2023/02/13 のログ
影時 > 「ははは、ノリがいいなァ相変わらず。
 次遣るなら考慮しよう。……流石に刀を差すから、この格好というのも芸がなくなってきたか」

そういうところだよなぁ、と。
ほぼ半分近くは文句なのに、背筋を整えると如何にも絵に描いたような仕草をして見せる姿に思う。
つくづく素材は間違いなく好い。エルフは美形揃いとよくよく巷に言うが、この辺りは素地が良くなければ整わない。
髪や爪などはケア要らずなのかまでは察しえないが、ちゃんと整えているか気を遣っている様子が目に浮かぶ。

――この辺りは、やはり自分とは大違いである。

髪の艶の点ですでに比べるべくもない。少なからずきちんとしていても、“つもり”の域を脱しえないのだ。
己にとって身なりは必要に応じて過剰に整えるのも崩すのも、汚れに塗れるのも慣れたもの。
それらを通り越し過ぎた反動か、普段はついつい地味になる。
傾いて奇抜な恰好をする者たちを故郷の地で見かけた記憶はあるが、あそこまでは無理か。
少なくとも、得物に合わせて装いを決めるところから外れた方が良い、と。そんな思考が過る。

「畏まりましたお嬢様……と。ぁー、慣れんな。
 見繕ってくれるのは有り難いが、奇をてらい過ぎたやつは止してくれよ?」

役になり切れない、入り込めないのは――そうすることが迫られる仕事ではないから、だろう。
ちょっと失敗したかと内心で思いつつ、肩を竦める。
紅茶を己の方に押しやってくれる前に、一口やる分は問題ない。味も確かめずに、というのは勿体ないことだ。
手元にカップを二つ揃えつつ、如何にもお嬢様がやりそうな仕草の主に困ったように口元を動かし、釘を刺そう。

「茶葉の種類を色々揃えてあるのを謳ってるようだ。
 茶請けが多め、腹に溜まるものが少なめなのは、わざと……だろうなぁこりゃ。茶を飲むのを愉しめということだろうかね」

テーブルの端に置かれたメニューを開いて、見返すまでもない。
産地やら特徴やら事細かに記されているのをすぐに思い返す。注文の品が来るまで、ちょっとした読み物にも出来るくらいに。
本業は紅茶問屋、と言われてもおそらく間違いないだろう。
視線をずらせば見えてくるかもしれない。茶葉をわざわざ買って帰ると思しい、少女たちの背中が。
クッキーを齧る微かな良い音が聞こえれば、もう一枚くらいは頼んでおけば良かったか。そう思ったところに、

――疚しげに聞こえるコト言うかねったく学院の生徒たちの話やら噂を聞いただけだ紅茶が旨い店やら甘いものが美味い場所とかおさえておこうと思わねえかね

……と。負けず劣らずの切返しを投げかけていれば、向こうの注文の品が運ばれてくるのが見える。
そこでそっと口を噤み、口元を持ち上げるカップで隠しつつ、去り行くウェイトレスの背を見送ろう。
どんなふうに見えたことやら。如何にも見慣れない余所者めいた男と、エルフ、そして、卓上で取っ組み合いする毛玉という組み合わせは。

ストップをかけた毛玉の片割れはぢたぢたわたわたと手足としっぽを揺らし、エルフが出すナッツをがしっと勢い良く摘まむ。
それを二匹で何か意思疎通を交わすように見つめあって、かりかりとしだすのである。
花とセットの光景は、ある意味絵になるのか、否か。

「……そりゃ勿論。とは言え、男一人で入るには大いに肩身が狭くてなぁ。
 貴族の子女が白磁やら削り出して磨いた木の部品を組み合わせて、“どぉる”を作って愛でる趣味って聞いたコト無いかね?」

本題の一端に入る。大っぴらではないが、人形を作って飾る趣味。その延長線上で小動物に服を縫製して着せる、というもの。
取り扱いしている店の一つを知ったが、男が入るには余りに己は不似合いすぎる。空気を読め、と言うまでもないほどに。

ジギィ > 【次回継続】
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