2019/02/21 のログ
■タン・フィール > 相手にさらに薬効がかかってしまったことは、
抱きかかえたときに、相手の体の力が抜け、
背後からでもわかるほど、彼女の意思のようなものが、ゆるやかに抜けていくのを感じたから。
だらり、と脱力するカラダは、少年の手に余るほど豊満で筋肉質で…
そして、少年を魅了していた。
今日は、予期せぬアフターケアの、店じまい。
ご案内:「町外れの薬屋」からタン・フィールさんが去りました。
ご案内:「町外れの薬屋」からマーナさんが去りました。
ご案内:「暗い森の中」にタン・フィールさんが現れました。
■タン・フィール > 月明かりだけが、木々や枝のシルエットを判別させてくれる、
王都から離れた場所の暗い森。
薬屋の少年は、生活必需品や薬の原料を仕入れる途中、
この森にも何かしら行き掛けの駄賃を得ることは出来ないかと、
帰り道に沿ってキノコや薬草類に気を配っていたのだが…
「…まぬけ、 たいまつとコレを、取り違えて持ってくるなんて…」
ぽりぽりと頬を掻きながら、困ったように取り出すのは、
食事でも調合でも役に立つ、お鍋をかき混ぜ、すくいあげるオタマ。
強めの月光に照らされた森が暗黒の迷路ではないという点と、
今のところは、野党や魔物・ケダモノのたぐいの気配がないことが、
少年をパニックや怯えからは遠ざけていたが、
どこまで進んでもなかなか民家や王都の光、
自分のテントの気配にたどり着けないでいると、
さすがに少年にも、一歩ごとに不安の色と疲労が見えてくる。
「……どこかで、休めたら、いいんだけど…」
森の中の開けた、月明かりがスポットライトのように照らしている空間に出ると、
朽ちた切り株に腰掛けて、ごそごそと子供用のバッグをあさり、
いま、手元に何が有るかを確認しようとする。
■タン・フィール > 出てきたものは、組み合わせ次第でいつでもどこでも、
自分の求める効能の薬を調合できる、16種のハーブ。
ペンのように頼りないナイフ、タオル、小銭入れ。
携帯食の干し肉とドライフルーツ、ぶどうジュース。
今日、買い出しで手に入れた素材の、
オークの胆汁、蛇の血、氷砂糖、人骨の粉、海水。
そしておたま。
焚火を起こせそうなものにすら事欠いて、
自分自身の油断に肩をすくめる。
とりあえず、ドライフルーツとぶどうジュースの甘味で、
少しでも慰めにしようと、月明かりの中でリスのようにちぢこまって、
ぽりぽり、もにゅもにゅ、ごくごく、
ゆっくり味わい、噛み締めていく。
■タン・フィール > 「あ……そうだ…もしかしたら…」
口の中に広がる甘味から、氷砂糖を連想し、ある試みに思考がいきつく。
氷砂糖に圧力・摩擦力を加えると瞬間的に発光する、
摩擦ルミネセンスという実在する科学現象のことを思い出し、
手元の薬や、魔術の応用で、そのかすかな光を集め、固定化しようと試みる。
数分後。
少量の氷砂糖と、海水のナトリウム、
人骨のカルシウム、大気中の窒素などと微量の魔力を、
常人では理解できぬ工程で何やらいじくりまわし、
手にした棒の先に、しばらくは消えることのない、
ろうそくほどの青白い灯火を宿すことに成功した。
―――深い森のなか、月明かりのスポットライトの下、
切り株に腰掛け、青白く光る小枝を携えた、憂い顔の少年…。
そこだけを切り出してみれば、妖しい精のような、
神秘的で絵画的な雰囲気をまとっているように見えた。
実際は迷子になって困り果て、手持ちのアイテムでなんとか光源をひねりだし、切り株の上でウトウトと、空腹が満たされて微かな睡魔に襲われているだけの子供に過ぎない。
よくよく見れば、神秘的な青白き光を放つ棒は、例のおたまである。
■タン・フィール > 手元の光が消えないよう、地面につきたて、
切り株の上で仰向けに寝転んで、
月明かりと夜空をじっと見上げる。
「あ…きれい……」
切り株からはみ出た、少女のように細く、
やわらかな太腿の両足をぷらぷらさせる。
とても安眠できるような環境ではないが、
森の静けさや、風…背中に感じるひんやりとした切り株の感触は、
不安や恐怖にとらわれるよりは、いっそ夜の森林浴として
楽しんでしまったほうが、いくらか気が楽なのかもしれない。