2022/04/13 のログ
ご案内:「ねこのマーキング場」にミルフィリアさんが現れました。
ミルフィリア > あまり人気のない路地裏
けれども、案外こういうところに掘り出し物を扱っているお店があったりする。
それは例えば希少な素材であったり、表には出回らない魔導具であったりと、実に様々。
三角帽子を被った少女が出てきたのは、そうした店のひとつ。
表通りでは扱っていない、ちょっとばかり癖のある素材ばかりを使っている店で。

「とりあえず、これで依頼の薬は作れそうね。」

報酬に釣られてギルドで請け負った依頼は、いわゆる精力剤の調達。
それも高品質のものとなると、材料も厳選しなければならず。
先程の店でかなり買い叩いたけれど、原材料費を差し引いたら、
もしかしなくてもあまり利益はないかもしれない。

買ったばかりのとろみのある液体の入った小瓶を掲げながら、
頭の中で弾いた原価率にちょっぴり溜息が出てしまいそうになり。

タン・フィール > 迷路じみて入り組んだ路地には、きれいなものから汚いものまで様々な匂いがごった返している。
そんな中、ひくんっと仔猫と化した幼子の鼻腔をくすぐった方角に本能のまま疾走していく。

「ひと?…おんなのひと?…ぅうん、でもちょっと、気になる、おくすりや…いろんなモノのにおいっ」

その方角からは人間の少女らしき匂いと、それが先程出入りした素材屋で、さまざまな薬や原料となるもののそばに居たからだろうか、
一際興味深く、鋭敏になった嗅覚をくすぐった。

そうして、見事な四足での疾走で角へとさしかかった瞬間、ちょっぴりため息がちな少女とぶつかってしまいそうになる。
本人の体感では衝突を回避できそうであるが、いかんせん本物の仔猫ではなく、1mとちょっとを超えるヒトの子供の体型。

それが四足で角から飛び出てしまえば、少女の目線からすればそこそこの四足獣がいきなり飛び出してきた事態に等しく、
もし咄嗟に、身をかがめたり、飛び退いたり、何かで振り払おうとする動きを見せれば、それに対応できるできるほど生粋の猫ではない。

「にゃうっ…!!?」

と無様な声を上げて、ぼんっと互いの身体を弾ませ、猫耳しっぽの少年は石畳に大の字になって倒れ込んでしまう。
桃色シャツの合間から覗く四肢は少女のように華奢だが、一瞬ちらりと男の子の証が見えてしまうかもしれない。

そして、少女の倒れ方ははたしてけがをするようなものではないか、手荷物は無事か、
ぱちくりと猫の視線が、恐る恐る少女の方へと向いて

「にゅ、ぁ、う…~~~っ…ったた…あ、、あの、あの…だいじょぶ?…けが、してなぃ…?」

ミルフィリア > ちょうど路地の角を曲がったところで、何かの気配を感じた。
それは風を切る音だったかもしれないし、靴ではない何かの足音だったかもしれない。
何にしても、顔を上げたその先に、猫にしては大きな影が覆い被さる勢いで飛んでくる。

「きゃぁっ!?」

護身用の杖は、腰のベルトに差したまま。
咄嗟に引き抜いて構えられるほどに、反射神経が卓越しているわけもない。
身を庇うように両腕を顔の前で交差させ、やってくるだろう衝撃に身を竦ませる。

「うぅぅ……あいたた、なに? ミレーの人? そっちこそ大丈夫……って、あぁぁっ!」

ぶつかった衝撃で、思いっきり尻餅をついてしまう。
幸い、痛みを感じるのはお尻だけで、足を捻ったりはしてなさそう。
大の字になってひっくり返った相手から声を掛けられると、瞳を瞬かせてそちらへと視線を送り。
ちらりと見えた半裸も同然の恰好に息を呑み――かけて、それよりも重大なことに気づいた。

先程まで手にしていた小瓶。それを持っていないことに。

きょろきょろと見渡すまでもなく、スカートを濡らす液体は間違いなく先程大枚をはたいて買い求めたもので。
辺りにどことなく甘い香りが漂うのは、それが南方でしか咲かない花の蜜だからだろう。

タン・フィール > ぴょんっ!

と軽快に大の字に背を地面に預ける姿勢から、跳ね起きるように身を起こして、
さっと少女の傍らへと近寄る。
その素振りには素早さこそあったものの、危害を加えるような様子は無く、
互いに互いを気遣うような言葉を確認できれば、次は当然相手の安否が気になって…

「ぁ、ぅうん、いま、ちょっと、ねこみたいになってるけど、
これには事情があってー…… …っにゅ?

