2019/09/10 のログ
ご案内:「バー「ブラック・ルシアン」」にサウラさんが現れました。
■サウラ > 王都マグメールの平民地区と富裕地区の境に位置するこのバーは、
銀髪で品の良い初老マスターが一人で経営している。
『蜂蜜の味見を』という合言葉を添えてマスターに心付けを払えば、
カウンター奥の通路を進んだ先にある狭い半個室を借りて、
如何わしい事にも及べるとは知る人ぞ知る事柄ではあるけれども。
「――ええ、獣舎の西側からが先よ。
間違えたら丸焦げになるのはあなた達のほうよ?確りやって頂戴」
席を立つ相手に念押しの響きでそう告げ、ひら、と片手をあげて見送る。
見送る相手は鋼鉄の口輪の仕事仲間だ。
王都近郊にある獣舎周辺に少々厄介な草が蔓延り、
その除草の算段を酒を傾けながら打ち合わせていたのだ。
■サウラ > カララン、とドアベルが鳴って仕事仲間が店外へと出て行く。
これから馴染みの娼婦ところへ向かうが一緒にどうだと誘われて、
女の嫉妬は怖いわよ、特に情の濃い娼婦のはね、と笑って送り出したのだけれど。
「――…ほんとに刺されたあとじゃ、後悔しても遅いのよ」
カウンター席にひとり残って小さく肩を竦めてそう紡ぎ、
グラスを磨きあげるマスターの手仕事を物憂い眼差しで眺める。
ご案内:「バー「ブラック・ルシアン」」にルドミラさんが現れました。
■ルドミラ > 奥のテーブル席にいた二人連れの客が席を立ったのは、ちょうどそんなタイミングだった。
静かなバーゆえ、ちょっとした打ち合わせにこの店を使う者は『鋼鉄の口輪』の面々だけではなく。
「 ……ご快諾頂いて嬉しいわ。では、さっそく来週から昼の時間帯に館へいらして。
楽しみにお待ちしております」
王都で娼館を経営する女主人の打ち合わせ相手は、この店の常連である画家だ。
顧客への贈答用として、彼が贔屓する娼婦の肖像画を依頼したところ。
相手を見送り、さて会計を、と思ったのだが。
カウンターに、見覚えのある相手の、物思わしげな横顔が目に入った。
「──サウラ……? サウラなの? まあ、何年振りかしら」
白い顔に、黒目がちの瞳に、素直な驚きの色を浮かべ歩み寄る。彼女がまだヒトの奴隷を取り扱っていた頃、何度か取引をしたことのある相手だった。
ついでに、弾みで楽しい一夜をともにしたことも──悪印象のない相手ゆえ、
先方が拒まなければ、頰と頰を触れ合わせる挨拶をするつもりで、軽く腕を広げる。
■サウラ > 照明がやや抑えられたダークトーンのシックな内装の店内はいつ訪れても落ち着いた雰囲気を醸している。例の小部屋で『味見』が行われることもあるにも関わらず、だ。この卒のない整い方はマスターの出自と同じく店の不思議のひとつとして数えられ、己がここを気に入って利用する理由でもある。
店内の奥からだろう聞こえてくる人声さえも軽く酔いの回る今は心地好く聞こえ、ふっと表情を緩めてクリスタルグラスに手を伸ばしかけたタイミングでだった。不意に『その声』に名を呼ばれたのは。
声が聴こえてきたほうへ躰をゆるりと向け、その姿と相貌を認識した刹那、ひとつきりの眼を大きく見開く。
「――――――…、え?……、ちょっと待って…、待って頂戴、……吃驚し過ぎて心臓が口から出そうよ。
こんなところで貴女にまた逢うなんて、……5年…、いいえ、それ以上かしら」
たっぷりの沈黙は驚きの大きさの証。相手の両腕に迎え入れられながらグラスに触れることのなかった掌は、嘗て一夜を共にしたこともある女主人の背に回される。相手と頬を触れ合わせ、緩くその身を抱き締める。
■ルドミラ > 黒髪に白い肌の女主人と、色素の薄い髪にショコラブラウンの肌をした商人とがささやかな歓声を上げ、親しげに右、左と頰を合わせ、身を寄せていても。マスターは我関せずを貫いている。
緩く互いの腰に手を回したまま、顔と顔の距離をとると、女主人は懐かしげに細めた視線を、少し野性味を増したようにも見える美貌にあてた。
「ああ、もっとよく顔を見せて──そう、そうよ、この蜂蜜色の目。本当にあなたなのね……?
騎獣商人に転身したとは聞いていたけれど、また会えて嬉しいわ。だって──」
そこで言葉を切ると、続きは内緒話のトーン。彼女にだけ聞こえる囁きを、細長く尖った耳元へ被せる。
「……1時間もキスしっぱなしだった相手は、あなたが最後だもの。そう簡単に忘れられるものじゃないわ」
愉しい一夜の記憶。長い長いキスを堪能した印象がもっとも鮮烈に残っている。
間近にぶつかる目線に甘やかな色が漂ったのはほんの束の間で、白い顔はすぐに、再会を喜ぶ友人として過不足ない表情に戻る。
「──祝杯を上げたいわね。時間はある? 」
そして、マスターからは死角になる位置で、きゅ、と指を絡めたのは、言葉通りの意味での「祝杯」の解釈に多少の幅を持たせるため。
声をかける前、少し沈んだような雰囲気だった彼女。女同士の積もる話を楽しむのも歓迎だが、酒以上の気晴らしが必要ならば、それもまた歓迎、との意図を込めて。