2022/05/12 のログ
ご案内:「シャスタ教会」にマルグリットさんが現れました。
ご案内:「シャスタ教会」にステイラさんが現れました。
■マルグリット >
メグ・メール某所に小さな教会があった。
規模こそ王都には遠く及ばないが、その荘厳な雰囲気は本物で、
ステンドグラスから差し込む日差しが主神の像を照らしている。
かの教会を任されているのはたった一人のシスター。
併設された孤児院の管理人も兼任しており、迷える信徒と身寄りのない子供に慈悲を与える存在。
今は日課である礼拝を行っているところだ。
主神の前に跪き、両手を組んで静かに祈りを捧げている。
■ステイラ >
ギィッ…と、戸が軋み音を立てる。
それは何者かが、かの教会へと足を踏み入れた音。
そこへと視線を向ければ、恐らくは…その視界の下の方に、姿がる。
小柄な、ふわふわもこもことした衣装を纏った子供の姿だ。
その子供はきょろきょろと興味深げな視線で、教会の中を見渡していた。
特に、その煌びやかなステンドグラスを「わぁっ」と声を上げて見つめていた。
■マルグリット >
「おや───」
背後から扉の開く音、そして声。
きっちりと礼拝を終わらせてから立ち上がって振り返る。
目線はそこから少し下に落ち、あなたの姿を認めた。
孤児院で預かっている子供ではなさそうだ。
仕草に合わせて動く猫のような耳と、ふわふわの衣装から覗く尻尾。
遠目では分からないほど僅かに目を細めて口を開く。
「ようこそ、シャスタ教会へ。
本日はどうなさいましたか?」
立つとその背の高さがよく分かる修道女は、入口に立つ子供へ歩み寄りながら、
穏やかな笑みを湛えた表情と落ち着いた声音で問いかけた。
■ステイラ >
「あ、こんにちはー!
えっとえっと、近くを散歩してたんだけど、気になって!」
ふと声が聞こえれば、ぴょこんと小さく耳が跳ねる。
くるりと小さな体ごと子供の姿が向き直れば、
元気な明るい、子供特有の少し高めの声が返ってくる。
そんな子供はぶんぶんと手を振って、どうやらそれが挨拶のつもりらしい。
とてとてと、近くによる修道女に向かって、無邪気に駆け寄った。
■マルグリット >
「ふふっ、こんにちは。
きちんと挨拶ができて良い子ですね」
駆け寄ってくるあなたに対し手を伸ばす。
怯える素振りなどを見せられなければ、そのまま優しく頭を撫でた。
並ぶとより身長差が際立つが、彼女の持つ柔和な雰囲気が威圧感を与えない。
「ここは教会、神様にお祈りを捧げる場所でございます。
私は神に仕える者、マルグリットと申します。
あなたのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
奥に佇む主神の像を手で示して。
■ステイラ >
「わふー♪
へぇ~、きょうかい…お祈りするとこ…。」
ぽふりと、おびえる様子も警戒する様子もなく、
ふわふわさらさらとした毛並みの頭を擽ったそうに撫でられる。
猫のような耳もふわりと、手に撫でられて仄かに動く。
その身長差はぐっと大きく見上げなければ、その視線も交わらないほど。
けれどもその雰囲気故か、あるいは子供の気質故か、
そこには恐怖や畏敬、そうしたものはない、和やかなものだった。
「あれが、神様かにゃ?
