれば、違う飲み物での味わいを確かめてみるのも良いだろう。そんな気がして。
■フィリ > 「それはまた――大変に。難題だと思われます。寧ろ、こぅ――笠木様が、そのよぅになる……人物像?女性像?とぃぃますのが。
正直未だとてもとても、想像だに出来そぅにぁりませんし――。
そぅぃった面では。ジュニアスクールの方が大変…だと、伺ってぃます。ワンオペの部分が多すぎるのだ、とか。
とはぃぇあの学校でも、それはそれとして、気苦労はぁられる筈ですので。日々お世話になってぃます、生徒としては――とぃぅ事で」
そう、普通の学校との違いとして。本来生徒を預かるだけでも、教師にのし掛かってくる責任に。
やんごとなきご身分だとか良い所の子女だとかといった、更なるオプションが追加されてくる。
数故の苦労が少ないとしても、それはそれでまた別の心配事やら気苦労やらが。きっと渦巻いている筈だ。
加えて実習ともなれば、クラスや身分を問わず混合で、現場や担当教員の下に集合して行われる事も多いのだろうし。
勿論、例え生徒の家柄が高くはないのだとしても――危険な目に遭わせたり、怪我等を負わせたり、というのは。絶対に避けるべき、懸念事項なのだろうから。
…今し方親の苦労を、身につまされて考えたばかりだが。彼も彼で、大人として、色々と背負い込んでいる筈だ。
それに対して、子供の側が、頭の下がる思いに駆られるというのは。きっと当たり前の事なのではないか。
「です、はぃ。同じ食物、食性…を辿る上で。異なる種に、近似した発展が見られた、とぃぅ事でしょぅから。
……イースト菌等ですと、比較的、広域に分布してぃるのですが…それでも確かに。或いは水質等、他の原料にも影響されるの、ですし。
ぉ、ぉ酒に関しましては。申し訳なぃのですが、判別ぃたしかねるのです――流石に。ご相伴にぁずかる訳にも参りません、ので?
包んで、蒸したり焼ぃたり熱したり――も、また。万国に共通する調理法…です、はぃ。此方ですとパイ包み等が当て嵌まるのでしょぅか。
勿論実物に関しましても、ぇと…昨年辺りはブームに乗って。屋台が出たりしてぉりましたので。
非常に美味しかったのですが――猫舌には辛ぃ代物だった、とも。記憶してぉります」
お酒は大人になってから。これ大事。
例えドラゴンであろうとも、アルコールの魔力には充分警戒せねばならないのである…実際。正に彼の故郷ではなかったか。
山のように巨大な、数多の頭と尾を有する大蛇ですらも。酔っ払ってしまった所で首を刎ねられた――等という。身も蓋もない神話が伝わっていたのは。
もし、付き合え、と仰るのであれば。申し訳ないが後十数年は待って貰う事となりそうだ。
竜の場合も、熱い物が苦手な舌は、猫舌と呼ぶらしい…どうでも良い豆知識。
窯側面に貼り付けて焼く熱々の…というのも。胡餅だのピッツァだの、複数存在しているのではなかろうか。
食文化の発展が並行なのか収斂なのかはたまた定向なのか。それだけで文化人類学の論文が書けたりするのか…しないのか。
少々魅力的に感じもするテーマだが。流石に、其方に人生を掛けてしまうと魔術を修められなくなるだろうし…
今の処少女がなりたいのは。その魔術を以てして、商会の役に立つ職業である。
そういう意味では。就学中に、商売の勉強をするという意味でも。今回の企画は、良い実習の機会となり得るのかもしれず。
「実の所私も――はぃ。同じ血を引ぃてぃても尚、私自身…全て、把握出来てぃるとは。とても言ぇませんので。其処は仕方御座ぃません。
…私は。私は、色々と不安定で、不完全で――ですが。このよぅに生まれたぉ陰で、生まれながらに、学ばせてぃただぃて…ぉります。
ですので決して。悪ぃ事ではなぃのかと。
は――ぃ、教わったところで、それを実践出来る環境がまた、必要となりますし…流石に。
流石に笠木様に、DIYまでご教授ぃただく訳には……ぃぇ、アウトドアなら兎も角。設備的な事柄ですと、馴染みの業者様とぃぅ物がー――」
