2022/08/13 のログ
ご案内:「設定自由部屋(ダンジョン)」にフェリーチェさんが現れました。
■フェリーチェ > 【待ち合わせです】
ご案内:「設定自由部屋(ダンジョン)」にクレイさんが現れました。
■フェリーチェ > 危険生物が徘徊するダンジョン。
それは今日その場にやってきた少女にとって、あまり馴染みのあるものではなかった。
自然界の余分な魔力は精霊が流動させるもので、こうして淀みを作り悪意ある存在を大量に生み出す場というのは、非常に危険なことのように思える。
実際、そんな物がある国に住まう人々にとっても危険なのだろう。
悲願達成のために一も二もなく向かう事を宣言した少女に、すぐさま大人たちが傭兵を雇うようにアドバイスするくらいには……。
「わぁ、ここに入っていくんですね。
奥の方はココからじゃ見えないし……確かに一人じゃ採って来られません。
頼もしい護衛さんだと良いんですけど」
そこは切り立った崖の下、3メートル少々ある大口をあけた洞窟の前。
近くには背の低い草が多少茂っているくらいで、覗き込んだ内部は少し湿って苔が目立つ。
そんな場所に入り込もうとする少女の姿はいつもの商売をするときの格好に、身の丈に少し届かないくらいの杖を抱えている。
それからボストンバッグはぺしゃんこのまま、肩に引っ掛けてあるだけ。
一抹の不安を胸にしながらも、ぺしゃんこのボストンバッグに唯一入っている紐付きの割り印が押された木札を取り出し、宙に掲げる。
この割り印の片割れを持っている人が護衛を務めてくれるらしいのだが……。
■クレイ >
依頼が来た、なんでも危険地帯に赴く少女を護衛しろとかなんとか。
冒険者の仕事だと思いもしたが場所が場所だけに現状信頼できる相手と言えばで思いついたのが自分だったらしい。まぁこっちとしては金になるならどちらでも構わないわけだが。
「にしても、洞窟探索ね」
一応何かあった時の為にフックと長めのロープ。後は松明とかを突き刺して数日分の食料を入れたバッグを背中に。
珍しい冒険衣装である。服装や装備はいつも通りだが。
そうして歩いていればいつぞやの少女が。
「……あー、お前か。依頼人フェリーチェ。依頼内容は洞窟最深部までの護衛、およびそのにある物資の回収。で良いな?」
と言いながらポケットから印でもある割り印を見せる。合わせるのならしっかりとそれは合致することだろう。
「それなりに久しぶりだな。どうよ、元気か? また前みたいに厄介な事になってないか少し心配だったんだが」
■フェリーチェ > 「はい、あなたがクレイさんですね、護衛を依頼したフェリーチェです。
あくまでも護衛だけ、回収作業はすべて私が行います。
むしろ目的とする蔦には触れないようにお願い致します、使えなくなっちゃいますから」
やってきた人を認めると、軽く会釈して依頼内容の大事なポイントを早速訂正。
今回の素材の採集は他人の魔力が混ざってしまっては、目的の魔導機械に利用できなくなってしまうのだ。
そういうことにも注意を払ってくれる人だろうかと相手の顔を見上げながら、木札を差し出す。
割符の照合は問題なく一致して、逞しそうな相手は護衛として十分な働きをしてくれそうではある。
が、男の顔を見ていると何か引っかかるものがあって……。
「久しぶりですか?護衛依頼をしたのは初めてな…ん…で………すけど……。
ひやぁ、人違いではございませんか!?
以前もお会いしたようなことを言って、まるでナンパの常套句みたいですし」
急に早口になった少女は俯き、前髪を指で撫でて顔を隠そうとする。
その顔はほんのりと赤みを帯び、今日に限ってポニーテールにしてまとめた髪はもっと露骨に赤くなる耳たぶを隠してくれなかった。
■クレイ > 「ハハハ、そうだな人違いだったっぽいな」
ハッハッハッと笑う。そりゃ恥ずかしい記憶だしお互いに”初めまして”ということにした方が良いのだろう。
了解とうなずいてから。
「了解、俺が触っちゃダメなのな。じゃあ改めて。フリーの傭兵。銀鷲クレイだ。今回はよろしく頼むぜ」
ということで改めて名乗る。前回名前すらお互いに話していなかったし、それ故また巡り合うというのも面白い話だ。
割符がしっかりと合わさればそれを確認して洞窟を見る。
さて、そうして洞窟を見に行く。
「なるほど、嫌な感じだな。ゴブリン、場合によっちゃトロール。後は虫系の魔物って所か……甘い匂いの物とかもってきてねぇか? もしくは甘い香水つけてますとか」
前者2つはともかく、虫系の場合蜜の匂いや花の匂いで寄ってくる可能性もあるので入る前にそんなことを確認する。
そう話しながらも地面を見る、足跡や臭い等から少しでも中にいる可能性のある魔物を特定しようと。
■フェリーチェ > 「はっ、はい、宜しくお願いします」
落ち着きなく杖を地面に突き刺し、ザクザクと音を立てながら"初めまして"の挨拶をする。
冷製とは言い難い様子がまるわかりだとしても、穴に埋まりたくなるような話を蒸し返されるより余程いい。
はにかむような笑みを浮かべ、早速洞窟へと向かうのに賛同する。
「大丈夫です、何も持ってませんし何も付けていません。