あ、ボクはね、ステイラだよ!」
■マルグリット >
手入れの行き届いた髪を指で梳くように撫でる。
身なりや警戒心の薄さから見ても大切にされていることが伺えて、内心で安堵した。
「ステイラさん……良き名ですね。
あちらは我らが神を模った像でございます。
本体は遥か天より人々を見守ってくださっているのですよ」
ミレー族とは主神を巡って対立もあると聞く。
あえて主神の名は伏したまま要点だけを伝えつつ、続けて。
「当教会はあらゆる客人を歓迎いたします。
ステイラさんは、どちらからいらしたのですか?」
■ステイラ >
「はにゃぁ~、そうなんだ。
ボクは知らない、神様かも。」
まじまじと、興味深げに像を見る。
その反応から、そうした知識もまだあまりないのが伺える。
「えっとボクは…遠いとこから。」
あっちの方!と、北の方を指さす。
子供らしい、おおよそざっくりとした説明だ。
もしかすると、具体的な場所は言わないように、
そう教育されているのかもしれないが。
「今日はね、ちょっと抜け出したんだにゃ。」
■マルグリット >
「興味がおありでしたら、これからお教えいたしましょう。
些か退屈なお話かもしれませんが」
子供らしい純粋無垢な在り方に再び目を細めた。
神については興味が無ければ聞かなくてもいい話だと前置いて、先の問いに対するあなたの返答を聞く。
「なるほど、北の方から……
遠路からいらして、さぞやお疲れでしょう。
よろしければ奥でお茶とお菓子をお出しいたしましょうか?」
立ち話も何ですので、と礼拝堂の奥にある扉を示して。
決してこちらから事情を訊ねようとはしない。
どんなワケありでも受け入れるのが教会の、彼女のスタンスだ。
■ステイラ >
「教えてくれるの?
知りたい知りたい~!」
そうした話には興味がある様子で、手を挙げながら興味を現わす。
「え、いいのかにゃ?
おかしとか、おちゃとか…」
けれど、続く言葉にちょっと目を丸めて子供は驚く。
魅力的だけど…その言葉に甘えちゃうのはなぁ、という
そんな仄かな迷いが、その表情からも感じられた。
■マルグリット >
「客人は誰であれ施しと共に迎えるべし──これもまた神の教えです。
神についてのお話も聞きたいのでしょう?
ご遠慮なさらず、どうぞこちらへ。きっと驚くと思いますよ」
子供はもっと自分の欲に素直であるべきだ。
迷いを解かすように優しく頭を撫で、微笑みと共に手を差し伸べる。
■ステイラ >
「んにゃ…じゃあ、うん。」
少し悩みつつも、そう促されれば差し出した手に小さな手を重ねる。
ぽふりと撫でられる頭を揺らしながら、じぃっと見つめて。
警戒心の薄い子供は、目の前の聖職者の言葉をとても素直に受け止めた。
■マルグリット >
重ねられた小さな手をそっと握る。
子供らしい華奢で柔らかい手だ。
その手を優しく引いて、あなたの歩調に合わせた足取りで奥へと連れていく。
扉を潜り、短い渡り廊下を進んだ先は、教会とは異なる場所であった。
■子供たち >
「あ! マリーせんせいだ!」
「せんせー! おいのり終わった? あそぼー!」
「おなかすいた~!」
静謐な雰囲気から一変、子供の賑やかな声がいっせいに響く。
あなたと同じくらいの年頃の、種族も様々な子供たちが数人、思い思いに遊んでいた手を止めてこちらを見た。
嬉しそうに声を上げる子供、駆け寄ってくる子供、マイペースな子供……
どれもシスターを「先生」と呼び、慕っている様子だ。
「あれ? その子だぁれ?」
「あたらしいおともだち?」
「ごはん~」
子供達は彼女に手を引かれるあなたにも興味を示すだろう。
■ステイラ >
「わにゃっ!
こ、こんにちは~?」
柔らかに手を引かれ、歩を向けた先。
とてりとてりと小走りで進んだ先は、また先ほどまでと雰囲気が違う。
厳かで静寂な境界とは対照的な、賑やかでどこか生活感にあふれた場所。
それに続くように現れた数多の子供が、この場所の意味を現わしていた。
「えとえと、マルグリットさん…この子たちって…?」
そんな子供たちの中へと連れられてきた猫のような子供は、特にきっとよく目立つ。
当然、あっという間に囲まれて…
助けを求めるように、シスターの顔を見上げて問いかけた。
■マルグリット >
「この子たちは様々な事情で身寄りを失くした孤児です。
シャスタ教会では、そうした子供達を保護しているのです」
いわゆる孤児院としての役割も持っていることを明かした。
しかし、彼女以外のシスターや大人の姿は見当たらない。
「この子は孤児ではなく、お客人です。
皆、良い子ですからお客人を困らせてはいけませんよ。
ご飯の時間はもう少し待ちましょうね」
わいわいと寄ってきてあなたを質問攻めにしようとしていた子供たちは、
優しく窘められれば素直に従って囲いを解いた。
とはいえ、興味津々な様子で視線をこちらに集中させているが。
「皆とても素直で良い子です。
よろしければ、後で一緒に遊んであげてください」
そんなお願いをしつつ、今はこちらへ……とさらに奥へ。
辿り着いたのは彼女の私室らしき、質素ながら女性らしい雰囲気を感じる小部屋。
子供用の小さな座椅子にあなたを招き、紅茶とクッキーを用意してテーブルに並べた。
■ステイラ >
「はにゃぁ、にゃるほど…。
……もしかして、大人の人はマルグリットさんひとり?」
きょろりきょろりと、かるく周囲を見渡す。
ここに来るまでも、この近くにも大人の姿はない。
もしかして、と思うのも当然だ。
少なくとも、自分の周囲はこうではなかった。
確かに他にも自分とおんなじ子供はいたけど、大人ももっといたはずだ。
「にゃはは、ごめんね?