…あれ、この匂い…もしかして、何か大事なお薬…体力とか、元気とか出すお薬、持っていた?
ごっ…ごめん、なさい!
…ぶつかったとき…ボク、わっちゃった?」

と、重大な事態を感じさせる少女の悲痛な声の揚げ方に、びびび、ぞっわぞわ、と黒の髪の毛や黒い猫耳の毛が逆立つよう。
しゅんっ…とした表情でどうしよう、どうしよう、と数秒オロオロしていたが、その甘い匂いに何か気づいたようにしっぽがピンと立ち。

「―――あれ?…この匂い…えぇと、あのあの花と、その蜜を煮詰めて……」

すんすん鼻を鳴らしながらゆっくり彼女の濡れてしまったスカートに近づいて、ひとつひとつ成分や素材を言い当てていく。
その、少女の下肢に顔を寄せる絵面はいかがなものかという思いよりも、今は解決策に思考がさかれていて

「ぁの……ボク、こう見えておくすりやさん、してるんだけど……
このお薬だったら、ボクのおうちでつくれる、かも!
……もしよかったら、おわびに……つくらせてくれない?」

と、顔を上げて、申し訳無さそうに尋ねる。
ちょっぴり潤んだ目はその贖罪の念と…僅か、甘い花の蜜が呼び起こした熱っぽさも含まれているかもしれない。

ミルフィリア > 鮮やかな身のこなしは、心配するまでもなかったことを教えてくれるけれど。
こちらは残念ながらそれどころの騒ぎではない。
ただでさえ、ちょっぴり利益がヤバそうな依頼が、この瞬間に赤字確定になったのだ。
悲鳴どころの騒ぎではないわけで。

「ど、どうしよう……他の素材だと、要求レベルには足りないし……
 かといって、採りに行けるようなものでもないし……
 うぅ……もぅ、どうしろっていうのっ

 え? あの、ちょっ…! あんまり顔……あぅ……」

頭の中で算盤やらレシピやらが渦を巻く。
けれど、どれだけ高速回転したところで、零れ落ちてしまった素材が元に戻るわけでもなく。
立ちのぼる甘い香りが鼻についてくらくらしてきてしまう。

若干いらいらしながら、打開策を考えていると、おろおろしていた男の子が急に顔を近づけてきて。
スカートに付いた染みの匂いをクンクンと嗅いでくる。
こちらはまだ尻餅をついたままで、ややもすればスカートも捲れ、白い脚が覗いてしまっている。
そんな格好のところに顔を近づけられて、変態チックなことをされてしまえば、危うく杖で殴り倒してしまいそうになる。
事実、男の子の申し出が後数秒遅かったら、やっていたのは確実で。

「ふぇ? ほんとに? でも、これって、この辺じゃ滅多に手に入らない素材だよ?」

手は出さなかったものの、至近距離なのは変わらないまま。
むしろ見上げられた分、息も掛かるほどの距離感で。
ふさふさの耳がちょっと可愛いかもと思ってしまって、半信半疑で訊き返す傍らで、そっと手を触れさせて。

タン・フィール > 「ぅんっ…たぶんこの薬…珍しい種類の花のエキスや蜜を混ぜて、煮詰めてを繰り返すお薬。
…たしかに、とっても珍しいし、高いんだけど……

ちょうどボクのお店、珍しい種類の素材いっぱい溜め込んでたから…
このくらいの濃度と量だったら、まだまだぜんぜん、つくれたはず。」

困っているどころではない様子の声と表情に、ぶつかった幼子が青くなるまではいうなれば平凡な子供と変わらぬ反応。
しかし、その申し出の内容や、すらすらと出てくる言葉はただの子供ではなく、薬の扱いに精通しているのを感じさせて。

スカートや肢に顔を近づけて、匂いや、零れた量を確認するその格好や状況に、
苛ついていたり困惑したりの相手の声を聞いてようやく気づいて

「っぅ、にゃ、ぇあ!ごご、ごめんっなさい。
……その、お詫びに、なにかできないかなって、夢中だったから…つい。

…もし、おくすり屋さんで、おんなじものが出来なかったら、お金でも、ほかに、どんなことでも、べんしょーする、から……
だ、だめ?…な、ぅあ…っ…」

同じく、薬の成果は瓶を叩き割り外気に立ち上らせるだけでも効果があるのか、
くらくらしはじめた思考を感じながらも、ぷるぷる顔を振って理性を保ち、提案する。

「ボクは、タン。
薬屋のタン・フィールっていうの。
このすぐそばの、あっちの空き地で、テントでおくすり屋さんをしてるんだけど… 
お薬の材料とか、種類とか、あってるか確かめる…?
ほかのおしごと、一旦お休みで、こっちをさいゆーせん、する、から…。」

通常の薬屋に求められる回復薬などはもちろん、
特殊な薬やニッチな薬…あるいは効き目がありすぎる薬を売り歩く幼子の薬屋のテントは、
一部の界隈ではそこそこに名の知れたレアで気ままな薬屋である。

