2021/05/11 のログ
ご案内:「乗合馬車の停留所」にタピオカさんが現れました。
■タピオカ > 石畳で整備された平民区の大通り、その一角に広い停留所がある。いくつかある天幕には時間を待つための長椅子。旅具や食料も売られているが、今は夜でほとんどが店仕舞いだ。
道に沿った、ひときわ大きな天幕に4頭立ての馬車が一台止まっている。御者席にある頑丈そうなランタンは油が補給され、煌々と明るい。
その馬車はドアが開き放たれたままになっていて、中には褐色肌の冒険者が座っていた。
得物の曲刀の鞘を片膝ごと抱え、酒精や女や屋敷や家庭へとそれぞれの帰路につく人々の姿や家々の明かりを眺めて待っている。
ゾス村近辺でオークの小集落が最近できてしまったらしい。
人族への直接被害は無いものの村の家畜がたびたび攫われ、出来るだけ早く解決してほしいとの依頼がギルドの酒場に貼られた。日中の依頼が手早く終わっていた褐色肌の冒険者は、最終便の馬車にてゾス村を目指すというわけで。
今のところ自分以外は空席のまま。
御者が馬を走らせる運行時間まであとしばらく。
よく手入れされた、栗毛の馬の尻尾が時々揺れるのを目で追って。
ご案内:「乗合馬車の停留所」にラスティアルさんが現れました。
■ラスティアル > オークの集落というのは、ちょっと出かけて取り壊して駆除してお終い、といった程度で済むような厄介事ではない。連中の数は多く、運が悪いと戦いに慣れた、腕の立つ奴らが居座っていたりする。
だからまず、斥候が必要なのだ。早期に現場へ辿り着き、集落の正確な場所を掴み、戦力を見極め、作戦を練るための情報を得ねばならない。半人の男が受けたのは、そういう依頼だった。
「……ちょっと失礼」
乗合馬車に近付いた男は、褐色肌の冒険者にそう言って軽く頭を下げ、客席に乗り込もうとする。そのまま特に何か話すでもなく、自然と彼女の隣に腰を下ろした。
■タピオカ > 何分急ぎの依頼にて、ギルド側も人数調整や作戦立案には頭を悩ませていただろう。ひとまず動けて剣を握れる人員を送った後に、相手のような支援行動を行える能力を備えた手練れを向かわせたのだろう。
これからオークを屠るに手入れが行き届いた曲刀の重みを感じながら外を見ていると、馬車の点検を終えかけた御者の脇をすり抜けて入ってくる暗い金髪の人影に気づいて顔を上げ。
「こんばんは、隣人さん。
これからしばらく、旅の道連れでよろしくね!」
こじんまりとした馬車内は4人掛け。向かい合わせに2席ある格好だ。気安く声をかけ、自分の荷物を足元へ移して彼が動きやすいようにした。
「剣も弓も使えそうだね。もしかして、冒険者さん?」
眉上に角がある事に気づいているものの、そこには特に触れずに。剣持ちとして、相手の得物に興味を持ち。失礼にならない程度に使い込まれた黒染めの革鎧を見たあと、目を合わせて語尾を上げ。
■ラスティアル > 「え?……ああ、よろしくな」
曲刀を手にした少女は、予想よりずっと朗らかで友好的だった。依頼のことを考えていた男は瞬きした後、小さく笑みを浮かべる。
「そうだ。冒険者だよ。……そっちもか?」
荷物を足元に降ろす少女を見て、あ、と小さく声を上げた男は、すまん、と小さく声を上げ、自分の荷物も同じように足元へ降ろした。
「ゾス村で依頼でね。夜に発つのは不用心かと思ったんだが……向こうが急いでるっていうもんだから」
オークの集落のことは口にせず、ぼんやりとした表現に留めておいた。この乗合馬車がゾス村に行くことは分かっている。部外者であるなら、余計な心配をさせてしまうだろうと思ってのことだった。
少女と同じく、家々の窓の明かりや街灯に目をやる。何とは無しに剣の柄頭に手のひらを触れさせた。奇しくも少女と同じく、オークに考えを巡らせる。
村に着くころ、「小さな集落」はどうなっているのか。本当に小さいのか。家畜以外のものに手を出し始めてはいないか、などなど。相手は武装した人類なのだ。此方の思い通りに事が運ぶはずもない。
■タピオカ > 「うん、同業だね!
