2022/06/12 のログ
ご案内:「腐海沿いの翳りの森」に影時さんが現れました。
ご案内:「腐海沿いの翳りの森」にジギィさんが現れました。
■ジギィ > 「……もー、陽が暮れるっていってるでしょ」
わざとらしくせかせかした足取りで進んで見せたのに、付いてこない気配に不承不承と言った風情でエルフは振り返る。
まだ木っ端やらが絡んだくせ毛の後頭部をくしゃくしゃと掻いて、はあーと溜息をつきながら、声を張り上げなくても届くくらいの距離へ戻って来る。
「あらん、カゲトキさんも意外と面食いなのね?
…見た目で判断しちゃいけないよ。光輝に包まれたものの裏側には必ず影が出来るし、見えるモノだって全てじゃないんだし。
あの樹たちなら心配しなくていいよ。多少絡まれたりはするかもしれないけど、森に害しないなら、カゲトキさんにもなにもしない」
多少おどけた口調から、彼の背後―――茨の向こう側を透かし見るような視線になると、エルフの声はほんのすこし沈む。
それからまた焦点を彼に戻すと、にいーと笑うのが目元だけでも解るくらいに笑って見せて
「とにかく、先に進まなきゃね。
樹のお化けが出たんで尻尾まいて逃げました、なんて報告したくないでしょ?」
言い終わってウインク。片手は忙しなく木っ端だらけの身体を払う。
本音は
彼に依頼を済ませてもらって、他の誰かが来て蹂躙されるよりはと言う思いと
――――はやく、もどらないと、という思いと。
エルフは言い終わるとはやくはやく、とばかり手招きして、また身を翻して先へ進もうとする。
■影時 > 「日が暮れないうちに片が付かない場合も、こういう仕事じゃぁ心構えしておくモンだ」
慎重になり過ぎていると謗られても、是非もない。
だが、対処できる/できないを見定めなければ、この先の方針に大きくかかわってくる。
目的の樹を見つけ、伐採する――という最終目標の達成が今回の仕事の最重要事項である。
が、その過程を阻害するものは、どうするのか。打倒するのか迂回するのか、それとも、あるいは。
このエルフの言動と行動を見てみると、考えなしに討滅してよいという判断が難しい。倒せるのか、という一点を除いて。
「そりゃぁ、抱いたりナニしたりすンなら、見た目がイイ娘に目が向くのは道理だろ? 逆もまた然りだろうが。
闇が深い森のひと際闇が深く、暗いものがうろついてるとでも云うなら、ぞっとしねぇが。
…………なぁ、お前な。最終的に俺がやらなきゃならん仕事を考えると、また湧いてくるとか云わねえかなそれ」
帰ったら、舶来物の櫛でも探してみるか。簪の類でもいい。
生まれ故郷の産物がこの地では、舶来物と呼ばれるようになるのは不可思議な感覚だが。
内心でそう決めつつも、エルフの目線の先を己が肩越しに顔を向けて追い、思案する。
故郷の土地の森のことであれば分かっているつもりだが、余所者でしかない他の土地の森の理は、知りえてる誰か頼みだ。
微かな声の抑揚を捉えながら、続く言葉と動きに、口元を覆う覆面の下が思いっきり渋面になったことが、相手にはきっと分かるか。
「進むべき、というのは賛成だ。
最終的にどーにもなんねぇってのが分かったなら、遠慮なくそうするぞ。
失敗の事例は山ほどあるが――連れを死なせるようなコトなんぞ、一番後味の悪いオチだ」
さて、と。担いできた籠の中身を改め、背負い直したうえで先に進むことを選ぶ。
目的の物がすぐに見つかれば、いい。そのうえで同行者の動きも気を配らなければらないだろう。
羽織の下、装束に仕込んだ幾つかの物を意識を配って確かめる。
腰の太刀で斬って片が付くことであれば、一番いい。だが、そうでないならば思案どころだ。思いとともに進める足音は、微かに。
■ジギィ > 彼の言葉を聞きながら、どんぐりまなこのエルフの眼が細くなる。
こちらも口元まで引き上げたスカーフで見えはしないが、にんまりとした笑みが続いているのは解るだろう。
―――彼の、ヨソモノの考えることはうっすら解る。
彼らはすぐに、解らないものや障害について排除できるかどうかを考える。
それは正しい。なにしろできなければ彼の方が生き延びれるかが怪しいからだ。
正しいが――――ここでは、間違っている。
「やだぁ、カゲトキさんくらいは『おれは中身を重視』派っていってほしかったなー
までも、その方があとくされの無い関係築きやすかったりするのかな?
