2023/05/01 のログ
影時 > 「不思議というか、腑に落ちねえ――或いは俺の知っている道理に合わねェ、といった具合かねえ。
 かといって、十把一絡げに気に入らンとこき下ろすのは遣らねぇコトにしてる。
 
 ……――偉い人、かねぇ。そこまで大それたモンでも何でもないと思うが。
 ただ、物を知っているだけよ。その物の価値に値を付けられるもの、値千金と思うものがどれだけ多いか、だろう?
 
 あー、気にすンな。暫く旅の休みの間に居た処でもあったが、一言で説明し辛くてなぁ……。
 小麦粉を練って平たく焼いた麺麭につけたり、香辛料で色付けした米を合わせて食ったりとか、色々あったのは覚えてるぞ」
 
差異のつけかた、気づき方は色々である。
だが、一番容易なもの、感じ方は平たく言えば、自身の価値観に照らし合わせてのずれからだろうと思う。
――こうするのが正しい筈なのに、どうしてそうすることがここでは是なのか。
其れに大声を張り上げて異を唱えるものが居れば、一旦飲み込んで吟味するものも居る。個々人次第だろう。
忍びは必然的に後者にならざるを得ない。わざと奇矯なふるまいをするのも、それは相応の目的、必然性を呑んでのことだ。

細身の剣が流行り出す、使われ出すようになるのは冶金技術の向上も加え、戦い方の変化もあってのことだ。
護身でも何でもない、実戦前提の細剣は当初見た目で思ったよりも強靭に作られていることを、調べて知った。
魔法を使う、併用する戦い方をする使い手にはその方が都合がいいなど、用途は思わぬところにもありうるのだ――等々。

さて、そんな忍びの旅も若しかすると少女が思っていた以上に広く、長いものかもしれない。
海を越え、乾季と雨季の落差が激しい地を進んだこともあれば、砂の海を横切ったこともある。
旅の知見での気づきの大事なことは、先入観を持ちすぎない事に大いにある。
故に向こうの考え違い等もあるならば、それを叱責はしない。名を知った料理も、色々あったなぁ、と思い返して。

「どうしてもそうなるわなぁ。……いや、一年越しとか言ってしまえる、考えられる時点でも大したものと思うンだが。
 なんだかんだで、商会もそっちの家も気づけば色々世話してもらってるよなァ……。
 趣味が合って、なおかつ、色々と意見も金も出してくれそうな奴とか、か」

声をかけてくれるならば、話を通してくれるのならば、この機会を設けた身として手を貸すのは吝かではない。
とは言え、後見人はいても頭数が足りず、活動が成り立たない部活動というのは、学院を見回せばよく目につく。
せめてニ、三人くらい。多すぎてもいけないし、少なすぎても難しい。
現状、男も当てがないとなると、難しいなぁとそっと息を吐き、茶で喉を漱ぐ他なく。

「大変結構なことだ。
 “ふぃーるどわーく”といかなくとも、体力がついていて困ることは何一つない。
 ……寧ろ目が冴え過ぎて、無理くりに眠ろうとするのが逆に身体に悪い。
 
 そうだな。
 例えば、模擬戦を何本かこなしたら、或いは一つ仕事をこなしたら、ごほうび――というのはどうだ?」

冒険者の真似事のために外に出るのは、いずれはとは思うが、まだ不安が抜けない。
だが、いずれはと先送りにし続けるのも本人のためにはならない。
まず思うのは、安全を図ったうえでの一、二歩踏み込んだ強度の稽古が頃合いだろう。
本人の希望は尋ねるが、或いはそう。同伴前提で駆け出し向けの冒険者課業の経験に触れてみるか。
想定としてはまずこのあたりか。そして、勿論。飴と鞭を忘れてはいけない。この場合の飴とは、何か?
齧歯類二匹が異種との遭遇よろしく、指先と前足二本を伸ばして触れ合う姿を眺めつつ、尋ねてみよう。

「何だそりゃ。……初耳だな、今度聞かせてくれ。

 食堂やラウンジで聞き耳立ててると、嫌でもその辺り聞こえてくンだよなぁ。
 どこそこの茶店の紅茶がおいしいとか、菓子屋の持ち帰りが何ゴルドでとってもお手頃!とか色々とな。
 
 凝ったものを作っても、それが必ずしもウケるとも限らなくてなぁ……。高いものは高いんだぞ」
 
とりあえず、まだ入手できそうな、または質が悪くともひと手間かけることで改善出来るものを取っ掛かりとしよう。
そう決める。無いならないで工夫する、代替品を考える、模索するのは慣れたコトである。
抹茶の入手に金がかかるのはどうしようもなくとも、添える一品をどうするか、から始めるのが良いだろう。
男も何かと茶店やら喫茶店など詳しくなってしまうのは、様々な声を職業柄拾うに慣れているからだ。
お粗末さまで、と。茶器を戻す様に改めて足を整え、会釈をして空になった茶器を戻そう。

――今回ばかりではなく、何かと使うことになりそうだ。そんな確信を覚えつつ、最低限そろえた道具類を眺めよう。

フィリ > 【継続いたします。】
ご案内:「中庭」からフィリさんが去りました。
影時 > 【次回継続でー!】
ご案内:「中庭」から影時さんが去りました。