2022/08/20 のログ
ご案内:「山中の別荘地」にフィリさんが現れました。
フィリ > 【お約束待ちです】
ご案内:「山中の別荘地」に影時さんが現れました。
影時 > 「一気に運べる量についちゃァ、馬車の集団や船で運ぶには劣るにしても――足が速いからなぁ。道にも困らンし。
 引率してやる分には構わんといや構わんが、ちぃと覚悟決めなきゃならんか。
 ……兵法者やら、武芸者だとも誤魔化し続けるのもいよいよ難しくなってきそうだ」

学院外での引率というのは、少なくとも軽く考えられる仕事ではないだろう。
確認事項は多いが、属する冒険者ギルドから依頼されての特別講師ではなく、非常勤講師に鞍替えしての委任事項ともなるか?
特に山野で野外活動ができないというのは忍者としては問題だが、フィールドワークで想定される留意事項は本来のスタイルを隠して対処が難しいこともありうる。
忍びは忍びでも、己は帰属すべき一党から離れた抜け忍である。そのあたりをどうするか、曖昧にしつつ誤魔化すか。考えることは多い。

「成程。まァ、鋼鉄より優れた、珍重される素材として実際にそういうのは色々あるわな。
 あの素材――魔骸鋼石とか云ったか。あれの伝書、研究書については、雇い主殿に譲渡してる。頼めば見せてくれるだろうよ。
 それによると集いあったというよりは、元々そういったものを含んだ何かが埋もれて、変成を為したという可能性も示唆していたと記憶している。

 ……あれは俺にも驚きでもあり、痛恨沙汰でもあったな。
 だが、この性質は逆に言うとだ。フィリ、お前さんがその槌を使いこなすための一助にもなりうるだろう。
 その槌は魔力や氣を吸い、蓄える。蓄えた分に応じて硬くなるのは、云っちまえばオマケだ。素のままなら、それ以外は無いんだ」

弟子の伝え方が不明瞭だった点も、あったかもしれない。
だが、結果として預かっている者を負傷させたというのは、指導者としても痛恨でもあった。故に赴いた先で手に入れたものは可能な限り、解読に努めた。
手に入れた素材から出来上がった道具類と比べ、今指導する物が持つのは一つ図抜けた性質を持つ。
基礎固めが必要としても、速成として戦い方を覚えるには、その性質を活用するが最善だろう。魔力を奪い、吸い上げ、さらに蓄えた魔力を活用することが。

「……――はっはっは。そりゃァ、なぁ?衆人環視の上じゃ流石に言わんさ。

 いんや、礼には及ばんしその手の考え方も理解できる。
 俺が今持っている刀だが、故国では宝物として珍重したり、秘蔵するだろうものだ。経緯は違うにしても、扱いは似ているだろう?
 次第によっては人を斬ることなく、死蔵されることもあろうよ。其れを善きとするものも少なくない」

いよいよ首から上が沸騰して、湯気があがってもおかしくないような、危ないような。
得物を持ったまま頭を下げてしまいかねない様を制止する前に、止まってくれたことに安堵しつつ、肩を竦めて他言無用の旨に首肯して答える。
武具の類が本来の用途に供されず、保存、保管され続けることは誉れであり、善きこととする考え方はある。
名刀を佩くのは名誉でありステータスとしても、血を吸うコトなくあり続けるのは、持ち手の徳故と。
逆に言えば、一束幾らの粗製品だからこそ、気軽に使いつぶせるという考え方もあるが。

「抑えるというより、今の身の丈に合った活用法を開眼しきってない無ぇから、だろうよ。
 普通の打撃となる場合、さっきの杖で打ったと同じように手ごたえが堪えてろうさ。
 ともあれ、今体感できたように、その槌は使い手自身ばかりではなく、敵の力も奪って蓄えることができる。
 
 例えば、その槌で模擬戦をやるなら、相手を軽く叩いて魔力を奪って昏倒させる――なんてこともできるだろう。
 熟達するなら、蓄えた魔力を開放して敵を思いっきり吹き飛ばすことも可能、と。そう俺は見ている。

 次はその辺りも含めた試しだな。今から、分身を離れた場所に立たせる。そいつを”引き寄せ”てみろ」

力を抑えるというより、付き合い方が未熟ではないか。そう見ている。
力み過ぎる、緊張しすぎることで過剰な負担がかかるなら、その逆の手管を考案することで負担を減らすのは難しいことではない。
もっとも、筋を痛めたやら関節をひねったとなれば、マッサージなどのケアは必要だろうが。
さて、槌の用法の確認はここからが本番だろう。今己が把握している用法は二つ。そのうちの片方を、分身を使って試す。
見慣れぬものであれば恐怖となろう仮面を被った分身の一体が立ち上がり、離れた位置で身構えてみせる。
残る分身たちは一端、出現位置で跪いたまま待機する。実際に槌を振って引き寄せるなら、――想像以上に軽く引き寄せられるだろう。肉の身なきゆえに。

フィリ > 「はぃ。地形に左右されなぃ利便性は――常々、宣伝して参りたぃ所存です、と、思われます。
速度でしたら、其処は勿論、魔術による…とぃぅのが。何よりですが、これは未だ未だ。簡単にはぃかなぃよぅですし――
ぬ、ぬ。そぅぃぇば。忍とぃぅのは――ぉ国では、ともぁれ。此方で隠される必要は…ぁるのでしょぅか?
物珍しぃ等と見なされる事は、その、多々有ると思われますが…少なくとも。敢ぇて帰属を、求められる…とぃぅのも。無さそぅかと?」

遠く離れた場所同士、魔術によって繋ぐ手段は。叔母が研究している事案の一つ。
今はまだ…それこそ。儀式的に、設備手時に、入念な下準備を施された場所でなければ出来ないらしい。
逆を言えば、しっかりトゥルネソルの管理が入った場所限定、という訳で。市場独占も狙えるのかもしれないが…それでも、矢張り。
一度に運べる量だの、誰でも出来る訳ではないだろう、だの。まだまだ商用段階には程遠いのだろう。
…自分も研究の役に立てないだろうか、とか。むむむと呻いてしまうのだが…その侭。傾いだ首の角度が、更に肩へと近付いた。
此方の、師匠の師匠も。何やら考える事が有るらしく。聞き留めてみれば少女からしても、違う疑問を感じてしまうものだった。
――実際。異国の忍の立場という物を、いまいち把握しきれないのである。
祖国や、其処で仕えていた対象を離れ、異国に渡ってきた――その上で尚。例えば、迂闊に明かすと誰ぞに狙われるような事でも有るのかと。
流石に、それこそ物語の如く。何時何処までも抜け忍を追い掛けてくる追っ手の存在…というのは。あまり、現実的ではなさそうなのだけど。
それとも。他に、秘匿しておきたい理由でも有るのだろうか。