―――私がこの森で死ぬくらいだったら、カゲトキさんの命も無いから大丈夫!」
わけの解らないオチを付けると、漸く先へ進む気配を見せた彼にまた軽口を叩いて、エルフは彼に背を向けて歩き出す。
行く先は少しずつ、登る斜面になっている。聳える樹々はどれも真っ直ぐではなくねじれた枝を横に差し伸べて実に視界が悪い。
先の森よりも陽の光が少ないせいかは下栄えは柔らかく、うっすらと緑の天井を透かして零れ落ちた明かりに黄緑色に映える。辺りの地面はそんな黄緑色と、土が露出したくらい黄土色とで斑になっていて、ぬかるみがそうでないかの判別がしづらくなっていた。
エルフは何が楽しいのか、いつの間にか鼻歌交じりに歩いている。
しかし背後からついている彼には見えないだろう、その視線は油断なく辺りを巡っていて、歩く爪先にもすこし余計な力が入っている。
―――あなたは、わたしが知っている森
――――――そうでしょう?
そうやって問いかける節。このエルフの里の、おまじないのような歌。
彼には、童謡の音頭にも似て聞こえるだろう。
「あー ねえ、
カゲトキさんも何かこういう時、歌ったりする歌ないの?」
唐突に歩みを止めて、振り返りはせずにエルフは問いかける。
視線は前方をじっと透かし見て、彼が追い付くまでの少しの間を、稼ぐみたいに。
■影時 > ――目的達成のためには手段を選ばない。万事がその手段になりうる。
弟子に教えている、言い聞かせている言葉だ。
極端な話、目的達成の処方として、この森を焼き払う必要があるのであれば、そうすることを是とできる。
しかし、それは一番野蛮にして己が痕跡を大きく残してしまう手立てである。一番の実行策にはしたくない手段だ。
故に考える。丁々発止と力を試し、ぶつけ合う敵はここにはいない。
恐らく、そう。自分が敵をわざわざ作らなければ、敵は“いない”のだ。
敵がいないなら、いないなりのことをよく考えなければならないのだろう。
「一見しただけで中身が知れたら、世の中苦労はしないと思うがなァ。
……いんや、お前さんの好きなコイバナの本とか探してみろ。
外面の良い男に貢ぎ過ぎて、素寒貧になったやらなどの話は割とよく聞くぞ。
そうかそうか、死んじまうかー。そんときは一蓮托生か」
外面と中身が一致すること、そうでない事例は、人生をどれだけ重ねていてもきっと容易く見切れまい。
細かい所作や身振りから伺う、類推はできても、函(はこ)の中の猫の生死を疑うかの如く、蓋を開けなければ確定できない。
だから、美男あるいは美女に貢いで、挙句捨てられる沙汰など、どこの土地であっても絶えない事例だろう。
こういう場所で思うことではないが、ついつい思う。
爪先が踏み込む土の具合を確かめ、体重の掛け方に気を配りつつ、足を進める。
まるで、雨の後の地面を思わせるくらいのぬかるみ、あるいは緩みっぷりだ。そんな領域を鼻歌を奏でるエルフが先導する。
聞こえてくる響きは、童謡とも、あるいはどこか――祈り願うような。
「無ぇワケじゃないがなぁ。
やぁ我は山の男、我が進む先には道はなくとも、実りあり――……とか、華に欠けるぞ?」
はて、どんな具合だったか。
あー、と。喉の具合を確かめるように吐き出す声は張りと力ある唄の響きがある。
うろ覚え極まりないが、確かこんな具合だったような気がする。はたと足を止めるエルフに追いつけば、肩越しの前の方を見やるか。
■ジギィ > 「えっ、そぉ? ほらぁ 『ビビっときた』とかいうじゃない?
