2021/10/04 のログ
ご案内:「王都郊外 滅びた寒村」に黒曜石さんが現れました。
黒曜石 > 郊外にいくつもある寒村のひとつ。
これといって特産品がある訳でもなく
毎年の税を必死になって納め、時には子女を売って凌ぐ。
夢を見る若者は王都や神聖都市に夢を追いかけ
村の残るのは老人達ばかりの、滅びかけていた村。
―――そこは、そういう場所だった。

“魔物を連れた盗賊団に狙われている。”
そう言って、領主に向けて嘆願を送り
また村中で、爪に火を点すようにして集めた資金で、冒険者ギルドに依頼をもって来たのはどれくらい前だっただろう。
冒険者が間に合わなかったのか、ギルドか領主が派遣を渋ったのか、単に間に合わなかったのか。
それは、もう大きな問題ではないだろう。

今、この村に生きた人間は誰もいない。
村人も、彼等から略奪しようと襲ってきた盗賊団も。
まるで打ち捨てられたように誰もいない。

―――――。

誰もいない村の中、血の痕が残る道に響くのは歌声のような啼き声。
村の中心にある井戸に向かって歩く男の肩に止まった、鳥。
正確には鳥を模して子供が落書きしたような何か。
それが口に当たる部分から奏でる透き通った、罅割れた声。
旅装に身を包んだ男は、鳥にも、何処にも目を向けることはなく
ただ、迷いのない歩調でゆっくりと歩いていた。
ふわり――と風に微かに火の粉と、灰が混じって流れる。
まるで、戦火とも呼べない一方的な何かの残滓のように。

黒曜石 > そう広くはない村。
程なく、男は井戸の傍に辿り着く。
夜の月を映し出す筈の水面は、ずっと井戸の奥底に。
もう枯れかけているのが誰の目にも明らかなそれ。

水音が、混じる。
ロープが結ばれた桶が投げ入れられた音。
ずるずると、それが引き摺りあげられる音。
急ぐものではない。ゆっくりと、引き摺りあげる音。
夜啼鳥の声、か細いそれを消せもしない病んだような静かな音。

引き上げた桶には、意外なくらいに清潔な水が称えられていた。
滑車とロープから外しもせずに、その中に片手をつける。
掬い上げた冷たい水を、口元に運んで――男は、喉を鳴らして飲んだ。

「静か、だな――。」

一口飲んで、ぽつりと声が零れる。
自明の情景を描写するのに似付かわしい台詞だ。
そして、もう一口、左手で支えた桶の水を、右手が口元に運んだ。
ふわりと薫るのはまだ古びていない血の匂い。
この村の中で唯一新鮮に近いそれが、灰と火の粉を運ぶ風に混じって解けていく。