「ぉ母様から…竜胆ぉ姉様に渡ってぃそぅなの――です、はぃ。是非とも、拝見させて下さぃませ。
性質が…大元となった存在から、伝播とぃぃますか、感染と…も言ぇるのでしょぅか。土や鋼の肉体…でぁったものから。同様の、鉱物へ。
そぅ考ぇますと、なかなか。空恐ろしぃとも、感じてしまぃ…ます。

それでも、戻って来られたのですから。大変素晴らしぃ戦果だったのかと――思われます、素人意見、で。恐縮ですが。
ぇぇと。はぃ、其処は確かに。…私以外にとっては、重ぃまま。まして、魔力等を持たなぃ方には…少々華美な、鎚、以上の扱ぃは。出来なぃのでしょぅ。
逆説、それ以上の使ぃ方をされてこそ。硬さ等も活かされて――そぅ、ぃぇば。ラファルちゃん様が傷を受けた訳ですが――誰が、彼女に向けて。振るったのでしょぅか?
元の持ち主とぃぃますか。護り手でも居たのでしょぅか…その辺。全く聞かされてぃなぃの、です」

確かに、聴かされていない部分が色々と存在する。
今口にした通り。竜殺しとなった鎚だが、その原因についてすら。被害者側の一側面しか知らないのだ。
発見された場所についてすら、殆どが想像頼りである為に。こうして話がてら情報を得ようとしているのだろう。
勿論…そういった二次的な情報も。鎚について理解を深める、その一助となるかもしれない為に。

「…逆説、こぅぃった場、二人きり等、でしたら――ぅぅ。ぉ手柔らかにぉ願ぃしたぃ、と、思われ――ます。

ぁ、ぇぇ、はぃ、其処は正しく。思ぃ浮かべてぉりました。…笠木様のぉ国でも、なのですね。
此方の国でも、特に――刀は、はぃ。鑑賞に値すると見なす方が…特に、貴族様に、多ぃかと。
…技術。魔法でも、外法でもなく、人の手による術だけ――で、其処まで、鍛ぇられた鋼とぃぃますのは。それだけで人を魅了する――ぁ。ぁぁ、っと。申し訳ぁりません」

折角、夜の云々、と枕詞に付きそうな話題を制止しても。今度は武器についてだけで、色々話し込みたくなってしまう。
魔術についてと同じく、技術についても…その辺は。商家に生まれた性という物なのかもしれず。
間違い無く長くなってしまいそうなので、此処はぐっと堪える事にしたのだが…実際。刀や太刀の鍛造は。それだけで芸術に通じる物がある。
異国由来の美術品と見なされるのも、半ば必然というべきか。
勿論。使う事、利便性やコストパフォーマンスをこそ考慮し、突き詰めた量産品という物も。それはそれで理に適っているのだが。

――ともあれ。話を戻すなら。

「―――― 。 ……――!
其処は盲点でした、笠木様――確かに。確かに、ぇぇ、吸収と蓄積。其方がメインだとぃたしますと――
必ずしも。鎚らしく、使わなければならなぃ訳では、なぃ――とも。言ぇるのでしょぅか。
それこそ、先程の杖も――打撃用、でしたが。杖は魔術にも適して、ぉりますし…同じよぅに、考ぇて。

ぃぇ勿論。当初の予定通り。振るぃ方につきましても、勉強はさせてぃただくつもり――なの、ですが」

魔力云々が無ければ、何処までも鎚なのだが。それは裏を返せば――魔力絡みの本質をこそ、本領と成し得るという事だ。
必ずしも直接打撃の為に用いる必然性はなく。吸収と蓄積を。もしくは吸引と反発を。…そういった能力を持つ魔杖のように、振るっても良いのである。
だとすれば鎚として使いこなす練習は、頑張る必要があるのかどうか――いや。いやいや。其処も勿論大事である。
気力体力精神力、何れも有限であるように。魔力もまた同様だ。例え周囲から集められるとしても、無尽蔵に使えるとは思わない方が良い。
それに――こういった、人知を越えた特性は。あまり大っぴらにしない方が良いのかもしれないのだ。
矢張り、ちゃんと武器として振る訓練もしておこうと。閃きに全て持って行かれる事はせず、頭の一部は留め置く。

何れにせよ。身の丈に合った活用法、という彼の言葉には。実に納得させられる物があった。
物理的な未熟さと貧弱さは致し方ない、早々に打開出来る物ではないが。魔術の方は…寧ろ暴走しかねない位なので。
最悪。自分自身の過剰な力を、鎚に吸わせておくだとか。逆に、溜め込んだ力を自分の術に使うだとか。上手い事すれば出来るかもしれない。
その為にも、先ずは。振るい方の基本の次は――此の鎚ならではの、基本、なのだろう。

複数の分身達。その内一体が此方を向き、構えてみせた。先ずはその一体を上手い事引き寄せられるか、否か。
言われた言葉にこくりと頷き。無意識にへっぴり腰になりかけていた姿勢を、しゃんと正して真っ直ぐに。目の前へ鎚を構えるようにして…

「そ、それでは、やって……やって、み、ます。

――――"attract"…!」

普段の少女が使い易い、術に際しての、言詞。それに合わせて振られる鎚。
……実際鎚を振る必要はないのだが。其処は少女自身が、イメージし易いか否か、の問題である。
丁度釣り竿を振り上げ、掛かった獲物を引っ張り上げようとする。そんな動きと共に―― ぐぃ と。分身目掛けて働くのだろう。
”引き寄せる”、力が。

影時 > 「――ただ、ヒトならぬ竜でも働き過ぎが無ぇようにだけ用心だが、否、此れは俺が云うとこじゃないか。
 早く駆ける自信はあるが、何事も魔術頼みというワケにもいくまい。

 そこは個人的な事情、という奴だ。……今のところを考えるなら、今更拘泥し続けるのも現実的じゃねぇか。
 故国から追っ手が至った事例まではついぞ遇ったことがないが、もし仮に忍びの技を教えろとなると、な。
 俺が叩き込まれた通りの教え方をすると、――死者が出かねん。
 ラファルに伝授ができたのは、それこそ、竜に生まれたが不思議な位の素質を持っていたからに外ならん」

