2022/04/13 のログ
ご案内:「平民地区 訓練場」にイェンさんが現れました。
■イェン > (春を追い越し夏が来たかのような日差しの中、訓練場は常ならぬ盛況ぶりを見せていた。鬼教官の濁声に追い立てられてひいひい言いつつ外周を走るルーキー達。訓練用武器の打ち合わされる甲高くも勇ましい模擬戦の音。弓持つ者は離れた場所に置かれた的に矢を射かけ、隅の方からは魔術による爆裂音まで聞こえてくる。冬の寒さも消えて本格的な活動再開を前になまった身体に活を入れておこう。そんな風に考える冒険者が思いのほか多かったのだろう。新人のみならず、ベテランの姿も多く見られる今日のような日は、将来の有望そうな若手に声を掛けるクランのスカウトや、名の知れた古株に思い切って教えを請いに行く新人、時に実力を弁えぬ跳ねっ返りが達人に勝負を挑んでコテンパンにされるなんて光景も目に入る。ギルドの方も今日は暇なのか、はたまた素行の悪い冒険者の監視のためか、受付嬢が井戸前に陣取って濡れタオルと冷水を癒しの笑顔と共に振るまっていた。 そんな訓練場の一郭、不自然なまでにぽかんと開けた空間があった。そちらを気にして目を向けつつも近寄ろうとはしない者の何割かは、颶風を巻いて飛び回る大剣の迫力に圧倒されての事だろう。余程の剛力でもなければ扱えぬ4本の大剣が暗紫のオーラを纏い、持ち手もいないまま宙を舞って虚空を薙ぐという異様な光景。そんな剛閃の只中にいるのが制服姿も可憐な細身に羽織ったローブをはためかせる女学生なのだから、その実力をどのように見積もるべきかベテラン達でさえ判断しかねているのである。)
■イェン > (恐らくは目に見えぬ手練れとの接近戦を繰り広げているのだろう。すらりと伸びやかな四肢を持つ小躯が、時に地に伏せる程に身をかがめ、ポニーテールを靡かせ旋転し、地を蹴る音も軽やかに跳びあがる。そんな挙動にプリーツスカートの折裾がひらひらふわりと浮き上がり、ニーハイソックスの黒とのはざまに形成する絶対領域を危ういまでに見せつけるのだけれど、その奥に存在する純白までは晒さぬのは《華》としての訓練の賜物なのか。)
「――――――ッハ! ハアッ、ハ…ッ、ハアッ、はあ…っ、はぁ…っ、はぁ……、はぁ……、っ、あ」
(そんな少女と四剣の舞は、もつれた細脚によって中断させられた。咄嗟に跳びあがり宙空にて体勢を整え転倒をまぬがれるも、集中を欠いた北方魔術は影剣を霧散させ、着地後ふら付いた少女は地べたにぺたんとへたり込む。無酸素での動きが長く続いたのだろう苦し気な呼吸が、豊かに実った双丘を上下させる。透明度の高い白皙の美貌も紅潮のピンクに染まり、伝う珠汗がぽたりぽたりとブラウスの胸元に滴り落ちる。)
ご案内:「平民地区 訓練場」にヴィルヘルミナさんが現れました。
■ヴィルヘルミナ > 周囲の冒険者や訓練生がイェンの演武にざわめく中、一際大きく、パチ、パチ、パチと拍手の音が響く。
「異国人にしては、お上手なダンスですこと」
そんなことを言いながらイェンの傍に向かって歩くのは、流れるような美しい金髪を持つ、同じく学生服姿の少女。
学院の貴族について下調べしているならば、イェンは少女の事を知っているだろう。
「ごきげんよう、こうして話すのは初めてかしら?イェン・リールゥ」
ヴィルヘルミナは尊大な態度で、イェンの目の前に立つ。
その目線は、あまり友好的とは言えない様子で。
「奇遇ね?私もここにはよく剣術を鍛えに来るのよ。強くあるのは貴族の責務だものね。
……あぁ、そういえば貴女、貴族に手を出したそうね?平民で、異国人の分際で」
