2023/05/07 のログ
■影時 > 「……やっぱりなーンかこう、しっくりハマらねえような顔してンなぁ。
稼ぎに四苦八苦して、飢えるコト自体が、いまいちみてぇな感じだ」
この手の感覚に近いのは、思い起こす処であれば、山の民等と呼ばれる者たちか。
記憶を呼び起こす。エルフなどのような異種族ではないが定住せず、狩猟と採取で糧を得る者たちだ。
忍びの里に交易のために寄る等、少なからず関わりがある故に、覚えがある。
天変地異も含め、糧を得るための手段が安定しないため、彼らも少なからず辛苦の類はあった筈だろう。
だが、このエルフの言葉と反応はどうだろうか。
森に好かれて、祝福されているものと、そうでないものたちの違いは、どういう点に現れるのだろうか。
その辺りの吟味と考察は、趣深いものがある。
ここに至るまでの生活、暮らしとはきっと、少なくとも幸福であったろうとも思う。
それもきっと、失って、縁遠くなって、初めて気づく類の幸せだと。
「さよか。しかし、噂好きにも上らん場所……とかいうのも、やっぱり行かねえもんかねえ。
風のチカラが強過ぎて、大地から浮き上がった土地やら、地の底で魔力を吸い上げて輝く水晶の洞窟とか。見てみたいとか思わねェか」
風の精霊とは、聞くところによると悪戯好きでもあるという。彼/彼女らが囁き、運ぶ風の噂が必ずしも正しいとは限るまい。
とはいえ、魔族がわざと流布している可能性も考えられる、奇怪な風景や遺跡の噂で行き先を決めるのは、悪い癖か。
店主のコトバにはご想像にお任せする、とばかりに、人が悪そうに笑って肩を上下させよう。
物珍しさは興味を満たすものがあり、得るものもいくつかあった。もとより、故郷を出た先に抱いた目的もそういうものだったから。
興味を満たすという点では、己が紡いだ言葉に苦みを含む笑みを浮かべる仕草に、心に思うものがある。
再度件の森に侵入する場合、必ずこのエルフを帯同せねばならぬ、と。
採取の依頼を言い訳にするか、どうするかは考えなけれならない、がー。
「……っ、ぷ」
何を張り合ったか。変な顔と変な顔が極々至近距離で向かい合う。吹き出しかけるさまを口元を押さえ、堪えてゆっくりと息を吐く。
そうしていられなくなる所以が、理由ができた。できてしまったからだ。
冒険者の生活、暮らしで何かと高くつく要素で、大きく二つある。
長期的には宿を含めた生活費。短期的には負傷の治療、並びに装備類の損耗、買い替えによる出費だ。
自分の場合、前者については保証がある。
後者についても大きな手傷を負うことはほぼ稀であり、今のところ装備の更新はあっても、発見した物品類を代価に金銭の出費は抑えられている。
故に、蓄えについてはそれなりにある。衣類の買い替え、新調で増減はしても、働いていれば補填はできるが。
「……――予想以上に高くついたなぁ。いや、是非もねェか。
前金でこれだけ、出来上がりの受け取りの際に残りをこンだけってのは、アリかね?」
最終的に払えはするが、持ち合わせが足りない。そんなレベルのものであった。
むむむと唸りつつ羽織の袖口を漁り、幾つかの革袋を取り出してはカウンターの上に置く。
毛玉たちの無垢な眼差しが、じゃら……と重々しい音を立てる革袋に向けられるのは、覚えがあったからに違いない。
酒場でいろんな人が並べたり数えたりして、うんうん唸ってたやつだー、とばかりに。
■NPC > 「精霊のコトバは、街暮らしが長いお陰でよくわかんないわね……。
修行したら聞こえるようになるかもって、お母様はそう言ってたけど。
……んー、なんだろ。オジサマの言い分って山登りする人の考え方にも似てるかも」
精霊使いの才能は、どうだろう。覚えた魔法でどうこうできる範囲か、どうなのか。
修業については本腰を入れずに、好きなこと、遣りたいことに専念しちゃった。
そう言わんばかりに、女店主は耳を揺らして首を傾げ、腰の辺りで手を広げてみせながら笑う。
冒険者も色々なのは知っているが、男の性質は食い詰め者というよりは、冒険家と呼べる類のものではないか?