転移魔術の類は小話の類でも偶に聞くが、一般的とも云いうる手段ではない。
金持ちが遣るくらいの手段だろう。そう感じている。遠い地にある貴重だが大きな事物を速やかに運ぶなら、釣り合いは取れるか。
だが、そう。続く言葉を聞けば、それこそ色々な思いを噛みしめるように困ったような笑みが滲む。
迂闊に素性を明かせば、追っ手が出かねない懸念は確かに一つ。
この地に来て気づけば長いが、故郷から殊勝な、熱心な追跡者の類が至った、巡り合ったことは結果として、ない。杞憂にはできるだろう。

問題は忍術の伝授を乞われた際だ。
忍者の血統、生まれなど、素質者を育てる場合、または人買いから集めた子供たちを厳しい訓練を経て選別し、育てる場合の二通りのルートの記憶がある。
己は後者のルートで育てられ、忍びの力量を開眼するに至ったが、天性の素質者というのは、どれだけ居るのかという話だ。

「ああ、俺としてもそうしてくれると嬉しい限りよ。
 ……確か、そうだな。考察としての書き方だったが、肉を持ったイノチではなく、知性を宿した大地の”えれめんたる”が長じて魔王と成り、最終的に果てた後の骸が元であろう、と。
 故に魔の骸の鋼であり石と定義した、と。そんな具合だったか。

 っ、はは。褒めてくれるのは有り難いが、すまんすまん。そこからだったか。
 もともとその槌はな。動く石像が持っていた奴だ。守護者にして模擬戦相手なんだろうが。
 恐らく、その槌を活力源としても利用していたンだろう。
 魔力を得ることはできても、そこから一歩進んだ使い方は出来なかった。そう、フィリ。お前さんがいうように最低限の特徴は活かせても、それ以上の使い方がな」

正誤は兎も角、考察は幾つか明記があった。一番有望とされる考察が、鉱物種のような魔王の残骸であるというくだりだった。
廻り巡って鉱脈と化した残骸の成れの果ての活用法、精錬法を見出したところまでは見事。
そして、そういった物質の応用法としても、槌の持ち手となる魔術仕掛けの石像の動力に転用するのも無駄はないことではあった。
人間同様の知性があれば、より一層厄介だっただろう。最低限の機能を使うに飽き足らず、応用をされてしまった場合、帰れたかどうか。

「……空き教室で二人きり、とか好きか? 

 と、からかうのは程々にしつつ、だ。そういった鍛造の妙に美を見出すというのは、なかなかないものなんだろうな。
 だから、最低限斬れるかどうか試して、あとは飾っておくなんて言い出す奴も、居ると言えば居るか」

少女の興味は広く、色々尽きないという塩梅か。
鍬や包丁などのような日常具ではなく、武器でしかない筈の刀剣を美術品として鑑賞する文化とは、きっと稀といえるものだ。
それも金銀宝石で飾りたてた外装ではなく、鋼鉄を鍛造した刃を愛でるというのは。
色々と話が移るさまは、仕方がない。問題ないと頷きつつ、本題に戻ろう。

「――然り。最終的な決め手はフィリ、お前さん次第としても、魔力を奪い、蓄える性質は今後組み立てるための戦術の基礎となろうよ
 槌の形をした魔術師の杖、とみてもいい。
 魔力を奪えない、奪いきれない奴はこの先何度も遭うかもしれねぇが、そこは補える工夫は如何様にも出来よう。
 何せ、その槌は魔力をそれこそきりがないくらいに蓄えておけるからなぁ」

別口で魔術を学んでいるなら、否、魔力を動力源とできる能力があるなら、少女と槌の組み合わせは盤石の組み合わせになる。
運動の訓練と魔術の訓練は双輪である方がいい。……否、双輪であってくれなければ教える甲斐がない。
後衛で突っ立っている魔術師こそ、真っ先に狙われる危険は拭いきれないのだから。
余分な力を貯めておけば、貯金の如く万が一の必殺の一撃に転化できる。その転化の仕方は、此れからの学び次第だが。

「よぉし。……やって、みせろ!!」

さて、心構えが整えば背筋もまたおのずと整うか。
思念を飛ばす。分身を構えさせる。手招きするように延べた五指を動かし、少女を促してみれば、分身の視界の先で槌が振るわれる。
槌との初回の邂逅の際、生じたのとほぼ同じ現象が――起きる。
”対策”がなければ、己ですら引き寄せられうる引力が氣、魔力を吸う過程で生じるのだ。
踏ん張っていた分身体がやがてその引力に耐え切れず、足裏を地面から離して、浮き上がる。釣竿よろしく振り上げた槌の担い手側に飛んで行く。
あとは、えいやと一撃を叩き込めば、それでその分身は血肉を散らす代わりに氣を散らし、槌に吸い込まれよう。

フィリ > 「折々使ぃ分けられれば、なのですが。……ぉ代も、ぃただかなければなりませんし。
はぃ。竜にはご飯や、ぉ駄賃もぃただきたぃものですし――魔術とは、得てして、代償と交換される物なの――です。

…ふむ、ふむ…有名税は、ぉ嫌ぃなの…でしょぅか、矢張り。
それはそれとして、確か――に。大っぴらに、ニンジャ、を語ると。…私もそぅでしたが――興味津々、とぃぅ方は。増ぇそぅです。
初心者向けの教室とぃぅのも、現実的ではなぃのでしょぅか――ぅぅ、ん。……ぅぅんと?
矢張り一部だけ――此方の、ぉ国ですと…レンジャー、等。でしょぅか?そぅぃぅ事になさってみるとか?」

魔術とは必ずしも万能ではない。
師である竜胆から叩き込まれた前提の一つとして、必ず代償が必要である…という物があった。
最も簡単に言えば、術者自身の魔力であり。術の種類によってはそれ以上の、必ずしも等価とはいかないレートでの交換が行われる。
なので釣り合いを求めるのなら現状では。よほど緊急か、重要性が高いか――そういう場合だと思って欲しい。
広く一般的な商いとするには、より代価を低い物と出来なくてはならないのだ、その点まだまだ馬だの船だの、竜だのの方がお得である。