バッグに少しだけお水を入れてありますけど、古い革袋に香料なしの飲用炭酸水です。
…………入っても、大丈夫そうですか?」
ポンと薄い胸を叩き、続けてバッグを叩いて顔をあげる。
男の顔をしっかり見上げるようにではなく、ただ正面を向ける程度に、ではあるが。
それでも準備は最低限してきたと自信ありげに、少女も洞窟の入り口に立って中の様子を眺める。
杖を一突きすればカツンと響き、洞窟の入り口を堺に環境がガラリと変わっている不自然さを目の当たりにする。
ただ、そんな迂闊に自分の存在を主張する行動は、素人とはいえ慎むべきだったのだろう。
小動物ほどの何かが奥の暗がりで身動ぎ、身体を岩肌に擦りつけて隠れる様子が微かな音として伝わってくる。
■クレイ > 「んー……まぁよし! ただ、奥の方で何か隠れたっぽいからそこだけ警戒な。後」
カバンから松明を1本引っこ抜く。
そして魔法の道具で先端に着火。赤い炎が先端に灯る。
「こいつ、渡しとく。野生動物や虫の場合そういう火を嫌う奴もいるから」
そういう奴もいるだけでむしろ明かりに寄ってくるタイプもいるが、それだとしても暗闇から不意打ちを喰らうよりは余程マシだ。
自身はどうするかといえば強化魔法で視力を強化する。これで暗闇であってもわずかな光―この場合松明の光―で遠くまで見通せる程度の視力は確保できた。まぁ曲がり角などがあったら無駄だが。
「そういうわけで楽しい遠足に出発だ。離れすぎるなよ、あと、別に敵の隠れ家って訳じゃねぇんだ。折角杖もあるし、それで地面とかコツコツ叩きながら歩いてくれな。音が無くなったら探しに行くから」
つまりそこにいますという意思表示をしてほしいという訳である。黙って歩いていると静かなだけなのかトラブルで後ろにいなくなったのかがわからないのだ。
実際そういうのが原因で死亡した冒険者も数多く知っているわけで。
「そういうえば、その目的の植物ってどんな植物なんだよ」
と話す話題でさっき出た触れてはいけない植物の話を切り出す。
■フェリーチェ > 「有難うございます、掲げていればいいんですね」
受け取った松明は、少女の背丈では少し位置が低い。
そう気づいて男の頭の上まで照らし出せるように少し下の方を持つ。
軽く左右に振って重心が問題ないことを確認し、一つ頷くと洞窟の奥の方にも向けて目を細める。
多少飛び出した岩がゴツゴツしているようではあるけれど、素人目には隠れられるような場所は見つけられない。
「音を出し続ければ良いんですね。
えっと、こんな感じで……」
松明は掲げたまま、逆の手に持った杖で硬い地面を叩く。
そうやって恐る恐る洞窟内に入り、男の後ろで松明を振り回しても事故で当たらない程度の距離感を保つ。
「岩肌に貼り付いて生える蔦です。
茶色っぽくて一見枯れてるように見えるみたいですけど、丈夫な繊維が取れるんだって聞きました。
もっと安全な場所にある似た品種の蔦は、外の生き物の魔力を纏ってしまって使い物にならないとか」
カツン、カツン、と音を立てながら、もっと自分の存在を知らせようと少し張った声で話す。
洞窟内に反響する音は、あとは些細な靴底の擦れる音だけ。
■クレイ > 「ああ、助かる」
照らされるのと音を出しているので2重に感謝をする。
音を出すというのはある意味で諸刃の刃ではある。実際ゴブリン等のある程度知性のある奴らがいた場合自分の位置を知らせる事になる。実際隠れた何かがいたということはそういう存在がいるという事でもあるわけで。
だけど、自身ならばゴブリン程度から彼女を守りながら戦うのは余程の事態ではない限り可能だろう。そうなると不意打ちが1番怖い訳で、結局対処法は変わらなくなる。
洞窟を進みながら。剣は片方だけを抜く。本来は二刀流だが、洞窟という空間で2本を広げて戦うなど流石に愚策すぎる。
「枯れてるように見える蔦か……なんか怖いなそれ、誤って手を触れたら魔力吸われて使い物にならなくなりました。とか冗談じゃないぞ」
出来るだけ壁に触れるのやめとこ、とか言いながら道を進む。
途中蝙蝠程度はすれ違うかもしれないが、今のところ魔物はなし。
「で、その繊維が本命って事だな。何かの道具でも作るって事か?」
そんな雑談をしながら歩いていると分かれ道。左右に分かれるように洞窟が広がる。
鼻をスンスンとやって。
「……蔦って事はだ。やっぱり水気が多い所の方が好きだったりするか? それとも、乾燥してるところの方が好きだったり?」
■フェリーチェ > 「そう、ですね。私も実物を見たことがなくて、すぐ判断できる自信がありません」
そう言って、この浅い場所にももしかしたら生えてないだろうかと周囲を見回す。
見えたのは松明の揺れる光に陰影を変化させる揺らめく岩肌ばかり。
こんなところで採れるなら、わざわざ護衛など要らないだろうけれど……。
「私専用の魔導機械を作っていただくんです。
この前のエルダ……実はエルダートレントの魔石をすでに用意してありまして、蔦の繊維で魔力を伝達するベルトを編んでもらうことになってるんです。
あぁ、こんな場所の植物ですから、多少水気が」
