2019/07/21 のログ
■サウラ > 意識は完全に背中側から押さえ込む厄介な暴漢に向いている。
軋む物音は全て暴漢が立てているものと思い込む程度には窮地であるし、
それ以上の推測をする余裕なぞ今はない。
半ば絶望的な心地に陥っていたところへ不意に響く、誰かの声。
何を言ったかまでは聞き取れなかったけれど、
こんなときだというのに何故か項の産毛がざっと総毛立ち、一瞬ぎくりと身を硬くする。
直後に殴打する音がして背中側からの圧迫が消失し、続け様どさりと重たく倒れる物音が聞こえた。
「ッ――…、そう、…お勧めしてくださるのは有難いのだけれど、
これって合意の上ではないから遠慮しておく、――…わねッ!」
新たな人声のするほうを振り返れば、その姿が目に入る。
だが先ず対処すべきは小声の主より倒れた男のほう。
紡ぐ声の語尾が跳ね上がったのは、倒れた男の向こう脛をがつと蹴飛ばしたから。
二度目の痛撃に酔漢は呻くが、酔い過ぎて上手く立ち上がることが出来ずに床でもがいている。
■リート > 「なるほど……」
口説くべきであったろうに――自分の脛を抑えたくなるほどの見事な一撃に内心同情と侮蔑を奏でる。
男の気持ちが察せる艶めく肢体の持ち主と酔漢の関係は、そのやりとりで大凡把握した。
自由になった彼女の姿、美貌――それこそ目立つ傷さえ感嘆するような有様に視線を吸い寄せられるも一瞬。
「……ふむ。であれば彼が元気になる前にここから離れたほうがいいだろう。
まあ、身体の一部はだいぶ元気であったろうがね。フフフ」
彼女に向かって手を差し伸べた。
貧富の差なきこのバーとて、彼女は"売る側"の存在と見えた。ならば媚を売っておくのも悪くはあるまい。
「今日は客も多く賑やかだ。静かな席に行けばやり過ごせるだろう。
口直しに、ぼくと飲まないか。 ああ、きみの奢りで良ければだがね?」
ぐっと抑えた小声――であってもしっかり言葉が聞き取れる奇妙な透き通り方をする声で語りかけた。
こちらは売る側でも買う側でもない。"買われる側"だ。
これという身分を示さない、しかし派手な装いが、それを物語る。商談は欠かせない。
自分を買ってくれる――かもしれない相手と見定めて、そうでなくても一時の時間は過ごせるだろう。
下手に出ず、不遜な態度で。相手の気風を試すようにだ。失礼……と男の顔を踏みしめながらとりあえず化粧室の狭い入り口から廊下へ出ておく。
■サウラ > 蹴り上げる動作で乱れたドレスの裾を片手で撫で付けて直す最中、
短く同意を紡ぐ声を聞いた瞬間、ぞわ、と、また理由の分からない感覚に襲われる。
種族的な魔力感応力の高さが災いして引き出される感覚だとは今は思い到らずに、
差し伸べられる手と、初見と思しき相手の顔を一度見比べる視線を送る。
「ええ、そうね。……とってもお元気な部分を蹴り飛ばさなかっただけ、有難く思って頂戴。」
奇妙な感じを受けるが不快とは真逆だ。そわりと猫をも殺す好奇心が首を擡げる。
下手の言動であったら、ナーバスになっているこの状況では裏を勘繰っただろうが、
相手の態度に逆に好感さえ抱き、ふっと相手の顔を見ていた表情が緩む。
「賑やかなのは、何件か大口の商談が纏まる日だからでしょうね。
……ふふ、正直な方ね?…ええ、いいわ。私が持ってあげる。
それじゃあエスコートしてくださる?」
結局は差し出されたその手に手袋に包まれた片手を預け、
男の顔を踏み締める相手に続いて己は暴漢を跨ぎ越して化粧室を相手と共に出る。
こんな卑劣な輩の所為でお気に入りの靴に傷でもついたら厭だから。男には一瞥もしてやらない。
緩く相手の腕に掴まりながら相手と共に廊下を歩き、案内される先に向かうだろう。
ご案内:「富裕地区/サロン「瑠璃の首飾り」」にサウラさんが現れました。
ご案内:「富裕地区/サロン「瑠璃の首飾り」」にサウラさんが現れました。
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ご案内:「富裕地区/サロン「瑠璃の首飾り」」にサウラさんが現れました。
■リート > 「それは重畳。ここに入るためのコネクションに、有り金を使い果たしてしまったのでね?」
繊手を、仕草だけは失礼のないように受け取ると、脚を進むのはフロアの隅、ボックス席だ。
個室に連れ込むには、彼女にもしも"大口の商談"がある場合には失礼にあたるし、
縛るは余り好みではない。連れ込むよりは連れ込まれたり誘われるほうが、自分の身分には相応だ。
そうなるように媚びておこう。買われずともコネクションを作っておくのは悪くない。
「申し遅れた。ぼくはリート。
芸をひさいでいるものだ。 歌は本当の上客にだけ、こいつを爪弾いたり……
そう、あとは富める者のお側に控えて食い扶持を得ている。ぼくがこの場に居る理由はもうおわかりだろう?」
カウンターで返却してもらった六弦楽器を見せた。すでに楽団の演奏が甘やかにフロアに満ちているから、
爪弾いてみせたりはしない。今これが上手いかどうかは、さして大事なものではないということもある。
「あなたは……『暁光の槌』、はたまた『バーンウェル商会』の方?
