2023/03/30 のログ
ご案内:「ある宿の地下」にキュアポットさんが現れました。
キュアポット > 王都に何件もあるし何処にでもある宿。
平民地区でも賑やかな通りに面している比較的好立地な場所に佇む宿なのだが、最近他の宿との差別化が出来ず売り上げが低迷中らしい。
そこで宿の主人は奮発して無名遺跡の地下迷宮から発見されたあるモノを買い付けて宿に設置する事にした。

ただ流石に1階の賑やかな酒場の部分に設置するのは防犯上の理由から色々と問題があるという事で、ワインセラーだった地下室をそのあるモノの為に改装し、早速あるモノを設置して今夜から試運転を始めるようだ。

宿の入り口には『貴族も愛用!怪我や疲れを癒すプールをテストしてくれる人募集、報酬有り』と書かれた張り紙を見つけ、好奇心に負けて張り紙を剥がし宿の主人のところに行くと、喜んで宿の1階の奥にある地下室へと案内してくれるだろう。

案内され、薄暗い階段を下りてワインセラーだった部屋に入れば、其処は微かにワインの香る妙に雰囲気のある薄暗い部屋で、室内の明かりはオイルランプが天井から釣り下がり、そのぼんやりとした明かりに照らされているのは木製の椅子が一つ、脱衣籠が一つ、宿には珍しい人が一人入っても十分に足を伸ばして浸かれるバスタブが一つ、後は良くある木製の大き目の桶である。

もし、報酬或いは好奇心に負けてテスターになる人がいるならば、宿の主人はものすごいテンションで貴族が~とか簡単な傷が~とかエトセトラエトセトラ…熱の篭った説明をしてから宿の主人は「後で感想を聞かせてくださいね!絶対ですよ!」と念押し釘刺しして、宿の方に戻っていくだろう。

衣服を脱ぐのが嫌ならば木製の椅子に腰をかけて、桶に溜まった湯よりは温いがほんのりと温かな液体に脛まで浸してみるのもいい、もし勇気があるのなら衣服を脱いで、水着に着替えるか、一糸まとわぬ姿でバスタブに挑戦するのも自由である。

――…其処に溜まる液体が何かは誰かが触れるまで、じっと大人しくバスタブの中の液体として、桶の中の液体として静かにその時を待つだろう。

触れるとドロドロな見た目ながら、ぷよんぷよんと硬い弾力のある謎の液体。
天井の吊るされた頼りない…妙に雰囲気のあるランプの明かりを頼りに中を覗けば青や白や赤い小さな球体が浮かんでいるのも見えるはずである。

キュアポット > 触れると安堵を覚えさせるほんのりと温かな体温。
ぐんにょりとした弾力は触れると柔らかに押し返した後に、つぷりと音をたて、触れるものをずぷずぷと飲み込んでいく。

しかしこれは敵性のモンスターであるスライムと似て非なるモノであり、王族や貴族階級の者達が肉体的な傷を宿している魔力を治癒或いは増幅する為に創造された医療用魔導生命体。

今の姿は不明な対象者に向けて適切な治療やその健康を診断するために適したゼリー状のスライムに落ち着いている為、明確に敵対的な行動を取らない限りは触れるものを試そうとするものを優しく受け止めて飲み込んでいき、その体を調べようとするだろう。

こういう宿にあること自体が非常に希少な存在であるキュアポットは時折パリっと音を奏で、透明な身体に緑色の輝きのノイズを走らせ、自分を利用する者を待っている。

それとは別ではあるが、宿屋の主人が余計な気を利かせたのであろう、利用者をリラックスするために少し甘めの花の香りがほんのりと室内に広がっているのだが、それは果たしてキュアポットにはどのような作用をもたらすかまでは考えていないだろう。

極端な効果はキュアポットは毒と判断する可能性もあれば、理解できない成分を認識する事で行動が狂う可能性もある。
心に平穏を促す香りに眠ってしまうのであれば……さていかなる事になるのか。

しかし訪れるものが誰も居なければ、宿屋の主人は酷く落胆するだろう。
それでも時間は過ぎていく、宿屋の主人はため息を吐きながら地下室の扉に鍵をかけるのだった。

ご案内:「ある宿の地下」からキュアポットさんが去りました。