危うい失言をなかったことにしながら、ややのんびりと話す間にさっき微かな音がしたところを通り過ぎる。
その瞬間、小さな出っ張りに見えたものが蠢いた。
会敵の瞬間、その蹲って隠れていたモンスターは素早く攻撃態勢に入っていた。
奇襲のつもりだろう。ずんぐりとした後ろ足で壁を蹴り、低い位置を這うように突進してくる。
それは遠目の外見だけでいえばハツカネズミ。
頭を横に倒して噛みつこうとする突き出した口には、げっ歯類らしい突き出した前歯が鋭く光る。
そんなものが……中型犬に迫る大きな身体を持っているとあっては、足元にカマを突き立てるが如し。
モンスターが獲物のふくらはぎに食いつこうとする速さは、のんびり喋っていた少女が下を向く早さを上回っていて……。
■クレイ > 「ま、すぐにはいいさ。その判別する時間を稼ぐのも護衛の仕事だからな」
そこは任せろと言いながら道を見る。
そしてうなずきながら話を聞いている。
「……なるほど、じゃあ加工はすませてあると」
なかったことにしているのでこちらも無かったことにしておこうと頷いて。
そりゃ彼女からしても恥ずかしい記憶なのは間違いないだろうからだ。
「で、水気が多少いるなら左だが……動くな」
即座に反転。剣を彼女の足元……否、そのハツカネズミの魔物に向けて剣を突き立てるように。
そこに隠れていたかどうかというのは流石に気が付けなかった。臭いでといっても色々と混ざる中から特定種類を見抜くのは流石に人間の領分じゃない。
だからといって全く警戒していないわけじゃない。隠れそうな場所はある程度目星をつけて、のこのこ出てきたら反撃できるように準備は重ねていた。
剣がまっすぐ、そのふくらはぎに牙が届く前にハツカネズミに迫る。
■フェリーチェ > 一気呵成に飛び出したハツカネズミらしきモンスターは、まったくもって鈍い獲物の様子に勝利を確信していた。
その自信故なのか、そもそも複雑な戦術を考える頭がなかったのか、一直線の動きで……降ってきた刃に突撃。
切り裂かれた勢いで硬い地面にバウンドし、あらぬ方へとその身体が転がっていく。
ただし、ざっくりと本体から切り離された顔だけ置き去りにして。
松明の光だけでは赤か黒か判断しづらい液体が地面に広がり、中空でちょこまかと飛び交っていたコウモリが幸いとばかりに飛びつき啜りだす。
遅れて目にした物に驚きを隠せぬ少女は、力ませた腕で杖を地面に一突き。
断続的に続けていた生存確認とは毛色の違う鋭い音が鳴り響く。
「えっ……えっ、これ、急に出てきて…………」
少女は足元付近まで広がってくる血液を目の当たりにしてから、ようやく飛び跳ねるようなステップで遠ざかる。
それも左の道に進むだとかそういうことではない。
無意識にさっき離していた距離すらも縮め、男のすぐ後ろに隠れるようにして、まだ微かに痙攣するモンスターの尻尾を眺めていた。
■クレイ > 「鼠型のモンスターね。なんだっけこいつ? 2足歩行だったしまぁゴブリンの一種って見とくか」
ビクビクと痙攣する死体には一瞥だけするもすぐに剣から血を飛ばす。
「ほら最初にいったろ。何か隠れたって。たぶんこいつ、来る途中に隠れられるポイントここしかなかったし」
てっきり先に歩いているし自分を襲ってくると思っていたのだが、自分を無視して少女に向かったらしい。
少し考える。
「一応聞くけど、少し魔法とかで援護必要な場面出てくるかもしれないけど。平気か?」
と移動する前に彼女に目線を投げかけそう問いかける。
そしてハツカネズミの方に目線を。
「ネズミ型のモンスターってことは。必然的に繁殖力もネズミ並の可能性が高い……まぁつまり。俺1人ならともかく護衛対象を連れてって考えるとかなり最悪な部類の敵ってわけだ」
正直ドラゴンが1匹デンといてくれた方がやりやすいまである。護衛対象を隠しておけばいいのだから。
だがこいつは違う。ある程度の知能を持ち、その上場合によってはネズミ並の繁殖能力を持っている。つまり数百数千ペースでいる可能性があるわけで。
「魔法での援護ができないってなら、無理は言わない。引き返した方が良い。流石に数百ペースでワラワラ出てきたら俺じゃ守り切れない」
だが、彼女の場合魔法の使用には例の問題が付きまとってくる。
だから先に進む前に可能かどうか、それを問いかけた。
■フェリーチェ > 少女の緊張は、ほんの一瞬の出来事で一段も二段も上がる。
身を縮めるように脇を締めて、華奢な撫で肩は今や見る影もなくなる程の怒り肩。
援護要請を受けて上を向いた少女の顔には、早々の襲撃に戸惑う色が強く出ている。
だが、護衛付きとはいえ自分で採取に行くことを即答で決めた少女は、覚悟だけは胸に秘めている。
「できます、この先もどうか……宜しくおねがいします」
またチラリとネズミ型モンスターの死骸に目配せしてから、男の方へと向き直って返事をする。
微かに喉が震えて声に出てしまったかもしれない。
強く握りしめすぎた松明が揺れているかもしれない。
地面についた杖の先端が震えて積もった砂を掻き分けているかもしれない。