ああ、『鋼鉄の口輪』からの賓客が居るという噂もそこで聞いたが」
であれば耳がないぼくではお眼鏡に敵わぬかもしれない。
そんなことを考えながら、お言葉に甘えて適当な葡萄酒でも注文した。安すぎず高すぎず。それは自分の値段だった。
高い酒は、取り入ってから飲ませてもらえるようにすればいい。
■サウラ > 「あら、それは随分と背伸びをしたのね。
後ろ盾もなく此処へ乗り込んでくるなんて、
あなたって豪胆なのかしら。それとも無謀なのかしら?」
腕を緩く絡めている相手は不遜な言動だが強引ではなく、
背の高さも殆ど変わらぬ所為もあってか歩き易い。
そのまま相手のエスコートに身を委ねてボックス席へと辿り着き、満足げに微笑を浮かべる。
静かな場所ならば館のなかには沢山ある。宿泊用の個室まで備えられているくらいなのだから。
だが相手は己が漏らした少しの情報を元に、あえてこのボックス席を選んだのだろう。
自己紹介を口にしている相手の傍ら、ゆるりとビロウドの座面に腰を下してから、
ゆるりと興味深そうな視線で相手の姿を上から下までゆったりと眺める。
「ではリートと呼ばせて貰うわ。私はサウラよ。
先ずは御礼を言わせて頂戴。先程はありがとう、助かったわ。
――…、嗚呼、あなた楽師なの。随分と不思議な声をしているのね?」
相手がここに居る理由については、理解している徴に緩く首肯する。
つらりと相手の口から今宵の参加者の所属が零れるのを聞きながら、
ゆるりとドレスの下で優雅に足を組み直す。
「商いを生業にしても通じそうなくらい、よくご存知ね?
それによく聞こえる耳も持ってるのね。…褒めてあげるかわりに教えてあげるわ。
鋼鉄の口輪から来たのは私と、……あっちのテーブルでカードゲームをしている彼と二人でよ」
折り良く通りかかった給仕に相手が葡萄酒をオーダーするのを待って、
己のほうもいつものをボトルで、グラスも二つお願い、と追加する。
一礼して去ってゆく給仕を尻目に再び彼に視線を戻す。
■リート > 「いや、なに。助けを求める淑女の声が聴こえたものでね?
低俗な身分なれど、義士と自負するならばどこへなりと馳せ参じねばなるまいよ」
肩をすくめて、指摘された通りの無謀を笑ってはぐらかしてみせた。
しかしその無謀のおかげで愉しい相手と出会えたのは間違いなく、収穫である。であれば悪くない投資ではあった。
座る姿ならば判るだろう。ショールが重力に従って落ちるなら、細身の身体に乗った、女の肢体を示す乳房の稜線が浮かぶ。
その視線を受け止めるように、引き締まった自らの腹部を胸元から臍に従って指を這わせて戯れた。
「サウラ殿。 ンン、良い名前だ。 眼にも耳にも幸せの溢れる御方だよ。
……ぼくの声に、興味がおありかな? しかし、歌ともなるとロハでとは言わない。
お聞かせするのは寝台でも構わないが、傷が残るような痛いことは――控えてほしくはある。
どんな曲も奏でて歌える通り、どんな要求にも応えたいとは思うが、"商売道具"を壊されてはたまらないな」
声について探りを入れられた時、僅かに声を低く潜めた。
警戒でも警告でもなかった。むしろ相手の興味を煽るように、言外にそれが特別性であることを示唆した上で、
次いだ二の句で、はぐらかす。説明をするための唇を、届いた葡萄酒を強めに煽って、正解を飲み干してしまった。
食前酒のようなものだ。二つのグラスに興味津々である。
「耳が良ければ聞いた曲をものに出来るし、情報は金になる。人を殺す凶器にもなる。
たとえば先程サウラ殿に無体を働いた御仁、ここしばらくの躍進の裏には対立する二つの企業との尻軽な蜜月の噂がある。
更には酔漢となって、『鋼鉄の口輪』への借りもあるとなれば――そう考えると事が済むまで静観したほうが良かったかな?