そう見立て思いながら、何やら二人して変顔勝負めいた情景をしている様に、わ、と半歩足を後ろにずらす。
「……ご主人様たちに混ざってみる?
勉強不足だなんて、そうむつかしいコトでも何でもないわ。例えば、あたしだと針を持ってる感覚を鈍らせたくない。それだけ」
カウンターの上で飼い主たちの情景を眺めている毛玉二匹に問うてみれば、首を振る姿に、だよねーと声を上げようか。
こういうのは、眺めている位が丁度いいのである。
憧れというよりは、腕利きの同業者と思しい姿にへー、そうなんだー、と言う程度の悪くは思ってない域の視線だ。
何を思っているのか、企んでいるのか。何か熱心げな眼差しに困ったように眉を撓らせ、言葉を紡ぎ。
「歳の差かぁ……。話の内容にもよる、かも?
年上のエルフが年下の男にお熱を上げるとか、あったりする?」
年齢差は考えてなかったかも、と。そう考えつつ、示した金額に唸る男の顔を涼しい顔で見つめる。
客の仕草を前にしつつ、此れが当然とばかりに平静を保つのは、相応の自信もそうだが、材料費なども含めてのことだ。
勿論法外ではない。もしそうなら、この店は流行ったりもしていない。
入手困難、または高価な材料、生地を加工し、さらにエンチャントする技術料を含めたら、むしろ安い方かもしれない。
「もっちろん、アリよ。そういうお客様も居るもの。証文は書いてもらうけど、良いよね?」
支払い方法については異存はない。
きっちり支払い能力もある、と踏んだうえでなければ見積もる前に予め問いもする。確かめもする。
■ジギィ > 「ぅうん、飢えたことがまっったくない訳じゃないけど… あーでも多分、カゲトキさ…おじさまの言う『飢える』と比べると大したことないかも。
そういう伝でいうと、稼ぐは四苦八苦するけど、飢えたことはないなー…かもしれませんわね」
うんうん記憶を探るでもなく
眼にしたことのある、ヒトの里での飢えと言うのは経験したことが無いのは確かだ。
空腹を抱えながら数日を暮らすことがあっても、『先が見えない空腹』であったことはまるでない。
色々なものに護られていた―――それを、守れなかった。
(その役目だったはずなのに)
たまに陥る思考の堂々巡りにはまる前に、エルフは視界に映る『街の景色』―――店の中に意識を引き戻す。
街の良い所でもあり悪い所でもある、『稼ぐと空腹』が未だ直結しない。
なるほどなーと頷いていると、つい(隠す必要もない)地がでて取り敢えず取り繕う。
そもそも、コイバナを集めまくって歌にしている輩が『お嬢様』と言う時点で、そこそこ出自は疑われているだろうけれど、もうここまできたら気分の問題かもしれない。
「えーなにそれ!ちょっと行きたいかもしれませんわ!
…でも水晶はちょっとビミョーですわね。 そんなに地底に籠っていると、道中が何か、においそうな予感がいたしますわ」
空飛ぶ土地については間違いなく目を輝かせて彼を見上げて、地底の話になるとちょっと声のトーンが落ちる。
空気の流れの滞る地底は、多種多様な地の精霊と、恐らく未知の藻類と、それを加護するなにかがあるだろう。きっとそれは、エルフのあずかり知らぬ理に満ちてもいるだろう。
――――そこまで行けば自分が足手まといにしかならない予感がして、その予感がエルフに言い訳めいた言葉を紡がせる。
ともあれ、にらめっこは何とか相打ちに持ち込んで、エルフも素知らぬふりで吐息をこぼすとしれっとした顔でしゃなりと横髪を掻き上げる。特徴的な長耳が露わになって、妙に力んで下を向いていたことが知れるだろう。
その変顔をまたすっかり取り造ってから、エルフは彼女の方へとまた振り返る。未だに彼の腕の下から顔を覗かせる形なので、ずっと見ていると『そういう生き物』に見えてくるかもしれない。
「あら、声さえ聞こえるなら難しくないと思いますわよ。 素質が無ければそもそも話しかけられることもありませんのよ。
…オジサマ、山登って籠ったりとか、趣味ですわよね?