そーねー、男のほうに貢いだ場合の話だと、女のひとの復讐がメインの場合が多いよね。(貢がれるタイプじゃなくて)よかったね、カゲトキさん。
ああん、どうせ一蓮托生になるんならイケメンをつれてくればよかったー」
呑気な嘆きの声が森に響く。
景色は薄暗く濃い緑の匂いに土の香りが混ざっているが、黴臭いようなものはなかった。
緩んだ足元も靴を濡らすほどではないが、土を踏めばそのまま纏わりついて来るようではある。
―――点々と、跡をのこすように。
立ち止まったエルフの背後から前方を見れば、目を凝らさなくても白い靄が伺えるだろう。
―――同時に、硫黄のような異臭。
「……迂回してこっか」
辺りを見回す様だったエルフが、押し殺すような声で背後の彼に告げて、爪先をすこし斜め前方へと変える。
そちらには靄はなく――――或いは罠かとおもえるほどに打って変わって日差しが零れ落ち、相変わらずつづくねじくれた木々の合間でも蝶が舞う姿さえ解る。
(……もうあんなに)
里は向こうの方角だったはずだ。
――――あんなに、近づけなくなってしまった。
「えーっ うっそ、カゲトキさんの国ってヘンなとこね。
そんな歌うたったらがけ崩れとか起こったりしない?
あ、それかそのあたりの神様とかが女の人だったり?」
エルフは振り返らないまま会話を続ける。
ただ歩きながら、握った拳にはすこし白っぽくなるほどの力は入ってしまったけれども。
■影時 > 「……――霊感というか直感のハナシだな、そりゃ。
見た目ばかりじゃない才気やらナニヤラが溢れてンなら、そうしたくなる手合いもあろうさ。
ははは、ちっとも有難くねえ類のヨカッタネだな。ったくよう。
イケ面ならここにあるだろうが。ないよりあることを有難く思っとけ」
遊女というか、歌い手の卵でも見染めた時のような言動だ。
その手の経験がなかった、とは言わない。言い切れない。常々目をかけておかねば、危ういことすら在りうる位に。
口元を覆面で覆った己が顔を親指で示しつつ、薄い布越しに嗅ぎ取れる土の臭いに微かに眉を動かす。
行く場所、土地によっては、履いてきた草鞋をわざわざ履き替えることがある。
それは足裏に付着した泥土を、他所に持ち込むのを厭うためだ。
そうやって己がどこからやってきた等、侵入経路を類推する材料を与えることを防ぐ。もしくは、発覚を遅らせる。
この足元のぬかるみは、何処かで歩を止めることがあれば、拭ったうえで念のためにと持ってきた草鞋でも履き加えたい類だ。
「……心得た」
そして、この先に見えるのは――なんだろうか。
己が目でも確かに見える。白い靄。土の臭いよりも強く、圧するように漂う硫黄臭。
この臭いは瘴気と言い換えてもいいかもしれない。靄状に目視できるものが溜まるような地形には、何がある、あったのか。
まさかな、と思えば、今は問い難い。言葉を挟みがたい。
「嗚呼、それ俺もあったぞ。よその土地の町に初めて踏み入って、真っ先に思う奴なそれ。
名のある神様は確かにそうだが、カミサマも色々で沢山いるぞ。
山の神様が笑って許してくれる類なら、大丈夫だろう。
……まァ、問題はだ。この先にあるかもしれねえのを許してくれるかどうか、か」
振り返らない背中に声をかける。
後ろ姿全体を観てしまうのは、職業柄だが、嫌でも手に入った力具合も認めてしまうものだ。
遠く、遠く。微かに。木々がさざめく音が響く。“動く森”がまた跋扈し始めたのか。
■ジギィ > 「エッ、 どこどこ?