……もちろん冗談だ。ほほう、あの御仁と。では"商談"はどちらを通すべきかな、サウラ殿?
ここからは小物の取引の話だよ、囀る鳥でも買わないか、というね」
騎獣商は『鋼鉄の口輪』ともなれば、信用は折り紙つき。
獅子に菊を散らして頂きたいという不埒ないつぞやの客が門前払いを食らった話を覚えている。
なによりもそう――片方だけの瞳で見つめてくる彼女に、こちらもまた興味がそそられる。
アシンメトリーなのは見た目だけではあるまい。その心に潜む不均整が気になる。
知りたいのではない。肌と耳で感じてみたいのだ……だから、腹部を撫でる手を自分の細い首元に運んだ。
飼われてみたいな、なんていう卑しさと、上等な酒への興味がそうさせた。
「……最近はここが寂しくてね。首輪を嵌めてくれる人を探しているのだ。
余暇時間の無聊の慰めに、如何かな? ぼくという奴は、かかる金の割にそれなりの娯楽だと思うのだが…?」
■サウラ > 「ふふ、口もよく回るのね。
助けてくれたにしては「個室でどうぞ」だなんて言うのだもの、…酷い人ね?」
詰る響きというより、面白がっている色が強い声音でそう紡ぐ。
相手の姿を眺めるうち、ふとある事に気づく。
己は大きな勘違いをしていたらしい。
どこか戯れるような這わせ方で撫でて見せる仕草を、じ、と見詰め。
ちらりと腹部よりも上に視線が逸れ、その稜線を一瞥してから小さく肩を竦めて見せる。
「有難う。でも、殿なんて私の柄ではないわ。サウラと呼んで頂戴」
一旦そこで言葉を切り、如何なるリクエストにも応える楽師としての自負と、
つらりと流れるような口上で予防線を張ってみせる相手の言葉を吟味する顔つきで聞き入る。
一定の用心深さはむしろ好ましく、上手に興味を引きつつ手札の絵柄を悟らせない巧みさにふと笑う。
葡萄酒と共に届けられたボトルは銀のワゴンに乗せられ、
同じくワゴンに乗る二つのグラスには琥珀色の液体が注がれている。
「……あら、いやだ。そうなの?ただの泥酔者かと思っていたのだけど。
もし事が済むまで静観していたら、あなたと私、今こうして”商談話”はしていないでしょうね」
……嗚呼、仮の話ではあるけれど、もし静観していてもあなたのこと非難したりしないわ?
他者を力尽くで押さえ込んでするのが好きな輩って、割とどこにでもいるもの」
嘆息交じりの声音で返し、小さく肩を竦めて見せる。良ければどうぞ、と相手にもグラスを勧め、
手を伸ばせば届く位置に配されたワゴンから、グラスのひとつを手に取って一口飲む。
琥珀色の液体はやや甘口のシェリー酒だ。此処に出せるくらいなのだから当然値が張るが、
値段で選んだ結果でなくて、これは己の嗜好が反映されたものだ。
飲食について然程執着はないものの、嗜好だけはある。
護衛の獅子獣人があるとき凄い厭そうな顔をして、来客を追い返した日もあったのだけれど。
彼らの表情の変化を読み解けるのは己ぐらいなものだから、
仲間内の誰も彼らの不機嫌さに気づかなかった、とは過去の話だ。
相手の手が自らの首に触れているのを見ながら、もう一口グラスを煽る。
ほんの僅かな視線の動きで、相手の興味が己の顔の傷に向いているのを聡く感じて仕舞うけれど、
それについて今は言及することも問うこともせず、相手の声に耳を傾ける。
「――…声のいい鳥なら首輪より籠のほうが似合いそうね。
そうね、あなたに首輪をあげてもいいわ。傷が残るようなこともしない。
そのかわり、あなたの声の秘密、教えてくれる?」
■リート > 「ではサウラ。勝利や支配、蹂躙というものは自然界の倣い、ぼくの中にも同様の感情はあるかもしれないが――
たとえばきみのような女傑の、涙と屈辱に歪む貌を観たいのだという好奇なら理解はできる。
いやしかし彼とはわかり合えないな。彼はきみの貌を観ていなかったから」
風情がわかっていないよね。と、自分の顎を撫でながら視線を背け、今もあの廊下でもがいている彼のことを追想する。
覚えていても面白いものではないな、と思考から屑籠に捨ててしまうと、視線は再び彼女の貌へ戻り、
うっすらと唇を笑ませて、興味深げに覗き込むかのよう、背を丸めて上目遣いに見上げた。
「上下関係を判らせて、利害の天秤でもって隷従の関係を築く……
――ビジネスでそれをやっているきみたちのほうがよほどスマートだ。
『鋼鉄の口輪』の風評はよく聴くよ。乗騎を買い付けるならまずはそこだと。
一度乗らせてもらったが、気位の高い巨狼があそこまで従順になるとは…天を仰いだものだよ。
躾の手腕にはさぞかし自信がおありなのだろうね……フフフ。いや失礼」
紅潮した頬に手をあてて、唇を舌で濡らした。ごまかすように顔を背けて背筋を伸ばす。
楽器をソファに丁重に休めると、代わりにグラスを指先で摘んだ。
縁を指でなぞり、甲高い音が涼やかに響くのを確かめると、
その音色ととともに、鼻孔を擽る芳醇な香りに上機嫌に鼻を鳴らした。まだ口には含まない。
「素晴らしい。 であれば今日よりぼくはきみの籠の鳥。
この身も好きにしてくれて構わないよ。如何なる歌でも歌ってみせよう――うん?