どんなに耐えようとしても表面に恐れが出てしまうならばと、覚悟を形で見せるべく何もない自分と相手の間の空間を見つめる。
すると、その場に細い蔦が絡まり円を描くような緑の光が走り、さっき進みかけた左の道を前触れなしの突風が駆け抜ける。
その道の暗がりからは、体勢を崩されたいくつかの中型犬サイズの影が奥へ引っ込んでいく。
「さぁ、行きましょう!!」
■クレイ >
彼女の様子を見る。即座に襲撃にあった。その上で援護をしないと守り切れないと告げた。
それでも折れる様子は無く、動きも、その姿勢も小さく臆病な様子であったとしても。
その目は、強い意思を感じさせた。
ニヤリと笑う。
「了解。じゃあ先に進むぞ」
なんて言いながら歩こうとして。
その前に、少しだけ止まって。
「あんまり堅くなりすぎんな、お前の護衛についてるのは魔王だろうが近接戦闘なら切り捨てる銀鷲だぜ? どんな最悪の状況でもお前さんだけは無事に返してやるよ」
依頼の失敗、それは傭兵にとってはある意味命を失う以上の失態。大恥である。自身の師匠がそうであったように依頼を失敗するくらいなら命を捨てよう。
彼女の緊張を解く為もあって、もし回避されないのであれば軽く頭をポンとしてから先に進んでいく。進むは水の匂いのした左側の道。
中型クラスのを見かけた。つまりはここにいたのは斥候というべきだろう。だが関係ない、そんなもの覚悟の上、それどころかボスがいる可能性だって考えているのだから。
強化魔法を発動させておく、全身から蒸気のように煙が噴き出す。すぐに動けるようにというのもあるが、もうひとつの目的は威嚇。近寄るなら相応の覚悟をしろという牽制だ。
そうして進んでいけば、水気が近いからだろうか。蔦こそまだないが、苔やキノコ等の植物が所々に散見され始める。
同様に、先ほどのネズミによって捕食されたであろう獲物の骨も……
■フェリーチェ > 少女が杖をつく音は、先程よりも等間隔の整ったリズムに変化する。
戸惑いの表情は、唇を綻ばせた淡い微笑の裏に仕舞い込む。
作り出した余裕であっても、それは洗練すれば精神をその状態へ導く助けになる。
「それはとっても頼もしいですね。
でもそれなら最悪の状況は遠距離戦とぅ……何でもありません♪」
危なかった、余裕を持ちすぎたシニカルジョークは場を壊す。
頭の上にのっかった大きな手の感触を心地よく感じつつ、今度はいつでも動けるようにと身構えた。
と、目の前で吹き出した煙を浴びて少女まとめたポニーテールが靡く。
けれど前髪は汗で額に貼り付いてほとんど揺れることはなかった。
額だけではない、さっき魔術を使った時からうなじ付近にもベタつく感触が有る。
これだけの緊張感によって集中していても、やはり攻撃魔術の連射は難しいと確信し、改めて男の位置と周囲の状況を確認する。
少し先程の場所よりも開けた空間には、動物の死骸を作り出したモンスターが壁際に貼り付いていた。
数にして十数匹が散らばっている。
警戒心を露わに、しかし逃げるような弱気な姿勢ではなく敵愾心剥き出しの構えだ。
その空気を作り出しているのは、ネズミというよりプレイリードッグのような毛の生えた、もっと大きな個体がそれらを睨みつけているせいかもしれない。
互いの位置関係を逐一気にしながら、獲物の周囲を囲もうと壁際をゆっくりと移動している。
■クレイ > 「それなら石でも投げつけてやる。ネズミ程度の頭なら石でも十分だ」
遠距離戦闘に対してはそんなことをいって鼻で笑い飛ばす。数が多いと何とも言えないが、それだって不可能じゃない。
まぁ、あのネズミに遠距離武器を使う知能があるとは思えないわけだが。
さて、そうして歩いていけば開けた空間。さっきのより少し大きめのがにらみを利かせている。
「……予想よりすくねぇな。不意打ち狙いか?」
ビビりと言われようと戦場ではそれが前提だ。徹底的に可能性のある物を思いつく限り潰す。そうしてこそ生き残れるのだ。
となればこれが全部だとは思わないのが前提だ。
「さっき通ってきた通路、そこをしっかり見ていてくれ。前は俺が守る」
後ろの通路、あそこが怖いポイントだ。人間は通れずともネズミ程度ならば通れる場所などいくらでもあるかもしれないのだから。
そして自分は剣で軽く自分の胸元を切りつけると、腰からもう片方の剣を抜き両手に剣を持ち構えを取る。
自身で斬った理由はヘイト管理。奴らが見た目で狙うという可能性もあるが、怪我人や血の臭いに誘導されるのならこれで自分に攻撃が向くはずだ。
「で、包囲してこようとしてるのは」
適当な石を剣で斬り飛ばし、それを壁に叩きつける。左の片翼はそれで包囲失敗。
撃破できたかはどうかは定かではないが、少なくとも陣形を乱す程度は出来たはずだ。
「こうしておく。右からやる。極力ゆっくり動くけど。離れるなよ」
そうすれば一気に魔物に向かって飛び掛かるだろう。まずは包囲しようとして来ていた右側に向かって向かっていき、その集団に襲い掛かる。
相手がネズミであるのならこちらはネズミを捕食する”鷲”であろうか。両腕のそれを翼に見立て、羽ばたくように振るう。縦に横にと。
