2017/01/11 のログ
■ホウセン > おおよその事は即断即決。思考しているのか疑わしい妖仙ではあるけれど、この件に関しては逡巡に逡巡を重ね、両サイドに肘掛のある革張りの椅子の上で体育座りをして、むぅ…と、懊悩の声を漏らしている。益と不利益を並べて、確実に益が大きくなるという保証が、幾度算盤を弾いても転がり出てこないのだ。成功すれば、きっとその先の地歩を固める糧となる。というか、糧にするよう立ち回る。だが、其処までに掛かる労力――主に妖仙の精神的な面での――が、どうにも算出不能なのだ。
「……気侭な事、この上ないからのぅ。」
自分の事は全力で棚上げしてのこの台詞。小さく被りを振って、己を奮い立たせるのだけれども、所作だけを見れば諦めの境地に達して首を横に振っているようにも受け取れるかもしれない。それでも机の上の書類を脇に寄せてスペースを作り、その上でサラサラと非常に簡素な手紙をしたためる。署名と花押を施し、封書に入れて、何も付けぬ指先で表に目に見えぬ宛名を書き込む。椅子を反転させて床に降り立つと、窓を開ける。風は殆ど無風。その分、深々と冷える夜気が執務室の床を這うように流れ込む。
「”行け”」
小さな両手を合わせ、パァンと小気味の良い音を奏でる。手紙の詰められた封書は折鶴に変容し、大きく開かれた窓から飛び出してゆく。とても真っ当な手紙のやり取りではないけれど、相手が何処にいるのか把握しかねているという事情と、何よりも相手も”人間ではない”から人間を演じて上っ面を取り繕う必要が見出せないというのが大きい。術の精度は、断じて親しい間柄ではないのでそこそこ。尤も、相手の手元に届いたとて、色よい返事があるとも、そもそも読まれるかも分かったものではないけれど。袂から煙管入れを取り出し、一服の準備。程なくして、澄んだ寒空の下、異国の香りの混じる紫煙が立ち上る。
■ホウセン > 「さて、もう一踏ん張りかのぅ。」
暫しの脱力の後、ブルリと背を震わせて窓を閉める。その晩、執務室の明かりが落ちたのは、明け方に近かったとか――
ご案内:「草荘庵 王都本店」からホウセンさんが去りました。