僕は、タピオカ。これでも剣士だよ」
ギルドに属していても顔合わせを欠かさないほど密な集団でもない。けれど、たまに偶然に出逢えば連帯感を覚える。砂漠に散りながら旅をするように。にこやかな笑顔を向け、軽く握手を求めて手首を向け。
「ゾス村の?……もしかしてこの依頼かな?オークの」
彼の言葉に睫毛を弾ませると、腰布に下げた小さななめし革のポーチから、冒険者ギルドの印が入れられた依頼書を取り出す。麻ひもを解いて開く。ゾス村でのオーク討伐の旨がしたためられたその書類は、彼が受け取った物とは仔細が違うかもしれないが。紛れもなく同じ依頼を自分も受けている事の証明になる。
■ラスティアル > 「俺はラスティアルだ。……その恰好で剣士でなきゃ、踊り子か何かだろうと思ってたよ」
握手に応じた男は冗談めかして言った。触れた相手の手は小さく、柔らかく感じる。少しの間握った後、小首を傾げてポーチから取り出された依頼書へ目をやった。
「ああ、それだ!じゃあ、何だ……やり合う気なのか?オークと?」
思わず眉を片方上げる。彼女の曲刀は玩具には見えなかったが、身体つきといい身に着けているものといい、「戦闘」からは程遠いように見えた。剣士であることは疑っていなかったが、掟無用の殺し合いに飛び込む類の人間ではない。そう思い込んでいて。
「まあ良い。そういうことなら……向こうでは仲間ってことになるな。これまでに、連中とやり合ったことは?」
訊ねつつ、自分も胸元のポケットから丸めた依頼書を取り出し、相手のと突き合わせるように見せた。
■タピオカ > 「よろしく、ラスティアル!
……あはは、踊り子でも間違いじゃないよ。いつかお披露目しよっか?」
嬉しそうに彼の名前を繰り返し。再び語尾を上げるが、それは幾分悪戯っぽさを交えたものだった。けれど踊る事は好きだし、人前で披露するだけの自信もあるとばかり、片手手首だけを肘から優雅に曲げ伸ばし、指先を揃えて。舞踏のほんの一部を示してみせ。
「もちろん!ギルドでお仕事受けた時は、後で人が見つかったら追いかけさせるって世話役の人が言ってたけれど。もし誰も来なかったら1人でやる気だったよ。
――そうだね。オーク相手なら、何度か。……ふふ。そんな顔しないで。僕は駆け出しじゃないよ。1対1での話なら、ミノタウロスを倒した事があるよ。パーティでなら、巨人も討伐したよ」
取り出された依頼書は間違いなく2人を同じ場所へと導くもの。すでに仲間だと言わんばかりに片目を瞑ってみせると、彼の仕草に小さく笑みを浮かべ。腕には覚えがあるとばかり、一瞬で鞘に入った曲刀の鯉口を切ると鈍く光る刀身をかすかに見せ。再び瞬時に元に戻す居合を見せ。
「ラスティアルは戦に慣れてる感じがするね。
その弓や剣は冒険でならしてきたっていうよりも……兵士?傭兵だったりして?」
■ラスティアル > 1人でやる気だった、と言い出す相手に眉根を寄せた。
「おいおい、オークを甘く見ると……へっ? そうなの? ……はぁー」
オークは何度かあると言われ、気が抜けた声を上げてしまった。更にミノタウロス、巨人と言われてしまうと更に驚く。どちらも男は戦ったことがなかったからだ。
小さな相手の思わぬ「戦歴」に驚いたが、それが出任せでないことは抜刀の構えと、ほんの少し前に見せた下腕の挙動で理解できた。
「うん、まあそう……そうだなぁ。大体は人が相手で……後はまあ、狼、とか」
下手したら俺が守ってやらなきゃ、などと気負いかけていたのが恥ずかしく、ぼそぼそぶつぶつ話す。まさか人外相手では自分より上だとは。ちらっと小柄な相手の顔を上目遣いに見る。
「……向こうでは、よろしくお願いします」
■タピオカ > 「そうだよ。マグメールの北にある高原が僕の出身なんだけど、そこには魔物が結構居て。皆小さな頃から剣を握ってる。僕も、6つで初めての剣を貰ったよ。だから、それなりには戦えるつもりだよ。……もっと、しおらしい女冒険者だと思ってた?」
驚いた様子を見せる彼へ、ざっと来歴もついでに語り。
田舎から出てきたばかりの初心者のように、両膝をきちんと揃えて不慣れっぽく剣の鞘を握って。淑やかに目元を弛めてみせる戯れをして遊び。
「あは!……こちらこそ、どうぞよろしくね!
