2023/02/12 のログ
ご案内:「富裕地区・商業エリア区」に影時さんが現れました。
ご案内:「富裕地区・商業エリア区」にジギィさんが現れました。
影時 > ――こういうのを、逢引きというのだろうか。

何時のどこそこにて待ち合わせ、男女が落ち合う行為というのは、はた目からするとそうも言える。
知己という第三者がその場にいて、目撃してしまった場合、十中八九そうでないと否定できる材料がない。
とはいえ、こういう真っ当、少なくとも表面上は真っ当かつ健全な情景が欲しくなかったといえば、嘘となる。
縁遠いものには憧れを。憧れは欲求を。欲求は嫉妬を。焦がれを。連鎖めいた思考を押し殺し、殺し――、

「……ったく」

そんな嘆息をふと、吐き出すと茶の匂いが微かに零れる。
吐息の主は、この地では見慣れない衣装を羽織る男であった。羽織袴に身を包み、羽織の下に短刀を隠れるように差した黒髪の男。
身なりこそ清潔だが斯様な見た目の男が、王都のそれも富裕地帯のカフェのオープンテラスの席の一つに座し、紅茶を啜る。
一見奇異とも見える風景だが、違和感が薄いのは、決して見ない類の姿ではないから、かもしれない。
身の回りを整え、供されるサービスにきちんと支払いを行えるのは、十分な余裕があるがあってのことでもある。この場を使うのはそういうことだ。
雨避けの天蓋の端に垣間見える日差しの強さと傾きは、真昼間を少し過ぎた程度の頃合いだろうか。
一応というわけではないが、二人分頼んだ紅茶のうち片方は、まだ飲み手がなくほんのりと芳香を立ち昇らせている。
茶請けに買った、クッキーのうち一枚を皿の上に残しつつ、テーブルの上をちらと見やれば、寝転ぶ小さな獣が一匹。

「呑気なもんだなぁ、お前。相方戻ってきたら、ちゃんと其れやれよ」

茶色い毛並みのリスである。毛玉めいた動物が日差しを浴びつつ、うとうととした様子で丸くなって在った。
枕替わりは、注文するときについでに買った木の実であるらしい。
大体一緒のコンビで行動するもう一匹のモモンガがいないのは、ちゃんと理由がある。仲違いではない。
今日この場で待ち合わせている知り合いを、誘導しに出向いているのだ。

同郷の誼か、それともよく知らない何かがあるのか、待ち人の居場所が何となくだが、わかる――らしい。
用事のために手紙を託し、それをちゃんと届けてくれたのもこの毛玉たちの仕事である。
ひょいひょいと滑空しての道案内か、肩か頭の上に乗っかっての誘導か。
用件は書いた。時間、並びに合流場所も確かにしたためていた筈。あとは、待つのみ。

ジギィ > 「…―――うーん」

肩に小動物を乗せて歩くヒトも、簡素なドレス姿で行くエルフの姿もこの国では珍しくない。その肩に纏っている狼の毛皮は目印程度で、完璧に富裕地区を行き交う夫人に混じっている。
いつもよりはヒールの高い靴で、冒険に出るときと違う生成りのドレス姿にジャケットという出で立ちで、比較的しゃなりしゃなりと歩いてきた銅色の肌のエルフ。肩に止まったモモンガはその肩にしがみつき、貰ったらしい金盞花の花を抱えている。
手紙の送り主を見付けると足を止め、オープンテラスの暗いわだかまりのようにも見える姿に小首を傾げ、ひとしきり眺めてから声を零した。
多分聞こえていると思うが、仕方がない。
本当は後ろから『だーれだ?』とかやりたかったが、どうせその手も難しい相手だ。

