2022/05/23 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍛冶場工房地帯」にスピサさんが現れました。
スピサ > 気紛れな雨がしとしとと降っては止むを繰り返す。
気が付けば外の道は暗い色に染まり、気が付けばまた乾いて砂の色を帯びる。
そんな日々が続く。

今日の昼間も、時期というものは雨で語られ 人の出入り 外の道行く歩みは進み 鈍る
特にこんな区画では武器屋の主やギルドの用向き 個人の願いでもなければ客足は遠のくほうだろうか。



        コォンッ

   
   コォンッ

              コォンッ

  
    

      コォォ―――ンッ


あちこちの家屋 工房では槌の振るわれる音がする。
日明かりが遮られる曇りの中では室内で照らされる火の明かりで鉄の色を見極める。
逆に炉の明かりと燃える鉄の色だけが欲しく成れば 全てを遮り消せば事足りる。

こんな曖昧な天候が続けば、鉄を打つ時間というものは鍛冶師が気分で出せるものだった。


工房の一つで、スピサもまた同じだった。

炉の前では球体状の膨らみがついたポールのような鉄芯がある。
時折火を通した真っ赤な鉄 それを球体に押しつけながら槌を打ち続ける姿勢。
裸体の上に革のオーバーオールだけの姿。
湿度と炉の熱は薄青い単眼族の肌を汗が珠となっていくつも浮かび上がっている。

頭に赤織のバンダナを巻き、大きな単眼を露にし、球体に対して鉄板を打ち続けるそれは
鉄以外 今は何も見ずに知らなくてもいいというかのような 鍛冶師の性。

山の中で砂鉄の傍で暮らすような者や、閉鎖的な空間にいる鍛冶信仰のそれと同じく
いくつもの職人が集まって行うような開放的な場所でなければ、鍛冶師とは鉄以外何も知らないかのよう。

造られる形状は、鉄板が丸く 半円を描くものになっていけば それは兜の大本と理解できるだろう。

特注でなければ平均的なサイズで兜というものは賄える。
貌の長さは革のベルトで調節が効き、衝撃の緩和を防ぐために内側には革や布を詰める。
其処で大体の調節も効かせることができるからだ。


ヤットコで摘まみ上げるそれが冷めるたびに炉の中で火を与えられ
その火が宿っている間 赤々と燃えている間に兜は作られていく。

この大本に対し、つなげる多々のパーツを別途制作していくのだ。


「―――ふー…、…。」


スピサは、形状が打ち終わってからやっと、外の側へと意識を戻した。
汗がたっぷりと掻いた額は、集中が一度終わったことでより湧いて出てくる。
暑そうに額のそれを、間接まで覆いそうなグローブの付け根で拭い。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍛冶場工房地帯」からスピサさんが去りました。