―――――そういう事って、やっぱり鈍ったりすると感じる事、ありますの?」
彼に確認もなく、勝手に山登りを趣味と置き換える。多分『山登り』はしているだろうけど、恐らく彼のことだから単なる山登りにおまけが山ほどつきそうだけれど。
それから『感覚が鈍る』と言う彼女に首を傾げると、数度瞬いて考える間を空けてから、素朴に問いかけた。
好きで好きで打ち込んだことでも、間を空ければ鈍る事が――――身体に沁みついた筈の記憶が薄れてしまうということは、あるのだろうかと。
それからまた、彼女からのリクエストを受けるとまた瞬きをして、今度は反対に首を傾げる。
「年上の女性と年下の男性はありますけれど――――大体、男性の方が女性に焦がれる事が多いですわね。
あとは年齢だけは確かに年上のエルフと年下のヒトの男性ですけれど、見かけは逆とか。
そういえば女性が焦がれる方になると、笑えるような明るい詩は少ないかも知れませんわ」
彼の肩から外したエルフの手は、今度その彼の腰にタックルでもするかのように回されている。ついでにちょっと寄り掛かっている。
その彼が金銭のやりとりをする間、エルフはうんうん唸って記憶を辿り、詩のなかでも彼女のリクエストに近そうなものを探している。
やっぱり金銭に意識が向かないところ、エルフの注意力は毛玉たちよりも妙に低いのかもしれない。
■影時 > 「……飲まず喰わずで3回、太陽が昇って沈んだ経験までは、いや、無ェならそれに越したことはねぇか」
自分はある、と口にしようとして止める。皆まで云ってどうこう、という域の話ではない。
飢えの感覚が種族で違う可能性はあっても、摂食で生命を繋ぐ点については同じの筈。
であれば――恐らくは同じ感覚、想像の範疇になるのではないか?と予測する。考える。
先が見えない飢餓の感覚で3日以上を経ると、人間は死に至り得る。
それを感じたことがない、体感した覚えがないというのは幸福であり、庇護される、加護されるものがあったか。
思うものは色々ある。だが、今は敢えて答え合わせの機会にはしない。
「ははは、色々物凄かったぞう。侵入すンのは難しいだろうが、同じような地勢が残ってんなら見れるだろう。
……水晶の方は微妙どころか色々やべェかもなあ。
生霊どころか精霊含め、魔力で生きてるモンは、水が乾くような勢いで水晶に吸い取られて、何も残らねぇ場所だった。
色々危な過ぎて、侵入口は爆破してふさいだぞ」
行った場所はいずれも沈めた、または危険が過ぎて侵入口を破壊した、魔族の国でも特殊と言える地帯である。
風の精霊力が偏った、強過ぎて乱れた領域自体は残っている、または再発しているだろう。
故に地脈を辿りつつ進めば、似たような風景が見られる可能性はあるだろう。
だが、もう一つの踏破地は危ない。精霊も含め、魔力を活力源としていたものは長居=死につながる危険があるほど。
言い訳めいた言葉に、遠い目をしながら流石に行けねえと嘯くのは、その点も鑑みて対処したから。
こういうと、鼻で笑われそうな気もしつつ、腕の下から顔を覗かす姿に言葉を返そう。
長耳を見やれば、うず、と。指を遣って触ったり引っ張ってみようとするような、そんな衝動を堪えて。
「別に専門でもねェが、趣味でもあり修行の一環でもあるな。
――天地陰陽の氣と合一し、身体の感覚を研ぎ澄ます。なンて云うのは、分かりづらいかね。
