2019/12/17 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 商業区域」にギュンター・ホーレルヴァッハさんが現れました。
ギュンター・ホーレルヴァッハ > 御約束待ち
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 商業区域」にクレマンスさんが現れました。
ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「…この俺を着せ替え人形扱い出来るのは、王国広しと言えどもお前くらいだろうよ。まあ、楽しんでいるのなら余り強くは言わぬが…」

そもそも男の女装姿など見て何か面白いのだろうか、と内心首を傾げつつも、楽しそうに微笑む聖女の姿を見れば深く考える事は止めにする。
尤も、元々の己の容姿と彼女の見立ての良さも相まって、完全に貴族の令嬢と化した己の姿に今一つその実感が沸いていないのだが。

「そんな事は無いさ。見慣れている事と、演技力だけは多少自信があるだけの事。お前の様に、正しく女性らしい姿を演じる事は流石に出来ぬよ」

演技が得意だ、と見栄を切ったものの、それは所謂"夜会の淑女"でしかない。
彼女の様に、貞淑で穏やかで、正しく女性らしい様に成りきる事は流石に難しい。
それ故に、何処でボロが出るか分かったものではないと苦笑いを浮かべながら緩やかに首を振って見せる。
だからこそ、早急に富裕地区から移動したいのだと最後に小さく溜息を一つ。

「…ええ。宜しくね、クレマンス。私を楽しませてくれる事を期待しているわ」

と、店を出てしまえば男言葉を話す訳にもいかない。
正直、気恥ずかしい等というレベルでは無いのだが其処は魑魅魍魎の宮中を渡り歩く大貴族としてのプライドがある。
気持ちとスイッチを切り替えて、嫋やかな笑みと共に彼女の手を軽く握って共に歩き出す――のだが。

「……ええ。構わないわ。焦る事はないから、気を付けて行きなさいな」

彼女の言葉に焦ったのは寧ろ己の方。
此の姿で一人佇むのは不安というよりも恐怖でしかない。どうか何事もありませんように、と普段信じぬ神に願ったのだが。
不信心な己を救う神は、残念ながらいなかったらしい。

「…ご機嫌よう。何か御用かしら?」

声を掛けられた瞬間、富裕地区のど真ん中に巨人を召喚しそうになってしまった。
近付いて来る男の顔を視認した時は、全魔力を用いて魔獣の軍団を召喚しようか本気で悩んだ。
それでも。それでも辛うじて全てを堪えた末に、にっこりと華の咲く様な笑みで男に言葉を返すのだろう。
こんな時もきちんと仕事をする己の営業スマイルが恨めしい。

クレマンス > 着せ替え人形扱いをしておきながら――着せ替え人形扱いだったからこそと言うべきか。
てっきり見た目と仕草だけの話であり、口調まで装ってもらえるなんて思っていなかったため、
悪乗り中の聖女ですら驚きを覗かせた表情だった。
だが彼の声はまだ低くなる前であり、不自然さはない。
怪しまれる隙すら生まない完璧な女装の道のりだったはずなのだが―――。

平気そうに聞こえた恋人が焦っていたことなど知る由もなく、忘れ物を取ってきた聖女は通りに戻ってくる。
姿は性別を変えても名が変わるわけでもなく、その名前を呼ぼうとして口を開き、噤んだ。
よくよく見れば誰かと話している。

『お一人かな?君のような子が珍しいと思って』

裏でこの場を戦場にしようとしていたことに誰が気付くだろうか。
青年も例外ではなく、まるで声をかけられることに慣れている様子の少女に対し、微笑みを崩さない。
“君のような子”には当然 綺麗な、可愛い という意味が含まれてはいようが、同時に高貴な子という意味合いもあった。
付き添っているであろう使用人を視線で探るような仕草を見せて。
一人ならば都合が良いのだろうが、幸いにも彼はそこまで悪人ではなく、純粋なナンパである。