「やっほー お誘いありがとー」

エルフはのほほんとした笑顔でひらひらと片手を振りながら、するりと暗いわだかまりの前の席に腰をおろす。ついでに足を組んでみる。
すかさずモモンガはひらりとテーブルに降りて、リスと獲物の交換交渉に入る様子だ。
それを新緑の視線で追いかけてから、テーブルに身を乗り出して正面の相手をもう一回、上から下まで丁寧に見直す。
エルフはそれから厚めの唇を尖らせて、改めて不満顔を作って見せた。

「なんかさ、もうちょーっと明るい服着ても良かったんじゃない?
 モノがいいのは何となくわかるけどさー」

いつもの気軽さで片手をひょいと伸ばし、彼の羽織の襟をつまみ上げようとする。
もしかしたら物騒なものが露わになってしまうかもしれないのは承知の上だ。

影時 > 結論、どっちかといえば己の方が浮いている――と言われてしまっても、仕方がない。
もう少し明るめの色の服がないわけではないが、手持ちの衣類と合わせるには少しばかり明る過ぎる。
新しく服を仕立てに呉服屋に頼んでみる手はあるにはあるとしても、余り増えすぎるのも悩ましいものである。
いつか引き払うかもしれない前提で、宿屋暮らしを続けることに対する悩みだ。
物が増えれば、どれか要らないものを選別し、適宜売り払うなどして処分しなければならない。

(……しかし、まぁ。成る程。改めて眺め遣ると暮らしの差とやらが良くわかる)

根は貧乏性の嫌いが強い。だから、か。行き交う人、馬車に揺られて移動する者などを見ると、考えるものはある。
身なりにどれだけ金をかけているか。贅を凝らしているか。
その贅の凝らし方もまた、個々人のセンスが見えてくる。
あからさまな金銀のアクセサリーで装った者がいれば、お抱えのデザイナーの作品だろうか。
全体としてはさりげない、だが、要所を高い布地や貴重な何やらを使って飾った作りのドレスが見える。

さて、今視界の中に見えてくる生成り色のドレスと狼の毛皮、踵のある靴と思しい揺れ方の姿は――、と。

「おう、来たか。呼び立てて悪いなァ」

知己である銅色の肌のエルフの姿であった。使いに出したモモンガは自分の場合とは違い、肩に止まるのがお好みらしい。
男からすれば格段まともなつもりだが、向こうから見れば暗いわだかまりめいた者が空いた手を挙げ、答える。
男独りの席が、待ち人が座るだけでそれだけで、如何にもとばかりに明度が上がったようになるのは気のせいだろうか。
いいや、気のせいではない、とばかりに丸くなっていた毛玉が眠たげに頭をもたげる。
交換交渉ではなく、仕事してきたからそれよこせ、とばかりに枕替わりにしていた木の実をモモンガが引っこ抜く情景を卓上に見やって。

「羽織の下なら無いわけじゃねえが、色合いがもう少し暖かくなってきた季節向きなんだよなぁ。
 ってこら、何も面白いもんは無ぇぞ?」

笑顔の後にやってくる不満顔に困ったように肩を竦め、一応ないわけではないことは主張しておく。
着物であれば、心当たりは一つある。もう少し温かい時期になれば、それでもいいだろう。
羽織も袴もつけずに着流しを気取るにはちょうどいいものが、ある。
あるいは平服同然として、この地で手に入る生地で仕立てるか、縫製してみるのもアリか?
そう思いつつ、見慣れた色合いの羽織をつまむさまに、見えるだろうか。左腰に差した短刀の柄が。
いつもの刀は置いてきた。今日、赴く予定の場所に持っていくには少々どころではなく、物々しさが過ぎる。

短剣、短刀の類であれば、まだ隠せる分だけましであろう、という判断だ。
身分証明、成人の証めいた感覚で短剣を差している者もこのあたりでは珍しくないだろうから。 

ジギィ > 「お呼び出しは構わないけどさあ、一緒にあるくんだから、ちょっとは気―使ってよね。 これじゃ私がお供されているほうみたいじゃん」

ぶうぶう言いながら、止められないのをいいことに彼の羽織の襟をばたばたさせる。
物騒なものが周囲からも見え隠れしてしまうが、要するにそれが言いたいのだから良いのだという風情。