酷薄な笑みを浮かべながら、ヴィルヘルミナはイェンを見下ろす。
■イェン > (結界でも張られているかのように他者の接近の絶えていた場所に、何の気負いもなく軽々しい拍手すら伴って踏み入ってきたその気配はトーンの高い声音の持ち主だった。未だ落ち着かぬ呼吸でふくよかな乳房を上下させつつ切れ長の吊り目を向けたなら)
「――――ヴィルヘルミナ・フォン・ゾルドナー……」
(よもやこの様な場所で出会おうとは考えていなかった相手、武家の名門ゾルトナー辺境伯家の一人娘の姿がそこにはあった。未だずしりと疲労の残る身体を立ち上がらせて、繊手で着衣の汚れを払ったイェンが、改めて紫水晶の視線を彼女に向けた。)
「そうですね、ヴィルヘルミナ様。貴女程の名家であれば王都の屋敷にも十分な広さの訓練施設があるでしょうに、このような場所を利用していらっしゃったとは意外です。 ――――っ。 …………何のことでしょう?」
(目弾きで彩られた鋭さの過ぎる視線を真っすぐに向けながら、愛想笑いの一つも浮かべぬ薄唇が当たり障りのない返事を返す。簡単なあいさつに続いて投げられたどこか好戦的な言葉に対しては、一瞬ピクリと柳眉を持ち上げるも、即座に元の鉄面皮へと戻った美貌はしれっと小首を傾げてみせた。恐らくは先日、校舎裏にて女子生徒に狼藉を働こうとしていた慮外者の事を言っているのだろうと予測はつくも、素直に応える義理も無い。)
■ヴィルヘルミナ > 「生憎、私の屋敷にあるのは訓練場というより演習場。一人で剣を磨くにはちょっと広すぎるわね。
……で、とぼけるつもりかしら?」
しらばっくれるイェンに、笑みを向けていたヴィルヘルミナだったが、
次の瞬間、手にしていた模擬剣をイェンの眼前に突きつける。
「あんな目立つ行いをして、隠し通せると思っていたなら愚かだわ。
襲った側にも、襲われた側にも、ちゃあんと事情を聞いてるのよ?」
その手に握られているのは模擬剣であり、きちんと刃が引かれている。その為、斬れることはない。
しかし重量と、威圧感は本物と変わらない。
「それとも、この上更に貴族相手に嘘をつく罪を重ねるつもりかしら?」
ヴィルヘルミナの家は大貴族であり、学院の教師陣の評判も良い。
本来であれば、イェンのことをいかようにもできる立場である。
■イェン > (外周の走り込みを終えて一時の休憩を与えられた新人達が、組手の剣撃を一旦止めたベテラン達が、井戸前の受付嬢を含めてもこの訓練場で一二を争う美貌の二人のやり取りに好奇心旺盛な目を向ける。片や学院の制服を身に纏っていてなお貴族娘の気配が漂うお嬢様、片や特徴的なアイラインと艶やかな黒髪が帝国出を匂わせる魔術師娘。興味を持つなという方が無理だろう取り合わせだ。)
「―――とぼける……と、言われましても、覚えがないのですから仕方がありません」
(刃の潰された剣先を向けられても何ら崩れる事のない冷淡な美貌は、真っすぐに彼女を見据えたまま。『こうして間近に見てみれば……なるほど、美しい方ですね。傲慢さの滲む笑みも何ら被害を受けていない今であれば、可愛らしくさえ思えます』 温度を感じさせぬ双眸を向けつつも、心の中では彼女の容姿に素直な好感を抱くイェン。ゾルドナー辺境伯家の一人娘という肩書と、己が商家から与えられている任務を抜きにしたとて友達になりたいと思わせるだけの魅力が彼女にはあった。しかし、決して油断して良い相手ではない。初対面にもかかわらず早々に挑発的な言葉を投げる攻撃性もさることながら、彼女には幾つもの良からぬ噂が付きまとっているからだ。)
