2023/02/26 のログ
ジギィ > 「わーぉ、そこまで考えてなかった! さっすがカゲトキさん。それいいかもよ? 合間にこのコ達もおさまるだろうし、何だったら薬草も仕込めるんじゃないの。
 視界は悪そうだし首は動かなそうだけどね」

彼に言われた言葉に、なんてこと!と大げさに天を仰いでみせる。続く提案は真剣そのものの表情で語っているが、言い切ったあとは耐えきれなくなって顔をそむけた。その肩が震えていたのは言うまでもない。

「そだね。私も色々ききたーい。
 やった!約束ね。あーそういえば、高級ホテルも連れて行ってくれるって言っていた気がする…」

お嬢様らしからぬ声を上げて万歳してから、またちょっと歪んだ記憶を口にする。結構な音量だったので、近場の席に居た身なりのよい母子のうち母親の方が、子供の視線をさりげなく遮るように移動したりした。

上機嫌に立ち上がったエルフは、卓に向かって拝む仕草をする彼を横目に他の卓を片付け中だった給仕の少女を目ざとく見付け、ありがとうーとばかりに笑顔で手をひらひらと振って見せる。
気付いたらしい少女は笑みをうかべて、優雅に一礼を返す。ああやって、背筋を伸ばしてお辞儀すると綺麗よねえ、とエルフに思わせる、その教育はこの店の教育だけで身についたものか、はたまたそもそも少女が『それなり』の出自である証だったのか。

ヒトが行き交う街中、彼の背中を追いかけるのは何だか変な感じだ。過ぎる街並みが富裕地区のものなら猶更。ついつい、悪戯に彼の背中を指でつうっと辿ってやろうと試みるが、気配を殺す気もない動作はあっさり避けられてしまうかもしれない。

影時 > 「ははは、お嬢様お嬢様。それきっと青地に白い縦縞が入ってたりするやつじゃねェかなぁ。
 どっちにしても却下だが。この襟巻きを代用にしてるトコで勘弁してくれ。こう見えて高かったんだからな?」

そうきやがったか……!と。大袈裟に如何にもと天を仰ぐ姿に釣られ、表情を隠すように虚空を振り仰ぐ。
脳裏に浮かぶ想像と向こうのイメージをすり合わせるには、声に出してみるのが一番だ。
細い肩を震わせる姿が、思いっきり笑い出すようになってきたら、それが正解という証左だろう。
今首に巻く襟巻きは毛玉たちのためではなかったが、結果的に役立っている時点で先見の明はあったかもしれない。
肌に優しく目の細かい織り方の布地は、染料まで指定したことで忍者的な用法が幾つかできる特注物である。

「ほほう。どこそこの学級の誰これを誘いたい、とか云うのは興味あるか?
 ……って、こら。俺の記憶に怪しいものを差し込むんじゃァない。それともあれか、操を捧げる気になったのかね?」

これはコイバナになる……のか?うーむ。
そんな思いとともについつい胸の前で腕を組みそうに仕掛けて、すぐにやめる。
お嬢様に手を出してる最中である。しかし、お嬢様。そんな言葉は云うんじゃあありません。それも大声で。
色々と胡乱げな仕草と動きを見せる周囲にくしゃくしゃと己が髪を掻き、負けず劣らずのお返しを向けよう。
少なくともちゃんとしている類に入る店で吐く言葉ではないが、ウェイトレスたちの笑みで隠し押し殺す仕草は、流石か。
教育が行き届いているのは店か個々人かは定かではないが、その意味でもまともと云える店に違いない。

「こら」

何のつもりか。背に這い動く指の気配の兆しを感じつつも、害意がないと悟れば敢えて受ける。
履物のことを思えば、早歩きをして躱すというのも、歩調を合わせぬという意味で大人げなく、良くない。
戒めるような言葉を顔をゆがめつつ短く投げ返しつつ、前を見よう。
次第に見えてくる店のひとつに、男の視線は向く。
陽光の照り返しをありありと返すのは、透明度が高いガラスを格子状の枠に嵌め込んだショーウィンドウである。
その中でも、一枚の大判のガラス板はどれだけ値が張ったことか。

白い背景にトルソーに着せたドレス、つるんとした白い顔の犬のぬいぐるみに着せた服。
そして着飾った少女を模した金髪青目のドール、と。
売り物か、それとも見本も兼ねた作品の一例か。ともかく、何を売りにしているかを明らかにした店がそこにあった。

玄関の上には、――「お針子ディアーヌの店」と。そんな文字が綴られた看板が見えよう。

ジギィ > 「―――――ぅぶふっ!」

これは完全に彼が悪い。
うっすらとした想像を色付きにされてしまったエルフは、肩どころか腹部の痙攣が著しく、ある意味『持病の癪』に震えていると言えなくもない様相になってしまった。
それでもまあ、しばらくあれば収まる。
多少肩を上下させつつ、しゃなりと乱れた髪を掻き上げつつエルフは再び彼を振り返る。

「あー …ン? そうだなー 女の子発ならいいかなー
 ホラ、そのお年頃の男の子の『誘いたい』ってどっちかっていうとソッチじゃん。
 エ?やだあ、オジサマ。 あの夜の事、わすれちゃったの?それとも、私と誰かを間違えてるの…?」