黒くつややかな黒髪から覗く黒い耳は、触れられると元気に、くすぐったそうにぴこぴこと跳ねるが、
怒っっているだろうか、弁償できるだろうか、申し出は受け入れられるだろうかと不安げな眼差しと併せて、徐々にへにょんっと垂れ下がってしまう。

ミルフィリア > 「それは、確かにそうなんだけど……」

門外不出のレシピというわけでもないから、依頼された薬を知っている人がいても不思議ではない。
ただそれが自分よりも幼げな、少女とも見間違うような可愛い男の子だというのが少し違和感で。
けれども話を聞くに、どうやら薬の知識は確かなよう。
幼い子が一生懸命に提案してくる様子は、とても可愛くて。
ついつい耳を弄る指先が止められなくなってしまう。

「ふにふにで可愛い……じゃなくて。
 えと、んー……薬を作るのは任せてくれていいから、薬屋さんなんだったら、素材をどうにかできないかな。
 今ちょっと手持ちに余裕がないんだよね。」

さすがに依頼を丸投げというのは、薬師としての矜持に障る。
そんなわけで素材の弁償だけで手を打つことに。
まだ王都に来て間もないために、露店までは情報が仕入れられておらず。
残念ながら男の子のお店は初耳だった。

「タン君だね、私はミルフィリア。長いからミルフィでいいよ。
 じゃあ、ちょっとお店にお邪魔しようかな……っとと。」

いつまでも微妙に妖しい格好でいるわけにもいかない。
タン君の申し出に頷いて立ち上がろうとするけれど、お酒に酔ったみたいに足元が覚束ない。
仕事柄、薬への耐性はあるほうなのだけれど、さすがに薬の原液が掛かってしまったわけだから、
皮膚を介して薬の効果―――精力というか性欲増進も効き始めてきていて。

タン・フィール > 「ぅん、じゃあ…いったんお店にある素材、ぜんぶ見てもらってー…
もし足りなかったり違ったりしたら、知り合いの素材屋さんとかから、ボクがボクもちで買いつけるよ。」

と、違和感を感じられることが珍しくない幼い容姿での薬師という稼業。
横のつながりを察せられる言葉も繰り出しつつ、

判断を思案しながらいじいじと耳を触る手先は、しょうじき身を捩って逃れたいほどにくすぐったく、
少年にも身体を火照らせていく薬の効果は及んできているのか、
なんだかもっと弄ってほしいと身を寄せてしまいたくもなるし、
そんなことをしちゃだめだ、とグッと身体の位置を不動とさせ…けれどもそれだと耳のくすぐったさが延々と続く、なんとも堪え難い身悶えするような状態。

「ん、ぅ、わかった。 じゃ、ミルフィ。 ミルフィおねえちゃん。
準備できたら、いっしょにいこ。」

しかし、彼女が申し出を受けてくれて立ち上がろうとすれば、ようやくそれからは開放され……
たと思ったのも一瞬。
甘い香りに酔ったようにふらつく少女の手を、両手できゅっと優しくつかんで転ばないように小さな自分の体に寄せる。

「ぁっ…とっと……き、きをつけたほうがいいかも。
ちょっとこのお薬、くらくらってするから。」

それは、同じく薬に体制があるはずの幼子薬師にも効果が及んでいるあたり、やはり希少な素材を使うだけの精力剤だったのだろう。
甘い香りが手と手が触れた瞬間に一層芳しくなったように感じたのは錯覚か…

くれぐれも、手を抱き寄せすぎないように、けれどころんだりしないようにしっかり握りながら、
歩いてすぐだという薬師の店へと歩み始めた。

タン・フィール > 【移動します。】』
ご案内:「ねこのマーキング場」からタン・フィールさんが去りました。
ミルフィリア > 「りょーかい。
 同じのがなくても、使える素材があると良いんだけど……
 なかった時は、お願いね?」

可愛らしい容姿ではあるけれど、商人としては一人前を感じさせる言葉には素直に甘えることにして。
ほんの少し元気のなかった耳も、男の子の提案を受け入れるとピンと元気になった模様。
代わりに当の本人の方が、何だか身体をくねらせていて。

「うふふ、お姉ちゃんって呼ばれるのは、ちょっと新鮮かも。
 あ、ありがと……扱ったことがない素材だし、ちょっと勝手がわからなくて…」

ふらつく身体を支えて貰うと、甘えるようにそのまま身を預け。
密着した身体から伝わってくる温もりに、無意識に身体を摺り寄せてしまう。
男の子のテントまではすぐそこだというのに、随分と時間を掛けてゆっくりと歩いて行き―――

ご案内:「ねこのマーキング場」からミルフィリアさんが去りました。