2021/08/20 のログ
ご案内:「貧民街の闇市」に肉檻さんが現れました。
肉檻 > その場所は秘めやかでありながら、異様な程の活気に包まれていた。
王都の外れに位置する貧民街の、普段であれば人の目の届かぬようなとある一角。
其処には店と呼ぶにも烏滸がましい絨毯や布切れを広げただけの露店が幾つも点在し、
商人と呼ぶにも憚られるような格好をした者達が数多くの品々を並べ客の訪れを待ち受けて居た。

陳列された品々の殆どは硬貨一枚程の価値にもならぬガラクタばかりであったが、
中には決して他所では手に入れる事の叶わぬような盗品、禁制品の類が数多く紛れ込んでいて。

その所為か、時折足を止め商品を慎重に物色する客達の中には、
汚れた外衣を身に纏いながらも立ち居振る舞いから滲み出る身なりの良さを隠し切れない者、
痩せ細った浮浪者同然の住民達とは真逆な程に艶々と肥え太った者の姿も少なくない。

そんな中、黒いフードを目深に被った男が構える露店の中。
何処で手に入れた、何に使うのかも分からぬような鉄屑や石塊の中に紛れて、
傍らに置かれた明かりを受けて煌めく、拳大程の透き通った水晶玉がひとつ物言わずに鎮座していた。

肉檻 > それから、置かれた水晶玉はおろか露店の男も微動だにしない侭暫くの時間が過ぎ去った頃、男の露店に一人の客が訪れる。

太い指に幾つも嵌めた宝石の指輪を隠そうともせず、好色そうな笑みを貼り付かせた小太りの男。
全身をローブに包んだ男とも女ともつかない人物を伴っているのは従者か用心棒か、或いは何処ぞで買い上げた奴隷か。

しかし露店の男は其方に一切の興味を示す事も、
目の前の客のやけに居丈高な物言いに表情を変える素振りも無く淡々と受け答えを繰り返す。

そうしたやり取りが少しの間続いた後。
客の男が金貨の詰まった袋を露店の男の目の前にドサリと無造作に置くと、
代わりに陳列された商品の中から件の水晶玉をひとつ拾い上げた。

それで取引は成立。

目の前に積まれた金貨袋を淡々と仕舞い込む露店の男とは正反対に、
水晶玉を手に入れた男は透き通ったそれを月明りに翳して覗き込んでは厚ぼったい唇を笑みの形に歪めていた。

肉檻 > やがて水晶玉を手にした男が傍に侍るローブ姿を引き連れて去って行くのを認めてから、
露店の男は黒いフードを目深に被り直したのを最後に、再び置き物の如く微動だにせず鎮座を続ける。

それ以降は特に彼の店の前で足を止める客の姿も無く。
周囲を行き交う人々と天上の月だけが流れ行く侭夜は更けていった――

ご案内:「貧民街の闇市」から肉檻さんが去りました。