2022/10/02 のログ
■影時 > 「……あー、なるほど、な。そういう具合か。
下手に香を焚いてしまったおかげで、カメムシの匂いに気づかずに……と。
ククク、間抜けめ――とは云えんなぁ。それ、俺も同じ轍を踏みかねんオチだぞ」
半端に鼻が利く、調剤ができるというのも、考え物だろうか。
匂いをごまかす、打ち消せる配合というのは、そうした落とし穴、見落としを生みかねない好例なのだろう。
カメムシと聞けば、嫌でも名前とワンセットで特有の匂いを想起してしまう。
嗤いの声を響かせかけては、嘆息めいた吐息と共に深く両肩を上下させてみせよう。
寄ってくる栗鼠などのお蔭でちょっと周囲が獣臭いけれども、深呼吸してみたくなる心地だった。
「お蔭サマで否定できねえ有様だぞ、ったくよう」
獣が寄ってくる、懐いてくるのは――良いことか悪いことか。前者であろうとしても、今のざまはどうにも締まらない。
森の住人、種族の代名詞の如き者が、まるで飛翔する鳥の如く馳せる。飛んで、奔って、駆け抜けてゆく。
それに追いついてゆけるのは、ニンジャという特殊な技能者として培った諸々の所以だ。
気配を隠しきっていれば、どんどん余禄、おまけの如く小さな気配が集って、溜まってゆくこともなかったのだろうけれども。
だが、それも今更だ。隠形を成すにしても、自分の身体の延長の如く扱える器物ではないものが、今付いている。背負っている。
「……――外で冒険なぞしてぇ奴らがいるなら兎も角だが、無理にとは言わんぞ。一応言っておくが。
問題はねぇよ。薪の束や炭を背負うよりは、まだ軽い位だ。
ふむ。そこそこ目方のある馬か、それとも……一角馬やら二角馬でも居るのかね、ここ。
とりあえず、ここで籠をひっくり返すのは、大人気ないな。運んで行ってやろうか」
あ、目が合った。挨拶よろしく一斉に鳴いてくる。肩越しに見やる籠の中身は出立時よりも、ずっと重い気がする。
捧げものとして置いてきた干し肉と酒の重量が抜けても、其れに倍するかさらに重い毛玉の山が籠の中でひしめいていた。
かなりドツボに入ったのだろう。エルフが肩を震わせるさまに、かなわぬとばかりに虚空を仰ごう。
その頭が重いのも、嗚呼。モモンガ一匹に栗鼠一匹が、頑張ってしがみ付いていたからである。
ドライアドを飼うよりはまだ、飼うになんとなくだが忌避は薄いのは、何故だろうか。
覆面越しながらも、微かに漂う甘い匂いの方角に目を遣り、目的地を確かめる。そうして聞く言葉にふと屈みこみ、地面に残る痕跡を確かめる。
遠く見えた狐やほかにイタチの類を思わせる足跡、乾いた糞の痕跡に加え、馬めいた蹄の跡も確かに見える。
ここは、小さな獣たちに対するある種の聖域でもあるのだろうか? そう思いつつ、立ち上がっては己も歩みを進める。
「ああ、よく熟れてるやつを頼む」
腹に貼りついていた一匹を剥がして肩に乗せ、スモモの木の足元にたどり着けば、慣れた素振りを仰いでは背負子を降ろす。
付いた籠をひっくり返してやるのは、やめておこう。落ちる斧でケガをしてしまうのは、少しとはいえ心苦しい。
■ジギィ > 「あーん、カゲトキさんやさしーい。
まーとにかく、少なくともこの森だとそういう香とかまじないの類は、使ってもごく短い間だけかほんとうにごく薄くしか使わないか、どっちかなのよね。
お陰様で微妙な配合にも気付きやすいし、さじ加減にもうるさくなったわけだけどー」
最初のころは『ちょーめんどくさい』とかばかり言っていた気がする。
…小言を言う声も今はなつかしいものでしかない。
亡くしてしまった里心を振り切るように奔って、辿り着いた草原は
実は彼の身超した通り一角獣の立寄る地だ。
なのでエルフはほんの少し目を丸くしたが、それが正解だとかは口にはしなかった。
ユニコーンはエルフからしても不思議な生き物だ。
先ず個体数も少なく、かつ捉えどころもないでは知るのも容易ではない。ただ敬意を持って接するだけだ。
(…そういえば、ゲイのユニコーンに会ったことがあったなぁ…)
などと、余計な思い出も甦ったりさせつつ。
すっかり毛玉の群れの親となりつつある(?)彼を心から微笑ましい視線で見遣って、スモモの樹のほうへ。
辿り着いたならそれが習い性、ブーツは脱ぎ捨てて
―――あの見えるか見えないかの樹のこぶに手を掛けて、次はこちらへ足を伸ばして蹴って、と
この樹はちっとも変っていない。それは嬉しいようでも寂しいようでもあって
そんな心に瞳を戸惑うように揺らしながら、彼の言葉には笑みを浮かべて頷きを返して見せる。
巨木といえど先の針葉樹ほど高さが無い、枝をするすると伝うエルフの姿は容易に彼の視線で追う事が出来るだろう。
程なくして葉擦れの音と共にすとんと地面に降り立ったエルフは、同時に甘酸っぱいかおりを漂わせる。
どんぐりまなこを細めたエルフの表情は、スカーフで口元を覆っていても解るだろう。
「じゃーん!