…レンジャー。勿論五色揃って云々、バックで爆発するアレではない。
所謂野外での狩猟や探索のプロ――それこそ冒険者らしい冒険職、とでも言うべきか。
あくまでその辺の知識に限ってなら、是非とも広く教わってみたい物なので。いっそ名乗るならその辺にしておくのはどうか、と…いや。
これって職業詐称に当たるのかしらんと。軽く首を捻ってしまう素振り。

「――地の、精霊。…そぅ考ぇても宜しぃのでしょぅか。
魔のぉ国ですと――自然と、そぅやって。霊的な物が、魔の影響を受け易ぃの…かも、と。思われます。

は、ぁ。ラファルちゃん様曰く…笠木様に、ぉ会ぃした方が早ぃ、と。仰る事が多々――なの、でして。
鎚が、集めた力で。…それこそ…周囲の自然から、鉱脈から、然り。それによって動く――でしょぅか。
矢張り、収奪した、力はそぅやって。自分の物としても使ぇそぅ――なのです。はぃ、大変、参考になりますかと」

こく。こく。今明かされる当時の冒険秘話に。一節一節、といったタイミングで頷きを繰り返しつつ。頭の中で思案する。
石像については、自らを動かす動力として、魔力を利用していたという事らしいから。
それ以外、実際の魔術士等にとっても。立派な魔力ソースになるという、確証を得る事が出来た。
動く事の出来る石像、ガーディアン。そんな物を作り出せるだけの者達が、何故、自分で鎚を使わなかったのか…は、判らないが。
その者達にも何らかの考えは有ったのだろうし…恐らく。違う使い方を見出した者も居たのではないか。
実際、同類でありながら。この鎚と、彼の手甲では。別物に仕上がっている。同じように別の加工品が作られ、魔の国の何処かに現存している…可能性は高そうだ。

「      ―――― ――――― ………!! ぁ、わ、わゎゎぁぁぁぁあぁわぁわぁゎ……!?

こ、ほんっ! …ぃぇ、昨今はシェンヤンの流行など…も、有りまして。唐物、とぃぅブームが御座ぃました。
彼方では金銀だけでなく、銅や錫、木石等色々と。美しく仕上げてぉられますので――其処から、笠木様の、ぉ国等にも。興味を拡げるぉ客様が、多々なのです」

挙げられたシチュエーションで。さて。何処まで妄想が暴走を決め込んだのか。
数瞬頭の上辺りに彷徨っていた目線が戻ると共に。目の前の異性やら、周囲の異性(分身)やらから、目まぐるしく逸れては戻り。
呂律の回らなくなる声音を――無理矢理、咳払いと。商人思考で振り払った。

帝国と、彼の国と。残念ながらこの国に於いては未だ、異国、というだけで。ごっちゃにしてしまう無学な…或いは傲慢な人も多いのだが。
だからこそ、改めてちゃんと知りたがる者や。知らないなりに愛でる者、勿論…知っている上でという者等、客層は千差万別である。
そして。この国には無い物である、それだけで。希少性という一つのステータスになるのだ、とは付け足しておこう。それこそ…魔の国の品、と同様に。

「万一の際、身を守る術、としても…私からすれば、はぃ。咄嗟に振るぇる…よりは。力を、プール出来る、とぃぅ認識は。宜しぃかと。
…吸ぃ寄せる、逆。反発させるだけ、でも。私自身含め、後衛の防衛…とぃぅ、役割には。大変、役立つと思われるの…です。
いざとなれば周囲から、それこそ、集めさせてもぃただける訳ですし――」

相手の、自分の、だけでなく。周辺環境の魔力を奪うというのも鎚の特性だ。
…考えてみれば。魔骸の元となったのが、精霊より長じた存在であるというのなら。これはもうその同類、自然に息づく精気の収奪と呼べるだろう。
吸い上げ過ぎるとどうなるか。それこそ、森等の生命その物を涸らしてしまうのではないか。そんな危険性が有るので、出来れば最終手段としておきたいが。
寧ろ常日頃、少しずつでも。力を込めておく等の方が良さそうだ。
そして使い道としても。広く引き付けるだけでなく、広く弾く事が出来れば――と。勿論それは、鎚の能力を使うなら、という前提の上でだが。

「ぉ、っぉ、ぉぉぉぉ………!?」

さて。叔母から手渡されて以来、あれやこれや有ったので。実際に…自らの意思で能動的に、「引き寄せる」力を試すのは初めてだ。
研究はしていたので、こういった効果が発揮され、如何なる現象となるのか、については想定していたものの…矢張り。平気では居られない。
と、いうか。引き寄せた事で此方に向かって飛んでくるのが、怖い顔(仮面)の成人男性なのである。ビビるなという方が無理だと思う。
とはいえ。まるで分身にだけ、抗い難い暴風が及んでいるかのように。その存在は少女へ…正確には、少女の手にした鎚に向かって急接近する。
相手の抵抗さえなければその侭。例え振る事をせずとも、勝手に鎚の表面へと磁石の如く、吸い付く事となるのかもしれないが。
それでは練習にならないし――無論、本来なら。抵抗有って然るべきなのだから。

「  ………よ、っ、  …よぃ、しょぉぉっ!」

いささか気の抜けるような声ではあったが。一応これでも少女なりには、気合いを入れた声だった。
引っこ抜く動きで後方へ振り被った、そのまま一回転してもう一度。今度は振り払う形で鎚が落とされる――丁度。距離の詰まった分身へ。
これが実際の生きた存在なら。先程杖で撲った時以上の手応えが有り…それ以上に。肉が潰れ血が飛び散るスプラッターな光景になっていただろう。
自然、それを想像してしまい。目を瞑りそうになるのだが――その前に。
ふわりと――少女の感性で例えると、編まれた糸を解くように――氣の塊である分身は。解れ見えなくなってしまった。
目に見えない力すら、飛散する事なく、その場から消えてしまうのは…正しく。鎚へと、吸い込まれたからに他ならない。
ぱち、ぱち。瞑る事の間に合わなかった眼差しが。不思議そうな二度程瞬きを重ねた後に。
ぽんと頬に朱が載るのは、今度ばかりは性的な、ピンクな妄想によってではなく。純粋な興奮による物だった。

「――で、っ……出来て、しまぃ…ました、確かに…!
確かに、はぃ、氣の力も吸収し…て、しまったのです、笠木様――…!!」

影時 > 「何事にも、な。雇うにしても何にしても代償、代価ってのは避けられんもんだ。
 有名税――というか、余分な注意を引くのは避けたいのが第一。
 で、諸々教えだして縛られるのも避けたいのも、第二か。