それでイイってなら、構わねえとも。商談成立だ」
この地域、国だと深山幽谷というのは多いのか少ないのか。
山登りというより、山籠もりの機会の方が多い。淀んだ人界の氣を排出し、正常な氣を取り込み、正調化する儀式だ。
この言葉のニュアンスは伝わりづらいかどうか。ともあれ、答えつつ改めて腰に手を回す姿を見やる。
支払いについては差し支えない。
即金全額一括払いが一番スマートでも、金貨は重いのだ。その重みはないよりもある方が良いにしても、いつも懐には入れたくない。
(……少し、骨のある仕事を探さなきゃなンねえか)
蓄え全額という負担はまだなくとも、保管している宝石類を現金化する必要が出てきた。それほどのものだ。
向こうから書類を出されれば、その内容と項目を一瞥し、さらさらとサインをしよう。
■NPC > 「……まさか、たまーに聞く与太話を全部見に行ったワケ?
本当でもそうだとしたら、物好きなことこの上ないわね……。
針を握っていないと落ち着かないってことまではないけど、思ったものと思うように縫えないって、イヤなの。
素質があっても、ちゃんと練習しないと伸びないでしょ? 多分同じことだと思うわ」
冒険者たちの間で偶に交わされる、流布される噂の類がある。
魔族の国にいざなうような奇怪な景色、風景など様々だが、それらの真実を一々見に行こうとするものが居るとは。
尊敬というよりは、呆れも微かに混じった顔で男を見る。
実在していたのかという驚嘆よりも、自分から危険地帯に踏み込めるというのは、どのような胆力か、というほどの。
そして、続く言葉にはこれも理解が難しいかどうか。
楽器の練習と同じくらいに、針と鋏を持つ感覚と、剣を持つセンスを鈍らせたくはない。
間が空いてしまうと、思う通りに手指が動かないもしれない。その恐れもあれば、練習を経て見出すものも少なからずある。
「あはは、大体そんな感じよね。うちのお父様も事の発端はそうだって聞いてるわ。
当事者二人だけだと、そうかもしれないわね。けど、もう一人二人位混じった物語なら、幅は広がるんじゃない?
そんな年上と年下の二人を眺めて、見守るもう一人の語りとか――っと、書類は此れで大丈夫かな」
改めて二人の方を見れば、凄い格好になっている。
カウンターに押し付けるように体当たりしないだろうか? そんなちょっとした危惧を抱えつつ、書類を認める。
見積書と明細、そして支払いに関する証文だ。
元々のひな型を用意しているお陰で、作成自体は手間取らない。
内容を含め、支払者が了承したのであれば、其れで契約成立だ。置かれた革袋の口を緩め、前金の中身を確かめる。
今この場で魔法で真贋の鑑定を行うまでもないだろう。
作ってあげるから、しばらく待っててねーと囁きつつ、毛玉二匹に手を伸ばし、頭を軽く撫でてみよう。
お洒落着と普段着と。喜んでくれると嬉しい。
■ジギィ > 【次回継続】
ご案内:「富裕地区・商業エリア」からジギィさんが去りました。
ご案内:「富裕地区・商業エリア」から影時さんが去りました。
ご案内:「富裕地区・商業エリア」に影時さんが現れました。
ご案内:「富裕地区・商業エリア」にジギィさんが現れました。
■ジギィ > 「あーん、食わずは結構あるけど飲まずはないですわねー
それは面白そうですわね。では場所だけ何となく教えてくださいます? 関係各所から情報仕入れて、いけそうだったら行ってみますわ。