背中は任せてよ。ラスティアルが弓で狙い撃ちにしてるスキを狙うオークは、僕がもれなく斬り捨てちゃうから」
何やら彼のほうがしおらしくなってしまって、笑い声ひとつ。
任せてとばかりに自分の浅い胸元に手を置いて。
やがて御者が出立を告げると、ドアが閉じられ。
小気味よく揺れだす馬車が、王都の夜を駆け始める。
「夜のお出かけって久しぶりだなー。いつもは野営して暗くなれば早く寝て、早く起きる生活してるから。いつもと違ってなんだかワクワクするよ」
そんな事を言いながら、窓の外の眺めに青緑の目を向け。
■ラスティアル > 「6つ?へえーすっご……俺、もっと遅かった気がするな。あー正直「試合では強い」って感じだと思ってた。お行儀よく戦うのは得意だけど、みたいなさ」
戯れる相手に対し、肩を竦めてごめん、と小さく付け足す。人は見かけによらないもんだ、と。
「いやあ、女の子に前に立って貰うっていうのは、ああでも、うん。適材適所が良いかなやっぱり」
少なくとも、オーク相手なら自分より経験豊富なのだ。歳や背丈に関係なく、慣れている者に従うべきだろうと思い直し、相手の言葉に頷く。
「俺はそこまでワクワクしないかなあ。不意打ちとか、寝ずの番とか色々思い出してさ。でもまあこうして寛げるんなら悪かないよ」
街を離れてしばらく経つと、灯火や魔法の光の代わりに、冷たい白色の月光が降り注ぐ。
南側の海に目を向けた。月明りの下、港湾都市ダイラスを目指す大型商船がぼんやりと浮かび上がる。
「そういや、北方の高原生まれって言ってたよな。どうしてまた王都に?まあ冒険者なら当然だろうが、何で……なろうと思ったんだ?」
窓の外から視線を外した後、相手の横顔に問いかけた。
■タピオカ > 「それって男の子のプライドかな。傷つけてたらごめんよ、でも、命のやりとりだから。遠くから攻撃はよろしくね。前で盾、作っておくよ」
女が前に立つというのは。相手の矜持に不用意に触れてしまったかなと不安げに覗き込む。通り過ぎた街灯の一瞬の明かりの中で向き合い。
「そっか。落ち着く夜の思い出は、あんまり無かったみたいだね。
……わあ、大きな船……!
この馬車で追いかけっこしたら、ダイラスにたどり着くのはどっちが先かな。
日が暮れた後の時間にあまり快い記憶が無い様子。さらりと流すと見えた大型の船に瞳を輝かせて窓にやや身を乗り出した。思わず持ち上がった、子供の発想。
「うん。……僕の一族は遊牧民なんだ。フェルトのテントで移動しながら、牛や羊に草を食ませて、時々小さな畑で煙草の葉を作ったりして暮らす。決まりごとがあって、成人の15歳で一人旅に出されるんだ。広い世界を見て、色んな経験をするためにね。僕は前から王都の都会の冒険者に憧れてたから、一直線に来てギルドに入ったって感じ」
身振り手振り。どこか楽しげに出自と来た理由を語ると自分の横顔に問う姿に気づいて。相手と目を合わせて、に、と笑みかけた。
■ラスティアル > 「そりゃ船だろうな。風も出てるし」
無邪気な様子につい笑ってしまいつつ答えた男は、続く相手の身の上話に頷きつつ耳を傾ける。
「タピオカは望んでたから良いんだろうが、そりゃあキッツい決まり事だなあ。この国は……他と比べりゃ豊かだとは思うが、その分色々と危ないものも多いだろ? 特に……女の子にとってはさ。いや、でも大したもんだ。凄いよ」
椅子の背にもたれつつ腕を組み、小さく笑う。北東へと続くまれびとの道は次第に海岸線から離れ、見える景色といえば月光の下で波打つ喜びヶ原の草原地帯のみ。
「じゃあ、まあ……タピオカが経験を積んだ立派な女性になれるよう、背中を守らせて貰うとするよ」
冗談半分で言った。戦闘経験豊富なのは間違いないのだろうが、屈託のない相手を見ているとどうも不安になってくる。轍の音を聞きながら、男は馬車の進む先を見遣って目を細めた。