「こーいう所のお店って、お財布持ってそうな人にすご――く敏感なんだよね。
 一緒に歩いていたら、絶対私の方に来るじゃん。も――」

エルフはひとしきりぶうぶういうと、ふん、と鼻息を漏らして腕組みをして唇を尖らせたままふんぞり返る。くせ毛を編み込みやらアクセサリーやらなどとまで手の込んだことはしていないが、一応富裕地区だというので気を遣ったのを、裏目に出たのがご不満らしい。
組んだ脚のつま先をぶらぶら揺らし、卓上で金盞花の花を隠れ蓑に木の実を奪い合う2匹を見やる。花より団子、ならぬ花より木の実らしい。
このエルフは恐らく平均的なエルフよりも恐ろしいくらいに金銭に疎い。それでもまかりなりにも稼ぎ、貯めているのは目的があるからで、その目的がなければ世の中を物々交換で(強引に)渡って行こうとするだろう。
だものでとにかく、商人が苦手なのだ。主に『めんどうくさい』という理由で。

2人で連れ立って歩けば、『夫人とお供の図』にピタリとはまるだろう。今日の実際は逆、金主は彼の方だしお供する方がエルフだ。
ふむーっ、と一際大きな鼻息を漏らした後、エルフは視線を、彼の後ろを通りかかったウェイトレスへと移した。

「おねーさんちょっと!
 ―――――あの、このハーブティー頂けます?そう、ハイビスカスの入った…ええ。はい、伝票は一緒で」
(紅茶の一杯くらいは奢ってもらうからね)

エルフはウェイトレスに―――富裕地区らしく質素かつ清潔そうなメイド服に身を包んだ美少女―――メニューを指して注文し終わってから、彼の方に声に出さずに告げる。

「―――あと、この子達ようにナッツもふたつ」

エルフの視線が告げているのは、当然卓上で攻防を続けている2匹である。

影時 > 「ちぃとは気ぃ配ったンだがなぁ。……駄目かぁ。
 いや、それはそれで見栄えは整わねえかぇ――かな。お嬢様?」

見え隠れする短刀はまだまだ使い込まれた風情はないが、少なくとも今の装いには違和感なく合うはず。
つまりは装いと同じく地味に、派手にならないように気を遣って特注したものだから。
さて、ホスト役として考えた場合、目立たない、地味すぎるのは良くないといったニュアンスだろうか。
半分近くまで干したカップを卓上のソーサーに置き、ぅぅむ、と考え込みながら腕を胸の前で組む。
ひときしり満足したのか、それともか。裾をぱたばたさせるさまが落ち着いたと見えれば、そう呼んでみようか。

「結局財布出す役は俺がやれば好かろうよ、お嬢様。それともお姫様がイイかね。」

探した店が平民地区にあればよかったが、だが、そうではなかった。
あの手この手の趣味とは、やはり安からざるものである、らしい。
金盞花(カレンデュラ)の花を隠れ蓑としている、のか。
何か取っ組み合いめいた奪い合いをしている二匹を眺めつつ、向こうをそう呼んでみようか。
次があるならば、着慣れた身なりよりも、もう少しこの地らしい一張羅でも仕入れておくのも早めに考えるべきだろう。
都度貸衣装を借りる、調達するのではなく、万が一のために一着持っておくというのは、無駄なことではない筈。

ともあれ、花の名、色を思えば――過日の毛玉たちと出会った経緯のことも思い返す。

気づけばすっかり慣れたものである。微かに目尻を下げ、表情を緩めて。

「わかったわかった。そっちの呑んでない方、くれ。俺が呑む。
 あと、こっちのクッキー食べてくれてもいいぞ。思った以上に旨かった」

店がいい値段をする理由は、ちゃんと従業員の身なりにも気を遣っているからこそでもある。
一見質素でも清潔に洗濯されているとみえるメイド服のウェイトレスに注文を通し、物を頼むさまを見やる。
伝票は一緒でもちろん構わない。
向こうがついた座席に在ろう、誰も口をつけてない筈のカップとクッキーの残りを目で示してうなづく。