想像できないような景色を想像できるように詩にするのも、結構楽しいんですのよ」
歌のネタになるための道行は、このエルフに取って生活の一部だ。その間の苦楽も然り。『歌って踊って暮ら』したって、あって当然のモノ
エルフの口調が少しはしゃぐような調子になってきたのを、多分彼は苦く見るだろう。解っていつつ軽々しく言葉を紡いで、想像を馳せる。彼の地に連なる系譜の精霊と繋がりが持てれば、情報の仕入れ自体は難しくはない。真偽は別として。。
その想像に気を取られていると、ふと彼の視線にが自分の長耳に注がれているのに気付く。ぱちぱちと瞬きするとこれはほぼ反射的に、触れば噛みつくぞ、とばかりに『いっ』と白い歯を剥きだして見せる。
「……何か難しそうな字を使っている気がするけど、オジサマが山でやっていること自体は何となく想像つきますわね。
私の里でも長老などの類は日がな一日ず――――――――――――――っとそれをしていた気がしますけれど。
………ついでに森自体になったりとか、ありませんの?」
里では、長者や『賢者』などになると容易に森に気配を溶け込ませ、あるいは同化してあるいはそのもの自体になったり、結構バラエティ豊かだった。ちなみに(元)長老の樹に洗濯物がぶら下ってたりとか危うく長者が変じていた鹿を狩りそうになったりだとか、そんな事故もバラエティ豊かにあったりした。
ヒトでもそれは可能だったのかしらん、とまた軽々しく尋ねてみる。そも、寿命が違うあたりで中々難しい事ではあろうけれど、突端がまるでないと言うことはないのではと。
支払いを行う様子は、溜息は聞こえてきたものの然程重々しい空気とも思えなかった。だものでエルフはまた関心をサインをする彼の手元から店内に移す。
ちなみに今、彼の腰の辺りにしがみつきつつ小脇に首を突っ込んでいるような恰好なので、彼が腋を締めようものならエルフとプロレスが開始されるだろう。
「『思ったように行かないと嫌』というのは解りますわね。私も弓がそうですし、あと薬の調合と歌と弦楽器と………言われると結構ありますわね。
なるほど、確かに、ディアーヌ様のお父様とお母さまのセンもありましたわね! ちなみに、コイバナに興味ありそうなのはお母さまですかしら?
第三者というのはー… 結構微妙なんですのよ。ネタもとの女性のパーソナリティが『純粋・一途』を含んでいると許諾を貰うのは割と簡単なのですけれど、『腹黒・狡猾』とか面白い要素が入ると、中々ご本人の許しが出ることがなくて……」
淡々と手続きをしている彼女の手元を見つつ、エルフは唄について語る。
彼女の両親に関して、その手があったか!ばかりに瞳が輝いたのは、きっと見過ごされることはなかったろう。
その卓上の書類のやりとりの間、デザイン画のほうへとちょろちょろ走って行ってその周りをぐるぐるしていた毛玉たちは、彼女の手が伸びて来ると一瞬嗅ぐような気配をさせてから、揃って大人しく撫でられるだろう。
髭をそよがせつつちらっと彼を見る2匹の視線は、『おやぶん、羨ましいでしょ』と言っていた、かもしれない。
■影時 > 「無ェなら無ェに越したことはないわな。僥倖といっても良い位だ。
……教えてやっても良いが、風の方だけだぞ。
魔族の国はどこもかしこも危ないやら云う定評がつくが、水晶の方は正真の危険地帯だ。
