2020/08/22 のログ
ご案内:「平民地区/路地裏」に獣魔目録さんが現れました。
獣魔目録 > 平民地区のとある裏通り。
通りから通り、通りから酒場や宿や冒険者ギルドのある区画へ、富裕地区から平民地区へとを結ぶ細い通り道である。

その裏通りは確かに各方面に移動するには近道となる通りなのだが、その呼び名の通り【裏】酒場や宿屋諸々の店の裏手を通るからなのか、薄暗く、人通りは殆ど無い治安的にもあまり宜しくない通りなのだが、今宵もまたポツンと人影がひとつ。

――…その人影は人通りなんて殆ど無い裏通りなのに何かモノを売っているようで、敷物も敷かず地面に直接正座をして座り、代わりに自分の前に小さな敷物を敷いて其処に商品を並べて、裏通りをぬけようとする者が通りかかるのを売り物に興味を持つものを待っている。

灯りを照らすなら、その人影は酷く小柄で少年少女あるいはドワーフなどの背の低い亜人のように見えるが、全身を襤褸切れのように穴の開いたローブを身にまといフードを被り口元以外をすっぽりと隠し覆っていた。

「……魔導書に絵本。お土産に1冊如何ですか。」

路地裏に静かな声色ではあるが以前よりハッキリと人影は売り物をアピールし、ちらりと見せる口元に笑みを浮べては誰も居ないのに笑みを絶やさない。

声質も何処かよりヒトに近づいたような、けれども耳の良いものが聞けば気持ちをざわつかせ微かにノイズに似た歪み交じりの声ではあった。

さて、そんな笑みで声で売ろうと露店で扱っている商品は数冊の本。

可愛らしい絵柄の童話の本
如何にもな本格的な小説
タイトルの何もない怪しげな本
それと魔獣の皮で装丁された魔導書
他にも数冊の本が並べられている。

もし、通りかかった人間が本を手に取り中身が読みたいと言えば、人影は喜んで本を渡しどうぞと頷くだろう。

もし、ほしいと言えば喜んで人影はその本を売るだろう。

どの本を選んでもそれはもう嬉しそうに人影は応える。

獣魔目録 > 「……もっと目立って、もっと読んでもらわないと困るんだよなー………。」

獣魔目録と言う存在をコアに他の魔導書の力を吸い上げてヒトと言う形を取っている。
コアはともかく身体を維持するには魔導書を喜ばせないといけない、つまりは売れないと読まれないといけないのだ。

現状魔導書は滅多に売れることがない。
売れないばかりか、興味を持たれる事も稀である。
コアとなっている獣魔目録は売れても自動的に一定期間で手元に戻るから良しとして、他の本が全く売れない。

もっと言えば自分を維持するためにもっと魔導書が欲しい。
其処で今考えて思いついたことを今実行する。
フード奥でチチチチッと数回舌打ちを慣らし、鳥のさえずりに似た音を立てると、指先が辛うじてでるローブの袖にも片方の手と挿し入れて、ごそりごそりと漁ると数分たたぬうちにずるりと一枚の木札とカンテラを一つ取り出す。

ごん、とカンテラを置き、手の甲でガラスの側面を叩いて、中の光源に衝撃を与えるとほわっと魔導書の乗った敷物の面積程度はてらせる程度に明るくなる。

次に木札。
其処には【本買取マス】、【魔導書解読シマス】と書いてある。

新しくできること、やれることの追加である。

獣魔目録 > 元は【何も書かれることが無かった魔導書】である身体。
何物にもなれ無いが、何者にはなれるかも知れない、己の容姿すら定まらぬ身体。

だが魔導書である。
魔導書であればできる事はまぁまぁあるのだ。
魔法を唱えることはできなくても、文字は読める。
何かを召喚できなくても、何かを記憶することはできる。

だからこそ獣魔目録に他の魔導書に売る役目を押し付けられたのだが、仕方ない。

魔導書であれば読み解ける。
魔導書であれば価値を示すことができる。

だから新しい仕事を追加し、老若男女どれにも当てはまらぬ不気味な声色で客を招く

「解読、買取、始めました。魔導書の解読、買取始めました。魔導書も売っております。如何でしょうか?」

と人通りが皆無な裏通りで商売を続けるのだった。