もちろんコイバナには興味津々だが、そこから肉欲にダイレクトに繋がってしまうのは歌にしても面白くないのでNGである。女子であれば最終的な着地は肉欲であったとしてもその間の紆余曲折がそこそこ面白くできる、気がする。
最後の文章は、彼を上目に見ながら口元に拳にした片手を当てて伝えてみる。
次に彼が何といおうと、『フケツッ!』と言って駆けだしそうな雰囲気である。彼にしたって2晩くらいは心当たりはあろうから、一瞬言葉に詰まってくれるかもしれない。その間にエルフはまた堪えきれなくなって吹き出すだろう。

そうして白昼堂々、品行方正なカフェの表を騒がせてから席をたつ。
去っていく間際も通りすがる給仕の紅茶が香る。こういった雰囲気は金銭だけで造れるものでもない、おそらく王都では唯一かも知れない。なるほど流行るわけだな、と思いつつ、富裕地区の均された石畳を歩く。

途中、悪戯は全くの無為に終わってしまったのに多少唇を尖らせつつ、辿り着いた店を見遣ると流石にエルフも表情を変えた。

「…わあ」

たまに見かける大判のガラス窓。この店の繁盛と店主の自信の現れだろう。
その奥に並んだのは、エルフが見たこともない光景。
使い魔や、家族となるような動物に衣装を着せるようなことはままある事で、見たこともある。
ヒトを模した、いや近づけようとしたような人形は、その雰囲気に近いようで、何だか違う。それは生きているものかそうでないかの違いなのか…

物慣れないせいもあるだろう。エルフは思わず『オジサマ』の羽織の裾を掴んで、それでもショーウィンドウをじっと覗き込む。恐ろしいものを見るような、只興味深々のような。

エルフはきっと彼に促されるまで、そのまま固まっているだろう。

影時 > 「ええい、真逆とは思ったが当たりか……!」

まさかのよもやとは、当たるものである。
ここまでドンピシャな反応を見せてくれるのだから、想像通りというコトは実質証明されたと云っても過言ではあるまい。
肩どころか腹を抱えて震えてそうな衝動の発作を見れば、収まるまでの間は足を止めよう。
落ち着いた頃合いとみれば、再び歩き出しながら、続く言葉に記憶を漁る。

「女子発のその話題はなかなか拾い難ぇなあ。……男の純情をさらりと無視するのは善くねェぞ?多分。
 だが、んー。食堂やラウンジとやら云う場所で、どこそこの学級の誰それが美形でイイとかいう話は聞いたか。

 ……ははは、こらお嬢様。お忘れになるなんて人聞きの悪い。結局ナニもなかったろうが」

意中の女子に誰か居そうで、だが、それでも焦がれて形から入ろう――とする少年のピュアな心というのは、面白くないだにかなう
コイバナは色々あって、お眼鏡にかなうものがあるかどうかを見定めるのが難しい。
女子同士の会話に聞き耳を立てると、貴族の子女たちが歌劇の役者が誰これが良いという言葉やら、学院の生徒の品定めも聞く。
そして、ああ。言わんとするのはあの夜、二晩位のことだったろうか。
む、と一瞬口淀み、目が笑っていない笑い声を静かに響かせて切り替えしてみようか。

――つくづく、見た目の上は清潔で整えられた通りでするものではない。

行き交う者たちの装いはみすぼらしい様子はなく、あからさまに豪奢か、または清潔に整えられたという印象が強い。
土むき出しの道ではなく、石畳を踏みしめるヒールの音を傍ららにしつつ、進めば。

「嗚呼、ここだ。間違いないな……、と」

建物全体が店、という様相ではない。幾つかの店が大きいな建物のいわば店子として、入居している造りの場所だ。
それでも白い石を積み上げた、金がかかっていそうな外装に精錬法があるとはいえ、高価であろう硝子張りのものは、どういう位置づけかは何となく想像もつく。
かろん、とドアベルの音色とともに出てくる女性たちは、若い。抱えている籠は大事にしているドールを入れたものか?

「……ほら、ジギィお嬢様」

己が羽織の裾を掴むエルフに促すように声をかけ、進もう。店の中へと。
先の少女たちと入れ替わるように閉じられた扉を開けば、再び小さな鐘の音色が響いて来客を謳う。
中はこじんまりとした風情があるが、それでも雑多と云うには整然とした印象で品が並ぶ。
ハンガーにかけられた手製の服、ショーウィンドウに置かれたのと形は違えども、同じ手合いの服を着た犬のぬいぐるみ。等々。
微かに焚かれたアロマの強くはなくとも、優しい印象の匂いを嗅ぎつつ店の奥を見れば。

NPC > 『いらっしゃい――ませ?』

先の来客の少女たちと入れ替わりで入った男女の異色さに、戸惑ったのか。
眼をぱちくりさせる女性の姿がそこにある。
背の丈はヒールを履いたエルフと同じか、やや上くらいか。
白いブラウスに黒いスラックス、ベスト姿の男装めいた装いの女性が奇異めいた眼差しを向けやってくる。
短い銀色の髪の横からはみ出た耳の形状は、エルフのような尖り耳。短めなのは人の血が入っているからか、どうか。

『ええと、こほん。何かお探しかしら?お客様』

だが、歳は見た目通りなのだろう。自分の店を持ち、切り盛りできるほどの才気。
来客の癖のありそうな組み合わせに怖じることなく、用件を聞いてくる。

ジギィ > 【次回継続】
ご案内:「富裕地区・商業エリア」からジギィさんが去りました。
ご案内:「富裕地区・商業エリア」から影時さんが去りました。