毛玉たちの仁義なき争奪戦(?)は、ナッツの現物追加があれば多分――収まるだろう。

お互いに口と喉を湿らせ、一息つければ移動しよう。そう心づもりをしながら、リスの方の首根っこを軽くつまむ。
摘まんでそっと離すのは眺めていてもいいが、そこまでにしておけ、という言外の制止である。

ジギィ > 「カゲトキさん一人で居るなら違和感ないんだろうけどさー
 整うけど、その構図が不満だって いっ て ん の。 ―――よろしくて?」

半分以上の文句を口を尖らせたまま不機嫌な声で漏らしてから、急に背筋を伸ばすと口元に手の甲をあててしゃなりと首を傾げて見せる。
こんなだったら、耳飾りくらいは着けてくればよかったな、等と思いながら、エルフは当てていた手を離しがてらふぁさ、と髪を掻き上げる。くせ毛なりに、ちゃんとキューティクルは守られているのでつやつやである。

「ンーそうだな。オヒメサマは本当の事だからお嬢様でいいよ。確かに、お供にお財布持たせている方がソレっぽいしね。
 あ、新しい衣装誂えるなら呼んでよね?わたくしの供に似合うものを見繕ってさしあげますわよ」

案外あっさりと呼び名を受け入れるとエルフは案外と慣れた様子で、どこで覚えたのか『お嬢様』をやり始める。
語尾を柔らかいソプラノで締めるようにして、ふふふ、と笑う時に口元を抑えたりなんかして。
それでも、紅茶を彼に押しやる前に『ちょっと一口』と飲んでからやるあたり、長続きは全くしない。

「あー…結構、かなり、美味しいね。 ……メニューも凝っているし」

クッキーを一口かじりつつ、あらためてメニューを眺めると、その種類もさながら紅茶の茶葉の名前に産地まで記載され、味は香りの強さなども事細かに書いてある。 コーヒーもあるにはあるが、紅茶の種類に比べると段違いに少ない。
もしかしたら紅茶屋さんが本業かしらん、などと、反り返るほど背もたれに寄り掛かって店の表を見る。
エルフが背筋を戻すと、傾いでいた椅子の足がかたん、と抗議のように音を立てた。

女の子好きそうだよねこのお店どうしてカゲトキさんこんなオシャレな店知ってるのあわかった気に入った子が居たらつれてこようと思って目を付けていたんでしょ

――――等々
エルフが余計な情報を膨らませた言葉を紡いでいると、先刻のウェイトレスが戻って来るのが視界の端に入った。
途端にエルフは背筋をぴんとのばし、唇についたクッキーのあとをナプキンで拭くふりをしつつ
ハーブティーのポットとカップ、追加のナッツを置くウェイトレスの少女に「ありがとう」と笑みで返してみせる。
少女ははにかんだように笑顔を返して一礼して去って行ったが、果たしてこの奇妙な取り合わせを何と思ったのか、伺い知れない辺り彼女のほうが上手なのかもしれない。

制止を掛けられたリスは『おやぶんはなしてくださいこうなっちゃぁおれのかおがたたねえ』とばかりにじたじたと両手両足をわたわたさせていたが、解放されたその前にエルフがナッツを摘まんで差し出してやると、肩で息しながらがしっとそれを両手でつかむ。
それからモモンガと視線を交わすと『…わるかったな。おとなげなかったぜ』『よせやい。いいからくおうぜ』と言うくらいの間をおいてから、金盞花を挟んで2匹なかよくカリカリと音を立てはじめた。

「…お店、目星ついてるんでしょ?」

自分のハーブティーをカップに注ぎながら、エルフが上目に彼を見ながら問う。