2023/06/20 のログ
ご案内:「王都平民地区 裏通り」にエリノアさんが現れました。
エリノア > 夜半を迎えようかという頃、さほど夜の早い界隈でもないが、
それでも、そろそろ表通りの側には、“CLOSED”の札が目立ち始める頃。

そんな札を表扉に提げて、数分ののち。
空の酒瓶を収めた木箱を両手で持ち上げ、裏通りに面した扉を肩で開けて、
コックコート姿の女が姿を現した。
裏口脇に置いた木箱の上に、たった今運び出した木箱をよいしょと重ね、
両手を腰に当てて空を仰ぎ、ほう、と深く息を吐く。

「はぁ……、今日も、よく働いた、ねぇ」

誰に聞かせるでもなく呟いて、浮かべるのは満ち足りた微笑。
殊更に儲かったということもないが、普通が一番、平穏が一番。
そんな風に考えるのは、年を取った、ということなのかも知れないが、
それならそれで構わない、とさえ、女は考える。

ご案内:「王都平民地区 裏通り」にコルボさんが現れました。
コルボ > まだ人の賑わいが見える中、表通りを歩く一人の男。
それなりに身なりを整え、カバンを片手に店の表札に視線を巡らせるが、
閉店を示す札に頭をかきつつ

「ぁー、酒場に行くかな今日は……、お? おーい、姐さん久しぶりー」

顔馴染の店もまた閉店の札がかかったのを確認した直後、その店の主が裏口で一息ついてるところを見定めて手を振る。

最初に出会ったのは数年前、その男が駆け出しだった頃に、夫が亡くなって後、
夫の顔見知りだった冒険者に連れ添われて以来たまに顔を出す冒険者の男。

単独行動は多いが、それなりに腕は良いらしく、それでも、客から聞こえてくる噂もある。
女癖の悪さは今でも噂に聞くが、それは男が頭角を現してきている証左でもあり。

何より貴女を『姐さん』と呼ぶのは貴女を先達、夫の現役時代に助手として連れ立っていた頃の貴女の手並みを
貴女に自覚はなくとも『大事なことだ』と一目置いているからであり。

あと出された料理を旨いともまずいともいわずがっつくように食べる。
酒も頼まず、ここでは食事だけを愉しんでいて。

「わりい姐さん! 深夜料金払うから賄いでもなんでも食わせてくれ!
 今日酒場のやかましい空気で飯食うノリじゃねーんだ!」

手癖が悪い客の対応にも一役買ってくれる、まるで貴女を姉貴分のようにしたう男は
つい最近学院の非常勤講師としても務めているらしく、身なりのいいいでたちで頭を下げながら両手を合わせて。

エリノア > ここに店を構えた頃から、ほとんど変わらぬ見た目でありながら、
口を開けば夫に負けず劣らずの磊落ぶりを披露していたため、
姐さん、などと女を呼ぶ者も、決して少なくなかった。

振り返った先に居る男も、そのうちの一人。
双眸を細めてその姿を視認すると、気やすい笑みを浮かべて。

「おや、コルボじゃあないか、本当に久しぶりだねぇ。
 てっきりあんた、どっか他所に、馴染みの店が出来たのかと思ってたよ」

初めて店に来た頃は、尻に未だ卵の殻をくっつけたような、
ほんのひよっこであった男。
あれからめきめきと腕を上げている、とは聞くが、それと同じぐらい、
女癖の悪さについても名を上げている―――――しかし女にとっては、
憎めないけれど困った子、弟のような存在だった。

「今日はもう、本当に、大したもんが残ってないんだよ。
 でもまぁ、良いよ、どうぞお入り。
 表は鍵を閉めちまったから、裏からで済まないけどね」

煮込みが少し、あとはソーセージやチーズ、パンの類なら残っている。
男の腹の減り具合によっては、卵料理程度なら追加で出せるだろう。
そもそも気取った店でもないと、この男はとっくに知っている。
ならば遠慮も要るまいと、裏口の扉を男のためにもう一度開けた。