この屋敷で出来た、という事は。同じような厨房設備が、学院に有れば、という事になるのだが。
格式高く古式ゆかしい、伝統有る学院のお歴々が。利便性と由緒ある調度とを天秤に掛けた場合、どちらを選んでくれるやら。
後者を確実な物にするのなら、どれだけの説明を要するか――或いは。幾ら、積むべきか。
そして、許可が得られたとしてもそれはそれで。改装にも当然、先立つ物が必要となるのである。
こういう事は商売の伝手を頼って活かして、屋敷のあれこれを何時も治してくれる、昔馴染みの業者を招くべきだろう。
仕事のコネという奴は大いに活用すべきなのである――まぁ、当然の事ながら。少女のではなく、リスの…トゥルネソル商会の、ではあるが。
「その上で。私に、出来るか否か……何処まで出来るのか。ぅー …ん…検証の必要が有ると、思われるの…です。
いただく側とぃたしましては、一家言ぁると自負も出来ますが。提供する側とぃぅのは――む。ぅ。
では、はぃ。次に彼方へ赴きます時は――試させてぃただきましょぅ。別荘の管理人様に、ぉ台所、ぉ貸しぃただぃて。
そこでご教授ぃただぃて……自分で。どの程度の調理でしたら、どぅにか出来るのか。私自身大変気になってまぃりました…ので。
………ちなみに。上手くぃかなかった場合は、ぇぇ――と。ご褒美抜きなどとは言わず、ぉ手柔らかに、ぉ願ぃ出来ましたらと」
あくまで、同じ家の別荘である。遠出ではあるものの、旅――と言える程の物ではないだろう。
それでも少女にとってはなかなかの長距離移動且つ、まだまだ馴染んでいるとは言えない移動先。
とはいえ数少ない、家族から離れた出先、という事にもなる訳で。
彼が学院の調理場で試してみるのなら。それを踏まえて少女の方も。どれだけ出来るのかの自己理解が必要だ。
教わったら何処まで出来るのか…経験を実践出来るか否か。いつまでも食べる専門とはいかないだろう。
そう考えればあの別荘は。屋敷程ではなくとも、それなり以上の調理設備は有るだろうし…何より。いざという時、周囲への被害が少なくて済む。
何やら魔鎚の実験の為に選んだ、その際と同じ位の警戒を抱きつつ――どうか。爆発して黒焦げになったりしても、からかいは無しにして欲しいと。
その辺もまた割と。少女としては――真面目に心配しているのかもしれない。
「――澱粉質…糖液の精製から、と言ぅのでしょぅ。はぃ。甘さの滲み出した後の身も――飼料等となるそぅです。
…基本の結晶化から後の過程は――正直、長さや回数の違ぃ、が大半です。人件費、なのです。
色がやや残りますが、その過程が少なぃ甜菜糖でも。値段を抑ぇるのでしたら、充分なのではなぃでしょぅか。
――ぅぅむ。外のぉ店は。リスぉ母様然り、姉様方然り…口コミで、色々と。事前に当たりを付けられると、思われますので…是非。
では――ぇぇ、私も。ぉ手伝ぃぃたします。ひょっとすると、ラファルちゃん様達が、愉しみにしてぉられるかも、ですし――」
きめ細かさと…それ以上に、上質の砂糖イコール白というイメージが。上白糖の値をつり上げている気がする。
実際に甜菜糖だとかきび糖だとか。黒砂糖だとか。それでもしっかり、美味しい物は作れる筈だ――調理法次第で。
とはいえ、材料の過程と調理の過程。前者が減っても後者が増えては、結局値段を抑えきれない。
如何なる料理にも菓子にも――正当で相応なコストが求められるのである、と。かつて魔術で無から甘味を生み出せないか、真剣に悩んだからこそ断言しよう。
と、いう事で――女子学生達相手に凌ぎを削る、スイーツ市場の最前線。敵情視察は大歓迎だ。
もしかするとそれこそが、確かな「ごほうび」になるのかもしれないと。そんな期待を抱きつつ――今は。
彼の纏めた荷物を、壊れにくそうな物中心に少しばかり預かり、屋敷へ戻る事としよう。
二人と二匹で、そろそろ火の傾き始めた中庭を後にすれば――まだまだ、穏やかな時間が続く事となる筈である。
ご案内:「中庭」からフィリさんが去りました。
ご案内:「中庭」から影時さんが去りました。