 人死にが出る訓練をしたおかげで、死なない程度のものの教え方っての塩梅が分かるのも嫌な話だが。
 れんじゃー、か。冒険者ギルドだと、それで登録してたな。正しくは前衛が出来て、野伏と斥候の技能者である、と。
 
 ま、今まで通りの教えに加えて――野外実習の引率も遣れる非常勤講師位がとりあえずの落としどころか」

己が扱う忍術もまた、万能ではない。
できることもできないこともあり、禁術とも呼ばれる外道の技は幾つかの代償を伴うこともある。
弟子にもまだ伝えてない、伝える気にもならない類だ。
この国の職業、戦種の考え方をすれば、忍者という技能者はスカウト、レンジャー、そしてドルイド、アルケミストなどの複合技能者と云える。
確か、学院もすでにレンジャーやシーフ向けの技を教えている教師が居るとも聞くが、さて、どうするか。思案所か。

「地に埋もれた力、資源の象徴とも云うなら、そう考えて差し支えなかろうよ。
 槌の材料の原石とも云うべきはものは、無加工のままでたくさん集積している場合、魔力の収奪能力が過剰となり過ぎて、暴走する位だったという。
 そんな生態のものが如何にして魔王と成ったかは、流石に考察のしようがなかったようだが。

 ……今度、そういった報告書の書き方でも教えるべきかねぇ、こりゃ」

魔族の国の魔術師、魔法使いたちが斯様な素材を見出し、作り上げた槌を使わなかったのかは――説明がつけられる考察はある。
希少<レア>素材の所以は、採掘方法が困難に加え、複数の加工、工程を経なければ最終的に加工・制御が可能にならなかったからである。
無加工の原石が埋没している鉱脈は、魔力収奪の特質が強く働きすぎ、特に魔力を生態維持に使っている種であれば、生命の危険さえあった、と書にあった。
挙句、閾値を超えて集積された魔力が何らかのきっかけで暴走すれば、爆発、地震や局所的な地殻変動を引き起こしただろう。
そのような危険と手間を経て出来上がった道具は、魔族の国の強者などへの武具の用途が主になったのだろう。
さて、このあたりの説明を己に任せたのは如何にも弟子らしい考え方だが、今度の座学では冒険者ギルド式の報告書の書き方でも教えるべきか。

「……―――― ……何を、想像したって問うのは、少々どころでもなんでもなく、野暮の極みかねェ。
 
 嗚呼、そういう流行、流れかのアレか。
 雇い主殿もその辺りに目ぇ向けているようだったな。俺の国の服を扱っている店まで、調べていたようだった」

さてさて、あのキーワードで何をどう考え、妄想を膨らませ、羽ばたかせていったのか。
臥所で問うてみれば、朝まで迎えてしまいそうな勢いだったが、気を取り直す姿ににやにやと浮かんだ笑みを消し、言葉に頷く。
確かにそういった数寄の趣味はたまに聞く。
投機、投資の対象にもなるだろう。真贋は兎も角、舶来となる場合そう言った品々は貴重だ。その手の品の鑑定を依頼されることもあった。

「周囲から集める実演も、この後試してもらうつもりだ。その意味でも場所を選んでもらったようなもんだ。
 集めたものを引き出して分配は――、魔術の扱いに長ければできなくもないかもしれンが、今は、そうだな。

 ……殴っても殴られても壊れず、強制力を以て魔力を奪え、かつ、貯めておける道具が槌の形で実在する、と。その認識から始めようか」

跪いて待機している分身の一体に目を向け、立ち上がらせては持参している荷物の一つを紐解かせにかかる。
そうしながら、続く受け答えに応答して見せる。
魔力吸収能力の所以は魔骸の性質、由来にこそある。魔骸鋼石の純度に応じて能力の強弱、範囲が異なるが、最高純度となれば、触れえぬものからも力を奪えるレベルとなる。
使い手の意志に応じて制御可能としているのは、武具として仕上げられたが故のこと。
考えなしにふるえば、否、心得ているものが振るえば、森ひとつの大地力を枯らしてしまうことだって、不可能ではないとどうして云える。
そして、そのような収奪作用が吸引力として変じた場合、肉体を持たない氣の塊がどうして抗えるのか。
一振りで構成を保ちながら、霧散しないのは分身一体に込めた氣の密度と練りの賜物。だが、それも――、

「「……ッ!!」」

   「……………存外に、堪えるなァ、こりゃ。おみ、ごと。そう、今のが大体ラファルが喰らってしまった時の実演でもある」

――引き寄せからの駄目押しとなる、槌の一振りが。叩いて散らし、飛び散る氣をむさぼるように奪ってゆくのだ。
分かっていても怖い仮面と忍び装束の成人男性大の分身体が、振り払うような槌の一閃を胴に受け、実際に肉を打ったのと同じ手ごたえを与える……前に、散ってしまうのだ。
分身は攻撃の手数の増加に加え、ダメージを与えたと欺瞞、見せかけるための役割も同時に併せ持つ。そういった用途を果たす前に術を破壊される。
その反動、フィードバックというのは、思っていたより強かったか。微かによろめくのを足裏をずらし、誤魔化しながら、頬を染めつつ快哉を挙げる姿に頷こう。

フィリ > 「実力を広く知られると――そぅ、ですね。ぉ母様以上の…もっと、偉ぃ方等からも、ぉ声が掛かるのかもしれませんし…そうすると。
どぅしても立場に。ぉ役目等任される事になりそぅ――なの、ですものね。偉ぃ方にぉ教ぇする、とぃぅのも…色々と。万が一等、怖ぃですし。

し、死ななぃ、程度だとして…も。痛ぃ物は痛ぃと思われる……もの、ですし。それを。教ぇる側の責任に、されるの…も。むむむ。
……ぅん、矢張りその…知らなぃ方々、には。そのよぅに説明…すると。解り易ぃのでしょぅか。
何れにせよ、はぃ、講師としては…確かな。ぉ方な訳ですし――…んん?教員免許…とぃぅのは。こぅぃぅ場合必要なぃの……ですね?」

そういえば、忘れていた。彼は非常勤講師という立場であって。普通の学生的な授業については…多分行っていないのだろう。
座学についても、それこそ、冒険者寄り…という事になるのではなかろうか。
それでも教師めいた印象を強く持ってしまうのは。矢張り個人的に、叔母の師匠である――という前提が有るからだろう。
後は。あくまでも伝聞であり、実際に彼等の活動する姿を見た訳ではないから…でもあるのだろうか。