「驚きました。きちんと裏取りを済ませた上の事でしたか。申し訳ありません、ヴィルヘルミナ様」
(彼女の言葉に軽い驚きを覗かせたイェンは長い睫毛を伏せ、背筋の伸びた腰を折る。彼女の言い分を認め、素直に謝罪したかのような形。しかし、改めて持ち上げた美貌が発する言葉は)
「どうやら、貴女の事を侮っていたようですね」
(むしろ彼女を挑発するかの物だった。己の身分を傘に来て好き勝手している我儘娘の事、先の慮外者から泣きつかれ適当に難癖付けているだけだと思っていたという、ただ、それに対してのみの謝罪。)
■ヴィルヘルミナ > ヴィルヘルミナの追及にも、ポーカーフェイスを貫いていた彼女。
しかし、きちんと裏を取ってある事を伝えれば、遂にはしでかした事を認め、謝罪した…かに見えたのだが。
顔を上げてイェンが言ったのは、明らかに挑発の言葉。それにヴィルヘルミナは。
「……はぁ~。確かに貴族に歯向かうだけあるわね留学生。私にもそんな態度なんて。
余程自分の腕前に自信があるのかしら?それとも単なる阿呆?」
呆れたように、ため息をつく。
剣先を、微かに下に降ろして。
「ふん、そうね。確かにあんな弱い相手に手を出そうとして叩きのめされる王都のボンクラボンボンどもなんて貴族に相応しくないわね。
ただし、それでも貴族は貴族。貴族に手を出す平民は性根を叩きのめされる必要があるわ」
再度、剣の先がイェンの眼前まで上がる。
ヴィルヘルミナの顔から笑みは消え、真剣な眼差しを向けていた。
「と、言う訳で私が正々堂々決闘で叩きのめすことにするわ。
言っておくけど、あんな軟弱王都貴族と一緒にしないことね?」
■イェン > (ゾルドナー辺境伯の一人娘。傲慢な性格からしても随分大切に育てられて来たのだろう彼女との友誼は、商会が王都に手を伸ばす際の足掛かりとしてかなり有効な手札になる。金銭のみならず、そうしたカードを対価として商会から己の身を買い戻そうと考えているイェンにとって彼女との敵対は絶対に避けるべきものだろう。にもかかわらず、彼女の勘気を被るような態度を取ったのは、この手の相手は下手に出ればどこまでも増長する物だと分かっていたからだ。異国の商家のつてで王都への留学を許されただけの平民が、それであっても名門貴族の子女たる彼女さえ唸らせる程の才媛なのだと示す事。それこそがイェンが彼女と友誼を結ぶための唯一手であると確信した上での賭けだった。)
「そうですね……甘やかされてプライドばかりを肥大化させたお嬢様に躾をして差し上げられる程度の腕はあるかと自負しております。最も、貴女はそこまで愚かな子供では無かったようですが」
(にっこりと口端を吊り上げるなんて演出の似合いそうな憎まれ口を、先と変わらぬ氷の美貌で淡々と投げつける。その実、留学生の胸の内は今にも胸郭を突き破らんばかりに心臓が跳ね回り、震えてしまいそうな細脚を意思の力で叱咤して辛うじて平静を装っているに過ぎなかった。下賤の冒険者の前でこれだけの大口を叩いたのだ。武家の娘としてのプライドを持つ彼女であれば、間違いなく乗ってくるはず……。)
「~~~~ッ。 …………受けて、立ちましょう」
(乗ってくれた! 危険な賭けに勝ったという悦びに細身が震えあがりそうになるのを必死で抑え、思わず弾みそうになる声音も抑えて返事を戻す。無論、これは第一関門。彼女との立ち合いに勝つ、例え負けても戦場で轡を並べるに足ると思わせるだけの戦果を挙げる事が今回の勝利目標。ここでしくじれば、イェンの望む本当の自由は大きく遠ざかる事になろう。会話の最中も続けていた呼吸法にて回復した体力を、特殊な練氣で魔力に変換。それを用いて呼び出すのは、紫影の陽炎を立ち昇らせる四つの巨剣。)