風の方は行くつもりがあるなら、大嵐の中を飛べるアテがあるほうが良いな。
冗談抜きでな。……て、何ンだね。弄ったら噛みつくか?ン?」
洞窟の方は、わざわざ侵入口を爆破して塞いだ点でも察してほしい。
魔法使い独りで侵入するにはそれだけで危うく、連れてきた弟子ともども力量がある筈のものでも、危うかった。
脅威の源泉である水晶状の鉱物も、魔力が溜まり過ぎて飽和すると地震を誘発する爆発をも起こしうるものだった。
得たものの価値は重要だったが、後々のことを考えるとあえてそうせざるをえなかった。
察しの通り、はしゃぐような風情に肩で息を吐き、口元をへの字に枉げて、残る片方だけはあとで教えると確約しよう。
命取りの美しさよりもまだ、風が荒ぶる、強過ぎる地帯の方が多少はマシ……かもしれない。
どちらも徒歩で移動するには、厄介だが。
そう内心で付け足しつつ、長耳を見やる様に対する反応に、ほほぅ、と首を傾げる。
嘘か真か。試すには実行するのが早い。右の人差し指を躊躇いなく長耳の先端を撫で、くすぐるように差し向けて。
「――……森を生やす術でも使えとか云うんじゃぁねえだろうなァおい。
森に溶け込んだような境地は得たが、流石にそのままそうなる気にはならなかったぞ」
どこぞの聖者でもあるまいし、と。石の上に座し、向かい合い続けた果てに手足が腐り落ちた高僧の故事を思い出す。
自然に溶け込み、没入する果てに草や森を生やすではなく、森になるまでは、どうだろう。
不可能ではない、と思う。己の忍術は遁走のための自然活用を原点とし、仙術よろしく先鋭化した環境操作だ。
成そうと思えば為せぬと言い切れない、そんな妙な確信がある。
そんな感慨を覚えつつ、サインと前金の支払いを済ませよう。
改めて視点を降ろすなら、紅茶色の癖っ毛が目に入る。脇を締めるとそのまま締めあげられそうな感覚にふと、迷う。
締めつつ、お尻でも触ってみたら――あぁ、止めとこう。往来どころか個人の店だ。
話し合うエルフと店長を眺めていれば、二匹の毛玉が揃って店長に撫でられている。
ちらっと飼い主を見る目が、ふふーん、と言わんばかりにご満悦気味であれば、浮かべる笑みは思いっきりほろ苦い。
■NPC > 「あたしより多いかも。……あ、でもないかな。
針に糸紡ぎ、レイピアに発声練習も――……後ろはちょっと鈍ってそう。
おとーさまは実務一点張りだから、どっちかと言えばうん、そうそう。お母様で当たってるわ」
遣っておきたい、練習しておきたいコトは指折り数えられる。
針も糸縁りも糸紡ぎも。冒険者としての剣術に呪文詠唱の発声等と、時間を定めてやりたいことはある。
だが、仕事に金勘定というのは、自由になれる、できる時間と引き換えだ。
一国一城の主というには、比べ物にならない細やかな床面積の場所でも、ここは自分の場所。
今回の仕事で取り寄せたり、放出する貴重な布地を得ておくにしても、そう。金が要る。
同格かそれ以上の冒険者や、趣味人相手の商売とは、金払いも良くて助かる。
内心でほっとしつつ、用意した書類を一瞥し、サインする男から視線を動かす。
その見立てで間違いがないと頷いた瞬間、目が輝いた様に、余計な事言っちゃったかな……、と頬を掻いて。
「……下手にモデルが居るのも、考えものかも。
それって、敢えて空想の誰かさんを考えてうまい具合にって、難しいの?