そうやって。自ら目にしなければ実感出来ないだろう事柄の中には。忍という存在の、物語には出来ないより現実的な…陰惨な、凄惨な、実例も含まれるのか。
こ此の先何らかの理由が有って。もし、彼の――彼等の。命を賭けた活動に同行する事になったなら…その時は。
産まれてこの方、殆ど真っ当な「外」を識らない少女は。何を見て、何を識る事となるのだろうか。

「何処の世界でも、得てして存在する…存在、なのですが……はぃ。彼等との契約、とぃぅのも。魔術の基礎の一つと――なります。
勿論、こぅも極度の強さになる……とぃぅのは。更に死後も残り続ける、とぃぅのは。…ぃぇ。そもそも、死ぬ、とぃぅ概念が当て嵌まる事すら…大きな。変質、なので…す。
矢張り、国が変わりますと…はぃ。まして、魔の国とも、なりますと。常識とぃぃますか、法則とぃぅか…それも。変わってしまぅの、ですね…?
検証するにも、実例がまだまだ、足りません――私の生まれるより、前には。王国師団の方々…が、ぁちらに赴く等も、有ったそぅですが。それでもまだまだ未知すぎて――」

遠征その物は失敗に終わったという。それでも、何か記録が有ったりするのではないか。
ふと、そんな事を想像したが…流石に目にするどころか。そういった物の存在する場所へ、赴ける機会は無いだろう。
これまた以前。王城、とある師団の下へ。ラファルが忍び込み資料にあれこれした結果――物凄く、怒られた、という。…怖い。色んな意味で。
然るべき報告書という物も、また。活字マニアの少女にとってはお宝なので。是非是非、身近な人が書けるようになって欲しい。

お陰で想像するしかないが。ある程度、彼と似た結論を想定しつつ――それと共に、考えてみるのは。
石像のような存在は、謂わば。足を踏み入れる事すら困難な魔法使い達の代わりに。周囲に集積された魔力を吸い取りながら、半永久機関として採掘を行う…そんな存在だったのでは、という可能性。
如何にもパワータイプであろう、大きな石像に。それが振るう得物として鎚…ハンマーが選択されたという事に。何となく、そういうイメージを抱いてみるのだった。
その上でもっと如何にも武器武器した…剣だとか槍だとか。鎧だとか。そういった物は、素材の希少さも含めた価値の高さから。必然、偉い魔族へ流れたのだろうとも。
希少で、危険、だからこそ貴重で高価。そうした物に、高貴な者達が目が無いというのは。商売人から言わせれば、人間以外だって同じなのである。

「  ………はぃ、ご容赦下さぃ。……ぅっかりしますと、不登校になりそぅ……です、恥ずかしくて。

それに。例ぇ危険ではなくとも、異国でぁる――それだけで。一般の方にとっては、閾として、感じられて…しまぅの、です。
キャンペーンとぃぃますか。先だっての流行のよぅな、切っ掛けが無ければ。手を出し辛ぃ方も多く――だからこそ。一度、切っ掛けが来ると、波は大きく、なるのかと。
今は落ち着ぃて参りましたが――もぅ少しの、間は。売り上げも見込めるのかも、しれません…はぃ」

どんなブームも終わりは来るものだ、が。
シーズン物等、時期の終わりが近付いてからが。一掃セール、売り時だ。売り切る為に値下げした、そんな売り文句で客寄せしつつ。
…勿論看板に嘘偽りは無いのだが、熱の流れや勢いに任せ。値下がりしていない品も買う、そんな狂騒も目論むのが。商売というものだろう。
とまぁ、そういった話も。熱が入ると長くなりがちなので、止めておいた方が良いだろう。
…妄想の内容と同じ位に。本題が有らぬ方角へ、すっ飛んで戻らなくなってしまうから。

「――その為にも、はぃ……慎重を期した、つもりです。
街中程度の――庭先程度の、自然、では。一時的にでぁれ、枯死――しかねなぃと。思われるの、です。
引き出す事、引き寄せる事は、この鎚の…基幹機能、のよぅですので。ある程度把握出来るのですが――それ以上は。多分、まだ。
なので、引き出し過ぎて、迷惑をぉ掛けするのは――望ましくぁりません。…其方の使い方、意識、ぃたしませんと――」

魔力に関わる代物である、と。その認識は確かに重要な筈。
そもそも相談が、振るい方から始まっている通り。どうしても鎚であるという前提に囚われがちなので。
とはいえ、例え鎚に集約される魔力が無尽蔵だとしても。タンクとホースは別である。少女自身が全て使いこなせはしないだろう。
自身にとっての領分は、魔杖だとしても。本質が魔鎚である事、其れ自体も。努々忘れるべからず、である。

「――こ、れは…っ。ぇぇ、…される側にとっては、きっと…大問題、なのです。
吸引による回避のし辛さは、想像してぉりましたが……吸収が速い。これですと…結界、障壁、等も。思った程、時間稼ぎにすら、ならなぃかと。
……その上で。蓄えただけより硬く、威力を増す、となりますと物理的にも――ぇぇ、と?…笠木様……?」

本物の人体と遜色無い程に。濃く練り硬められた氣の塊が。こうも容易く呑まれてしまうのだ。
その他の防御的な魔術に関しても、思った以上に突破出来てしまいそうだし――物理的にも況やである。
と、いった事を把握しつつも。少しばかり眉を顰めてみせるのは。堪える、という彼の言葉を聞き逃さなかったからだろう。
…まぁ、当然と言えば当然想定出来る事だ。つい先程言ったばかりではないか――あらゆる術には、代償が付き物であると。
それはきっと魔術だけでなく。ドルイドやアルケミストという側面から、術理に近しい…忍者にとっても同様なのだろうから。

影時 > 「そーゆー役目やら何やらで遣われるのは、もう散々やった。懲り懲りだ。
 忍者は――戦の世に限らず、色々と遣ったり遣らされる何でも屋に近いもんだ。だから、色々学び得ているわけだ。

 ……そうだな。忍術をそうそう教えない理由、方便としては、いちおうそれで説明はつく。
 特別講師、だからなぁ。免状の類は得てない。――……否、あの学院、確か正式な講師となるのは今のところ、難しい話じゃないようだぞ?」