ホントにいたら精霊のイケニエにできるのになー。きれいな花が咲くのよ、そういう所って」
彼の言うところの『イケメン』を探すべく、エルフはわざとらしく周囲を見渡す。
言った言葉の真偽、このエルフが果たしてイケニエなど捧げた事が『あるかどうか』は一見図れないだろう。それは彼がこのエルフのヒトとなりをどう思っているかによって、物騒にも只の冗談にも聞こえる。
『出来るか否か』、はさておき。
森全体、ひとつの生き物であるようでいて侵入者の痕跡をことさら追おうとするのは、おそらくその侵入者が久方ぶりゆえの過剰な反応か、それとも触れられたくないところがあるからか―――両方か。
(ちょっと前は、もう少し鷹揚だった気がするのにな)
エルフは歩みの先を変えながら、考えるともなく思う。
「あー 笑わせるって指南の技よねー
ふつうに生きているヒトだって笑わせるの難しいのにさ、カミサマのツボなんてわかんないよ、ホント」
ねえ?と問いかける先は己が肩に羽織っている狼の毛皮だ。
くすくすと肩を揺らしたその背筋が直後に緊張したのは、樹々の騒めきが届いたころ。
(―――ダメ、まだ来ては)
また出会ってしまったら、彼はきっと排除に掛かるだろう。
それを止める手立ては―――彼も彼等も傷つけずに済む手立ては少ない。
自然、速足になったエルフは木洩れ日差す辺りまでを彼に先立って辿り着いて――――
「!っわっ」
唐突に、そこで下り坂になった地面を滑り落ちていく!
怪我をするふうではない、再び木っ端塗れになりながら木洩れ日差す森の中器用に樹々の合間を擦り抜けていくようではあるが
果たして彼とは、分断されてしまうだろうか。
■影時 > 「お前さんの後ろの正面。
ははははは、その花はきっと血の色してンだろうなァ」
こういうやり取りは分かってる。真面目ぶらないのが作法だ。
そう、“出来るか否か”は兎も角として、まだこうしてノリにノリを返していられるうちは大丈夫だ。
この手の会話も何も出来なくなり始めたところから、まずい、危ないと云える段階と言い換えても良い。
少なくとも、己にとっては冗句の類として受け止めている。
この森がひとつの生き物とした場合、己が異物であることは理解できる。
しかし、自然の・あるがままの状態として考えるには、この土地は異様な点が多いことも否定できない。
正常ではない場合、ただ事ではない状態で森という総体が下す判断は、はたして正しいのかどうか。
「大笑いさせるほうの笑いじゃなくて、この位ならば良かろう――といった鷹揚さ、懐の深さだろうなァ。
遣り過ぎたらしっぺ返し、否、代償が求められるのは、何処も同じだろうよ」
《動く森》の正体が何なのか、どうなのか。それ次第で対処が変わる。
もとより、幸か不幸かまだ戦端を開く域には至っていない。
能力、特質、その他を見出さなければ、どの手管と選択が最終的に正しいのか判断を下せない。
この場にとどまるのも、果たして正しいのかさえも。遠く響く音に緊張に張り詰めだした背を眺め、思う中で、
「……ッ!? っ、そ。ええい!」
足元不如意だったのか。ふいに斜面を滑り落ちだす姿に一呼吸に満たない間で思案し、地面を蹴って前に進む。
走り出す。下り坂になるのなら、木々の合間を縫うように駆ける。柿渋色の羽織をはためかせ、勢いを得る姿は速く。
この状況で分断は避けたい。分断はこの前の件の二の舞にもなりかねない。
「ジギィ!」
追い縋れるかどうか。そして、この先に何があるのか。そんな思いの中、滑り落ちるゆく姿の名を呼ぶ。