2017/05/14 のログ
ご案内:「平民地区」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > 依頼に纏わる中間報告のため、一時的に王都へと舞い戻った妖仙。
主目的であった報告も、己の店の様子見も終えて、後はハテグの主戦場付近まで戻るだけとなった。
用事が済み次第さっさと戻れば良いものを、何だかんだと居残り続けるのはサボりの一種である。
流石に明朝には任地に戻っていないと不味いのだけれど、その限られた時間の最後に訪れたのは、何の変哲も無い平民地区のカフェ。
夜間営業をしている店内は、穏やかな暖色系の灯りで照らされて、和やかな談笑が其処彼処で。
顔見知りの店員に目配せをすると、小さなシルエットは店の奥に案内される。
防音の為らしい分厚い樫の扉をくぐった先は、これもまた落ち着いたシックな喫茶スペースに見える。
精々十五メートル四方のフロアには丸テーブルが幾つか並べられ、更にその先には壁で仕切られた個別の相談ブースが設けられている。

「良い夜じゃな。
 無沙汰をしてしまおうておるが、顔を忘れた等とつれない事は言ってくれるなよ?」

顔見知りの中年男を見つけ、気安く声を掛ける。
見た目は完全無欠の子供ながらに、大人相手に気を使う素振りも無いのだけれど咎められはしない。
何しろ、ここは”趣味人”の集まるサロン。
一目を置きあった同好の士だけが集う、情報交換の場なのだから。

ホウセン > 同好の士といえば聞こえは良いかもしれないが、その実態はスキモノの集いである。
伴侶やら連れ添いと肌を重ねるだけでは飽き足らず、手頃な金を積んで娼婦や男娼と只交わるだけでは満足できず。
己一人の情報収集では限界があると理解し、それでも自分の器量の中だけに収まるのを良しとしない。
一癖どころか二癖も三癖もある好事家達が、情報やら企画やらを持ち込む場だ。
見知った顔に肩の力を抜きながら彼の脇を通り過ぎ、入り口から見て右奥のテーブル席に腰掛ける。
談笑相手は、今の所不在。
初老のウェイターに、温かな茶を所望して、フロアの中で交わされる会話に耳を欹てる。
何処何処の娼館に没落貴族の娘が売られて、水揚げの権利がオークションで入札を受け付けている真っ最中だとか。
何処其処の道具屋で、新機軸の淫具が開発されて、牝奴隷に使ってみたら泡を吹いてイキ狂っただとか。
そんな他愛もなく、下世話で、然し愉快な情報が室内を回遊する。

「さて、何ぞ愉快な話が持ち込まれれば重畳じゃが。」

行儀悪く木製のテーブルに肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せる。
今日の所は、遊戯に踏み込むだけの時間的余裕は無い。
だが、悪だくみなり何なりを組み立てることはできよう。
何か自分と同等に突拍子も無い企画を思い付くような輩はおらぬものかと、無いものねだりの心地で。

ホウセン > 客人達の平穏を乱さず、交わされている会話の興を削がず。
その事に最大限の注意を払っているらしい店員の足運びは、盗賊の足音を立てぬ歩法にも似通う。
コトリと、微かに食器がテーブルの上に置かれた物音以外、殆ど鼓膜を揺らすものはない。
葉を発酵させた紅の茶。
僅かに砂糖を加えただけで、ミルクも柑橘も加えない。
磨き上げられた銀色のスプーンでゆるりと攪拌してからカップを持ち上げ、窄めた唇をカップの縁に。
まだ喉仏も見当たらない喉を鳴らして嚥下する。
ほぅ…っと、香気の余韻を吐き出しながら、己の切れるカードに思いを馳せる。
今の所、他の好事家に提案できるネタといえば、ひょんな事で手に入れた牝奴隷を派遣して好きなように弄ばせることぐらい。
従順さやら何をしても受け入れられるであろう多芸さは特筆に価するが、如何せん肉付きは控え目だ。
豊満な胸と腰が無いものは女ではないと言い切ってしまう者さえいるのがこの界隈。
何分、自分に正直で、自分に素直で、自分に忠実な、欲望の塊な者しか、ここの扉を潜ることは無いのだろうから。