非常勤講師というよりは、特別講師という扱いで契約を交わし、講義を受け持っている。
訓練の監督と模擬戦形式の実習、そして、冒険者形式のスタイルで盤上の訓練や座学、ディスカッションを授業として行っている。
教員の免許、免状の類は得ていないがそうでなくとも、経歴に問題がなく、実力が認められれば教師となることは至難ではない様子だ。
常勤の教師ではなく、回数、期間を定めての特別講師からさらに成るなら、自分の性分としては非常勤講師が適当だろう。

特別講師だからではなく、義理立てすべき事項として、今請け負っている忍者の家庭教師というのも並立すべき事項でもある。
冒険者の活動、未知を知る冒険ではなく、元通りの忍びとしてのふるまいも含めた修羅場に踏み入るとき、何を見せることになるか。

「その手の考え方もわかるな。そうやって契約を交わして、妖怪変化やらを使役する術者も俺の故郷では居たンでな。
 いわば、意思を持った岩石や土くれが死んで――何が残るかというのを考えれば、否、俺たちが考えるところの生命とは、という観念にまで踏み込んじまうか。
 
 感覚としては、土地の境界を一跨ぎするだけ……それだけなのに、向こうは色々あれこれと極端が過ぎる。棲んでいるものも含めて、だ」

遠征の話は己も聞いたことがある。弟子が或る師団の長の部屋に踏み入って、あれこれした件も、だ。
その弟子が別途入手した地図を使って、探索に乗り込んだのがこの前の件でもあるが、色々と奇妙な、特殊過ぎる事物がかの土地は多い。
斯様な見聞録などが、出回っていないのは――なぜだろうか。
見聞きした限りで記すことはできなくもないが、先に挙げたように余分な目がつけられそうなのが厄介だ。

戦場の花形とも云うべき剣や槍、煌びやかな錫杖や魔杖の類ではなく、槌――が、あの土地の奥で秘蔵されたのは、結局のところ、所以には至らなかった。
神の采配の結果なのかもしれないが、最終的に使い手がつかなかったのかもしれない。
採掘場兼工房の入り口は爆破して、埋め直した。だが、いつか。同じような道具と遭わない可能性がないとは言えない。

「分かった分かった。……余人を交えない場所でしか言わないように、心がけとこうか。二人きりの狭い部屋とか好きか?

 そりゃそうだな。値も張るなら、嫌でも敷居は高いと思うだろうさ。
 出所が同じであったとしても、造りが雑で、運んでいる間に損傷して価値が下がったものなどもありうる。
 刀の類だと、錆びていると元通りに研げるかどうかも、怪しいな……」

またしても、冗談交じりに妄想の火種を撒きつつ、嗚呼、と考え込む。
分身を使わせて持ってこさせたものは、畳まれた一枚の布地だ。広げて、ぱんと張れば、それは一着の白い着物となる。
裾に流水模様の刺繍が入ったそれの仕立て自体は珍しいが、視野を広げてみれば、着込んでいる人間も気づけばちらほら居る位のものだ。
異国趣味の入り口が広がったから、という結果なのかもしれない。服飾の類は意外ととっかかりの間口は広いのだ。
ただ、骨とう品や刀剣類となると、一気にハードルが上がる。価値を下げる損傷などを繕える、直せるのも商機となろうが。

「その判断は正しいなァ。派手にやるつもりなら、慎重を期す必要は間違いなくあるシロモノだ。
 普段使いし易いものと、そうでないもの――といった感じで使い分けるといい。模擬戦位なら、前者で大体事足りよう。
 ……気づいたな。多分だが、二重三重に備えがない結界や障壁も、その槌で叩き崩せる。呪符の類も触れるだけで、ただの紙切れになるだろうな。

 ……――大丈夫だ。痛打の感覚を確かめるため、分身と感覚を繋いでいた反動だ。術を解けば、氣を戻せンだが今のあれはそうもならん」

慎重に向き合い、取り扱おうとする。
この手の武器はついつい自分が無敵になった勘違いをさせるが、真摯とも真面目とも思える意識は己もまた好感が持てるものだ。
それでいいと頷きつつ、実用を踏まえての把握が間違いないこと頷き示す。
魔力収奪の応用だ。永久的にエンチャントされていない物品、使い捨て前提の呪符、礼装の類を無力化できてしまえる、と。
そして、生成した分身のうち、一体を引き戻せないのは、氣力の消耗としてカウントすることになる。つまりはその分だけ消耗する。
感覚も繋いでいれば、その分もまた己にフィードバックされる。首を横に振り、大事ないと告げつつ、分身たちを動かす。

「次、その使いづらい方の験しだ。
 ――俺の考え通りなら、地を打てば大地を通じて、一定範囲内の敵から力を奪える。分身を挟めば、地面が干上がるようなこともなかろうさ」

残り八体の分身たちが跳躍し、槌を持った少女を中心にした八方へと着地するのだ。
そのうちの一体は先ほど広げた着物に袖を通し、さながら羽織よろしく纏って、ファイティングポーズをしてみせる。
着物には意味がある。正確には、着物のもととなったものの特色、材料に意味がある。

フィリ > 「 ……ぉ疲れ様でした、と。ぃぅべきなのでしょぅか。ぃぇ勿論――私では想像もつかなぃ、よぅな事を。ずっと…して、来られたのだと。思ぃますが、それでも。
物理面でも術理面でも、非常に興味深ぃ――対象では、ぁるのです、忍者様も。忍術――其方も、勿論。
とはいえ。脅かし半分、危険を訴ぇるのは。なまなかな、興味本位なぉ方には。有効ではなぃでしょぅか。

……なるほど。確かに、その、ぁまり教師らしくなぃ方も。最近は頓に増ぇてこられた、そぅですし…そぅぃぅ事、なのでしょぅ。
もっと先生らしぃ笠木様とぃぅのも、なかなかに惹かれる物が御座ぃますが――」

この場合、らしい、というのは。生徒が学生服であるように。より先生らしい、ビシッとそれっぽい服装で決めた彼の姿を想像した…という事である。
長身の、体格の整った男性の正装姿というものは。それだけで、世の女子にとっては眼福なのだ。
…という妄想は、さて置き。正真正銘、本職から教職員という事になると。世の中多々存在する職種の中でも、かなりの割合で時間を喰う職業であるという。
日中の講義。その後の業務。更には本来自由となるべき帰宅後も、剰り有る書類等を持ち帰ったり。人によっては個々の生徒について等。思索を巡らせねばならないという。
そうなっては必然、冒険に出る機会などめっきり減ってしまうのだろうし――過程教師の方も難しくなりそうだから。
矢張り今の形態が。もっと言うなら彼の一番やり易い形態が良いのだろう。そう納得しておく事にした。