詩人じゃなくて、歌劇の作家の仕事みたいだけど」
サインされた書類を二匹の小動物たちを撫でていた手を戻し、受け取る。
控えは支払者となる方に差し出し、内容の再確認を依頼する。
二匹の毛玉の服それぞれ二着、羽織を一着。手間暇はかかるが、それに見合うだけの仕事と収入だ。
だから、おまけをしよう。
「オジサマ、おまけよ。あそこの棚にあるアクセサリー、どれか一つ持って行っていいわ」
■ジギィ > 「えー 大丈夫ですわよ、地面の下の方はちょ――――っと様子を聞いて来るだけにしますから。
…うぅん、 嵐の中、だと、飛べるというよりは飛ばされることになりますけれど、割と、すんなり行けそうですわね?」
地底の方はかなり渋っている様子からして、怖いお伽噺として聞かせる意味をもつくらいに危険なのだろう。
ただ、耳にしてしまったからには様子を知りたい、覗いてみたい、というのは堪えきれないようでちょっと食い下がってみる。
天上に浮かぶ場所への到達は、言われるとエルフは少し首を傾げただけで、むしろ意外だというように瞬いて頷く。
嵐というなら、風の精霊の伝手を辿ればわけもなさそうだ。そも空を飛ぶのに嵐の仕組みを借りることが多いので、抵抗が無いらしい。窒息だけ気を付ければ行けそう、と脳裏で算段して、教えてくれるという言葉にうきうきと腰と耳が調子を取るように揺れる。
その長耳に彼の指が触れるか否か
掠ったのは空気だったのかそのものだったのか判別できない位の刹那で、エルフは急に彼から身を引き剥がして跳ねるように距離を取る。
周囲の商品たちは少し揺れるが、棚から転がり落ちるものまでは出なかったようだ。
「やだー オジサマ、知らないの?
エルフの右耳の先に触れるって言うのは…… 『一生養ってやる』っていう意味なんですのよ?」
拳を作った手を口元に当てて、どんぐりまなこをぱちくりさせて『オジサマ』を見る。ご丁寧に、ちょっと震えて見たり。
もしカウンターの向こうの彼女が視線を向けているのに気付いたのなら、ばちーんとウインクを送って見せるだろう。
嘘か真かといったら、まあ嘘の類。正確には『一生養ってやる』ではなく『名に懸けて護る』だったりする。それを彼女が知っているかどうか。
まあそのウインクを送った後、直ぐにけらっと笑って両手を上げて肩を竦めてみせるわけだけれど。
流石に彼女を巻き込むには良心が傷んだのか、嘘とバレるだろうと踏んだからかは判然としない。
「そっかー、 やっぱちょっと違うんですのね?
そういう違いは、ウチの守護精霊もちょっとは関係しているのかもしれませんわね。大体みんな、溶け込んで戻ったときはちょっと……なんというか、いいことが起こったみたいですけれど」
ごにょごにょと濁すのは、氏族の秘儀だったことを思い出したこともあり、よく深くは知らないこともあり。
ともあれそんな雑談を終えるころには、すっかり『街の儀式』とも言えそうな金銭のやり取りに関する云々が済んだようだ。
改めて背筋を伸ばして彼女のいるカウンターに近寄って、ご満悦そうな毛玉たちに小さく『よかったね』と囀ってやって、エルフは改めて店主を見る。
「いつか、ディアーヌさまが気が向いたらでいいですけれど、お母さまにお目通り出来たら嬉しいですわ。お父様とのなれそめを伺えたら嬉しいですけれど…先ず街への馴染み方とかも伺った方が良いかも知れませんわね。
詩は空想の誰かさんでもできないことは無いんですけれど、真実を織り交ぜるのはセオリーと言ってもいいですわね。嘘みたいな本当の話に、本当みたいな嘘を混ぜるくらいの感覚ですかしら。
…ディアーヌさまも歌、歌いますの?」
最後の言葉のあと、エルフはカウンターの上を店主の方へと身を乗り出す。もう気付くだろう、きっとまたお喋りが始まってしまう、その予兆の瞳の輝きだ。
■影時 > 「……重ねて言っとくが、そっちは止めとけ。
行った後からの見立てでもあるが、精霊含め、肉体のない奴は居るだけで吸い尽くされる場所だったからな?