こじんまりとした店内、明かりは既に、カウンター席と厨房を照らすのみ。
適当に座っておくれ、とカウンター席を掌で示し、女はカウンターを隔てた、厨房スペースへ入り込んだ。

コルボ > 「丁度いい女がいないか酒場で管巻くことのが多いしな。
 それに最近は学院で書類仕事も増えてっからな。まーあっちは実入りがいいのよ。」

 けっして浮気してるわけではないというような、軽率な物言いで手をヒラヒラさせて。
 姉貴分相手には肩に力を入れる必要もないと、既に聞いている自分の噂を否定することもない男はケラケラ嗤って。

「姐さんの晩飯もちゃんと残ってんだろ?
 あ、ついでにプレーンオムレツ、姐さんの手料理食いたいね。
 元々俺は裏路地出身だぜ? 店にあげてくれるだけでも女神に見えるっての」

 全部手料理だろうというだろうが、暗に他の客には出なかった料理が食べたい、と言うのだろう。
 スラム出身、孤児上がりの冒険者。別に珍しくもない話で。

 女癖の悪さ、貴女への好感を何一つ隠すことない男。
 嘘は吐かない、それでいて背筋だけは真っ直ぐ伸ばす。
 軽々に思えて男としての筋は通す、風紀に抵触しそうな男が学院での仕事を行えている理由が
 それなりにも伝わるだろうか。

「そういや姐さん。金回り大丈夫なのか? この間も依頼失敗したパーティにツケで食わせたって聞いたぜ」

貴女が厨房に向かえば店内に移動し、カウンターの片隅である男にとっての(空いていたら)特等席に腰かけながら

エリノア > 男の言葉に、そう言えばこの男は最近、非常勤講師の職を得たのだと思い出す。
だというのに、女好きを隠しも誤魔化しもしない物言いに、軽く眉尻を下げて笑いながら、

「良いけどあんた、女の尻追っかけすぎて、
 せっかくありついた堅気の仕事、フイにするんじゃないよ?

 はいはい、オムレツね、じゃあ今日は特別デカいの作ってあげようねぇ」

招き入れた男がいつもの席に向かう姿を横目に見つつ、先刻火を落としたばかりのかまどに再び火を入れる。
煮込みの残った鍋をかけ、すぐ隣へフライパンを置きながら、

「見え透いたお世辞言わなくても、ちゃんと食わせてやるってば。
 ていうかね、アタシはこんな時間に食べないよ、いくつだと思ってんだい」

見た目がどうあれ、中身はもう若くないのだ。
一応は気にして、あまり夜更けにものを食べないようにしてはいる―――少なくとも、人前では。
そんな女にしてからが、元々は貧乏人の娘である。
夫ほどではないけれど、お人好しだとは良く言われるわけで。

ツケ、の話を持ち出されると、卵を取り出し割ろうとしていた手が止まった。
ちら、とカウンター越し、上等な身なりの男を見遣り、

「ご心配には及ばないよ。
 金の無い奴にツケで食わせてやる代わり、
 あんたみたいに金のある奴からは、しっかり毟り取ってやるからね」

にやり、と擬音のつきそうな、口角を弓形に上げた笑み。
一体いくら取るつもりなのか、ボウルに割り入れた卵は既に、四つ目だった。

コルボ > 「ああ大丈夫だよ。

 あの学院、俺がましなレベルでザルだからな。
 もう実地訓練で何人も女性生徒がゴブリンやらにレイプされてリタイア寸前だよ。
 そういう女子生徒つまみ食いした方がメンタルケアになってっからな……。

