2022/08/21 のログ
■影時 > 「ははは、そう言ってくれると……報われるのかねぇ、色々と。
忍者の流派も――色々ある。こっちに来て近い術者の使い手の邂逅はしたが、あれも生半なものじゃぁなかったな。
一朝一夕に成れるものではない、と。それを伝える意味でも、その手の口上やらはアリ……か。
……教師になれば、貴族の子女でも手籠めにしてどーこーとか思う手合いも、酒場で耳を傾けてりゃあったからなァ。
教師らしい恰好、か。一通りそろえられなくもないが、羽織袴の方が剣を教えるときに楽なんだよなぁ」
伊達メガネでもかけて、上下一揃いの相応の格好で身なり整えれば、いっそうらしくは見えるのだろう。
そうやって外面を整えて、敵地に潜入することもまた、忍びの手管の一つでもある。侍らしく装ってふるまうこともまた然り。
常勤の教師となると、学級を一つ受け持つばかりではなく、諸々の折衝やらトラブルの対処などにも駆り出されることは、想像に難くない。
ともすれば、どこそこの貴族の家柄の私にたてつくか――みたいな下らない厄介事は、何よりも願い下げだ。
ゆえにやはり、妥協点はおのずと見えてくる。絞られてくる。
向こうが望むなら、機会を作るならば、最初の冒険――のお手伝いは出来るだろう。
「……やはり、か。
良く知ってるなぁ。神変魔変。妖怪変化。そういう手合いだな。
実際は同じもの、同一のものであったも、土地が変われば呼び名や扱いが変わる――とか云うやつのと似てるな。
いいぞいいぞ。そーゆー話は、嫌いじゃねぇのさ。考える余地がある話は思いを馳せる価値がある」
土地が変われば名前も、ルールも、法則さえも違う。土地の管理者、神などが違うからそうなのか、どうなのか。
他所の島国での出来事はまだ己がこの地に至らぬがゆえに知らないが、強き大妖との邂逅と封滅など、上位存在に肉薄するような戦いの経験はある。
ともあれ、彼岸と此岸の境目を超えるかの如く、別世界めいた土地から鍛造された産物を運ぶことに己は至った。
その責を問う、と言われた日には困る。だが、そういった行いが何を生むか、見届けなければならない。
「ほほう。二人きりの時の方が、ね。部屋の中でする方が好み――、っ、はは。好きなんだなぁ、そういうの。
金工品は確かに、な。だが、工芸品も色々あってな。
たとえば、漆器というのは知っているか?削り出した木地に漆という樹液から作り出した塗料を塗り重ね、磨き上げたものだ。
塗料となる樹液、またはその加工品の当てがない場合、こっちでは新造はできねえだろう。
その手の材料の入手の経路が限られるシロモノというのは、”あふたぁけあ”というのか。其れができるのも、商機のキモと思う」
撒いた火種にしっかりと反応し、火がついてくれる様に脳裏でメモをしながら、くつくつと両肩を震わせる衝動を抑えられない。隠さない。
こっちのほうがちゃんと声が出てるような素振りは、何が所以なのか。吃音だからと考えるのは、早計であると思うのだ。
刀剣類の研ぎもそうだが、作り方がこの地では一般的ではない工芸品の類もきっと多い。
直ぐに思い出すのは、塗り物の類だ。現物は見たことがあるかもしれないにしても、どうやって作っているかと聞けば首を傾げることだろう。
最近作成を依頼した短刀の工程にも、同じ漆を使う個所がある。そういうものを仕入れるのもまた、翼があってのことか。
「加減は、ここ数日で練習すればおのずと見えてくるだろう。否、見えてくれねェと困る訳だが。
振り回し方については、この槌ではなくさっき渡した杖の操法を取っ掛かりに鍛錬すれば、嫌でも身体に染みつくことだろうさ。
――寧ろ、槌とかの材料の採掘場でもあった場所だと、霊体が基礎の種を働かせて、干上がらせたようだな。ある種の死刑執行代わりだ。
学院の生徒でそんな身体の奴が居るとしたら、よっぽど特殊な事情か、悪意を持った何某かと思うがね、俺は」
学院の生徒も色々だ。知っている限りの人間(?)は特殊過ぎるが、そうでないものが大半である。そう思いたい。
ともあれ、霊体や精霊のようなものが、偽って、素性を隠して通うというのは、どれだけ特殊な事情か。または、何かの意図によるものか。
故に、そこまでの心配はそうそうないだろうと諭してみよう。
引き寄せ以外で大地を叩くというのは、奥の手にとどめておけば、万一の際の心配はきっと薄い。
「……そこまで心配してくれなくてもイイってのに。
その分だけ、夜に――というのはさておき、だ。……まずはやってみせろ、フィリ!」
そういったリスク、消耗を覚悟のうえで請け負った訓練だ。疲弊位で済めば安いものだ。
隠す努力を怠っていた己が悪い。ったく、と口の中で零し、本気ともつかぬ冗句で誤魔化すのも束の間。
遂に槌の先端が地に押し付けられ、――声がする。少女としての声ではなく、それはまるで竜の言葉を発したかのような響き。
(――ッ!)
瞬間、大地がさざめき、潮が引くように何かが、活力が抜けてゆくのを分身のうち「7体」から感じる。
力を抜かれたものはがくりと身を揺らし、膝をつき、少女に近い場所に陣取っていたものは身体を薄れさせてさえある。
だが、残る1体はそうではない。魔力収奪の作用を阻む白い着物を羽織よろしく纏ったものは、健在を示すように拳を掲げて見せる。
次いで、ぱっと飛んで少女の後ろに回り、スカートの下の尻肉を撫でるように触れようとさえしてみせようか。
■フィリ > 【継続になります】
ご案内:「山中の別荘地」からフィリさんが去りました。
■影時 > 【次回継続にてっ】
ご案内:「山中の別荘地」から影時さんが去りました。