またあとで色々お話ししたりしよ!」
そう考えると目の前の子の人は、結構すごい人なのかもしれない。
そんなことを考えながら、周囲の子供たちにもそう元気に伝える。
ちょっと数に圧倒されてしまったが、中々、同世代と遊べる機会も少ない。
仲良くなって遊べるなら、それはきっと楽しいことだとノリ気であった。
「うん!ボクもそれは、ちょっとたのしみ。」
そんな会話の後、連れられて行ったのはシスターの私室らしき小部屋。
促されるままに其処へと座り、紅茶とクッキーに目をキラキラとさせていた。
「ふにゃぁ…おいしそぉ…♪」
■マルグリット >
「ここは小さな教会ですから。
国からご支援も賜っておりますので、ご心配には及びませんよ」
大人が自分だけであることを首肯しつつ、苦労はないと微笑んで。
あったとしても態度には表さないのが大人の余裕といったところだ。
「あまり高価なものではありませんが……お口に合えば幸いです。
おかわりもありますので、遠慮なく召し上がってくださいね」
自身の分も紅茶を淹れて対面に座ると、一口だけカップを傾けて、
クッキーには手を付けずに膝の上に手を置いた。
「それで、何からお話しいたしましょうか。
ステイラさんは神様と聞くと、どういったものを思い浮かべますか?」
教えを説くだけなら慣れたものだが、ただ語るだけでは退屈だろう。
あなたの興味やものの捉え方を加味しながら切り出していこうと。
■ステイラ >
そう言うものなのかな?と。
子供らしく、その言葉を素直に受け止める。
出されたクッキーには、どうぞと言われれば二の句も告げずにあむりと。
ちょっとフライング気味に口にした。
「にゃふぅ~♪おいしぃ!
じゃあじゃあ、もっとたべちゃうね!」
続く言葉に遠慮なく、もくもく子供はクッキーを口にする。
ちょっと口元に零しながらも、時折こくりと紅茶も口に。
「んにゃ、神様にゃぁ~…
精霊様とかとは、またちがうんだよね?」
うにゃりと首を傾げつつ、もくもくごくんと呑み込んでから言葉を返す。
神様というものは知ってはいるが、子供にとっては身近な精霊たちよりも少し遠い存在だ。
■マルグリット >
美味しそうにクッキーを頬張る様を見て目を細めた。
食べかすを溢しても怒ったりはせず、ただただ微笑ましげに。
やや不揃いな形のそれは、ひょっとすると手作りなのかもしれない。
「なるほど、良い着眼点です。
精霊も神秘の力を扱う存在で、小さき神々と称されることもありますね。
事実、主神の他に精霊を祀っている教会もあると聞きます」
より身近な存在に神を重ねて見るのは道理だ、と頷いて。
きっとこの子は将来とても聡い人物になるだろう。
「我々の崇める神とは、創世神───
その御力で精霊やこの世界をお作りになられた、言うなればこの世全ての母なのです。
ある意味では我々も精霊も同じ神の子と呼べるでしょう」
これでも子供向けに相当噛み砕いた内容ではある。
■ステイラ >
「うんうん、結構偉いんだって聞くよ~。
みんな結構人懐っこいから、そう感じないんにゃけど。」
ふにゃふにゃと、返す言葉はどこか精霊との距離が近い。
まるで、よく知る相手のことを話すかのように口にする。
「ほにゃぁ~、とってもすっごい存在、ってことなのかにゃ?