 今カリキュラムの改善に提案書だしてっけど、俺も非常勤だからねー」

 軽率で軽々で、それでも生き残って来た男はスカウトを生業としている。
 それは実戦よりも情報、偵察、搦手を重視する、先の先をともすれば魔術師より見る立ち位置。

 その視野を生かして先の先、自分が楽をする為に如何に後続を育てて母数を増やすか、
 その試案をしているのだと肩を竦めて。

「俺が姐さんの飯を旨いっていつ言ったよ。
 食うのに夢中でそんな暇ねえっての。そうでなくても家族の味なんて俺ぁ無縁だしな。

 なんで常連みんなが姐さんのことを姐さんって呼ぶのか、なんとなく感じてんだろ?」

 口にした料理の大半は、店の料理か、手籠めにした女が朝を迎えて作る料理か、
 それか幼い頃に口にした残飯だけで。

 だからこそ染み入ることを本人は自覚しておらず。

「話が早くて助かるよ。姐さんは人のこと頼らない代わりに筋の通し方分かってるから
 こっちも気ぃ使わねえんだよ。

 ああそうだ。この間この店狙ってた商会の話、あれ気にしなくていいからな。
 来週ぐらい差し押さえの話聞こえてくると思うぜ」

 庶民の味方の鶏卵も、農村に広がる流行り病で流通が滞り始めている中、
 男がそれをオーダーするのも、容赦なく投入してくのもお互いの暗黙の了解で。

 この時間帯になっても常連が当て込んでくるほどの店、知らず各ギルド勢力の腕利きが
 駆け込む表通りのこの店に目をつける新進気鋭は少ないない。
 この中立地帯に手を出すのは悪手も悪手だと、普段通りの会話を男は告げて。

エリノア > 「………はぁ?」

王都に暮らして長い女だが、子供が居ないために、
学び舎というものにはとんと縁が薄く。
自身は通ったことも無いけれど、仮にも学び舎であると銘打っているのに、
それで良いのか、と怪訝な顔に。
フライパンの温まり具合を翳した掌で確かめつつ、もう一方の手でレードルを持ち、
鍋の中身をぐるりと掻き混ぜ、

「なんだい、そりゃあ、大丈夫なのかい?
 ゴブリン一匹もまともに相手出来ない子、実地に出すとか正気の沙汰じゃないね」

顔も名も知らぬどこぞの娘の身になって、ちょっとお怒りモードである。
しかも、メンタルケアの方法が男の『つまみ食い』だというのでは、何とも世も末か。
やれやれと肩をすくめてから、充分温まった煮込みをスープ代わりに、
深皿に入れて男の前へ。
これも残り物のパンと、カトラリーを手早く出してやってから、
結局五つ目まで放り込んだ卵を溶き始め、

「うるさいね、アタシの料理は旦那の見よう見まねで覚えたんだから、
 そりゃ本家には及ばないさ。
 アタシだって、故郷の味なんてもう覚えちゃいないしね、
 ………ふん、ほんとは皆、おふくろ、とか呼びたいんだろ」

口調はぞんざいだけれども、表情はにこにこと穏やかだ。
料理は笑顔でするものだ、という、夫の教えを守っているのである。
ジュワ―――――と、卵がフライパンに流し込まれた途端に立てる、
小気味よい音を男にも聞かせながら。

「この辺りじゃ、皆自分の身の丈ってもんを心得てるからね。
 一人だけ、がめつく儲けようなんて思わなきゃ、
 持ちつ持たれつ、何とかなるもんなのさ。

 ―――――……おや、そうかい?
 そりゃあ、嬉しいことを聞いたね」

他の地区ではいざ知らず、この界隈では少なくとも、
商売とは皆がちょっとずつ、損も受け入れて存続させていくもの。
そこへ割り込んでこようとしていた、煩いハエのような連中についてのニュースに、
女はくすりと低く笑って。
フライパンの中の卵に、サービスとして、薄くスライスしたチーズを投入した。

「はいよ、お待ちどうさま。
 あとはどうする、何か食べたいものはあるかい?
 て言っても、あんた、ここの酒は飲まないしねぇ。
 飯どきに、果実水でもないだろうし……」

今日は新鮮な柑橘が手に入ったので、冷やした果実水なども拵えたのだが。
食事時の飲み物としては、少し甘過ぎるだろうか、と思案顔。
ともあれ男の前には、あり合わせ、プラス、ほかほかチーズオムレツの皿が並んだ。