『僕はグラントリー。カヴァデイル家の三男で……あぁ、こんな話は退屈だね。君の名前を聞いても?』

と、軽く自己紹介をしてはいるが、しばらく話すために動かない意思は明白であった。
そんな長身の青年の後ろで“少女”の恋人は少し距離をとり、二人の様子を眺めていた。
“少女の”微笑みに騙されたのは青年だけではなく、聖女も同じく。
最初は声をかけられている、困った、と思った彼女も、平気そうな恋人に危機感を覚えていない。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 彼女が見せた驚愕の表情に、僅かに勝ち誇った様な笑みを見せる。それはさしずめ、悪戯に成功した年相応の少年の様な笑みだったのだろう。――服装が元の儘であれば。
今は、少し小生意気な少女の様な風貌でしかない。そして、其処に自覚が無いばかりに、案外自分の演技力も捨てたものではないのかな、と微妙にズレた感想を抱いていたり。
尤も、それは全て数舜前の事。現在進行形の危機を乗り切る為に、権謀術数にこなれた己の頭脳はフル回転。

「いいえ?今は連れを待っているだけですの。もうそろそろ戻ってくると思うのだけれど…」

微笑む青年に見せるのは、付き添い人が戻ってこないから不安だ、と言いたげな僅かに憂いを帯びた表情。
勿論これも演技――では無く、割と本気の感情と言葉である。焦るなと言った手前、早く戻ってきて欲しいと思うのも筋違いではあるのだが、彼女と共に早くこの場を立ち去りたいとも強く思ってもいる。
使用人を探す様な青年の仕草に、本気で恋人が此方に駆け寄ってくる様を青年が見つけないかと願っていたのだが。

「私は……エリーゼ。エリーゼと御呼び下さい。家名は、その…。申し訳ございません。名乗る事は出来ないのです。それで察して頂ければ、幸いなのですけれど」

憂いを帯びた表情のまま、仮初の名を答えてみせる。
因みに答えた名は、従弟の息子の嫁の兄の嫡男の嫁の名。辛うじてホーレルヴァッハの名を名乗っている所謂分家の立場の一族の者の名。
エリーゼと言う名前自体珍しいものでは無いが、敢えて名字を伏せる事で言外に青年に匂わせる。"やんごとなき身分だから、迂闊に係るな"と。
そして同時に、恋人の到着を今か今かと待ち侘びてもいる。平然としている様に見えても、何時正体がバレるのかと内心冷や汗が止まらないのだから。

クレマンス > 『…それは残念。お一人であれば案内したい場所はいくらでもあったのに』

予想したよりラフな物言いに、青年の目が細くなる。
あまり外を出歩かない少女なのだろうか。
心細そうな彼女を慰めてやれば、良い印象も与えられるだろう。
蛮族の輩でもあるまいし、こんな往来の場所でできることなど限られている。
無論往来の場所でも品のない行為をやってのける者が存在するのが、この国の面白いところなのかもしれないが。

『でもここで出逢えたのは運命だよ、エリーゼ。
 一緒に探してあげようか。今日は人が多いようだから、君の同行者も迷ってしまったのかもしれない』

事情ありげな少女に身を引くという選択はなされず、明るく言い放つ。
決して悪人ではない。悪人ではないが、女性に慣れている様子は否めない。
貴族らしく労働を知らぬような細い指が、エリーゼという名の少女の肩に触れた。
抱き寄せるように。ともすれば、抱き寄せて共に歩こうとしているようだ。
それは紛れもなく言葉通りの“一緒に探す”ためではあるが。

ちなみに当の同行者、まだ少し距離をとっていた。
本当に知人と会ってしまったのか、それとも初対面なのかわからず、近づきにくかった。
知人だった場合、今後恋人と過ごすにあたって己が顔を合わせると拙いこともあるのではないかと思ったことが原因だった。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 商業区域」からクレマンスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 商業区域」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。