精霊様とか、みんなの母親ってことは~。」
ともあれ、シスターの噛み砕いた説明には素直に腑に落ちた様子。
関心の声と顔がありありと浮かんでいた。
■マルグリット >
「ええ、とってもすごい存在なのです。
母なる神に感謝し、恒久の平和を祈るのが教会という場なのですよ」
あなたの反応に合わせた言葉遣いで教会の存在意義を説く。
それから、精霊について話す口ぶりに興味を示した。
「ステイラさんは……精霊と親しいのですか?
まるでお友達のことを語るように仰いましたが」
確かに彼らは人々の生活に寄り添うような存在だ。
様々な姿で姿を見せることから、交流があるのだろうかと気になって。
それ以上の関係までは予測がついていない。
■ステイラ >
それはすっごい大事なことだね~、と子供は微笑む。
祈りの大事さ、感謝を伝えることの大切さはよく知っているようで。
「うん!精霊様とはね、よくお話しするにゃ。
遊んでくれたり、いろんなこと、おしえてくれたりするんだにゃ。」
問われた言葉には、そう元気よく返した。
それ自体は身近な精霊であれば不思議ではないかもしれない事だが…
そこまでフレンドリーなことは、恐らくは少々、珍しいかもしれない。
「結構すごいこと、らしいんにゃけど…
正直ボクは、よくわかんにゃいんだよね~。」
■マルグリット >
「まあ、それは素敵なことです!
精霊と真に親しくなれるのは穢れなき心を持つ者のみ。
あなたはとても清い心をお持ちなのですね」
まるで自分の事かのように嬉しそうに両手を合わせた。
寄り添う、と言っても基本的には見えない加護をもたらすようなもの。
友のように振る舞えるのはごく稀なことなのだ、と。
「どうかその縁、大切になさってくださいね。
ああ……私も一度は精霊に見(まみ)えてみたいものです」
■ステイラ >
「そ、そうなのかにゃぁ~?
そこまで大したことは無いと思うんにゃけど。」
にゃははと少しだけ恥ずかしそうに。
そう褒められる事には、そこまで慣れてはいないらしい。
「うん!精霊様のことはボクも好きだし、大事にするよ!
それに見たいなら…今度、お話しして会えるように話してもいいよ!」
ただ、素直にそれは嬉しい様子。
口約束だが、精霊と見たいという言葉にそんな提案までしてしまう。
「あ、そーだ、マルグリットさんは普段、どんなことしてるの?」
■マルグリット >
「ふふっ、お気持ちは嬉しいですが……
あなたと精霊の語らいを邪魔するわけにもまいりません。
自然と出逢えるよう、これからも清くあろうと思います」
どこまでも純粋で好意に満ちた提案は魅力的であった。
けれど、自分が同じように彼らと親しくなるのは難しいだろう。
その気持ちだけありがたく受け取っておきましょう、と微笑んで。
「私ですか?
私は日課のお祈りと清掃、子供達のお世話と食事などの用意をしておりますよ」
本当に一人で全部こなしているらしい。
改めて見ると部屋には私物らしい私物が食器くらいしかなく、
個人の時間というのをあまり持っていないようだ。
■ステイラ >
「うにゃあ、ボクはいいんだけどな~。」
ぷーっと、ちょっとだけ口を膨らませるが、そこまで強くは押さない様子。
気持ちだけ受け取っておきましょう、と微笑まれるとそれ以上は口にはできなかったらしい。
「ふわぁ…お祈りとお掃除に…
あの子たちのご飯とかも作ってるんだ…すっごい忙しそう~。」
趣味とかは無いのかなぁ、と子供心にそう思う。
きょろりと部屋を見る限りでも、それっぽいものも見当たらない。
「うーん…そだ!
それじゃあ今日は、ボク、マルグリットさんのお手伝いするよ!
ご飯とかはボクも、ちょっとだけつくれるし、なんでもやるよ!」
■マルグリット >
「これも彼らの健やかな成長を願ってのこと。
忙しない日々ではありますが、苦に思ったことはございませんね。
たいへん充実した毎日を送っております」
シスターとしての務めに子供たちという彩が加わればこそ、
己の人生は質素でも鮮やかに色付いているのだと。
「まあ、本当に───何でも、していただけるのですか?」
ここまでは謙虚に、されど本心から語っていた彼女の目つきが変わった。
気取られぬよう、表面上は変わらぬ態度のまま。
■ステイラ >
「すっごいにゃぁ。
真面目だし、優しんだにゃぁ。」
そこまで真面目にお仕事するのは大変だ。
うんうんと、そう思いながら素直に歓心していたが…
「はにゃ?
