2022/11/27 のログ
■ジギィ > 「…しょーがないでしょ。私、こーみえて奥手なんだから。
だから、お世話手伝ってくれたら割引してあげるってば。現物支給で。
いーのよ、売る気なんてないもん。だいたい私が住むんだから、空き家になるのは数百年後だろうし?
『精霊が住んでた』とかいうと何だったら余計に払う手合いもいるし?」
スカーフの下で口を尖らせて声を出しているんだろうなあ、と言う声。それから彼の羽織の裾を引く手をぶらぶら振ってやる。
エルフの足取りは、最初よりは緩んだけれども順調に前に進んでいる。やや、軌道はふらついているけれど。
「ひてんまる、すくなまる…
ひーちゃんとすーちゃん、二匹そろうと『まるちゃんず』ってカンジ?
よかったねえ、おまえたち。『名前』をもらったからには頑張らないとねー
――名前、意味とかってあるの?」
ふと足どりを緩めて、彼の背後の背負子を覗き込む。
先ほどのどんぐりやら毬栗の雨もなんのその。毬栗は投げ捨てたのか見当たらないが、割れていたものから栗の実をしっかり取り出して、端に積み上げてある。2匹揃って、今はどんぐりの選定中だった。虫の孔が見つけると、籠の端をよじ登ってはそれをぽいと捨てている。
もし由来が格好いいものだったら…どうしよう。おもしろい。
「そっか。職業病ってヤツ?
切り花もそうだけど、鉢植えでも春が終わると枯れちゃうから、精油もとっておくといいよ。
…カゲトキさんの部屋に花ねー」
エルフは再び先導するように前に出ながら想像している顔だ。口元は見えない。
ともあれ、しゃべる野兎―――声は意外にも成人男性―――の出現に結局足をとめて、ついでに覚悟を決めた所にフェアリー達が纏わりついてきた。
それぞれは早口では無いが、口々にそれぞれ好き勝手に喋るので目の回るような思いがするだろう。それもうら若い女性の声ばかり。
『なになに?何か採ってきたの?』
『えーっ!ヨソモノのニンゲンにあげちゃうなんてー』
『いたっ!この栗鼠たちかわいくなーい』
どうやら、彼の背後の籠を覗き込んだ妖精と『まるちゃんず(エルフ談)』の間で小さな攻防が始まっている模様だ。
エルフは愛想笑いを浮かべながら数歩後退るようにして彼と肩を並べて、また彼の耳元に囁きかける。
「…ひとつめ、超強烈な眠気に苛まれながら走る。カゲトキさんのこと、私背負ってあげられる自信ないから、寝そうになったらひっぱたきます。
ふたつめ、コイバナを彼女たちが満足するまで話す。…たぶん、3日、くらい?
みっつめ、恋人のふりしてなれそめをでっちあげる。出来るだけ、波乱万丈なやつ」
一つ目は単純だが体力と気力の勝負
二つ目と3つ目はアドリブがかなり必要で、2つ目に限っては体力も必要だ。
どれにする?と目線で彼に問いかけながら、エルフは水袋を取り出して喉を潤した。
―――ひとつ目の方法を選んだ時のために。
■影時 > 「ならしょうがねえなぁ。
とはいえ、……一応経験者として言うのも何だが、特に落城して空っぽになった城程寂しいモンはない。
趣味は分かったが、同胞とかトモダチ位はもう少し安値で住まわせてやれ、と言っとくぞ。俺も含めてな。
違う違う。俺が言ったのは、そもそも“ある”奴を買うとなった場合だ。
金策含め骨が折れる事業だが、口八丁で値引きできたとして、その後が――とか後を引いた場合が厄介だぞ?
城住まいではなく、城仕えに擬態した仕事もいくつか覚えがある。城を落とすための仕事だ。
労働を対価にした割引は理解できるが、それを差し置いてもやっぱり高い。最近流行り?の分割払い、月賦払いとやらでもするつもりか。
スカーフの下の表情がよくよく浮かぶ中、城を手に入れるという結果に至るまでの過程を考える。
一番平和的かつ現実的なのは、金銭に訴えるということ。
城攻め、城崩しの経験は城の普請に役立つとは、限らない。一番手っ取り早いのはありものをどうにかして手に入れることだろうが。
「……片方は仏に遣える空舞うもの、もう片方は身体の小さい神様から名前をもらった。
マルってのは、まぁ、そうだなぁ。可愛いものやら何やらにつけるような古来からの愛称、みたいなものとでも思ってくれ」
案の定、であった。どちらもそれなりに考えたとはいえ、恰好のいいもの、縁起がいいものであると考えたからのもの。
背負子の中身は降ろさないと見えないけれども、時折聞こえてくる音は聞こえていたのだ。
何か小さいものをえいやと運んで、ぽいぽいと捨ててゆくもの。それがまさか、どんぐりの選定作業であるとは神様ならぬ抜け忍には思うべくもない。
「昔からの癖でもあり、今でも気にかけちまう。身だしなみとしても、な。
なるほど、覚えとこう。……そんなに意外か?
これでも調薬、薬研もするからな。使えそうな薬草の類は鉢植えでどうにかなるなら、試したりもする」
匂い消しについては職業柄でもあり、調薬や火薬作りで異臭がつかないようするためにも習慣づいている。
人間慣れてしまうと、よほどのものでなければ、悪臭は意に介さなくなっしまう。
しかし、悪臭。悪臭か。いよいよまつわりついてきた妖精たちが口々に囀り出す姿に、胸の前で腕を組む。
「よっつめ。……――の前に聞いておく。このちっこいの、花の香り以外は慣れてるのかね? それとも苦手か?」
何やら、背中で何か攻防戦?が広がっているような有様に、何やってンだおまえらとばかりに、肩越しに背中を見たくなる。
とどのつまりとして、この妖精たちを撒くか興味をなくしてしまうかをすればいいのだろうが、第三の可能性も並行して考える必要がある。
彼女ら、または彼らの苦手なものが何かあるのか。また、それは今この場ですぐに準備できるものであるかどうか、である。
もし、それが可能と悟ったら。この男はきっと、覆面の下で凶悪そうな笑みを浮かべて見せたことだろう。
■ジギィ > 【次回継続】
ご案内:「腐海沿いの翳りの森」からジギィさんが去りました。
ご案内:「腐海沿いの翳りの森」から影時さんが去りました。