■フェリーチェ > 石つぶては左翼の陣形を崩し、壁沿いから初速を稼ごうとしていた数匹がウロチョロと行き場を失う。
それを見てぎょっとした親玉も、優秀な指揮官では無かったようでキョロキョロするばかりだ。
かといって困惑で動けない素人でもなかった。
『Gyaaaaa!!』
男が動き出せば悲鳴にも似た鳴き声で開戦の合図を送る。
両翼が合図に応じて同時に動くも、初動はやはり右翼が速い。
今度は指示があるため、真っ先に警戒すべき先頭の男を標的に周囲から群がりだす。
それも予定の半分とあっては一匹がまた首を堺に身体と生き別れになり、もう一匹は口が縦にも裂け目を作り、あるいは踏み込む後ろ足がなくなる。
それを見て、少し遅れて飛び出そうとしていた親玉が躊躇し、足を止めた。
次に襲いかかってくるのは、更に遅れを取った左翼だ……右翼と同じ猪突猛進とはいえ。
そんな中、少女は一生懸命に駆けながら、さっきと似た色の光で新たな紋章を宙空に作り上げる。
「っ……せ〜ぇのっ!!」
掛け声とともに、両足を揃えてひょいっと……跳ぶ。
上昇気流を孕んだスカートをはためかせながら、幅跳びのように数メートルを一足で飛び越える。
積極的な援護が必要なほど追い詰められていない今、移動に魔力を割く判断だった。
杖を付く音も消え、自分の足音さえ断続的になり……モンスターの悲鳴の中で別の音が混ざっているのを感じ取る。
出どころは注意するように言われた、枝分かれした先の道。
残り7体のモンスターとは一線を画す、大量のネズミが押し合いへし合い駆けてくる足音が……。
「た、たくさん、なにか沢山来てますよ!」
■クレイ > 極力血を浴びないように飲まないように。
傷に触れればそれこそ感染症になりかねない。ネズミの場合それが致命傷になる事も多くあるわけで。
やはりというべきか、1匹辺りの力は大したことはない。だが、警告が来れば一瞬の内に思考をする。
「フェリーチェ。そのたくさん来てる奴ら、一瞬で良い、水で流すなり驚かせるなり風で吹っ飛ばすなり魔法で足止めできるか?」
1体のネズミを蹴り飛ばし壁に叩きつける。そして更に飛び掛かってきたネズミを切り捨てた。
後ろからのネズミの足音はなおも迫り、どんどんと音は大きくなるばかりだろう。
「その群れに指示出されると面倒だし、先にあの丸っこい奴を潰す。そうしたら後は烏合の集だ」
そうなればこちらに攻撃が集まるだろうし、最悪洞窟から逃げ出してくれるはずだ。
前の時に見た魔法を思い出す。あれの規模の大きい版が使えるならそれも可能ではないかと思って。
そう聞くが早いか、こちらは一気に親玉を狙いに行く。こちらにいるのはそこまで問題ない、残り7匹程度なら彼女を守りながら十二分に処理可能だから。
邪魔されるのなら邪魔するネズミを、到着できるのなら親玉を分断せんと横殴りに剣を振り抜く.
■フェリーチェ > 「出来ます!!」
軽く地面に蹴りを入れるようなバックステップだけで大きく飛び跳ねた少女は、別通路へ繋がる場所へ着地する。
余裕ですと言わんばかりの笑みを浮かべて、優雅に襟元を引っ張り整える。
これだけさり気なくすれば気づかれることは無いだろう……襟を正したのではなく、乳首が立ってきたから下着が擦れないように調整したのだということに。
『Neyu---geee!!! Kyaaaaaaa-----!! Guu!!Guu!!Guu!!』
獲物予定の二人が話している間、親玉も黙ってはいなかった。
さっきより複雑な叫びを上げ、バカ正直に突撃させる班と自分の前に肉壁を作らせる班に分ける。
顎をガクンと下げた絶望顔はネズミ型モンスターだろうと何となく分かるほどだが、親玉に逆らうものはおらず、半分が突撃してもう半分が密着して円陣を組む。
それだけの時間があれば、速度に長けた少女の魔術は完成する。
今度は水色の光が通路入口に浮かび、その正面に現れた抱えるほどの氷塊が砕け散る。
その破片は指向性をもって床に均等にばらまかれ、鋭い氷の棘が一面に出現する。
が、それでは止められない者たちも居た。
多くのネズミ型モンスターが足止めを食っている棘の床を、少女以上の跳躍力で飛び越えた者。
ネズミ型モンスターが追い立ててきた、ワニと見紛う大きさの一匹のバッタが宙を滑るようにやってくる。
■クレイ > 「邪魔だ!」
突撃してくるタイプを全て切り伏せる。肉壁など関係ない、それごと切り伏せてやる。そう思っていたが、後ろの魔法の中に混じる不穏な音を聞いた。。
それは明らかにネズミと違う足音、もっと軽く、もっと早い……一瞬で思考をめぐらせる。今優先するべきことは何か。
親玉を潰さないと群れが合流してヤバい事になる。とはいえ、あのまま少女を放置もできない。
時間にしてほんの数舜。だが本人からしてみれば数分は考えていたのかという情報量でそれらを処理する。
計算を終える。下した判断は
「フェリーチェ。ナイス足止めだ。でも今すぐに逃げろ! なんかヤベェのが1匹来てる!」
こちらに彼女を逃がすという選択肢だった。
氷で僅かにでも足が鈍っていたのなら、怪我をしていたのなら。逃げ切れる可能性はある。無くても最悪こちらが戻れば良い。