そっちの方は多分まだ、ましと云やマシな部類か。風の流れを読めて、飛べるのが居る方が良い。竜とか」
そもそも、語れそうな精霊の伝手、ネットワークがあるかどうかすら、怪しい。
“忘却されし白銀の魔工房”なる行き場所は、そういう場所であった。
王国では産出しないとされる、特異な性質の希少な鉱石の鉱床とそれに隣接した精錬場兼工房の遺構。
そこから持ち帰ったものは精錬後の鉱石のインゴットと、最高純度の鉱石を用いた完成物と思われる武具の現物。
後者は幽霊や精霊相手に用いれば、それだけで諸々吸い上げて滅ぼしかねないレベルのものであった。
故に、冗談めかすこともなく、語る言葉は嫌でも真面目になる。絶対に口を割らぬというほどに。
“風帝の亡骸”と呼ばれたもう一つの場所ならまだ、幾分かまし――であろう。危険度、生存性であれば。
本命と言える場所こそ沈めたとはいっても、地勢的に風の精霊力が狂ったほどに強い場所だ。
地盤の中に風の凝った巨大な結晶が再度精製され、それを孕んだ土地がまた浮かび上がっていると言う可能性は、恐らく高い。
その点の含みも合わせ、簡単に語ろうか。
「ははは、初めて聞いたぞー。
……なんだ、一生俺のものになる意志でも固まったンかねお嬢様?」
さて、初耳である。耳に触れただけに。本気かわざとか、ちょっとだけ震える位に真偽が定かではない。
天井を仰ぎ、シミを数える代わりに、あー、と声を吐きつつ、囁く言葉は顔を見せない代わりに冗談めかしたもの。
「身体を溶け込ませて統べれそうな感覚なら、あったがな。とはいえ、……行って戻れたのか?」
否、それも厳密には正しくない。自分が自分でなくなる感覚、異物となる感覚の方が強かった。
その感覚を軸とする秘術を持ってはいるが、普段使い出来る域のものではない。
仕損じた瞬間、自分は自分でいられなくなると、何処にも居なくなくなると確信できる封滅の秘術。
だから、溶けて――向こうに行って、戻れたのかどうか。それが純粋に気になる。
ごにょごにょと濁すありさまに脳裏に思い返すものは、いつかの森で見た“動く森”と呼べるナニカの面影であった。
「……――有り難ぇ、と言いたいトコだが、装身具の趣味はなくてなぁ。
ああ、いや。それだったら、お嬢さま。あそこの耳飾りとかお気に召しますかね?」
さて、オマケか。支払いと契約が済んだら、お嬢様をひっ抱えて店の外に運び出そうか。
そんなことを思っていれば、かかる言葉にふぅむと考え込む。
手製か仕入れたのか。小さなアクセサリー類が硝子張りの棚に並ぶ中、エルフの後ろ腰を軽く叩いて促してみよう。
お喋りを中断、インターセプトするかわりに、耳につけるイヤリングやカフスが並ぶ一角を見るように。
■NPC > (……あったかなー、そんなの)
エルフも色々だ。耳が感じやすいなどと言った与太は一概に否定はできないが、若しかすると、という点もある。
え、嘘?と言わんばかりに言葉の主を女店主が見れば、ぱちーん☆とウィンクしてくる様に、目をぱちくりさせる姿がある。
故にか。半開きにしかけた口元を、たはは、と言わんばかりの困ったような表情に変えて。
「そうねぇ。確約はできないけど、それとなく伝えといてあげるわ。
筋書を書くのはあんまり遣らないの。あぁ、うん。ほどほどに混ぜてあげる方が、名誉のためにもイイかも。
……ちょっとだけね? 魔法の修行で発声練習もあったから、その流れで」
両親が興味を持てば、取り次いでも良いか。少なくとも暇を持てあます貴族の婦人は、ノる可能性は十二分に高い。
昨今は名誉を傷つけられたら、直ぐに決闘だと囁く輩も少なくない。
その辺りの予防にも、適度に虚実を織り交ぜてぼかす、工夫するのは大事か。
一先ず、まとまったデザインのスケッチを束ね、纏める。
布地の入手によっては近しいものになる可能性も含め、取り交わし済み。
何やらお喋りが始まりそうな予感を得つつ、オマケの提案とその反応に、良いかもと頷こう。