2022/08/12 のログ
■影時 > 「……ああいう旅はむしろ、ラファルに助けられてる処が多いがね。
あったなァ、校外実習やら学習とか云うやつ。……俺もそのうち、付き添いのお呼びでもかかるのかね。
そう考えると、今のうちに触りだけでも慣れておく必要はある、か。
……――その辺りは聡いな、流石に。
来歴の一端を言うと、だ。
俺とラファルで向かった場所は、魔力を吸い上げる性質を持つ鉱物が埋まった洞窟にして、加工場――工房があった場所だ。
その鉱物というべき何かを製錬した産物のひとつが、フィリ。お前さんが持つ槌だ。
そして、その槌はだ。いわば、その洞窟そのもの、魔力を吸い上げる性質をひと際強く持ち合わせている。遠くにいる敵をも引き付けるくらいに、だ」
歩いて移動する独り旅も、千里を駆ける急ぎの旅も遣るが、万里をひとっとびする力は流石に持たない。
目星をつけた目的地まで一直線に飛翔できる点において、竜種などの空を飛ぶことに長けた種族には、移動力は劣る。
だから、学院の志望者向けの校外実習の類とは、必然として無難な、ある程度安全のマージンが確保できた限りのものとなるだろう。
勿論不測の事態があるとなれば、現役の冒険者、または経験のある教師をお呼びがあることは疑う余地もない。
思案と懸案を重ねた末に至った認識は――己が分析の点でも間違いない。
竜の血に染まる前、言わば完成直後のまま死蔵されたであろう槌の初期状態の特殊能力は、実戦を以て把握できている。
魔力を吸い上げる性質の一点においては、己と弟子が所有する鎧通しも同じ。
しかし、鎧通しと件の戦槌の明らかの相違点は、魔力吸収能力の射程距離、そして効果範囲であろう。
刃を突き立てなくても、吸い上げることができる。しかも、遠方から狙いを定めたターゲットを引き寄せられる位の強制力を以て、だ。
理解ができれば、否応もない効果を発揮できる――が。
「嫌いじゃねェなら、むしろ好き――と。悪ぃなァ。そういうコトは嫌でも覚えちまうんだよなぁ」
ついつい、弄ってしまうのが楽しくなるのはどうしたものか。
白か黒か、ゼロかイチであれば、黒にしてイチ、嫌いではなく好き、なのだろう。きっと、恐らく。
シーズン外れで静かであるはずの別荘地に羞恥フルオープンの悲鳴、絶叫が鳴り響く。
ともすれば、通報沙汰にもなりかねないことを――、とりあえず祈っておこう。
「いいとも。参考品としても持ってきたものだからな。
ははは、買い取ってくれるのは有り難いが、死蔵品ばかりになったら、色々とすまん。
だが、今しばらくは――遠出はし辛いか。今の仕事だと、な」
どうしても使いようがないもの、使わないものは、適切に捌かないといけない。宿部屋の置物にできない。
マジックアイテムとやらは大なり小なり値はつくものがだ、手に入れたものは来歴的にも質が良い者、特殊なものも交じる。
需要があれば恐らく直ぐに捌ける。そうでなくとも、贈答品の類ともなるケースも多々ある。
しかし、今はそういった諸々の新顔は直ぐに望めないか。特別講師は日帰り気分で迷宮に潜るにはいささか危うい。
「……予め手甲に氣ぃ張っておいたのが良かったのか、それとも使い手が未熟だから、か?
普通、というのは、多分違うな。恐らく俺が備えていた、覚悟のうえで構えていたからというのもあるだろう。
だから、次はこうする。まずは軽く水でも飲んで、落ち着くといい」
体感重量とはいえ、杖より軽く感じられるはずの槌の一振りのあとの仕草、有様とはどう読み解くべきか。
筋骨を痛めたというべきか。それとも、人に武器を向けるという不慣れさゆえの緊張か。
武器の特殊さゆえの反動とも見える様相に考えを巡らせつつ、己も息を整える。呼吸を整えて両の五指を握り、開き――、印を結ぶ。
ぱ、ぱ、ぱ、と立て続けに複雑な形状に指を組み、念を奔らせる。
忍法・分ケ身の術――と。微かに呟き、術を完成させれば、男の周囲に幾つかの破裂音が連鎖し、靄が生じる。
生じる水蒸気めいた其れが晴れると、気配が増える。数としては都合九体。男の姿を模しつつ、顔に鬼を模した厳めしい仮面をかぶった分身が跪き、姿を現す。
■フィリ > 「もしかするとぉ母様――も。そぅぃった所から、運送業…思ぃ付かれたのかも。しれません。
…ぇぇと、はぃ。私は未だ、ですが…姉等は、もぅ、参加してぉぃでです――ので。
確かに笠木様が、引率して、下さるのは。学院の方々も…願ったり叶ったり、なのではと。思われ、ます。はぃ。
実戦も、生存術…?も、どちらも。教ぇてぃただける、とぃぅのは。
…人工的に、術式を付与する、とぃぅのは。前々から竜胆様の元で、拝見してぉりましたので。
同様に、最初から、特質として…そぅした、力を持つ素材、とぃぅ物も。漠然と、感じる事が出来…ました。
………磁場、と申しましょぅか……同質の、素材や鉱物が。引き合ぃ、集まる…そぅぃった事も、有るの、です。
もしかすれば……そぅして。集ぃ合って、鉱脈として。成立したのかも……しれません、と。思われ、ます。
――……そぅ…なるほど、そぅ、ですよね?