それに一瞬の足止めをしろといったのだ。一瞬で親玉を狩らねばいけない。親玉を狩ればあのバッタと2対1だ。
こちらは親玉に向かって一気にかける。肉壁を、親玉を諸共切り伏せようとする2撃。
1撃目の横切りで壁を狩り、開いた隙間から2発目の縦斬りを叩き込む二刀流を攻撃に全力で振り分けた攻撃。
■フェリーチェ > 言われるまでもなかった。
バッタ型モンスターを、子供っぽい顔に攻撃性を孕んだ目つきで睨みつける少女。
それは只々睨みつけるだけに終わる。
男がやって見せたように物を、松明や杖を投げつけることすら出来ていない。
だって今は……背中をゾクゾクと這い登る性感に苛まれながら、狙って物を投げるほど集中できない。
当然風の魔術も維持できる自信がなく、逃げるには少女の華奢な両足に鞭打って走るしかなかった。
「っはぁ、はぁ、はぁ、ふぅ、はぁ…………っ!」
長い杖を適当に放り投げて、ささやかながら障害物を増やしながら、少女は必至に駆ける。
快進撃を続ける男の後ろが最も安全であろうことは、撒き散らされる血しぶきで一目瞭然だ。
それも、松明の光が届いてこそ見えるもの。
暗くなった後ろからの羽音が怖くて怖くて怖くて、振り返って松明の光を当てれば空を舞うマルタの如き緑の物体が目に飛び込んできた。
硬い外骨格も骨ごと噛み砕きそうな大顎も、それはそれで危険だが、小柄なフェリーチェにはその巨体こそが最大の脅威。
頭の上から伸し掛かられたら、それだけで押し潰された少女は致命傷となるだろう。
咄嗟に横っ飛びで壁際に逃げれば、援護も何もなくバッタ型モンスターは男の背後へ一直線に飛びかかっていく。
■クレイ >
「よくやったな。帰ったら飯程度ならおごってやるよッ!!」
親玉を切り伏せる。援護をと親玉は叫ぼうとしたのだろう。
だが、そうはさせない、できない。大鷲のその爪は叫ぶ前に親玉を頭から切り伏せる。
生き残った肉壁ネズミも親玉が殺されればどうしようかと動きが止まる。その間に最も厄介なそれと向き合う。
「こいつ倒せば、とりあえずは終わり……だろッ!!」
振り下ろしたその剣、それを振り返る勢いで下から上に振り上げる。
必然バッタを斜め下から剣が強襲する形になる。
強化したとはいえ相手は虫外殻は堅い。もしかしたら両断できないかもしれない。
だが、それでも打撃としてのダメージは与えられるように大振りの1発。
■フェリーチェ > 松明を両手で握りしめ、虐殺に近い戦場の行方を見守る。
最後の叫びは悲痛な感情が上乗せされたように耳の奥へ響き、しかし、最後はゴボッという喉まで迫った血を吹き出す音に変わる。
思わず少女が目を瞑った一瞬で、勝敗は決していた。
ざらついた岩を殴ったような音がまず響き渡り、続けて押し潰れる音と共にバッタ型モンスターの右側の足が節から切断される。
その上、振り抜いた剣は広げた羽を切り裂く。
羽音が擦れ合う騒音となり、バッタ型モンスターは身体を傾けながら一回転して地面に叩きつけられる。
ネズミ型モンスターの血飛沫で濡れた床で滑り、その巨体は向かい側の壁に激突して動きを止めた。
「はぁ、はぁ、はぁ、死んじゃったん……ですか?
クレイさんの怪我は……」
壁に寄りかかっていた少女が周囲を見回すと、生命の存在は二箇所に分断されていた。
捕食者を力づくで捻じ伏せて漲る生命力を証明したばかりの男と、それから氷の棘の向こう側で右往左往して暴れまわるモンスター。
向こうのモンスターは親玉の断末魔を聞いたのだろう、無理に氷の棘を乗り越えてくる猛者は一匹もおらず、コウモリだけが撒き散らされた血に寄ってきてチョロチョロと舞い降りるばかり。
自分のなかで激しく脈打つ心臓は、加護による火照りと必至に走った熱、どちらが原因か分からないがこの空気の中ではまだ収まりそうになかった。
■クレイ > 「なんだ、斬れたのか」
はぁと少し肩で息をする。流石に数が多いと少し骨が折れる。
彼女がこちらに気が付けば。グッと親指を立てて。
「ばっちり、自分で斬った奴程度だ。お前が増援を防いでくれたおかげだな」
なんて笑う。実際、足音から考えてあれがたどり着いていたら結構ヤバかった。数が多すぎれば文字通り自分を盾にしないと彼女を守り切れないから。
それよりと。彼女を見る。
「お前も怪我はしてねぇか? ああ、あんまり近寄るなよ。返り血で結構ドロドロだから。奥にあるはずの水場で少し体だけ洗わないと」
最悪上は脱いで帰る必要がありそうだ。
下の服は適当に水場で洗って、乾かそう。
それはそれとして上はすぐに脱ぎ捨てる。返り血にネズミの血が触れるのを防ぐために。流石に感染症が怖い。
盛り上がった肉体、その胸元には自分で裂いた斜めの傷が残っている。だが本人は痛がる様子を見せない。
「怪我がないなら奥行こうぜ、あいつらが巣を構えてたんだ。奥には飲み水にしてる水場があるはずだし、そこならあるんじゃないか例の蔦もさ」
■フェリーチェ > 極度の緊張状態が続いたせいで、上手な笑みは作れず泣き笑いに近い表情が限界だ。
そんな様子のまま言葉が出なくて、ひたすらに首を縦に振って頷く。