■ヴィルヘルミナ > 「下手な挑発ね。言っておくけど、素直に叩きのめされる事をオススメするわ。
ここで貴女が負ければこの件はここでお終い。でも、仮に貴女が勝ってしまえば…まぁ、平穏な学生生活は無理ね」
ヴィルヘルミナは忠告を口にする。
王族、貴族が絶対であるこの国において、平民が貴族を下すということは学院のみならず王国そのものの秩序を乱しかねない行いである。
それゆえ、全ての貴族から目を付けられる行いとなるだろう。
「……一人相手に四本も出す必要あるのかしら?」
イェンの周囲に浮かぶ巨剣を見て、ヴィルヘルミナはそう零す。
続けて、呪文を口ずさみ、己の身に魔法をかけ始める。
単純な身体能力強化、回復力の上昇。あとついでに手にした模擬剣の耐久力上昇。
そこまでかけ終えた後で、改めてヴィルヘルミナはイェンを見据えた。
「で、この距離だと貴女が何かする前に首を刎ね飛ばせちゃうけど、離れたほうがいいかしら?」
実際、目の前に立って切っ先を向けているわけだから、何をするよりヴィルヘルミナが片手剣を振るスピードのほうが速いだろう。
■イェン > 「ご忠告には感謝します。ですが、負けるつもりはありません。どれほどの艱難が立ちふさがろうと、全てを斬り伏せ前へと進む。そのような手段でなれば、私の自由は手に入らぬのです」
(彼女の忠告には含むところのない感謝を返す。噂程には悪い人ではないのかも知れないなんて考えつつ、それでもイェンは王国そのものを敵に回す覚悟さえ決めていると宣言する。彼女にしか聞かれぬ程度の小声なのが、今にも潰れてしまいそうな本来の小心を覗かせてはいたが。)
「油断してなお勝ちを拾えるほど容易い相手とは思っておりませんから」
(呆れたような彼女の言葉に、澄まし顔はさらりと返す。先程までの訓練は、先日受けた依頼の際に露呈した弱点を矯正するためのもの。闇の四剣の精密操作。無論、完全に御する事など出来てはいないが、此度の戦いではその成果を無理矢理にでも発揮しなければならない。他の魔術とは比ぶるべきもない間合いの狭さは容易く戦士の接近を許してしまう。振るう巨剣は攻撃力・手数共にそこらの前衛を圧倒するも、今回に限っては高すぎる攻撃力が仇となる。何も考えずに巨剣を振るえば、模擬剣を圧し折るに留まらず、令嬢の肢体を大いに跳ね飛ばし、細腕の1,2はあっさりと断ち潰す事だろう。ままごと剣術を覚えて一端になったつもりになっている子供であればどうとでもなるだろうが、腐っても武家として名高いゾルドナーの娘だ。周りで能天気に野次を飛ばしている駆け出し冒険者などあっさりと屈服させるだけの剣力は持つだろう。そんな辺境伯家の愛娘を傷物にする事なく制圧する。あまりに高い難度の《試し》に思わず笑みが零れた。)
「構いません。元より私の魔術は中~近距離で振るう物。ですが、先手を譲って下さるというのでしたら有難く―――――行かせてもらいます…ッ」
(地を爆ぜさせる踏み込みも、姿をかき消す程の速度もなく、ふらりと地面身体を投げ出すかの動きで彼女の刃圏を逃れ細腕を振るった。途端、剛風を伴う横薙ぎが貴族令嬢の胴を狙う。当たれば即死。受けても大怪我。貴族娘に振るう初手としてはやりすぎもいい所の斬撃に、見物人が悲鳴じみたどよめきを上げた。相対する彼女であれば、いかようにでもするだろうという信頼があるからこその様子見の一手。)