うんうん、何でもするよ!」
ボクが出来る事なら!と元気よく。
少しだけ、ちょっと視線が変わったかな?
と言う程度の違和に、一瞬だけ首を傾げながら。
■マルグリット >
「では、一つだけ。
あなたにしか出来ない事をお願いしても良いでしょうか」
客人に仕事を振るなどとても、と言いそうなものだが、
意外なことに何かを頼むつもりでいるようだ。
ゆっくりと席を立ち、紅茶などを出したのとは別の戸棚に向かう。
そして、何かを取り出して戻ってくると、テーブルの上に置いた。
「……実は、子供達に振る舞う新しいお菓子を作ったのですが。
なにぶん初めて作るものでして、お口に合うかどうか味見をしていただきたいのです」
かぶせられていた布巾を取ると、そこにあったのは小さなプレーンのカップケーキ。
■ステイラ >
「うん、もちろん!
これは…アレだよね?味見だにゃ!」
ぴょこん、と耳を嬉しそうに揺らして、興味深げにケーキを見つめる。
確かに味見は他の子には手伝わせられなさそうだし、
何より純粋に、一人だけ先に口にできるのはちょっとした優越感がある。
「おいしそう~。
それじゃあ、頂いちゃうにゃ~♪」
無論、頼まれてやるのだから役得だ。
ゆらゆらと尻尾を揺らしながら、率先してそのケーキを一口…
■マルグリット >
「ええ、どうぞ。
レシピ通りに作ったので不味くはないと思います」
見た目は何の変哲もないカップケーキ。
味も店売り品には劣るものの、口当たりのよい甘さで紅茶によく合う。
これならきっと、あの子供たちも喜んで食べてくれるだろう。
「………………」
ああ、本当にこの子は純粋だ。
出会ったばかりの人間にこうも気を許して、一片の警戒心もなく出されたものを口にする。
今食べているものの中に、子供であれば数分で眠りに落ちてしまう薬剤が混ぜ込まれているとも知らずに。
■ステイラ >
「うにゃうにゃ…
ちゃんと甘くてふわふわでおいしいにゃ!」
もぐもぐと、美味しそうに頬張りながら感想を伝える。
そうやって味見をちゃんとする姿からは、純粋さしか感じない。
だから当然、其処に混ぜ込まれているものに気が付けない。
「ふにゃ……
お腹いっぱいになったからかなぁ、なんかねむぅ……」
うつらうつらと、その効果が目に見えて現れるのもすぐだった。
強烈な、抗いがたい眠気…それに襲われ瞼が落ちてきて……
「すぅ……すぅ……」
ぽふりと、あっというまに机の上に頭を横たえて寝息を立ててしまった。
■マルグリット >
「良かったです。
これで子供たちにも自信を持って振る舞えますね」
美味しそうに食べてくれるのを見て笑みを深めた。
次第に微睡みに誘われていく様に、さらに口角が歪む。
「あらあら……お疲れのようですね。
何も気にせず、ゆっくりとお眠りください……」
音もなく席を立ち、耳元で優しく囁きかける。
やがてあなたが完全に眠りに落ちたことを確認すると、
その小さな体を腕に抱えていずこかへと連れていくのだった。
■マルグリット > 《移動します》
ご案内:「シャスタ教会」からステイラさんが去りました。
ご案内:「シャスタ教会」からマルグリットさんが去りました。
ご案内:「男爵令嬢の私室」にヴァイオレットさんが現れました。
■ヴァイオレット > 「――――――遅いわ、遅すぎるわ!」
宴もはけた夜更けの屋敷、豪奢な寝室のベッドの上で、
湯上りの躰をひやりと滑らかな夜着に包んだ令嬢は、不機嫌を隠そうともせず呟いた。
もう後は眠るばかりという頃になって、ふと、ショコラが飲みたいと言い出した、
その程度の我侭、この屋敷の使用人ならば慣れたものである。
たとえ内心はどうあれ、恭しく頭を下げて出て行った侍女が――――何故か、いつまで経っても戻らない。
あるいは未だ、数分も経っていないのかも知れないけれど、
この令嬢にとっては、既に充分過ぎる待ち時間だった。
「全く、もう……!