遠くまで放り投げられなかったのが幸いして近くに落ちていた杖を拾い上げ、身体を支えながら男の元へと歩み寄る。
足元は血でぐちゃぐちゃと嫌な音を立てるが、返り血の事を聞いて改めて自分の姿も見れば、ブーツは既にひどい有様の上にスカートの裾も跳ねた血が固まりかけていて変な色合いになっている。
これが最も生地の質が良くて頑丈だったとはいえ、一張羅がこうなってしまうのは女の子として不満がなくもない。
故にすぐ洗えると知れば一瞬ぱぁっと明るい笑みが咲き誇り、次の瞬間には真っ赤になって硬直する。
「だ、大丈夫です。どこも怪我してませんから、近寄らずにっ、近寄らずに洗わせていただきます!」
男の豪快な脱ぎっぷりから顔を逸らす。
今の身体の状態では意識しすぎて、声があからさまな程に裏返ってしまった。
また黙りこくって無言で頷き、水場があるらしい更に奥へとしずしずと付いていく。
■クレイ > 「ああん?」
ひっくり返る声にそっちを見るが、彼女の特性を思い出す。
そしてハハハと笑って。
「ああ、そういうことな。悪い悪い。でも服今はきれねぇから勘弁な」
流石に意識をするなというのが無理がある状態だろう。だが着る訳にもいかない。
感染症になどなったら大問題すぎるからだ。ネズミはこれだから困る。
カバンの中から魔法道具を取り出す。こういう時の為の簡易ライト。虫対策に火の松明を使っていたが、今はこっちで良いだろう。手持ちサイズの筒から明るい光が広がる。
そうしてしばらく歩けば。景色が変わる。
「……おお、冒険者が人気の理由少しわかったかもしれねぇ」
そこは水辺。というより地底湖と呼ぶべきだろうか。上にはいくつも鍾乳石がぶら下がりる。
そして水辺や天井の鉱物が道具から放たれる光を反射して幻想的な空間を作り出している。
壁面には植物などもいくつか群生しているが、男は景色のほうに目を向けていた。
■フェリーチェ > 咄嗟のときに使った広範囲の攻撃魔術は、少女になかなか冷めやらぬ爪痕を残していた。
だがしかし……そういう事ではない。
「お怪我を召されたのは存じてます。
だからといって、そう淑女の前で躊躇いなく肌を晒すのは……」
男の曝け出された上半身から視線を逸らしたまま、歩くことしばし。
松明より直線的な光に照らされた地底湖や鍾乳石の反射が少女の目を奪う。
煌めく光景はただ一つの景色に様々な色を重ね、ぼんやりと見とれていれば何時までも眺めていられそうだった。
自分が汚れていなければ、という但し書きは付くのだが。
少しの間、幻想的な光景に見とれていた少女は、ブーツを脱ぎながらヨタヨタと地底湖に近寄り、その支流に手を入れて掬った水をブーツにかける。
その水を溜めておける材質なだけあってか、水しぶきで濡れた地面の石は吸い込みも乾きもせず、掬ってかける度にパンストの足裏にもじわりと水が染み込んでくる。
火照った身体にその冷たさは刺激的で……。
「んぅふっ……あ、はぁ〜……す、すぐに洗えて良かったです。
ちゃんと綺麗に落とせそうで、蔦探しもすぐ始められそう」
変な声を漏らしてしまったことを誤魔化すため、努めて明るい声でそんなことを言う。
■クレイ >
「生きるか死ぬかの瀬戸際でんな事気にしてられるかよ。てか下じゃねぇんだし良いだろ別に」
水着みたいなもんだと笑い飛ばす。そして自身は丁度いい水場だとばかりに。橋の方で飲み水ようのボトルに水をすくっては服にかけて洗い始める。
「で、じゃあそういうなら先に言っておくけど、脱ぐからな」
そういえばズボンもさっさと脱いで洗っておく。つまり今は下の下着1枚の状態。
その状態でさっさとズボンを洗えばとりあえず血は落とせた。であれば後は先ほど松明の火つけにも使った魔法道具とその辺に生えている植物。蔦は怖いので木の根っこ等を使って焚火を作成。その近くに服を適当に放置しておいた。
「なんか一瞬すげぇ声出たぞ。じゃあ俺しばらく水浴びしてっから。乾くまで暇だしな」
と傷周辺を水で流して、強化魔法で治癒能力を向上。傷を治しながらザブンと地底湖につかる。
「はぁ。汚れ汗とか落ちるわ。お前もさっさと蔦探して浸かれよ。気持ち良いぞ」
はぁと息を吐く。
さっきのネズミが牛耳っていて、そのネズミを駆除したのだからもう魔物はいないはず。その安心感が大きかった。
■フェリーチェ > 「いえ、それでも情緒とか色々あっ、わっ!?」
反論のために振り返りかけるも、脱衣宣言を聞けば慌てて別の方に向き直る。
不意打ちの一撃を越えてからはパンストやシスタードレスの裾の汚れた部分にもついでに水をかけ、チラリと本人が見えないように慎重に振り返って床を見てみる。
本当に脱いでいる……洗われたずぶ濡れのズボンが視界に入ると、そう確信して生唾を飲む。
正直に言ってしまえば少女自身も脱いでしまいたかった。
それを、開けた場所という環境と男の存在が押し留めている。
だが半端に濡れて気持ち悪い、という感触もまた疲れた少女の精神を侵食し、歯を食いしばりながら雑念を振り払うように上を向く。
すると、試練に耐える信者に褒美が持たされるかのように、本で見せてもらった例の蔦が目についた。
「あ、ありました!あそこにありますよ!!