すこし硬いのもあるかも知れないけど、疲れた身体にはおすすめだよ。」
彼の傍らまで戻って来ると、手にしていた袋状にした布をひらいてみせる。
そこそこな大きさの、スモモがひとやま。
甘酸っぱいかおりが更に強くなって、彼の背負った籠の中でばたばたと重心が動き、ちぃちぃと、親に食べ物を強請る声が。
■ジギィ > (次回継続)
ご案内:「腐海沿いの翳りの森」からジギィさんが去りました。
■影時 > 【次回継続にて】
ご案内:「腐海沿いの翳りの森」から影時さんが去りました。
ご案内:「冒険者ギルド・エデン 実践区画」にクチナシさんが現れました。
■クチナシ > 昨日終えた依頼の報告を終え、気付いた時には既に日が落ちてきた頃。
――その冒険者は、冒険者ギルド・エデンのとある区画に居た。
「くはは。まさかなぁ……目的のアイテムが此処で手に入るとは思わなかったわ。」
実践区画にある作業机に腰掛け、麻袋に入った今回の戦利品を広げる。
明らかに邪悪な魔力を宿しているではあるが、呪術に精通した自分には大したデバフは掛からない。
――が、その中に一つ。気になるものがあったのである。
「――アラクネの邪糸。くふふ……うむ、これはいいものだ。」
そう、討伐した獲物の中に居た半人半蜘蛛の魔物。アラクネ。
その糸は鋼よりも固く――個体によってはそれを仲間に埋め込む事で、意のままに操る事が出来るという。
その、操る際に使われていた糸が、指先に摘まれた1本の糸なのだ。
「これを呪符に埋め込めば……うむ。催眠。いや、操り人形の出来上がり。というところかな。
……更に、魔力を注ぎ込めば。自分の思う通りに。……なんともはや、自分で作ろうとしてるものが巷で流行る本のようだなぁ。」
出来上がりを想像し――口を緩ませる。
戦闘にも。そして――最近は滅多に無いが、そういうことにも使えそうな呪具が完成しそうな事は、素直に嬉しい。
糸をダマスカスで作られたナイフで更に極細に解いていき、その繊維を呪符に縫込み、作業を続ける。
声を掛けられなければ――暫く、そのまま没頭しているだろう。
■クチナシ > 「――ふぅ、完成…………いやぁ、予想以上に時間がかか……んっ!?」
――顔を持ち上げ、出来上がった呪符を見つめ、満足げ。
な、顔をしたはいいが、気付けばもう1時間近く経過し、窓から差し込む日差しは僅かな陰りを織り交ぜている。
思わず時計を見てしまうのも仕方がないこと。
「……道理で。少し小腹が空いたわけか。
……酒場にでも向かって、ゆるりと夕餉にするか……。」
文字通り、晒した腹を撫で擦りつつ、ゆっくりと席を立つ。
向かう先はギルド近くにある常連の店――。
さて、今日作り上げた呪符。
いつ使うことになるか……そんな事を考えながら。
ご案内:「冒険者ギルド・エデン 実践区画」からクチナシさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール近郊 森林地帯」にタマモさんが現れました。
■タマモ > 今日もまた、少女の気紛れ。
ただ、王都内で何かしよう、とも思えなかったし。
遠出をしてまでも、何かしようか、とも思えなかった。
そこで目を付けたのが、そう距離もない、この場所。
王都から近いだけあり、大した魔物も居ない。
狩れる動物も居るし、採集する植物もある。
つまり、多人数よりも、一人で来る者が多い。
軽く遊ぶには、もってこいの場所だ。
「………さてはて、どうなる事か。
誰か来たり、何かあれば、面白いんじゃがのぅ」
茂みとか、木々の物陰になるような。
人目の付かないような、そんな位置取りをし、寛ぎながら。
そんな呟きを零し、ぐーっと軽く伸びをする。