ショコラひとつ、まともに淹れられないのかしら……!」
頬を赤らめ憤然と、ベッドを抜け出し立ち上がる。
柔らかな室内履きに足を入れ、夜着の裾をやや乱暴に翻し、
応接間へ続く扉へ向かうと、両開きのそれを勢い良く押し開けて、
「ちょっと、まだなの!
いったいどこまでショコラを淹れに行ったの、
躰が冷えてしまうじゃないの!」
そんな台詞を暗がりに向かい投げ掛けながら、更にすたすたと。
廊下に面したもうひとつの扉へ、怒りのままに歩を進めて。
ご案内:「男爵令嬢の私室」にナインさんが現れました。
■ナイン > 「嗚呼、随分と――お元気なようだ。卿の、ご息女は。」
彼女が勢い駆る侭、廊下への扉を押し開けたなら。
丁度通り掛かった者達と出会すタイミングとなるだろう。
一団の中、先頭に立つのは彼女の父、屋敷の主、である男爵となり。
その背後で嘆息してみせたのは。どうにも遅い時間迄、かの人物と話し込んでいた客人である。
ダイラスに所縁を持つ女伯爵。幾代も前から海路への造詣が有り、昨年の戦でも船団を用いての急襲に携わった。
詰まる所、海運にて財を成した男爵とは。互い、潰し合いを割け良い関係で居たい中、である。
…ではあるのだが。彼女には如何に見られることか。
何せそれは少女である。彼女と歳も背も殆ど変わらないような。
そんな言ってみれば小娘が。居丈高な彼女の声に最初は首を。次いで肩を竦めてみせれば。
「…先の事でしょう。…良からぬ噂をお聞きしましたが…いや、いや。
どうだろうか、私も――彼女には、良くして貰いたいのだけど。」
男爵への声は。…話し合っていたのだろう取引への譲歩か。
もしくは――脅迫、かもしれない。
彼女についての、密やかな、噂を――己は知っているぞ、と。
■ヴァイオレット > いかに、ここが我が家であるとはいえ。
しどけない寝間着姿で髪も結わず、音を立てるのも構わず扉を開いた、
それはやはり、娘の側の失態と謗られるべきところか。
娘自身がそれを過ちと、認めるか否かは別として――――――、
いずれにせよ。
廊下に踏み出した娘を迎えるのは、数人の人影、そして眼差し。
珍しく非難がましい声音で娘を呼ぶ、父親の渋面。
そしてその肩越しに垣間見える、少女の姿だ。
こちらを見遣る眼差しの冷然、嘆息交じりに紡がれた言の葉。
――――――寝間着姿の娘が頬を赤らめるには、充分過ぎるほどの辱めだった。
「なん、――――――――――― 」
『控えなさい、ヴァイオレット!』
食ってかかろうとした娘を、鋭く制する父親の声。
見たことも無い厳しい表情、硬く強張ったような声に、娘が硬直しているうち、
見知らぬ少女と父親とは、何某か、会話を交わしているらしい。
余裕綽々と言った風情の彼女に比して、相対する父親の顔色の悪いこと。
ぼそぼそと低く、躊躇いがちに綴られる父の返答は、娘の耳には届かなかったが。
『グリューブルム卿、……噂は、飽くまで噂で御座いましょう。
見ての通り、我が娘は未だ、ほんの、子供で御座いますから、
――――――……非礼の段は、どうか、ひらに』
父の蟀谷を伝う冷たい汗を、彼女は認めただろうか。
窺うように、何処か卑屈に、娘と同じ年頃の少女を見つめながら、
ふと、思いついたように声を高くする。
いわく、――――――我が娘と、御茶でも、御一緒に如何か、と。
その提案をどう受け取るかは、勿論、彼女次第である。
娘の方は未だ、父に窘められたショックから抜け出せていなかった。
■ナイン > …性根の領域で評するなら。彼女のような人種を、己は――嫌いではない。
表向き然るべき場で、相応しい作法を崩しさえしないのならば。誰を前にしても強く在れる気丈さは、自己を依って経たせる礎となる筈だ。
が。残念乍ら今回はその、然るべき場…場所や場合が。彼女の領域であろう屋敷の中に、生じてしまっていた。