そう、矢張り前々から伝え聞いていた、忍者にして冒険者の彼というのが。最も自然なのだと思うから。
…流石に、余程の事が無ければ。間接な弟子であり、本格的に忍として学ぶ訳ではないこの少女が。忍の非情さを垣間見る機会は無さそうだが――
どう、だろう。冒険に付き纏う未知とは。それはそれで、命に関わる事柄も有るのだろうから…

「一つの境界を跨ぐと、本当に…色々な物が変わってしまぅ、そぅです。
…王国と魔の国、だけではなく。それこそ、笠木様のぉ国ですと、神変、妖怪――そのよぅに呼ばれるのでしょぅ?
けれど、此方ですと、それ等は。精霊、妖精、等でぁって――魔の国ですと、魔物、怪物、でぁって。
まるでそれは。同じ山野の魑魅や、魍魎が、違ぅ形…違ぅ何かに、観測され、定義付けられた、かのよぅな――――ぁぁ、ぃぇ。
物凄く、難しぃ…面倒臭ぃぉ話に、なりそぅでした」

首を振る。今きっと、自分は実にややこしい想像をしかけていた、と――この世界を規定する、観測者、が存在し。
それが国によって違うというよりは――矢張り。国毎に異なる上位存在…神、が違うのではないかと。
何処まで本当なのかは知らないし判らないが、過去には一度、それこそ余所の島国との戦争にて。本当に神を見た者――も居たというから。

もしそんな、神々の采配なり悪戯なりの結果の一つに。こうした魔骸の発生が有るというのなら。正しく神の采配という表現も、間違っていないのかもしれない。
何れにせよそうした観測域の境界を越え。鎚として形作られたこれは、人の国にて少女の手に渡る事となった。
彼や叔母達のように、出所からどうにかせんとするような。立派な真似は出来ないが。
せめてこの一つだけに関しては。選ばれた者として、責任を持ち続けなければいけないだろう。

「寧ろ、ですね。そぅした事は――ぁの。秘め事、とも称しますし……矢張り。出来れば、第三者の耳目に入る可能性は、避けたぃ、と言ぃますか……
私としては…その、邪魔…される事なく、その方と二人、きり、の方が――…… ぁぁぁぁ、では、なくっ!この話ではなく――っ!

……は、ぅ、はぁ。……寧ろその点、工芸品等の方が。…金細工等、此方の国でも。加工技術が、進んでぉりますので。修繕の目処が付けられるの、です。
余所の武具の方が、余程――直せる、伝手が限られます、ので。寧ろ貴重かもしれません。
…打つ、研ぐ、に限った話ではなく。機工的な物等も、ぉ国の外へは、伝ぇる事が厳禁――とぃぅのも。珍しく、ぁりませんので。はぃ」

火種にはきっちり誘爆した。というか勝手に延焼して自滅した。
大慌てで色々否定しているような…何も否定出来ていないような。ともあれ、少女としては珍しく。きっと先程鎚を振るった時よりも、しっかりと声を上げたかもしれない。
異国の諸々について述べ合う中。運ばれてきた着物…勿論、それも。王国民にとっては珍しく。そして最近ちらほら見掛けるようになった…そういう外つ国の代物だ。
商会お抱えの職人は色々存在するが。こうした本格的な服飾については、何処まで再現出来るやら…それこそ。足ならぬ翼を活かして、買い付けた方が良い。
母が彼に伝手を尋ねたというのも。きっとその辺りからなのだろう。
さて。その着物をどうするのかと見ていれば。何やら分身達の内一体が、それを羽織る事となるらしい。
八体中の一体を見極める、何らかの目印、という事ではないだろうから。また異なる理由が存在するのだろうが――

「其処は……ぇぇ。ラファルちゃん様に感謝なの、です。最初の段階で――どれだけ、危険物なのか、につぃて。把握出来ました…ので。
寧ろ模擬戦、で。普通の学生さんの魔力程度、となると…吸ぃ過ぎて、しまぅかも。しれません…気をつけませんと。
それこそ、私でも振るぇる――とぃぅ点も。引き続き、考慮致しません、と。…です。はぃ。

…そぅ……吸ぃ上げる、加減次第で。……先程のぉ話のよぅな…精霊でも、妖怪でも……霊体でも?危険に曝してしまぅかと。
術理の無効化は、重要では、ぁりますが――ぁぁこれ、本当に…っ。竜殺しよりも、寧ろ、霊殺しに――なり得てしまぅ、可能性が…」

氣で出来た分身。自然の力で出来た精霊。想念で出来た霊――先程の、分身への攻撃の有効性を見てしまうと。ますます慎重を期す必要が有るだろう。
分身ならばまだ良いが。例えば幽霊の類その物が…成仏するどころか、力として吸い込まれてしまった、等というのは洒落にならない。
また。それその物ではなくとも、自然の力の恩恵を大きく受ける種族に関しても。彼以上の損耗が来るのかもしれない。
どうかこの地に住まう、そういった存在の方々に。怒られる事となりませんように――半分。お祈りもしくは神頼み。

「た、多分…本気で撲つと。その分、強く、吸収して…しまぃかねなぃ。気がぃたします、ので――
すこ――し、少しから、ぉ願ぃ、ぃたします――!」

どうやら大事無いらしいとは見ても。何らか影響が有るという実例を聴いてしまうと。それはそれで、臆病になりそうだ。
輪を描いた分身達の真ん中にて、半目気味の瞳をますます、殆ど閉じるようにしつつ――決して強い力は籠めなかった。
寧ろどちらかと言えば、杖で地を突く仕草に似て。逆さにした鎚の天辺が、地へと押し付けられながら………

「―――― "accipere"… 」

少女の。人よりも竜寄りの声。それと同時に―― ぞ る り。
引き摺り、引き抜くような感触が拡がっていくのだろう。それこそ分身達が描いた包囲の中、全てへ。
下草が風に吹かれたかのようにさざめき。微少な羽虫が一斉に飛び立ち――飛び損ねふらふらと墜ち。姿こそ見せないが地の中からか、鼠か何かの抗議が響き。
そして、彼の分身はどうなるのか。