でもなければ、何と言ぃますか…こんな、重くて大きな、物を。ラファルちゃん様が、まともに受けるとは――思ぇ、ませんし」
彼女の説明では色々さっぱりだった部分の一つが見えてきた。
それはもう速き事も掴み所の無い事も風の如しな、母に叱られる時くらいでしか捕捉不可能な彼女が。鈍重な打撃武器で大きな痛手を受けた理由。
翼有る竜の本性であったなら兎も角、普段のヒトガタであったなら。軽い身体を吸い寄せられ浮かされてしまったら…と。
人体にとって、地に足着かない状態がどれだけ厄介かは良く解る。
――といった不測の事態が、師匠達の間でも発生するくらいに。やはり、街の外国の外は危険なのだ。
聞き囓った知識としてはこうやって。少女もひしひしと実感する事が出来ているのだが…実体験が伴わない分。まだ、その意識やあやふやだ。
それこそ先ずは教師引率の上での、学生レレベルなフィールドワークからでも良いので。実践する所からである。
少女としては冒険者になりたい訳ではないし、こうした魔術敵な品についても、売り買いしたり作ったりしたい側なのだが。
入手にしろ鑑定にしろ、直に赴き、この目この手で触れる機会は。必ず訪れるのだろうから。
「ぅぅー……ぅ。せめて……っ。せめて、ご内密に――学院では、ご、ご内密にして…ぃただけましたら、幸ぃなの――ですが…」
ぷしゅるるる。そんな事をさせて湯気を立ち上らせるのではないか…と言わんばかり。首から上が真っ赤になった。
先日のラファルの登場で。へっぽこ属性に加え、むっつり性癖についても着々と、クラスメートにバレつつある少女である。
教師と生徒のいけない関係だとか、そういう妄想にドキドキするのは、仕方ないといえば仕方ないのだが。
それはそれとして、これ以上好奇の目に注目されるのは……元引き籠もりにとっては非常に辛い。
今にも土下座せんばかりの勢いで頭を下げようとしたのだが。その際も鎚を持ったままである事を思い出し、動きを止めた。
うっかり何処ぞに。それこそ彼なら当たらないにせよ、辺りの草木や地面に当たりでもしたら。それはそれで大自然にとって迷惑だろうから。
「ぁりがとぅ、ござぃます。
…死蔵……と言ぃますか。貴重故に、芸術品のよぅに――大事にして、ぃただけるのも。それはそれで。決して、間違ぃではぁりません、ので。
価値だとか…危険性、だとか。きちんと把握して、だからこそ、とぃぅのでしたら。
ぁ、っ、笠木様や…実際に振るう、方々にとっては。釈然としなぃかも、しれませんが――」
少女の側も。武器としての受容だけではなく。例えば、魔族由来の武具や。遠い異国の貴重品。
そうした物が実際に用いるよりも、一種のステータスとしての役割を持つ事は想像出来る。
寧ろ思考が商人寄り、研究者寄り、である分。いっそ博物館等に収めるような価値もまた見出してしまう。
冒険者達や…戦場に立つ者達等からすれば、何を悠長な、と思われるのかもしれない。故に少しばかり眉を下げつつ。
ともあれ。今在る物だけでも、少女にとっては物珍しい貴重品である。
もし、今夜まだ起きていられる余裕が有ったなら。それ等貴重な品々に、さぞ目を輝かせ興奮する事になるのだろう。
…それとも。うっかり別の形で興奮せざるを得なくなってしまうのか。
「 …………こほ、ん。…失礼、ぃ…たしました。
私は…そもそも私自身が、矢張り。抑ぇきれて、ぉりませんかと。
喰わなぃよぅに、と努めてはぉりましたが…それでも。魔力とは少々異なる力でも。捕食して、しまぅのです――ね。
勿論その、最初から、何ら力の通ってぃなぃ――普通の、物質でしたら。確かにはぃ、普通の打撃にしか、ならなぃ筈で―― っ、すぅ゛!?」
促されるまま、水筒の水を一口、二口。
お行儀良く口元を拭いながら、氣の奪取についての所見を述べ――ていた声が、裏返った。
ほんの数瞬目を離した間に、先日同様彼の分身…しかも今度は、彼自身と合わせるとぴったり両手の指の数に増えている。
まして本物以外の分身は。ぱっと見ぎょっとするような、怖い顔の面を着けていた。
例え彼の仕業と解っており、此処からが有る意味本番だと承知していても…それはそれで。
びくりと肩を震わせ、両手に力が入ってしまい。胸の前で斜めになった鎚は、構えているというよりは…抱え込み、抱き付いている、といった按配だろうか。
■フィリ > 【継続いたします】
ご案内:「山中の別荘地」からフィリさんが去りました。
■影時 > 【次回継続にてっ】
ご案内:「山中の別荘地」から影時さんが去りました。