タイミングが悪かったとはいえ。即座に取り繕う事が出来無かったのも有るか、それを彼女の父が叱責し。
先ず――滅多にない事だったのだろう。彼女の当惑ぶりは目に見えて明らかだった。
さて。
男爵の、娘に対する溺愛ぶりは。城へと参じる者なら皆一度は聞いた事が有る――という程の物である。
そんな彼が声を荒げたのだ。己にとっても、眉を跳ねさせる程には驚かされたし…それと同時に。
彼がその数瞬、らしい態度を取る事すら出来無い程に。動揺していたのだろうという事も理解出来た。
つまりは――己が彼へとカマを掛けた、娘に関する良からぬ噂という物は。丸っきり根も葉もない訳ではないのだろう。
――嗚呼。それは、何と言うか…… 随分と。愉しそうではないか。
「…ふむ?私と差程お変わりないでしょう? いえ、寧ろ私よりも余程麗しいのではと。
そのように仰られるなら、えぇ、無論私は構いませんが――代わりに。此方の無作法も、ご容赦下さいませ。
…あぁ、それは、此方こそ。…音に聞くマクファーション家のご令嬢。縁の一つも築く事が出来ればと、前々から思案しておりました。
ご厚意に甘えさせていただけますか、卿…それでしたら、私も。先程のお話ももう少し――」
彼女が打ちのめされているその間に。恐らくはその聴覚を上滑りしていくのだろう、父と少女との会話。
父親の思い付きに対し、頭を下げてみせた少女の側も。恐らくは…何かしら、商談方面での口利きを約束したのだろう。
やがて、彼女が此方に意識を向けだしたなら。己は彼女の前に立ち。
きっと昼間の彼女が常在るような装いで、同じように正式ばって頭を下げてみせ。そっと。掌を差し出してみせるのだ。
「…だ、そうだよ。もう遅い時間だが、ヴァイオレット嬢。少しばかり付き合っていただけないかな。
――ぁぁ、ご所望のショコラも、どうやら向こうがお待ちかねの様子でもあるし。」
ちらりと横目で示してみせた。
きっと客人の送迎に鉢合わせし足止めされて。其処に起きた騒動で、すっかり棒立ちとなっていたらしい彼女の侍女を。
その手のトレイは彼女が命じた飲み物が、少し温度低下気味とはいえ、未だ湯気を立てている。
カップと。ポット。己の器も用立ててくれとだけ侍女には告げれば、改めて。淡い微笑みと共に、彼女の瞳を覗き込んだ。
■ヴァイオレット > 父にも、兄たちにも、まともに叱られたことなど無い。
ときにお小言の類を貰うことはあっても、声を荒げられた記憶など――――
こんな声で名を呼ばれたことは無い。
あんな眼をして、睨まれたことも無い。
衝撃冷め遣らぬ娘を置き去りに、父と少女の遣り取りは続く。
己と大差無い年頃でありながら、卿、と呼ばれる少女。
その家名、凛然と輝く爵位――――――たとえ、往時の栄華は既に遠くとも。
所詮は卑しい、商人上がりの成金貴族、その末裔たる父は、
彼女の機嫌を取り結び、噂に尾鰭のつかぬよう――――そしてまた、
先刻、難色を示された取引が、これを機に、恙無く進むよう。
さりげなく額を拭い、取ってつけたような笑顔を、少女に向けて。
『いや、息子たちが甘やかすものですから、幾つになっても我侭で、
……母親を早くに亡くしております所為か、如何にも、躾が行き届きませんな。
――――――さあ、ヴァイオレット。
いつまでそんなところで、そんな恰好で居るつもりだ』
未だ硬さの残る声が、再び、娘の名を呼ぶ。
びくりと双肩を揺らし、悄然たる表情で顔を上げれば、
いつの間にか、すぐ目の前に、彼女が来ていた。
息を呑んで、目を瞠って、顎を引いて――――半歩、後ろへ下がりかけて。
けれど、差し伸べられた繊手を、その、白さを。
跳ね退ける術をもたない娘は、おどおどと視線を彷徨わせる。
初めに、父親の顔を、それから、父親に付き従う執事の顔を。
