2022/06/13 のログ
■ジギィ > 「やーん、それってホラーじゃない。
そぉねえ、この世のものとは思えないって、その花も確かヒトの世界で高値だった気がする」
儚いわよねー、と言う軽口は、イケニエに対してのものか花に対してのものか。
軽口はいい。たまに中身のないやり取りについて顔を顰める輩が居るが、軽口も叩けない相手に深刻な話を持ち掛ける方がどうかしている、とこのエルフは思っている。
「ふーぅん。
ウチのカミサマに関しては超気まぐれだからね。『この位ならばよかろう』の匙加減が滅茶苦茶厳しかったり甘かったりして大変よもー。
まぁ、だからウチの氏族としてもたまに『あーまたカミサマあんなこと言ってるな』くらいにしか相手にしなかったりするけど」
ねえ?とまた羽織った灰色狼に問いかける。その手足もそのままの毛皮が、抗議めいて揺れるのはエルフの歩みに合わせたせいだけか否か。
「ふぅぁああ ――――――――――ぁ ――」
エルフは足から滑り落ちながら長く尾を引く叫び声を上げるが、悲鳴と言うよりはどこかしら楽しんでいる風の響きだとすぐ解るだろう。
実際ちゃんと動きを見ていれば、樹を避けているだけではなくて或いは手を添えて或いは少し蹴って、真っ直ぐ底へ落ちていくように軌道修正しているのが解る。
―――なので、彼がエルフに追いすがろうとするのであれば容易に追いつくだろう。
「ぁ――― カゲトキさん―――
ついでだからこの――― 下まで一気に――― っ」
追いついた彼に、エルフは相変わらず樹を如何にかして除けながら起用に返答して程なく執着地点の谷底。
なんとか尻もちはつかずに一回転して着地したのは、一応エルフたる面目躍如といったところか。
ふたたび木っ端まみれではあるが、谷となって細く開けた地に『滑った』ことなどなかったかのようにすっくと立ち上がると、辺りを見回す。
滑り落ちた側とは反対側の斜面、陽光が丁度差し込む辺りに立ち並ぶ針葉樹。
辺りの香りはまたいつの間にか緑の透き通った香りに替わっていて、しいて言えばエルフが一番土の香りを振りまいている。
「―――こっちの斜面の、どっかにあると思うな」
彼が近くに来る気配を感じ取ると、また振り向かないままそう告げる。
視線は忙しなく、目的のものを探っている様で、一見して解らなければ、シダが蔓延る細い谷底を横へと移動していく。
――――早くしないと。
■影時 > 「ホラァかねえ。伴侶やら、ぱぁとなぁ、とか云うのか? そういう間柄ならありと思うが。
……値がつけられそうにない意味でも、高くつきそうだなその花」
見てみたいかと問われると、気にならないとは言えないが、どれほどの代償などを支払うことになるのか。
修羅場になると軽口を叩く余裕がなくなるが、この手の旅の仲間というのは、いい。いいものだ。
この手の掛け合いは嫌いじゃない。ただただ淡々に、余計な会話も何もない旅というのは――愉しくない。
「カミサマの目線や感覚は、あんまり試して上限を測るようなもんじゃねえわな。
だいたい、あれか。今までの通例の結果を踏襲しておくと大丈夫だろう、とかみたいな塩梅の。
……うちの神様でそういう風に言い出すってのは、よっぽどのコトと思うくらいの域だったなぁ」
神様は信仰の対象であり、干渉を及ぼす側になるのは余程の事例であるのかと思う事態だ。
己の、少なくともかつての忍びの里に属する者たちとしての共通認識としては、その位だろう。
あれだこれだと言い出す上位存在とは、過ぎると逆に困る。
相手の毛皮とはいえ、灰色狼とはそういった眷属、神使のなのだろう。話を向ける仕草から思うが、はてさて。狼はどう思ったのか。
「――…………、っ、は」
さて、走る。何はともあれ走る。走れない忍者は忍者ではない。
肩を揺らさず、身体を進行方向に傾け、足を高速回転させる。そうやって加速を重ねてゆけば、追い縋れる。
追いつく中で少しずつ見えてくれば、おのずと悟る。不随意の自由落下ではなく、制御して愉しんでる方の声であると。
無事であるならば、いい。
やれやれ、といった風情で目尻を下げれば、続く言葉に頷いて木の枝を掻い潜り、終着地点となる谷底を目指す。
勢いのままに地を蹴り、跪くように身を曲げながら制動をかけ、覆面の下から貯めた息をゆっくりと零して。
「こういう地勢は、思ってもみなかったな。……わかった。まぁ、まずは探してみるか」
先ほど通ったぬかるみの先のこの地形は、察しがつけようもない。高低差でこうも変わるのか?
そんな感慨に首を傾げつつ、振り返らぬ姿に答え、相手の横に並ぶように進めばふと思う。
――何か、焦っているのかと。悠然と、泰然というには相反する仕草と目の動きに。
■ジギィ > エルフは滑り降りる己を見止めて、目尻を下げる相手にピースサインを送って見せる。
実際本人としては余裕のつもりだが、まあまあ木っ端やら土やらには塗れてしまう『エルフらしくない』所作には度々注意されたものである。
―――などと、それもなつかしい思い出で
思った通りと言うかなんというか、森の中でも彼の身体捌きの技術は己の何倍も上だ。
だから樹々の立ち並ぶ斜面を追ってくるのも、谷底へ滑り落ちるまでも何の心配もしていない。
それは、他の気がかりがあるからの裏返しなのか、己でも判別は付かない。
横に並ぶ相手を肌で感じつつ、陽の当たる斜面を見上げて歩みを進めて、程なくして。
「――――あ、 あそこらへんかな。
見える?」
やや上の方、立ち並ぶ針葉樹の葉の向こうで紗が掛っているような辺りをエルフは指さして彼を伺う。
もう少し視線を上げれば―――もし彼が見分けがつくならば―――件の針葉樹の葉を付けた樹の天辺が、辺りから抜きんでているのが見て取れるだろう。
「生い茂っている様にみえるけど、多分あのあたりは少し開けてるはずだから、見えてるあの一本だけかもなー」
言いながらエルフは真っ直ぐ指した方向へと昇って行く。今度は確かに危なげのない足取りだ。
進む斜面も真っ直ぐ伸びた針葉樹ばかり、陽に照らされた地面は乾いているから、枝に掻かれることもなく目的の樹の元へ辿り着けるはず―――
■ジギィ > 【次回継続】
ご案内:「腐海沿いの翳りの森」からジギィさんが去りました。
■影時 > 【中断→次回継続にて】
ご案内:「腐海沿いの翳りの森」から影時さんが去りました。