えっと、えっと、登らないとですよね……裸足の方が良いですよね」
何やら言い訳じみた独り言を大きな声で口走ると、スカート部分に手を入れてパンストを脱ぎ捨ててしまう。
お腹を抑えていた白い布が取り払われたことで、下腹部から漏れる淡い青白い光が床を照らす。
だが実際に実利もあるわけで、そうやって裸足になると嬉々として蔦があった場所の岩場に登り始める。
目標はすぐそこ……そんな浮かれた雰囲気を振りまきながら。
■クレイ >
「情緒ってお前。良いムード作って服脱がれたらそれはそれでどうなんだよ」
それ服脱ぐの意味変わってくるじゃんかなんて笑う。
だが、上り始めれば。
「お、おいおい気を付けて登れよ」
一応水場そしてなんか浮かれた雰囲気をしているって事もあり、別の不安がよぎる。
もしあんなふうに登って苔なりがあったらと考えると。笑い話ではない。
おそらく視界に入ると今のアイツの場合落ちる。
だから視界に入らない、けれども何かあった時に支えられる位置で待機する。
パン1で待機する図は少しシュールかもしれないが。現状仕方がない。水浴びしていたら落ちて大怪我させましたとか。もう二度と傭兵の仕事が来なさそうだし、自分自身も気分最悪である。
そういうわけで、視界には入らないように待機していた。
■フェリーチェ > 「はい、分かってますよ♪」
分かっているという返事さえ、語尾の跳ねる浮かれ具合。
それもこれも、巨大な危機を乗り越えたあとで気が高ぶり、感覚が麻痺しているのかもしれない。
足を取られそうな苔もあって一応は注意を払って登り、そこからは少女の独壇場だった。
まともな外敵の居ない蔦は摘んで引っ張れば思いの外簡単に剥がれ、バッグに詰め込んでいく手順は野イチゴ狩りの容易さ。
だから別の所の注意は、少々怠ってしまった。
「これだけあれば、もしかしたら予備まで用意できるかもしれませんね。
お金はちゃんと用意してますから、相談してみたら案外……ふふふっ♪」
右に左に、それから背伸びしてもっと上の方も。
少女が陽気にはしゃいで身体を傾けるたび、普段は捲れるのを気にしないミモレ丈のスカートがふわふわ揺れて、下からは覗き放題となっていた。
普段はパンストで守られた白い素足が晒されるどころではない。
加護の淡い輝きのせいでスカートの中は明るく保たれ、パンストに合わせてラインが出ないよう配慮した……少々カットの深い純白パンティとか、成長期前のこぶりなお尻とか……。
気付かれないように待機する玄人の男に、浮かれた素人の小娘が気づくはずもなく。
■クレイ >
「ホントだろうなおい……!?」
あまりに警戒に進むその足や笑う様子に思わず気が気ではなくハラハラとしてしまう。
しかしそれはそれとして目に入ってしまう物は入ってしまうわけで。
今は服の上からだが、前の体験は無かったことにはしたがっているみたいだが、こちらからすれば無かったことにはなっていないわけで。
そういえば前の時、結局俺は何も無かったななんて。そんなことをうっすらと思ってしまう。
少し下腹部に熱を帯びそうになって。
「ったく」
ブンブンと頭を振るう。戦闘後という気が昂るタイミングで見たせいで変な考えに一瞬頭が支配されてしまう。
必要な物が取れたなら。その背に向かって声をかける
「おい、必要な分取ったらさっさと降りて来い。なんか色々見えてんだよ!」
その声のせいで大方の居場所とか、色々と分かってしまうかもしれないが。これ以上長引けばそれこそ変な気を起こしてしまいそうだったので、そう声をかけてごまかす。
■フェリーチェ > 「はいっ、見えてる範囲はぜーんぶ採って……えっ?」
ビクッっと、細い体が大きく震える。
蔦の這う石壁に向き合ったまま少女の顔から笑みが消え、引き結んだ唇が硬直した身体の代わりとばかりにプルプル震える。
腰元を手の甲で撫でるように後ろに回し、今更ながらお尻を押さえる。
高低差のせいで、それでも片手で押さえきれない尻たぶや太ももは大して隠れていない。
急にまた黙ってしまった少女は、バッグに詰めた十分すぎる蔦に目配せし、そろそろと降りて一礼。
「本日はまことに有難うございました。
無事帰り着きましたら、すぐに依頼達成のご報告を差し上げたいと思います」
急に他人行儀な言葉に切り替わる。
今日この日のことも、一部二人の間から消し去ろうとしていた。
あの、休憩室で行われた痴態の記憶と同じように。
■クレイ > 「いきなり話し方変わるんじゃねぇよ。てか、今回のはレベル低いだろうが。無かったことにしようとしてんじゃねぇ」
別になかったことにするようなレベルじゃないだろうが。なんて言いながら。
実際服の上から見えただけなので、何とも言えないレベルではある。
「ま、変な事いった俺も悪いっちゃ悪いんだけどな」
それに関しては自己反省と謝罪の意を示す。
そして服を持ち上げる。まだ生乾きだが、あとは外で乾くだろう。
「あと、無事にたどり着きましたらじゃねぇ。俺の依頼は依頼人を無事に送り届けて完了だ。町までは護衛する」
さっさと服を着込めば、腰に剣を戻す。そして火を消して終わり。
■フェリーチェ > 「はい、あ、いえ。レベルの低い高いの問題では……じゃなくて今回はなんて枕詞を付けずとも初対面ですし……」
消し去りたい記憶が多すぎる。
この国に来てから大概な目に遭ってきたが、それでも冷静に思い出せる状況下で痴態が思い浮かんでしまうのは勘弁してほしかった。
小さくても淑女。
恥じらいも矜持もその他諸々の貞淑さを重んじる感性があるのだ。
それから、こうも気まずい話に巻き込んでしまった相手への申し訳無さとか。
「そう、そうですね。護衛を依頼した以上、お仕事は全うしていただかなくては。
それでは街に帰るまで、どうか宜しくおねがいします」
白々しさついでに濡れたスカート部分を摘んでカーテシをしてみせ、多少子供っぽくも自然な笑みを浮かべながら、洗ったものを回収して街まで男に付いていった。
その後の、上質な素材をふんだんに使った魔導機械の仕上がりは、また別の話。
ご案内:「設定自由部屋(ダンジョン)」からフェリーチェさんが去りました。
■クレイ > 「なんつーか……色々大変なんだな淑女ってのは」
傭兵の自分からすれば明日どうなるかわからないから痴態なんていくら書いてもしったこっちゃねぇって感じなのである。勿論依頼の失敗みたいにかけない痴態も存在はするが。
しかしそれはそれとして、大変なんだななんて。むしろ同情の方が先に頭をよぎってしまう。
「おう、じゃさっさと戻るか。また群れの連中が戻ってきたりしたらそれはそれで面倒くせぇし」
そう言って歩き始める。
街につけば完了報告をしてそれぞれの帰路に付くのだろう。
彼が向かう先は宿。そしてまた明日になれば変わらぬ戦場へと赴く。そうして命を切り売りし、今日という日を生きていくのであった。
ご案内:「設定自由部屋(ダンジョン)」からクレイさんが去りました。