――――――けれどそこに、望むものは見つけられず。
「ぁ、―――――― ぁ、でも、 わた、くし、…… 」
ショコラ。
そんなものを頼んでいたこと、すっかり忘れ果てていた。
漂い来る甘い香り、とろりと濃厚な舌触りの、それよりも。
こちらを覗き込む彼女の眼差しに、甘やかな微笑に、その、存在に。
魅入られたように、あるいは、射竦められたような気持ちで。
冷たく震える白い手を伸ばして、彼女のそれをそっと掬い、
ややぎこちなくも膝を折り、さらさらと衣擦れの音を奏でながら。
「………失礼、いたしました、伯爵さま。
お見苦しいところをお見せしたお詫びに、どうか、
――――――――― わたくしのお部屋で、ショコラを、御一緒に」
声だってきっと、ひどく震えて、掠れている。
けれども辛うじて、体面を保つための微笑だけは、繕えたと信じたい。
満足げに頷く父親の姿を、視界の片隅に。
銀盆を携え、まごついている侍女を、目顔で促し――――――
向かう先は、たった今、押し開いたばかりの扉の奥。
娘が望んだものだけが入室を許されてきた、完全に私的な空間、となるだろう。
■ナイン > 「――いいえ。それだけ、大切になさっておられるのでしょう。末の妹などともなれば尚更だ。
卿も、この家も躍進甚だしい。用心に用心を重ねる程でも無ければ――どんな。良からぬ蟲が寄って集る事か。
…そうそう。私も近頃は…帝国との一戦以来か、身を守らねばならないと。つくづく思い知らされておりますよ。
勿論武芸の心得なぞ御座いませんが、そうさな――術の幾つか、程度は。」
生温かな汗はさぞ不快であろう。…それとも。不快、と感じる余裕もあやふやなのか。
彼女の父が然々と取り繕ってみせる会話を、一つ二つと拾い上げつつ。
さり気なく…一つばかり、棘も差し込んでおいた。
今夜の一件。今迄と――今、から。己に対して易々と口を封じられるとは、思わない方が良い、と。
万が一本当に実力行使にでも出て来られたのなら、その時は…流石に。成す術が無さそうなので、半分以上はハッタリだが。
とはいえ。何処から何処迄が、ブラフなのか。この様子だと気付かれずに済みそうな気がした。…父にも、娘にも。
声音に強張りの残る父のそれで。娘の方はどうにか、肉体の硬直から解放されたらしいのだが。
それでも未だ動きに、眼差しに、硬さが残っているのは。この状況では仕方ないのだろう。
…だが、それでいて。習性じみて一度は、父へと縋ろうとした彼女の瞳が。声が。
それを拒まれた事を自覚して後は、ぎごちなくであれ――自ら動いてみせた。
震える指先で己の手を取り、掠れた声音で返礼してみせる。
屹度それは、磨けば光る彼女の才。道程さえ違わなければ、自分で自分を支えてみせ得る資質。
そう「ならざるを得なかった」己と違い、自らの意思でそう「してみせる」可能性を見るのは快い。
だから、彼女に片手を預けてみせた後。改めて瞳を緩める様は。
紛れもなく彼女に対する好感と呼べる物だったのだろう。
「――ふ、ふ。受けてくれるんだな。有難う。
何、そう気遣う必要はないさ。私と貴女は…あぁ、私と卿よりもずっと、歳も何も近しいのだろうし――」
だから。良好な関係も築ける筈だ、という言い草は。どちらかと言えば彼女より、その父を安堵させる物だったかもしれない。
そんな父親へ改めて礼を返せば。彼女の部屋へと、お邪魔しようではないか。
程無く二人分へと増えた届け物を終えた侍女が退出すれば。己は彼女と二人きりとなる筈だ。
――その先の目論見について。己は、父親へと口にはしない侭だった。
彼女に対する噂。嬲られ辱められた過去という、それを――同性である筈の己も。成し得てしまうのだという事を。
扉が閉ざされてしまえば、その後。ヒトから外れつつある己の本性を、彼女がどのように思い知ってくれるのか――。