ふふふ、なるほど、歌よりもこれがなにかを知りたいのか。
であれば……物語ではなくそれだけを、今は掻い摘むとしよう」
首筋から乳房へと、自ら触れてみて、その軟みを示した。
下腹部にある過去の疵、半陰陽の秘密は後へのお楽しみ。
これからのことに思いを馳せると、代価として提示された条件に眼を丸く。
少し悩んだが、お互いに出会ったばかり、語りきれぬことも語りたくないこともある。
身を乗り出して、彼女の種族特有の長い耳に唇を近づけた。息を吸う音を聞かせてから。
「………この声は、聴いたものに夢を見せるのだよ。
妖精の悪戯さ。歌ともなれば、一夜だけ天国へと誘える。
たとえば、そう……、――"愛しているよ、サウラ"。
……ふふふ、種明かしだ。 あとで、"騙したわね"とは、これでならないだろう?
中毒性もない、軽薄な娯楽さ……いかがかな?」
決してしっかりと聞かせぬよう常々小声で紡ぐそれを、
耳朶に、直接、そして愛をささやく一節は呪われた"歌"にして吹き込んだ。
彼女に如何なる影響を与えたか、その身をすぐに離してソファに背を預けて、グラスを揺らした。
返答の是非はともかく、一杯おごってもらえるとのことだし、上等なシェリーはそうそうありつけるものではない。
ひとくち煽って、すぐさま上機嫌な鼻歌を歌った。こんなものを飲める者とお近づきになれるとは。
氷菓やチョコレートも、伴に良いだろう…彼女の肌色と貌を見やる。期待に満ちた視線を送る、果たして商談の結果や如何に。
ご案内:「富裕地区/サロン「瑠璃の首飾り」」からリートさんが去りました。
■サウラ > 「……もう。おかしなところで結託なんてしたら、私、あなたのこと怒るわよ?
蹂躙した者からの報復を忘れているようだから教えてあげる。虐げられた者にも牙はあるのよ」
風情云々の同意を求められ、軽く往なすような声音でそう返してグラスをゆらと傾ける。
少しばかりこちらを覗き込むかのよう、上目に見上げてくる相手と視線を交し合う。
「私たちの仕事は鞍と手綱を着けてる間、乗り手を食べちゃ駄目と騎獣に教えることよ。
彼らを従順に乗りこなせるか否かは、正直乗り手側の問題なのよ。
――…あなた、少し変わり者みたいだから気難しいあの狼たちと気が合ったのね」
これは褒めてるのよ、と苦笑をしながら付け加え、
躾云々にはご想像にお任せするわ、とやんわりとした笑みを添えて返す。
視線の先、頬を紅潮させる相手の様子を愛でるよう、ついと金蜜色の眸を狭める。
相手の口上は既に舞台台詞か物語のようで、即興の弾語りに耳を傾けているような。
そんな心地に浸りつつ、自らの乳房に触れる仕草にゆると瞬く。
言動からは男性要素を感じるけれど、相手の肢体は女性である印象が強い。
身を乗り出す相手が無防備な耳に唇を寄せた瞬間、ひく、と躰が小さく揺れる。
急に親密な距離にまで狭められ、息を吸う小さな音さえ拾う始末だ。
嗚呼、聴いてはいけない。そう直感が告げているのに、耳を塞ぐ術すら忘れ、
紡がれる詩吟めいた言の葉に聞き入って――、
――キン、と、頭の奥で見えない弦が緊張する。
その種を知りたかった筈なのに、気がづいたときには既に遅い。
妙なる声が造り出した術中に「嵌った」あと、何が起こったか。
二人のみが知ることで――…
ご案内:「富裕地区/サロン「瑠璃の首飾り」」からサウラさんが去りました。